042 元凶の末路
男はあの山から近い所に住んでいた。男を尾行調査した結果、コップから指紋とDNAを入手した。
あの檻には指紋がないとの報告が入った。それ以外の証拠もあの檻からは出なかったらしい。どうやらかなりの準備をして実行されたようだ。
ただ、処理場に送られたという遺体のクロダマを調べると、そこから男の指紋が検出された。その箇所はクロダマオオイワトカゲのアゴにクロダマが収まった際に内側になった部分だという事だった。
それが決め手。
逮捕状は出た。あとは向かうだけ――
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まだそんなに知識は無いが、誰よりも爬虫類を愛し、誰よりも優雅に彼らと接することができるのはこの俺……そう示すためには手を抜かなかった。
サイトに写真を載せるのはもちろん、最高級のエサ、最高級の飼育用具。手入れにも気を付けていた。
普通の蛇やトカゲ、亀もいいが、使術動物も飼育できたらどんなにいいか。管理は大変だと聞くが――これ以上ない優越感を得られそうだ。
そんな興味を持った頃になって、明るい空の下、よく行くカフェで、白衣の男に出会った。
彼は真っ白なケースを俺を前に差し出した。一箇所だけガラス戸になっていて、そこから一匹のトカゲが見える。それが三つ。
「ルツィエさんですよね? 爬虫類に目がないとか。一匹、百万リギーで差し上げますよ」
値段を聞くにかなりの代物なんだろう。そう思ってじっくり見た。そして気付いた。アゴに小さな黒い球がある。クロダマオオイワトカゲだ、別名キャノンドラゴン。その赤子のようだ。それを御することができれば人より格上と示せる。至極の一品。
俺は迷わず決断した。
「買おう。三匹ともだ」
三匹を受け取り、家へと帰って浸った。三匹も飼っている者はほかにいない。自分だけ。
そしてケージを作り、名前を付けた。額に黒い斑点が多いのがコクテン、尾が白いのがハクビ、腕に黄色模様の線があるのがキセン、ハクビが雌でほかは雄だった。
丁寧に接した。よく庭を走らせ、最高級品をよく食べさせ、そしてよく撫で、その様を写真に撮り最高の存在だと示した。
日が経つにつれ、どんどん大きくなった。
ある時、手伝いとして仕えている男が手を噛まれたと報告してきた。話を聞きに行ってみると、そいつが指を何本か失っているのが解った。
手伝いとして女もいて、その女も服をちょっと燃やされたとか訳の分からないことを言った。
急に恐ろしくなった。いつ自分の指が、手が、食われてしまうのか。しかももしかしたら、もぎ取られるのは頭かもしれない。燃えて死ぬこともあるかもしれない? 意味が解らなかった。
だが、もう、解る必要もない……
大きな静音ヘリを用意し、それに乗って捨て場所を探した。川を越えた北のセオン市の山奥…若干南側にいい場所を見付けた。崖付近の開けた場所。
「面白い遊びをしよう」と言って滑車のついた大きな檻に入れ、頑丈な鍵を掛け、可変巨大容量拡大バッグ2に入れて運びやすくし、そこへ運んだ。
ゴミ山もある、そこだけ草原という場所。夕方頃に着陸。
可変巨大容量拡大バッグ2を地面に置き、檻に入れたままの状態で外に出した。
三匹の入った檻を適当に置き、そして語り掛けた。
「これからかくれんぼをしよう。よくやった遊びだろう? 解るか? かくれんぼ、だ。理解してるよな……? しばらくしてから俺を探すんだぞ」
三匹は目を瞑った。俺はヘリに乗り家へと帰った、鍵を掛けたままで。
あの子らは死ぬだろう。証拠も残さなかった。だから辿られはしない。一応あとから調べて知ったが、本来クロダマオオイワトカゲは、生息する島に入手しに行ってはいけない特別種だ、それを持っていたあの白衣の男も怪しい。骨になって発見されたとしても――いや、肉も皮も残った状態で発見されたとしても――警察はあの白衣の男に行き着かないのではないか。白衣の男も俺に売ったことなどバラせないのではないか。そう考えたからこそ実行した。
――もうあいつらはいい。
どうせ使術動物を飼うなら小さい方がいい、失敗だったなと思ってから、次も使術動物を飼いたいと考えた。次からは危険ではないことが条件に加わる。そもそもあんなに大きくなると思っていなかったのも敗因ではあった。考えなしなのはよくない。
買える店は少ない。苦労したが、ある程度近くの店で、オレンジヒカリヤモリを見付けた。
――これはいい。人に危害も加えない? 最高じゃないか。
飼った雄に、イルミナスキングという名を与え、最高級品を与え、煌びやかな映像を作って世界に発信した。こいつはいい話題のタネだ。
それからは順風……と満喫していた時だ、ある女と出会った。ウィジョナという名の令嬢だった。
ある時話の流れで、ウィジョナはたまたま俺の好きな話題に触れた。
「使術動物はあまり好きじゃないかな。危ないのもいるし」
イルミナスキングが危なくない使術動物だとは思っているが、念には念を入れ、俺はまた捨てる決心をした。
この大きさなら捨てるのは簡単だった。またあの場所へ……と行った日の沈む頃にはなぜか三つの檻が壊れていて、あの三匹はいなかった。……慌てて帰った。
あいつらは逃げた。だが恐らくは大丈夫。見付かるとしてもきっとバラバラに見付かる。更に大きくなっていたりして見分けも付かないだろう――きっとそうだ、くくく、そうだ、俺に辿り着くもんか。
イルミナスキングがいなくなったことについて、あのサイトでどう書こうかとしばらく悩んだ。洗濯機に入ったのを知らずに……事故だった……とでも書いておくか。この考えが、自分でも鳥肌が立つほどいいと思えた。
それから女を口説き、今は二人で、使術動物など関係のない生活――
――やはり使術動物は俺に必要なかった。ウィジョナといるためには、捨てて正解だったんだ。これからは普通の動物を着飾らせることで彩らせればいい、俺たちの人生を。
そして順調に暮らしている昼下がり。インターホンが鳴った。
玄関に出ると、令状を持った警察が目の前にいた。
乾いた笑いが出た。逃げなければおしまいだろう、誰でもそう思う場面だ。
家の中に引き返し走った。
すると警察も非常手段に出た。無力化のための攻撃だ。
礎力の弾を避け、飛んできた巨大クリップも避け、裏庭へ――
廊下を疾走する途中で、人間大のクリップによって押し倒された。そして潰されるかと思った。
「ルツィエ・ユゥグ! 使術動物遺棄罪で逮捕する!」
「違う! 待て! 俺じゃ」
「言い逃れするな! 証拠はたっぷりあるぞ」
そこへウィジョナが顔を出した。リビングの方から、そっと――
だから俺は言った。
「お前が使術動物は嫌だって言ったからだぞ!」
「私が……?」
ウィジョナは、全く思い出そうとはしなかったし、思い出せないという顔をした。
「そんなこと言ってない! 使術動物は危ないこともあるって言っただけ! 今、遺棄罪って……? なんでそんな酷いことができるの? そんな人だと思わなかった!」
ウィジョナはあまりにも甲高い声で叫んだ。
警察は俺を笑った。
だから俺も叫んだ。
「あの女のせいだ! あの女が俺に言ったんだ! あいつのせいだ!」
だからとて、処遇は変わらないらしい。拘束パーカーを着せられ、連行されていく。
そして警察は言った。
「悪いのはお前だ。あの女性は、お前のせいで人生の一部を無駄にさせられた被害者だ」
――被害者? なんてことだ。残念だよ。ウィジョナが何も悪くないなんて。俺は悪くない、俺は……俺は悪くない……俺は……
警察車両に乗せられて自分の家から遠ざかる。そんなことがあるとは。なんてことだ。悪いのは俺じゃない。あの女なんだ。
まだ話すことがあるようで、警察官が、俺の拘束された腕を強く押さえたまま言った。
「お前の捨てた使術動物のせいで死者が出ている。ほかの被害も多数だ。罪は断じて軽くないぞ。覚悟しろよ、ルツィエ・ユゥグ」
――覚悟? そんなまさか……俺が? それほどまでに? そんな……。誰か嘘だと言ってくれ。




