038 ジャント村の南
自分を中心に、十数メートル右にベレス、十数メートル左にジリアンがいる状態を維持しながら、森の中を南下し続けた。原因さえ解ればいいから互いを目で確認できるようにしながら。もし見えないなら離れ過ぎていないか確認した。
こういったローラー作戦のような調査は人員があればあるほどいいとは思うが、新たに調査依頼して待つくらいなら動いた方がいい気がしたし、被害の出方からすると南か南西に……それと解るものがありそうな気がした――まあ勘だけど。
南側の被害は多過ぎる。
ここらで注意すべき使術動物は何だろうと思い、知っていればと思って休憩中にベレスに聞いた。すると。
「この辺にはキウツリグマがいますね。木の一面から別の木の一面へワープして獲物を狙う熊です」
別に誰にも言わなかったが、先日の第二試験場の宿泊施設の二階にあった図書室でキウツリグマについての文章を読んでいた。
「本で読んだよ。だからこそ木を大事にする熊なんだってね。木が密集している所は避けよっか」
「そうだね」
「ほかには?」
「ほかには――ミズバケヘビ…に出会うかもしれません。水溜まりに扮して獲物を待つことができる蛇です」
そう聞くと、ジリアンが、うんうん、と頷いて言った。
「解った。水溜まりも注意ね」
水分補給と栄養補給――ムラサキクダイモ等が練り込まれた携帯食をサバイバル用としてMサイズ容量拡大バッグに入れていたので、それを食べて――そしてまた離れ過ぎずに互いに距離を取って進んだ。
ただの動物もいた。
ある時、鹿を発見。
「あれは――」
「カザダマジカですね。風を……」
説明の途中で、鹿は逃げた。
「まあ警戒心が高くて逃げることが多い種類です、気にしなくていいでしょう」
そんな森を、南へ。ただただ進む。
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まずは俺もケナも見回り。被害の範囲は結構広かった。
だがセンサーに掛かる頻度はそんなに高くない。
「虫ほど小さい存在には反応しないので」
マサさんが教えてくれてほっとした。途轍もない頻度で作動するのではと一度思ったが、そんなことはないということだ。きっと、そんなに忙しくはならない。
ある時アラームが鳴ったという報告がイヤーカフの受信機に届いた。
「どこだ!」
「二番エリアです!」
と通信機の声で聞いて、ケナがゲートを作った。
描かれた地図をエリア分けして番号を振っていた。その二番の場所へ。
森からこちらに出てきた所に、一頭の鹿がいた。確かあれは使術動物のカザダマジカ――角が綺麗な緑色だこと。
「追いやってみろ」
久しぶりにケナが石を拾って投げた。その石が鹿の近くの地面に少々激しい音を立てて落ちた。大量の土が跳ねて散った。
そうなると鹿は深い森にお帰りに。
「久しぶりに見たな」
「消しゴムの方が自由に操れるからさ」
「そうだな、石は正確には操作対象じゃないからなぁ……」
またある時、アラームの報告が。
熊が現れたが、それに対しては俺が対処した。拡大した絞り袋で目の前を塞いだり、縛ってみたり。腕をぎちぎちと締め上げて解放すると、熊は森へと引き返していった。
木から木へと一瞬で移動している。そういう使術動物。そんな帰り方でどんどん小さくなり見えなくなってから、しばらくは辺りを警戒、それからやっと一息つく。
それから考えた。何日も掛かるならどこで寝泊まりしようか、と。
それをケナに言うと。
「やっぱり、宿……?」
温泉宿がどうとかいう話を聞いた気がするし村を見て回る時に看板も見ていた。
とりあえずその看板の所へ。
向かう途中で、マサさんに出会った。
「あ、ジオガードの。……ん?」マサさんは後ろを見てからまたこちらを見た。「もしかして泊まる場所をお探しで?」
「ええ、まあ」と俺が言うと。
「それならうちに泊まってください、依頼しているのに負担を掛けさせるというのも気が引けますので」
「……まあそれなら」
村長の家を待機所にすることになりそうだ。散歩することもありながら、何か受信があれば駆け付ける、そういうことになるだろう。
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かなり日が傾いた。これ以上は動かず暗くなった時のための準備を始めた方がいい。その旨を二人に伝えた。するとベレスが。
「村に戻ってまたここに来てもいいのでは? それでもいいと思いますよ」
言われて気持ちが傾いた。確かにここは危険ではある。多少ズレた位置にだとしても戻ってこれればいい。戻って来れはすると思う――多分。でも。
「夜のここら辺の様子をある程度体感したい。もしかしたら何かあるかも」
「なるほど……」
ただ、襲われないようにしなければならない。対策し過ぎても何だし、どうすれば――
そこで思い付いた。
「ちょっと広い所……できるだけ平らな……」という場所を探すと。「よし、ここにしよう。ねえ二人とも、この真ん中辺りにいて」
「あ、ああ、了解……」
ジリアンは不思議そうに指示に従った。
自分もその位置に移動して周囲を見ながら礎力を込めた。
ビーズを前に出し、大きなタイヤくらいにしてからよくある細長いビーズに――六メートルくらいまで高くし、その穴をできるだけ大きくした。
それを複数作り、自分たちを囲むように四方に置く。
これらで壁を作る。
その壁を安定させるために、平らな地面を作る。設置できそうにない場所のデコボコはゲーティング・ブラックによる転移の途中に礎物の黒いビーズを消去することでカット。
ある程度平らになった――それでもちょっとした隙間もほとんどできないようにと穴をほぼなくしたビーズをそれぞれの下に敷いた。
自分たちを囲う背の高いビーズの上部の穴の上に、中心へと傾いた細長いビーズの下の穴が来るように設置しつつ、自分はその上へ――別の巨大ビーズに乗って浮いた。
今、自分だけ囲いの外にいる。その状態で、屋根のようになったビーズたちの天辺の穴に指を入れ、礎力を指にかなり込める。すると、礎力の液が流れていき――壁用のビーズの大きな穴の中へと、その液が入っていった。
そしてたっぷり溜まってから数秒待つ。と、固まった。
敷いていたビーズを小さくしながら手元に引き寄せ、元の大きさのものを瓶に戻した。
この要領で更に外側にも。
これで、礎力の液による黒い壁のできあがり。
ここで、出しているビーズを一旦瓶へ。屋根のようになっていたのも小さくなって今や瓶の中。黒い壁の型に使ったビーズも同じように瓶へ。全部戻った。
そこで気付いた。
――そうだ、出入口。たまに外に出て周囲を視れるように……あ、そうだ、もし携帯トイレや風呂……のボックスが、この高さよりも高かったら外で使うことに。ん? どうであれゲートを使えばいいのか。あ、そうか、ゲートに頼り過ぎてもダメだ、ジリアンがまだ使えない。よし、作ろう。
黒い柱の一部だけ――二、三本隣り合った部分だけ倒してビーズに載せ、少しだけ遠くへ運んだ。
そして自分は外に出た状態で、黒い柱全部の上に乗るくらいに――平らな屋根になるくらいに――大きな円盤にしたビーズを上に二つ重ねて置いた。そのうち下のビーズには穴がなくなるほどの大きさの変化をさせ、上のビーズだけ穴を最大限広げた。
別の大きなビーズに乗ってそれに近付き、穴を広げたビーズの上から手をかざす。そして念じた。
礎力の液が手から流れ出て溜まり、それが固まって屋根となる。
操作している全てのビーズへの礎力込めをやめるとビーズは小さくなった。そのうち一つは、硬い屋根が穴の中にあるせいで割れながら小さくなった。そうなると、屋根の黒い円盤はゴトゴトと音を立て、二人を囲む柱に乗った。
柱のうち三本だけ中心から離し、出入口を作ると、そこから入った。するとそこには、ベレスとジリアンと、Mサイズ容量拡大バッグから出されたのであろうLEDランタンが見えた。
「気を付けたいのは匂いだけ。たまに警戒しながら外に出て遠くを確認。何もないよりは、あった方が嬉しいんだけどね」
「そうだね、何か判明すればね……」
と、ジリアンが腰に手をやってやれやれという感じに息をした。
念のため注意事項を述べることにした。
「入ってきそうになった動物は何であれ追いやる。ただこの辺で見ない動物なら追跡するし、そうでなくても一旦周囲を確認する――でいいよね?」
「うん、それでいいと思う」ジリアンが頷いた。
一旦周囲を見回してから中に戻り、適当に会話した。
Mサイズ容量拡大バッグから出したレトルトを食べるという時、「僕が――」と言う途中で、「私がやるよ」とジリアンが礎物のファイヤーリップを出した。
じゃあ、とそれを眺めた。
そのリップスティックで石に塗った白い口紅にジリアンが礎力を込めたのが見えた。すると火が出た。それにより加熱。
鍋に入れていたレトルト商品は礎球のカレー。十分熱されてから開けたら香った。いい匂いだ。
礎力素が摂れるアオゴメを飯盒で炊いていた。それに掛ける。その様を目の前にしてこんな状況だけれど感動した、アオゴメは生の時には水色なのに炊いたら青くなる、それを生で、こんなに鮮やかになったのを見たのはこれが初だったからだ。トレーニングボックス内でもここまでではなかった。それに、今まで食べていた礎球の米は、黄色い別種、キビゴメの時もあって、間を置いてもいるから、久々感もある――『こんなんだっけ、凄く青く感じる』みたいに。
飲み物は、僕の礎物であるウォーター・ブルーやホットウォーター・スカイブルーのビーズで出した水や湯、それを使ったインスタントのコーヒーや紅茶。この水は湯煎にも当然使った。
食事のあとは辺りを視たり談話したり。
ある時、携帯トイレを使った。使用中にするボタンを押して入って、まず水洗だというのが解った。
水を流して出て解除のボタンを押すと、トイレの後ろにボトッと何やら音がした。そちらに回って見てみる――と、腐葉土らしきものがこんもりとなっていた。それから携帯できる小ささに戻った。ある程度自然に還元する仕様らしい。
ベレスが「では私は風呂に」と言ったあと、流れを確認しておこうと思い、様子を観察した。
風呂ボックスは礎力を込められて大きくなる。そのあとすぐベレスは「使用予定」のボタンを押し、開いたドアから入って鍵を掛けた、その音がした。するとドアの中央上部に実は最初からある「使用中」の文字が光って見えるようになった、オンエアみたいに。そうなると、恐らく、風呂ボックスは小さな状態に戻らないんだろう――そう思った折、中から水の跳ねる音がした。
それからもたまに周囲を確認した。でも、夜の森があるだけ。どこかには何かがあるんじゃないかと思うのに。
――この辺じゃないのか……?
代わる代わる寝た。
幸いにも、観察中の外やこの入口付近に来た動物は僕の知る限りでは三匹だけ。使術動物はそのうち一匹――キウツリグマ。
拳大のビーズの弾を足に数発喰らわせて睨むと、そのキウツリグマはすぐに近くの木に自らめり込み、どこかの木へ……それを繰り返したのか、遠くへ行った。その際にも周囲を見たが、ここで何が起こっているかはやっぱり解らなかった。
「私も、鹿を見たよ、角が緑の」
結構辺りにいたらしい。
ただ、普通の森との違いは判らないとのことだったから、まだこの調査は続行だ。
朝食にレトルトシチューと御飯、原料がほぼ野菜だけのスティック型携行食を食べ、出発する前に、黒い壁をどうしようかと考えた。粉々にでもして肥料みたく……土や砂のようにできたらいいが。
そこで考えた。
――じゃあそういうビーズを礎物化させれば……
機械的、作業的なイメージが灰色を連想させた。半透明である必要は……多分ない、作動していない時は近付かせないし、物を通す時はそもそも気を付けるし、見えない方がイメージできる。
念じると、不透明な灰色のビーズが現れた。その礎物を巨大化させその辺に浮かせた。試しにその辺の枝を投げ入れると――それが数ミリの木片になってビーズの向こうに散った。
「よし。ベレス、括って投げて!」
ベレスは大きくした結束バンドで柱や屋根をぐるぐる巻きにし、それを投げた。
こちらの灰色のビーズを通った瞬間、黒い礎力の塊はゴバッと大量の砂のようになり、その辺にザラッと落ちた。
全部を粉々にして灰色のビーズを消してから――
「派生技、追加ですね」
「ああ、うん」
「もしかして一発で成功してない?」
ジリアンが聞いたら、ベレスが驚き顔でこちらを見た。
「そういえば! 今試してましたよね?」
「ああ、うん。……え? あ、そっか。すぐできてよかったよ」
はあ、という吐息が聞こえた。
「私たちのこと、ユズトは自慢してくれるけど、まだまだ違い過ぎるでしょ、次元が」
「え、そうかな……。うーん……まあ、そっか、評価はありがと」
言ってから、違いに対して言いたいことを整理した。
「でも比べることじゃないよ。二人とも十分凄い。今さっきも助けられたし。状況によっては僕も助けられる側になるんだよ。頼りにしてるよ」
「はい」とはベレスが。そしてまた。「技名はどうするんですか?」
「んー……適当に考えとく」
荷物を整え南への調査を再開するという時になって、思い付かないので調べてみた。ポーチの中が瓶の場所になってからはポケットが今度はケータイの居場所になっていて――それによると、シャターという言葉が粉々にするという意味らしい。
「シャタリング・グレーでいいや、うん、それがいい」
三人全員がメモ。そして出発。
初日と同じく離れ過ぎない程度に距離を取り、南へ。
しばらく行くと木が物凄い勢いで倒れてきた。
ビーズを盾にしながら横っ飛びをしてすぐに向き直ると、その木全体が、枝を蠢かせながらまっすぐ立った状態に戻った。
避けて体勢を整えたこちらへとジリアンとベレスが駆け寄ってきた。
ベレスが言う。
「バケウロ……ですね、使術植物です、動きを封じた相手をその虚でムシャムシャと食べてしまう」
「この辺のやつ? 放っておいていいのかな」
僕が聞くと。
「森のここまで深い所となると、まあ放っておいていいでしょう、根付いている場所から動かないので。長いことここにいるみたいですよ、この大きさ……かなりの古い木です、この辺のものだと言えるでしょう」
「ふうん」と僕が言うと。
「ねえ。コレって増えるんじゃなかった?」
ベレスは、ジリアンに向き直ると、たまにこちらにも目を向けながら。
「そうですね、増えます。バケウロは数十年に一度ですね、種を飛ばします」
「え、それで放っておいていいの?」
また僕が聞くと。
「これはいいと思いますよ。長い期間ここにいるようですから。もうすぐ処分して若いものと植え替えるでしょう」
「ふうん」
「ただ、報告はしておきましょう、これが未発見だったら困りますから」
ベレスがどこかに電話をした。
話し終えると。
「新発見ではありませんでした、何もせずにいてほしいとの事です」
「そっか」
そのバケウロを背に、また南へ。と向き直ってから気になった。
「そういえばどこに電話したの?」
「調査室です。ジオガードの……本部の四階の。任務受付の壁の隅に書いてありました」
「あー……そっか。そこに。僕その番号知らない。教えて」
「どうぞ」
ジリアンもメモなどしていなかったらしく、二人でケータイに調査室の番号を登録した。
改めて南へ。
一時間ほど歩いた時だ、通り過ぎようとした木から垂れ下がったナスみたいな実がムササビになって逃げた。
――村長さんが言ってたな『ムササビも』って。ああいうのは原因じゃないよなぁ……
気にせず歩いた。
ある時、数メートル右を南下していたベレスの方から声が。
「こちらに来てください!」
「ジリアン! ベレスの方に!」
向かった。
ベレスが待っていたのは木の根元。その足元にキウツリグマの首が転がっていた。
「うわ……マジか」
「それだけじゃなくこっちもです」
ベレスは、そばに横たわった木の幹を手で示した。
倒木の幹には傷がある。五本爪の傷。しかもその上からもっと深い四本の傷も。
「どっちかが熊で、どっちかは別……だよね? 多分」
そう聞く僕に、ベレスが。「ですね。それとあちらに大きな足跡が」
ジリアンが、ベレスの手によって示された方向を、つま先立ちして見ていた。僕もそちらを見た。するとジリアンが。
「キウツリグマよりももっと大きな別のがいる……よね」
「っぽいね」僕が頷いた。「そんな気はしたけど……突然ここに現れたとしたら不自然だし……なんでだろ」
するとベレスが。「どこかから逃げた生物かもしれません、恐らく使術動物の生息域を変えるほどの生物となると使術動物でしょうが……調査室の補佐官に聞いてみますか?」
「そっか、そうだね……次は僕が聞いてみるよ」
ポケットから取り出し、ケータイの電話帳機能から番号を呼び出す。掛けると――
「はい、こちら本部情報管理局、活動補佐官、メネア・レフリガームです」
女性だ。メネアというのか。どこかにメモしとこう――と思ってから。
「どうも。『月下の水』のユズトです。今セオン市の山奥にあるジャント村にいるんですが、この付近で、どこかの施設から逃げ出した使術動物の話なんかはありませんか? 動物の生息域が完全に変わってしまっているんです」
「少々お待ちください」
十秒くらい待つと。
「動物園からというのならあるのですが、それも大型ではありませんでした。使術動物というとありませんね、それもほかの動物の生息域まで影響するものとなると……うーん出てきませんね」
「じゃあ、何か……この辺にいないはずの使術動物の目撃例がこの近くでは?」
「目撃されて保護……されていないもの……でとなると、警察に通報なんかもないそうです」
「そうですか……すみません、ご協力ありがとうございました」
「いえ」
「施設的には何も異状はない、目撃例もないんだって」
「ということは……」とベレスが考えた。
「逃げ出したワケじゃないってことは……?」
ジリアンは、じゃあどういう事なの――と、答えを出せずにいるみたいだ。
「うーん……」
自分も考え込んだ。そして、ふと思い出した。
そういえばイルークさんが情報的に協力してもらえた話を礎術大会の会場でしていた。その時の協力者もメネアさんみたいな人だったんだろう。
まぁそれはいいとして。
――んーむ。近くについては聞いたけど、それが違うなら遠くが関係している? でも何だかそれは違う気がする。それならなんでわざわざここなの? って思ってしまうし。まだ何が起こっているかは見えてこない。いや、どうなんだ? 逃げ出したワケじゃない? ってことは?……そこが引っ掛かる。誰にも言えない、情報の出ない方法で……誰かが使術動物について何かしてる? んあー、くそ、これ以上は想像の域を出ない。断定はできない。いったい何だっていうんだ。
見付けたキウツリグマの首を、地面に埋めた。それから手を合わせた。
そして歩くのを再開。観察しながら歩き続けて……――崖に出てしまった。
「え?」
ジリアンが、つい口に出したみたいだった、そして続けて疑問を言葉に。
「こっちじゃなかったのかな」
対して僕が。「東に行っても自分が崖下に出るだけ。西へ行ってみよう」
「向こうは?……東は調べないの?」
「多分そっちじゃないと思う、登るのに厳しい崖しかないよ、上から見た時もそうだったから」
「え、え? そうだと、なんで?」
ジリアンは解りたくて慌てたみたいだった。
僕は解るように言ったつもりだったけど。つもりじゃダメだな、と思い、また言う。
「あー、その、つまり……そっち――東から何かがこの辺を脅かしたんだとしたら、この辺のは、西に逃げてると思うんだよ、でも留まってる感じがするでしょ? 被害が村の南に固められてる……留められてるって気がする。この結果に何かの意図が関わってるかは解らないけど……結果はこうだからね。偶然の産物かな多分」
「えー、でもじゃあどうしてそんなことが?」
「さあ。まあ西を見たらいいんだと思う。とにかくちょっと僕、この崖からちょい西を見てくる。何かあるかも」
目の前にビーズを出し、穴を殆どなくした巨大な足場にした。それに乗って浮遊移動を始め、「行ってくる」と告げた。
嫌な予感がしつつ向かった。その先、崖沿いに、少しだけ開けた草原があった。
そこにあるモノを見て、何が起こったのかある程度解った気もした。
それから二人の所へ戻った。
二人を連れてくると――
「何これ」
と、ジリアンがこぼした。
目の前にあるのはゴミ山。そのゴミ山の手前に、巨大な檻が三つある。……三つの入口全部が、鍵が掛かったままこじ開けられている。




