036 感謝が呼ぶもの
買った車が家にやって来た。ジリアンのも意外と早く来た。
それから家に色々と物が揃い始め、ようやく普通に生活できるようになってきた。
自分やケナの礎球での基礎学力のため、各科の参考書も買っておいた。料理の本もあるし、レケやベレスから料理を学びつつ楽しんで暮らしている。
とある日。
ザイガーフェッカーさんからもらった礼金の一部を使って、アンクウィット空港からシミーズ空港へ――スピルウッドへと一旦戻った。
帰る連絡をあらかじめ入れておいた――「別に来れなくたって文句言わないよ」とも言っておいたが、「絶対迎えに行く」と、ドナはこだわっていた。
だから空港で大荷物を受け取ったあと、五人で辺りを眺めつつ話しつつ待った。
「や! おかえり!」
言われた時には到着ロビーの椅子に座っていたので、立ち上がる――と、ハグされた。
「早速向かいましょ」
ついて行く。するとその先にいたのはウェガスさんとアデルさん。
アデルさんが手を上げた。
「やあ」
「信じてましたよ、あれだけやれれば合格すると」
ウェガスさんは主にベレスに向けてそう言った。
二人が運転する車に別れて乗った。そしてゼフロメイカ家へ。
今があるのはゼフロメイカ家のみんなのおかげだ。それとコースルトさん。僕個人は彼とも話したい。同じように、レケやケナ、ジリアンも、やりたい事がほかにあるに違いない。別の人への報告とか――
ひとまずは、色んな人を呼んだ。そしてみんなで感謝会だ。
ゼフロメイカ家に集まったのは、レケのご両親と、ジリアンの弟、ジリアンのお母さん、コースルトさん、アリーさん、それからタミラさん……という面々だった。
ギーロにも会いたくなった。
こんな今があるのはギーロと出会ったからでもある。またモフってみたくなる。
そのことをダイアンさんに話すと、ダイアンさんは僕の目を見ずに、申し訳なさそうに…
「すまんが、ギーロはもう里親のところへ……」
「え、そうなの?……まあ、いいこと……だよね、それは。そっか……。それでギーロが幸せならそれでいいよ。……うわあ、でも、モフってみたかったなあ」
ダイアンさんが残念がる僕を見て笑った。そうだなあ、という感じだ。本当に残念。
そして心の中で想った。
――出会いに感謝してるよ、ギーロ…
そのパーティに、タミラさんが遊戯用狙撃手袋を持ってきていたので、トランプ遊びや談話の時間もあったが、遊戯用狙撃手袋で点数を競うなんて時間もあった。約束の時間だ。
五回撃って当たった点数を競う。
ケナは角度のある狙い方をするが、かなりの点数を叩き出した。チームメンバーの中ではケナは最下位で、上から順に、ベレス、僕、レケ、ジリアン、ケナだったが、ケナは、コースルトさんやダイアンさんより上だった。この上位は崩れなくて、だからこそケナは凄かった。
「さすがジオガード!」
ドナがメイさんの隣で喜び顔でそう言った。
そんな時、誰かがお約束の指笛っぽいものを鳴らした。
お土産はお腹に入ってしまうものにした。それをみんなつまんだ。アンクウィット市の夏の名物『ブルーベリークリームサンド』だ。
ほかにもゲームをした。
そんな中見慣れない男性がいるのも見た。レケのお父さんほど年上でもないし、きっと誰かのお兄さん――と思って聞いてみると、ベレスの兄だという返事が返ってきた。
彼は義足で……座っていることが多い。
そんな彼が言った。
「キミらのおかげで夢をもらえたよ。今やまた学生だ」
「教育学科なんだって」
とドナが言うと、アデルさんが。
「何を教えるつもりなんスか?」
「化学なんかいいよね」
お兄さんがそう言うと、周りから声が。
「へえ、優しく教えてくれそう」
「教師を目指してるのか。よし、ここはひとつ。フレーッフレーッ、お名前は?」
その瞬間にお兄さんが手で示されたからか、お兄さんは「ははっ」と笑った。
「ネスだよ」
「フレーッフレーッネ……ス!」
コースルトさんは、とにかく笑いを取ることが多かった。
それにしても。
自分たちの合格が誰かの後押しになるとは。その意味でもやり甲斐を感じられて、胸に力が満ちる気がする。
話は色々な方向に変わる。色んなグループが作られて、会話もにぎやかだ。元々知り合いじゃなかった人たちでも会話が弾んでいる。その幾つかに僕がいるのも何だか不思議に思えた。
再びジオガードの話になった時に、念のため言っておいた。
「でもあまり自慢しちゃだめだよ」
「そうよ、ジオガードの身内は狙われるかも」とはジリアンが。
「レイシーのこともあるからね」
そう僕が告げると、そこは「ああ」と納得行ったらしい。
「解った」
「注意しとく」
大抵の人がそう言った。
それからも宴は続いた。
この会場となった家を囲むように、ダイアンさんやドナさんの護衛がしっかり守っている。その中には新しい人も。だから安心して続けることができて、それはそれは楽しかった。
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翌日にはみんな帰っていった。「じゃあ頑張れよ」なんて言いながら。
施設にも報告したくて、あたしは『太陽の家』に行きたいことをみんなに言った。
「大賛成だよ」
否定してくるワケがなかった。そしてみんながついて来た。
施設のみんなはあたしを見て驚いた。それもそうだよねと思った――だってあたし、前とすっごく違うから。
今のあたしをみんな褒めてくれて、これからのあたしをみんな応援してくれた。
それから、また会おうねって約束もした。
もう一つ行きたい所があった。そこへ、あたしが言葉で道案内をしつつ、運転してもらって、着いた。
古いアパートや団地が目の前にある。すぐそこの一軒家は小ぢんまり。近くに森が。
「ここは……?」ってジリアンが言った。
「もしかしてここが」
ユズトに言われて、アパートの一室、角を一度だけ指差して、あたしはコクンと頷いた。
住んでいた家。もう別人が住んでいる家。
ただ見に来ただけ。このことに意味はないって解っていたけど、でもこの辺りの雰囲気を感じながら、あたしは思いたかった。
――これからのあたしを見ててお母さん、あたし、頑張ってるから。凄いんだよ、今。ジオガードだよ。こんなあたしになれると思ってた? あのね、実は、あたしも思ってなかったんだ。えへ。でも途中から違った。なってやる! って思うようになったの。それで頑張って……なった。なれた。だからこれから活躍するあたしを見てて。あたし、人を守ってくから。
きっと、こう思うのはどこでもよかったんだと思う。でもあたしは、少しだけ変わったその場所をまた見たかった。一人になる前までの思い出が今のあたしの一部なんだということに、感謝したかったから。
――みぃーんな、ありがとう。じゃあ、またね。
その場所に対しての一旦のさよなら。そのあとでみんなに言った。
「さ、帰ろう」
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レジリア空港からアンクウィット空港に――ディヴィエナ州に戻ってきた。ロビーから出る際、花屋が目に留まった。
フユツリバナという文字が見えて、運命を感じた。
好きな花だ。ただ種の状態だ。
タミラさんのマンションの一階では実物の花を見た。光を放って虫を呼ぶチューリップ大のスズランみたいな花。
ただ、今ここは暖か過ぎる。今植えたら育って咲くのがここの冬の時期になるのかな。
あちらで見たものを、こちらでも見たいと思った。
だから僕はその種を買った。




