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星のバラスト  作者: 弧川ふき@ひのかみゆみ


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029 航空礎術弾と本試験場

 進んだ先の部屋で大荷物を預けると、列を成して機内へ向かった。この機はジオガード専用ということが解らないようになっている専用機らしい。確かに見た目は一般のものとほぼ同じだ。

 機械によって大荷物も積まれたようでその知らせのあとで……ついに飛び立った。

 流れは地球の場合とほぼ同じ。


 ――こうやって飛ぶのって、ゲート移動の距離には限界があるからだろうなあ。


 ドナさんを偽者から助ける時やケナのお父さんを捕まえなければならなかった地球でのこともそうだった。ゲート移動をするにはある程度距離感が解っていて、かつ、長距離の予定なら大量の礎力を込めなければならない。しかも維持も必要。それは誰にでもできることではないらしい。

 なるほど当然の手段なんだなこれは……と思いながら、機長やキャビンアテンダントのような立場の人らが試験監督官たちと話しているのを眺めた。そして気になった。


「あの人たちもジオガード事務員みたいなものなのかな、どんな人たちを乗せてるのかは知ってるはずだよね?」

 これにベレスが。「彼らはジオガードを支える職員です、今回などの専門の機長とCA。合格すればもう私たちは仲間ですよ」

「仲間かぁ。ふぅ~ん。……ん? でもさ、この時期だけこの仕事するんでしょ? 空港で働いてて急に休むとか無理そうだし、今回みたいに動けるようにしないといけなかったはずだよね……だよね?」

「まあそうですね」

「機長さんとかCAさんは普段何してるんだろ」

「あー……彼らはですね、ジオガードのサポーターであることがバレないように表向きには別の仕事をしています。機長や副機長は、飛行機関係でなければならないことになっているはずですよ、何せそのスキルはとても貴重で責任の伴うものですから」

「ふぅん……そっかぁ……なるほどそんな感じなんだなぁ――」


 その選び抜かれたらしいキャビンアテンダントの男性が僕らに昼食を出した。女性アテンダントもいたが、そちらは奥の席へと。

 その際食べられないものがないか聞かれた。「ありません」と言うとあらかじめ決められていたらしいものが運ばれて来た。

 うまかった。食感もいいし、こんなものだとは思わないほどだった。メインに使われている肉は多分鶏肉。礎球でもそう呼ぶ種類の肉――というのが正しいか。地球の鶏とは少し違うが、似たようなもっちり感とおいしさだ。

 しばらく飛んでいると、案内したスーツ姿の男性が言った。


「飛行時間は約十三時間を予定している。到着は、コルダール市の時間で夜七時。着いたら食事のあと寝て体を休めてもらい、更に一日が経ってから本試験だ。という訳だが、念入りに時差対策するならすぐ寝るといい」


 言われた通りに寝てみた。

 ……目が覚めて時間が気になった。

 ただ、それだけでなく何やらがやがやしている――のも気になる。


「どうしたんです?」と僕が前の席の男性に聞くと。

「ボウカンアオワシだ、バードストライク対策として航空礎術弾(エアクラフトショット)で眠らせて捕獲する」

「飛行中に? こんな高さまで?」

「とんでもなく特殊な使術動物(ジオアニ)だからな。結構有名だぞ?」

「あ…無知なもんで。勉強します」


 そこで叫び声が。


礎力(そりょく)を込める必要がある!」迷彩柄のズボンの男性だ。「あと三人でいい、礎力に自信がある者はいないか!」


 右隣のレケを起こしつつ手を挙げてみた。


「じゃあ僕とこの人が。あと――」


 すると左隣にいたベレスが。


「私も行きましょう」

「じゃあそこ三人!」


 あと三人と言われてからすぐに手を挙げたのは僕らだったらしい。まあレケについては僕が勝手に指名したが。


「ごめんレケ。礎力を込めなきゃいけない、協力して」

「ん、ああ、それなら気にするな」


 前へ進み出ると、迷彩柄のズボンの男性は言った。


「こっちだ」


 ――失敗すれば飛行機が落ちるかも。それだけは……


 意外と大変な事態だ。そう思いながら前へ。

 キャビンアテンダントの二人がいる場所を通り過ぎた先に小部屋があった。五人くらいなら難なく並べるスペース。そこに僕とベレスとレケと迷彩柄のズボンの男性と黒革の服に身を包んだ男性が立った。

 黒革が言う。


「どうするんです」


 すると迷彩柄。


「これに手で触れて礎力を込める」


 これというのは、操作盤の台のようになった所にある半球状の物体。半分だけはめ込まれた水晶のような――

 それにみんなの手が伸びる。触れる。そして込める。捕まえることでナンチャラアオワシも無事に、ここにいる人も無事に済むようにと願って――


 ■■□□■■□□■■□□■■


 動体と礎力を探知する機械がコックピットにはある。その画面に鳥の姿。見え始めてまだ一分くらい。あと三分もすれば接触か、そうでなくても飛行を邪魔され、運が悪ければ死ぬ。死ねば奴らのエサになる。


 ――本当によくできた使術動物(ジオアニ)だよ。


 と思っていると、同じ画面の右下に弾数が表示された。


 ――二百八十? 大勢でやったのか? まあいい最初からこの数は嬉しい。


 とりあえず狙う。カーソルと連動したキーを押し、標的と合わせ――発射。

 機体の中央下の装甲が動き、そこから覗いた先の丸い杖のようなものの先から、力の塊たる弾が出る。

 これを百回ほど続けた。外れることも想定。

 飛んでいったのは白い弾。それは当たれば礎術の網となり、標的を捕らえる。そしてしばらく眠らせる。

 狙撃手袋(ショットグローブ)の礎力弾とは違って発射後に礎術が発動する――

 だからこれを礎力弾とは言わず、機体から発射することを受け航空礎術弾(エアクラフトショット)と――当たらなければこれらは地上に近付くにつれて塵へと消える――


 ――本当によくできてる……のは、お前らだけじゃないからな。……よし、全て捕獲!


 画面にはもう鳥の姿はない。それを確認してから襟に付けた礎術道具、バッジ型マイクをオンにした。


「全て捕獲した、もう安全だ、捕獲ルームを確認してくれ」

「了解」


 その声を聞いてから、マイクをオフにした。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 俺が「了解」と言ったあとすぐ、少年の仲間が言った。


「俺は要らなかったな」大きな欠伸も添えて。

「え」とは少年が。


 全員が触れたと彼以外は思っていたかもしれない。が、そうではなかったらしい。


「ごめんね、レケ、わざわざ起こしたのに」

「いや、もしものためだろう、仕方ないんだ謝るなよ。それだけ俺たちゃ……割と凄いのかもな」

「……はは、そっか、そうかもね」


 この場では俺の次に大柄な男――レケが礎力を込めなかったと知って、期待に震えた。


「じゃあ戻っていいぞ」

「ああ、はい」


 促したあとで機長から再度声が掛かった。


「こんなに安心して撃てたのは初めてだよ。充填の量がとんでもなかった。何人でやった?」

「四人だ」


 イヤーカフ型の受信道具から聞こえた声に対し、襟のバッジ型マイクの礎術道具に礎力を込め、小声で答えた。


「四人? そんなもんじゃなかったぞ」

「本当か? だったら……あれを知ってるやつがいたのかもな」

「なーるほど? 将来有望そうだ」


 ――ま、その活躍を見るためには――


「ミスるなよ、操舵。さっきので安心し切って慢心するなんてのも」

「大丈夫だよ、安心しろ、順調だ」


 俺は念のため、さっき言われた捕獲ルームへと向かった。

 この機体は二層構造になっていて階段で下りられる場所がある。下りて奥に行った所にその部屋がある。

 ドアハンドルをしっかりと回して扉を開ける。入って閉めてそれから確認。


「かなりの数だな……三十羽くらいか? よし、奥の扉も開いてはいない、動いてるやつもいないな。異状はなし、と」


 ■■□□■■□□■■□□■■


 着陸時に大きな揺れもなかった。ボウカンアオワシ以外に特に騒ぎの元もなく、あれ以降は快適な飛行だった。

 前の席の人から順繰り降りていく。

 降りた先は小さいながらも空港としてしっかりした所のようだった。


 ――でもきっと普通の空港とは違う。ジオガード関連でしか使われない施設なんだろうな、ほかに人の姿がない。


 と見回したりしながら、ベルトコンベアを流れてきた大荷物を受け取る。

 結構温かい。昼は暑いかもしれない――と思いつつ、全員が受け取ったのが確認できたその時。


「よし。まずはついて来い!」


 スーツの男性に言われ、ついて行く。


「ボウカンアオワシ……」

「ん? あのアオワシがどうかした?」


 ふと出た声が続かないからか、隣にいたジリアンに聞かれた。


「いやさ。どうするんだろうなぁって。眠らせて捕獲するって言ってた。あの飛行機のどこかで寝てるんだよね?」

 問いにジリアンが。「えーと、そうだろうけど、確かにどうするんだろう」


 そこで、後ろから男性の声が。


「ゲートを繋げて生息域に解放するんだよ、それは係を担っているジオガードがやるよ」


 振り向く。短い金髪で、すらっとした――ように見えて筋肉質そうな男性だ。


「あのアオワシのことが心配なんだろうけど気にしなくていいよ、人を襲うことがあるから危険ではあるけど、危なくならないように自然に返せる。元々の生息域だけは、人が今も住んではいない領域でね、そこに繋げるだけだから」

「そうなんですね」

「俺はヒッツモー、よろしく」

「あ、どうも。僕はユズトです」

「ユズト? もしかしてレジリアの大会の」

「ああ、はい」

「なぁるほどね。ああ、そっちは?」

「私はジリアンです」

「ユズトにジリアンね、覚えとこう。ところで体調は大丈夫?」

「あー……まあ大丈夫です」

「ならよかった。本試験は一日休んでからだ。今から行く所は専用のホテルで、試験場と繋がった施設になってる。そこではしっかりと体を休ませるといい。よかったらというか……一応俺が案内することになってるんだけど、どうかな?」

「じゃあお願いしようかな」


 搭乗する時に通るような細長い通路を歩いていて、曲がり角に来た。右に向きを変えてすぐの所には扉が。それを越え、今度は――それまでは屋根があったのに――別の建物から延びた屋根の下、広い剥き出しのコンクリート床の所に来た。そこを進んでまた扉を越え、大きな建物へ。見た感じ、どうやらホテルだ。

 上着を脱ぎながらロビーに並んでいる前の人たちに自分たちも加わると、あのスーツの男性の声が。


「これより、試験に来た順で名を呼ぶ! 呼ばれたチームにカードキーを渡す! それからは明後日の朝に呼ばれるまで自由にしていい! 呼ばれた者がいるチームは全員が前に出てくること! いいな!」

「うぉっす!」

「イエッサー」


 各々が返事をする中、ヒッツモーさんが僕らに。


「部屋に荷物を置いたらロビーに来な、そしたら案内してやれる」


 そして数分後。


「ベレス・エイスティー!」


 自分たちの番だ。

 前へと出て行って五枚のカードキーを受け取った。カードには4020とある。


「四階の東側、奥だ、案内板を見て階段で向かえ」


 となれば案内板を探した。ロビーの中央には階段があってその隣にある。そこを見る限り八階まであるようで、エレベーターはないらしい。

 言われた通り階段を上がった。四階に着いてすぐの部屋番号が左から、4010、4011となっていたので右へ。そして直角に曲がって通路を歩いて見ていく。左手にドアがあり、右手は窓と緑の景色。奥に4020の部屋を発見。

 入ってみる。

 部屋は限りなく質素だった。暖色と白を基調としてはいるものの、最低限のものしかない感じだ。

 ベッドの上に白いジャージと黒地のゼッケンを見付けた。ゼッケンには白い文字が。


「13の1の75?」


 ジリアンがそう言った。


「確かに何なんだろうこれ」


 レケがゼッケンを全部横に動かすと、その下に紙があったのを発見。


「何々? ベレスは13-1、レケメラウガーは13-2……なるほど個人の番号ってことだな」

「75って何だろ」ケナが言った。

「うーん、解んない。あ、僕が4なんだ」

「あたしはー?」

「んーとケナは13-5だな」レケが答えてあげていた。


 さてと。とりあえず本試験の時にはこれらを使うんだろう。そして今から自由時間。ただ、案内の約束がある。


「トイレとお風呂別だ!」ケナが言った。

「そりゃあいい。居心地に関わるからな、こういうのは」


 レケが返事をした。――お兄ちゃんしているなあという感じがする。


「とりあえずロビーに行こう」


 僕がそう言って、荷物は置いておくことにし、カードキーだけは持って部屋を出た。

 ロビーに行くと、案内板の近くにヒッツモーさんの姿が。近くにほかの受験チームの姿も。


「おう来たか。じゃあ案内するぞ」


 そう言われて中庭に出そうなトンネルのような道を通った。予想通り中庭に出た。花壇がほんの少しだけ建物に沿うようにあって、続いた硬い道の先に巨大な体育館のようなものが。


「ここはジムだ。スパーリングができるしダンベルでのトレーニングもできる。格闘術をやりたきゃ畳みのエリアだ。ボルダリングエリアもある。試験に向けて調子を整えたければ来るといい。さて。一旦戻るか」


 ロビーに戻り、ジムの方を向いて右手の奥をヒッツモーさんが示した。


「一階はスタッフルームのほかに、生活に欠かせない施設が入ってる。監督官を担当するチームの部屋なんかもあるのが右奥だ。ここから見えるのは食堂、コンビニ、クリーニング施設……左手にあるのが警備員用のロッカールームと監視室だ。この場所が、外部から無関係な者に侵入されないように監視していて迅速に対応できる。まあ侵入なんて昨今全くないがな。試験用の機材の倉庫なんかも一階にあるな。本試験日の朝はガチャガチャとうるさいかもしれないが、そこは勘弁してくれよな」

「ええ、しょうがないですからね、そういうのは」


 案内板の前に立つと、ヒッツモーさんが二階の東側、北端を示した。


「二階東、一番奥には図書室がある。時間を潰したい時なんかは利用するのも手だ。さて。コンビニではある程度のものは買える。着替えと操作対象の補充と非常時のため。何かあったらそこで調達しろ。とまあ、案内はこのくらいかな。じゃ、あとは各々食事なり運動なり、自由に過ごして試験に備えるといい。じゃあな」

「はい、ありがとうございました」

「うむ」


 ヒッツモーさんは一階右奥の通路へと消えた。その先は監督官の部屋。


「じゃあ」レケが言う。「一旦何か食べるか」

「そうだね」


 食堂に入り、メニューを選ぶ。僕とジリアンは肉詰め定食、ケナとレケとベレスはテンプラ定食を食べた。


「んま」

「ほう、火加減に気を付けないとこうはならない、丁寧にカリっと仕上げてある」


 レケが饒舌だ。料理のこととなると熱い。

 そんな食事も終えてジムに行ってみた。ダンベルを使ったりスパーリングをしたりするイメージは湧くが、ボルダリングに関しては一度も経験がない。それをやっておきたくなった。


「僕はボルダリングの所で運動して、体を疲れさせてから寝ようと思う、みんなは?」

「あたしもするー」と言ったのはケナ。

「私はパス。というかダンベルの方をやってみる、私は、必要なのは筋力かなって」

「そっか」


 僕の相槌にジリアンは、「じゃ」とすぐに向かった。


「俺は……ケナを見ておくよ、ユズトといる。ベレスは?」

「では、ジリアン様を見ておきますよ」

「……ああ……そっか、なるほど、よろしく」


 そう言ってから、笑みがこぼれたのが自分でも解った。


 ――じゃあ心配ないな、悪い虫もつかない、どうせつくならいい虫……丁寧な虫だったりして。まぁ守ってるだけかもしれないけど。


 だなんて思ってから、ケナ、レケの二人とボルダリングエリアへ向かった。

 床は柔らかいマット。壁の傾斜はどこも八十度くらい。わざとそこまで厳しい斜面にはしていないんだろう。命綱はない。手酷い失敗はしない前提ということだろう、まあそのくらいなら大丈夫だ。

 最初は手の付け方を覚えるだけで一苦労だった。下から眺めてどう登るのがいいのか考えてから辿るようにやってみる。行けるルートがどんな感じかが解ると登るのも速くなるし、やるのがどんどん楽しくなってきた。

 しばらくして――


「もう遅い。今日はもうやめとこう」レケに言われた。

「ん、そうだね、ケナ、下りるよ」


 下りるのに使うのは側面の梯子だった。下りてからは三人でジムを去っていく。ちらっと見たが、ジリアンとベレスはもういなかった。

 驚いたことに、ケナの登頂が意外と速い。体重も関係していそうではあるが、それにしても。というのを言ってみると。


「ユズトが速いからだよ」ケナが言った。「お手本が目の前で見れるもん」

「ええー?」頬が緩む。「だとしたら僕も嬉しいけど。でもそれってさ、見て吸収できるケナも凄くない? ああ、それと、ケナの場合、自分の腕の長さに合うようにしなきゃダメな時があるでしょ? それもうまくできてるっぽいよね、それって凄いよ」

「そう? うへへ」

「はっは、才能があるってことだな」レケも笑った。


 二人の喜ぶ顔を心に刻み付けてから、階段を上がっていった。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 去っていく三人を見ていた。――あんなチームがあるとは。

 ここへ来たからには人を救うチームとしてゆくゆくは働き、危険と隣り合わせになる……本当にそのつもりなのだろうか。


 ――あんな女の子が? 危険過ぎる。俺は認めないからな。


 逮捕術なんかの訓練にいい畳のエリアがあった。そこで仲間と汗を流しながら俺は考えた――どうやって邪魔しようかと。

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