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星のバラスト  作者: 弧川ふき(元・ひのかみゆみ)


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027 繋がりと試験

 訓練し続けたことでかなりの域に達している実感がある。

 節目として区切りがよく余裕も持てるからか心の中が清々しい。だからか、いつもとは違うことをしたくなった。


 ――もう不安は全くないし、タミラさんに挨拶しに行こうかな、ごたごたはしてたけど、まだよろしくの挨拶もしてないし……行ってきますの意味でも。


 どんな所に住んでいるのか。考えるとワクワクした。地球とは違うものと出会えるかもしれない。


「今日ちょうど休みだって。案内するよ、一緒に行こ、手土産にまずは何か買って――」


 ドナに連れられてまず大きな店へ。買った手土産の入った紙袋をドナが持った。それから向かう。

 着いた先は高層マンション。

 ポスト横の鍵付き自動ドア前の広い空間に、少しばかり花壇がある。そこに生えた花が淡く光っている。

 花の形はラッパに近くてユリっぽくて、先は膨らんでいてスズランっぽさがある。チューリップくらいの大きさの花だ。


 ――これは使術植物(ジオベジ)……だよな多分。


 前にそれについての知識をテレビで見たことがある。


「あの花、何ていうやつ?」

「フユツリバナだね。使術植物(ジオベジ)だよ、ほのかに光るのがこの種類の礎術(そじゅつ)。光で虫を呼んで受粉するし虫を食べることもあるよ」

「そうなんだ。へぇぇ。蜂とか食べちゃいそう」

「や、花粉へ刺激……花粉管だったかな、忘れたけど、それへの刺激がある間は食べないはず」

「へえ、よくできてんだなぁ……これ指食べないかな?」


 指を差し出した。突っ込んでみたくなる。


「ふふ、みんなソレよくやるんだよ、でもあむあむされるだけだから大丈夫。そこが可愛いっていう人もいるんだよね」

「あ、それ、解る、癖になる人いそう」

「そう、そうなのよね」


 と、話している間に呼び出しボタンをドナが押していたようで、スピーカーから声が。


「ハァイ、見えてるよ、入って」


 自動ドアが開いた。

 行く途中、立て札があった。フユツリバナについての説明がある。

『トマトのような実がなります、食べられます』

 へえ、と、また新たな知識を得た実感。

 どんな味がするんだろうと思いながらエレベーターに乗った。ドナは六階のボタンを押した。


「今どんな感じなの?」ドナが聞いてきた。「出現させる派生技、結構身に付けたんでしょ?」

「ああうん。クリーン・グリーンでしょ、ウォーター・ブルーでしょ、あとホットウォーター・スカイブルー、あと――」

「え、まだあるの?」

「まぁ、うん。ホットエア・オレンジっていうのもあるし、ドライイング・イエローっていうのも。ああそれとゲート! ゲーティング・ブラック、それから白の、ゼロビジビリティ・ホワイト……特殊な技を決めてるのはこれで全部かな?」

「多っ! というかなんでそんな清掃員みたいな技ばっかり」

「はは、まあ特訓で泥だらけになったりずぶ濡れになったりしまくって、つい」


 こう話した頃には六階に着いていた。降りて廊下を進みながらも話した。


「ユズトらしいというか。ジオガードとしてはやっていけそう?」

「うん、大丈夫だと思う。白が特に使えるし。それに清掃道具っぽいのも使いようによっては強いしね」

「そっか、水で身動き封じたり?」

「そうそう。あ、それと、赤いビーズを出現させるのを覚えたんだけどさ」

「え、幾つ身に付ける気なの?」

「うぅ?……うーん……もう要らないって思えるまでかなぁ。というか、ビーズってカラフルだし、もうちょっと覚えてみたくなっちゃうというか――」

「それでできちゃうのがもう」


 ドナは、ハァ……と強く溜め息をついた。そして聞いてくる。


「で? 赤いのはどうなの、何か特殊な発動はさせるの?」

「あっそうだ、それなんだけどさ。結論から言うと、不透明な赤いビーズではまだ何も考えてなくてさ」

「まだなんだ」

「うん。ところでさ、不透明なのばっかり出現させるようにしてたの、気付いてた?」

「ん?」


 ドナはしばらく考えた。そして「ああ」と。


「そういえば。訓練見てる時もそうだったね」

「うん。でね、特殊な現象をビーズで起こす――その際、何かを変化させたりするなら、ビーズで隠される部分が全く見えない方がいいのかなぁって思ってたんだよ、ほら、箱から水が出る手品みたいに」

「あぁ~……なるほど? え、それ、イメージを壊さないというか、そういう意味で技の円滑さに繋がってそう」

「でしょ。だからそうした方がいいかなぐらいに考えてたんだけど……モノによっては半透明でもいいのかなって思ってさ。んで、赤い半透明のビーズも出せるようにしたんだよ」

「え? 待って。え?」


 足は六〇七号室の前でさっきから止まっていた。きっとそこがタミラさんの部屋。

 ただドナは話を続けた。


「もしかしてこれから二倍くらい増やす気でいる?」

「え、や、そこまでは考えてないけど」

「いやいやいや……だとしてもだよ? もう、どれだけよ」

「ええ? そうかぁ……そんな感じに思っちゃうのか」

「そりゃそうでしょうよ。あと少しだけだと思ったのよ、増やすとしたら質の維持も大変だって聞いたし」

「――うん。だからあと少しだけだよ。っていうか、そうじゃなくて」

「え? 何、そうじゃなく?」

「だからその、赤い半透明のビーズを出せるようになったんだけどさ、その――」

「ああ、そっか。うん。そうだ、それは発動させるの? 何か」

「うん。火を出そうと思って。で、こんな感じのを覚えたんだよ」


 やってみせる。

『バーニング・ルビー』

 心の言葉と共に念じると、礎力(そりょく)をやっぱり込めやすい。

 そして空中へと――廊下の手すりの向こうへと――その半透明の赤いビーズの穴を向ける。更に礎力を込めると長く勢いのある火が出現。火の出始めは青く(しら)んでいて、先はまあまあ赤い。

 ビーズを消すと、そんな火も消えた。


「……ガスバーナーじゃん。えええ」


 ドナは言いながらインターホンを鳴らした。そしてドナはまだ言葉にした。


「まさかジオガードになってから誰かに狙われても……どこか山とかに隠れても生きていけるようにとか考えてない?」

「え、なんで解ったの? 凄いんだけど」

「いや、実は――ジリアンもそんなことを言ってね、火を生む……何色だっけな……」

「え、ホント?」

「うん。あ、そうそう白いリップスティックを出せるようになったとか」

「マジか。えー、もしものことを考えると、似る時は似るんだな」

「だけどあんたたち……凄いね。そんなだから……だから私たちを救えたのかな、こういうことがある度に思うわ」

「あの印とか鏡に選ばれた理由?」

「うん」

「僕の中の何かを察知する……何かがあったのかな、礎術道具にとっても、礎術自体にとっても」

「かもねぇ――」


 と、そこでガチャッとドアが開き、声が届いた。


「いらっしゃい、入って」


 タミラさんに招き入れられ、ドナがまず入る。そして僕。

 部屋は整っているというより質素で綺麗で物が少ないという印象だった。フローリングの床。モノトーンや木目の家具。ここはバーの店? そう思うほどにお洒落だ。

 通されたリビングにて、ドナが紙袋をテーブルに置き、中からを取り出した。


「これ、一緒に食べよ、私とユズトからのプレゼント」

 それを見つつ僕も。「これ、ドナが勧めた店で僕が選んだやつ。これからよろしくってことで。た、食べよう」


 手続き上は義理の伯母になったし――と、タメ口で喋ってみた。ドナが僕にそうしてほしいと言ったようにタミラさんもそうかもと思ったから――

 すると。


「あらそうなの? 嬉しい。こちらこそよろしくね、じゃあ早速食べよ」


 うまく話せそうだ。


「そういえば」気になった。「タミラさんはどんな仕事してるの? なんか凄い仕事してそう」

「一応こう見えても女社長よ」

「え! 女社長! どういう会社の社長?」

「警備システムの会社なんだけどね」

「どういうやつ?」

「弟の家――ドナの家の裏口とかインターホンとかのね、モニターだったり、ドアのコードロックとか。見たことない? ああいうのをやってる」

「あぁああ、なるほどアレか!」


 庭に出る時にたまにベレスかドナが押す。デザインにも凝ったもの。


「強引には開かないカギになってるのよ」

「へぇ~」


 そんなこんなで、ドナの大学での話になったり、最近ハマっているものの話になったり。そんな時。


「ちょっとさ、気になってるんだけど、アレって何」

「ああ、アレ?」


 リビングのテーブルを前にして座っていて左手に――幾つか部屋があるが、手前の部屋の奥の壁に――ダーツの的のようなものが。その横には、指が出る手袋が、ふたつ、ハンガーに掛けられている。多分右手用と左手用。


遊戯用狙撃手袋トイ・ショットグローブっていうやつでね、オモチャの……ダーツ的なやつ」

「ほぇぇ。トイ……オモチャ的な……ってことは、威力は、大きくなり過ぎたりしないの?」

「そうね、出力が制限されてる。人に当たっても大丈夫よ。やってみる?」

「え、いいの? やってみたい!」


 装着して離れた所から狙って礎力を込めてみた。発射された白い弾が標的に当たる――と、弾けて消えた。すると的の当たった部分が光った。


「おおー」


 的中した部分の光は、声を上げて十秒ほど経ってから消えた。


「パーティグッズとしていいじゃんこれ、いつかみんなでやろうよ」

「そうね、その時は何か景品用意しよ」とはドナが。

「大賛成」


 僕がそう言ったあとすぐ、二人の笑顔がより大きくなったのが解った。

 楽しい時間だった。

 こういう休養日を、試験日まで訓練し続けたい今取らないこともない。何せ休みも大事だから。だからこそこの楽しさが――日常が――大事だなと思う。

 ふと、タミラさんの声が。


「あ、ねえ。ベレスから聞いたんだけど、ジオガードになったらまず配属される州を第三候補くらい選ぶしどこに選ばれるかは若干運なんだって」

「そうなんだ」


 遊戯用狙撃手袋トイ・ショットグローブを手から外し、壁に掛けてそちらへ向かい、リビングの椅子に座った。どちらかが話し出すのを待った。するとタミラさんが。


「うん。だから、もし遠くに選ばれてそこへ行った暁には、お土産頂(だい)よ」

「あぁ、そうだね、覚えと――いや、メモしとくよ。何か紙ある? それとペン」

「はいはい」


 渡された紙とペンで書く。


 ――受かって別の州に配属されたら…お土産…と。


 そして、もしものことが気になった。


「もしここ――スピルウッドに決まったらどうする?」

「それだったら私がおごるし地元の品でお祝い」

「じゃあどっちみち何かパーティしたいね、ちょうどアレもあるし」


 遊戯用狙撃手袋トイ・ショットグローブのセットを手で示しながらそう言った。


「そうだ、みんなで何か持ち寄ろうよ」と僕が言うと。

「あ、それいい。ふふ、今から楽しみね」タミラ義伯母さんは嬉しそうにした。


 ……そんな日から数日が経った。試験日から一週間とちょっと前の今日は、五人全員で警察署に来ている。なぜかというと――理由は数日前のベレスの発言。


「試験は秘密の場所で行われます。その試験場に行く方法を犯罪者が知るとよくないので、警察署の一部にて毎年この日だけ、暗号コードと呼ばれるものを見られるようにしてあります」


 まずそこで一つの疑問が生じた。


「暗号コード?」僕が聞くとまたベレスが。

「それをテレビ視聴時に入力すると、ジオガードから発信される特別な映像を試験の五日前の昼だけ見ることができるんです」

「ほぇぇ」


 というワケで、警察署の受付で暗号コードを見に来た旨を話しジオガード志願者五人と認識され、二階へ連れられた。奥まった部屋まで行くと、入った所で写真を撮られた。監視カメラらしきものもあり、完全にこの五人で映り込んでいる。犯罪防止のためだろう。

 きっと素性も調べられる。だが自分たちなら問題はない。

 暗号コードは壁にはめ込まれた何かの画面に映し出されているようだった。


『2251@8202c3234=』


 それをメモし、帰宅。

 ――そして試験の五日前。

 ゼフロメイカ邸のリビングのテレビを点け、レケが言った。


「よし、そろそろ見るぞ」


 電源を点けたリモコンでレケが暗号コードを入力していく。

 この入力欄は普通なら番組録画用のコードとかに使うらしいが――その入力後、なぜか入力編集画面に戻ったり操作を続けるか選ぶような画面になったりせず、あるチャンネルの映像へとすぐに切り替わった。

 それからしばらくはそのチャンネルを日常の一コマのようにただ観るだけだった。通常とどう違うのか……


 ――ん? そういえば。


 ニュースを見て気になった。礎球で放送されているニュースや推理もののドラマの映像にはテーザー銃やスタンガンが一向に出てこない。銃自体出ない。礎球にはきっと銃がない。電撃銃の類も。『ガン』という言い方も。

 電流で動きを止めるタイプのものでは、代わりにスタンフェンスというものがあるらしい。

 最近、宝石店強盗犯がそれに感電してもたつき、逮捕された。店の前は通報によって迫り出してきた壁で塞がれて出られなくなったので――犯人はそうなるとは知らず裏から逃げたらしいが――その先へと警察に追われ、行った先に意外にも電気柵があったということだった。その柵は、別の店が「この敷地内に入るな」と仕切るため、かつ防犯、危険物を取り扱っているという警告のために設置したものらしい。そんな柵・金網のことを礎球ではスタンフェンスと言うらしく、今そのニュースが流れていた。

 銃については聞かない方がいいだろうと思うのと同時に、もしもスタンという言葉がほかにないとしたら。『ジリアンの技名、スタンリップはコレから取ったのかも』と気になった。

 聞いてみた。

 するとジリアンが頷いて。


「ああ、そうそうスタンフェンスもあるんだけど、スタンワンドっていう自己防衛用の道具から付けたんだ、スタンリップ。いい名前でしょ」

「そうなんだ。うん。じゃあ本当にいい名前だね。捕まえようって感じするし」

「でしょでしょ」


 ――違ったけどいい名前だ。


 そしてある時、ケナが大きな声で。


「あ、これだよきっと!」


 言われたからでもなく、全員の視線がテレビに向く。「ジオガードになりたい者は――」と声があったからだ。

 画面には、どこかの店の靴が映っている。

 しばらくの間はリラックスに最適そうなBGMだけが流れている。その上に男性のナレーションが重なっている。それを最初から聞いた内容はこうだった。


「ジオガードになりたい者は必見。あなたは、あなたの足に、あなたの歩き方に、合った靴を履いていますか? 走りは靴から。もし五十センチ以上の靴をお求めなら、スピルウッド・シミーズ空港にある専門店『ミスター・カウワカ』まで。紐なしバラ色運動靴もぜひ」


 ――なるほど。とにかくコレから受け取ったキーワードを、示された場所で言えばいい、と。


「覚えたか? メモもしとこう」


 レケがそう言うと率先してメモ紙に書いた。それをみんなで見る。「合ってるよな?」「うん合ってる」「ミスター・カウワカだし……うん、走りは靴からって言ってたよね」などと確認し合った。


 ……それから数日後のある時。

 銃は古い時代にはあったという一文を、とある本に見付けた。

 今はもう完全に廃れているらしい。狙撃手袋(ショットグローブ)がその一因だとある。代わりに礎術道具としてのものは少しだけあるらしいが銃の形や銃という名は残ってはいないとか。

 こうした勉強もケナと一緒だったりそうでなかったりしながら続いた。

 訓練に関しては、体術、礎術、逮捕術、追跡術、走ったり物を持ち上げたり体重の負荷を使ったトレーニング等――ありとあらゆる訓練をした。チームで対戦も。

 そして――

 ついに、試験の日。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 空は曇り。時間は昼前。ゼフロメイカ家の門よりも外に立ち、ドナやダイアンさん、アデルさんに見送られ、ちょうど今、背を向けた。

 各々好きな服装で……好きな色で身を包み、バッグを背にしている。

 みんな個性が出ている。私は青や水色基調だし、ベレスは黒や茶、ケナは黄色や橙、ユズトは紺や白黒で、レケはベージュや茶、紺、黒と……絶対にその色という訳ではないにしろ、らしさとして映える。

 数回振り返っては手を振るなんてことがあったけれど、それからはずっと前を向いて五人で他愛もない話をして歩いた――近くのバス停まで。

 ほんの少し、本当に少し、小雨が降っている。

 降る雨を受けて感じた、あの時の白い雨に似ている、と。それでも軽く思い出すだけ。赤い残像も見えたけれど、そんなことを起こさせなくするために私たちは向かう。

 今の私になら何でもできそうだと、この胸にある自信が思わせた。


 ――何も怖くない。やれる。やっていける。私たちなら。


 ■■□□■■□□■■□□■■


 バスに乗り、スピルウッド・シミーズ空港前で降りた。

 五人で入って、最初に目についたのは花屋だった。

 そこにも使術植物(ジオベジ)のあの花を見た。名前は忘れた。

 何だっけと思っていたら品名の札を発見。――そうだ、フユツリバナだ。

 結構あるもんなんだなと思いつつ、入口から右を見た。右に行けば到着ロビーのエリアに着くようだ。ただそちらに用はない。なので左へ……入っている店舗を見ていく。

 奥まで行ってやっと靴屋『ミスター・カウワカ』を見付けた。

 入ってからしばらくは店の様子を見て歩いた。

 自分たちしかいないらしい。――よし、チャンスだ。


「ちょうどいい、行こう」


 率先して言った。

 みんなが頷いたのを見てから、連れるようにカウンターへと向かう。

 にこにこ顔の店員に声を掛けたのもまた僕だった。


「五十センチ以上の靴ってあります?」


 店員――中年男性の表情が変わった。真剣な眼差し。


「ありませんよ、そういったものは」

「紐なしバラ色運動靴……なんてものは?」レケが聞いた。

「いやいや、そんなものはありません。それに何人分なんです?」

「走りは靴から――と思ってるんですけどね。この五人です」

「……解りました。こちらへ」


 カウンター横の腰までの高さの扉が開かれ、招かれた。

 普通は店員しか入らない場所へとついて行く。

 すると棚にある書類や箱の奥の板に、店員が手を伸ばした。彼が礎力を込めたのが僕には見えた。みんなには見えていないだろうけど、蜃気楼のように透明なゆらゆらがハッキリと。

 するとその板がスライドして開いた。

 そこに小さな金庫内部くらいのスペースがあって、中にはスイッチがあるようだった。店員男性がそれを押した。

 すると隣の壁が急にスライドして開いた。


「あとは道なりに進んでください」

「了解しました」とベレスが。

 そのあとで礼をしたくなった。「ありがとうございます。では」

「ご武運を」


 言われて、五人で、横長の薄暗い通路に入った。

 すぐに隠し扉は閉じられた。そして進む。と、エスカレーターを発見。


「どんな感じなんだろ」


 僕が問うとケナが。


「ワクワクするね」

「だね」

「最初に何するのかな。こういう場所探しはもう勘弁してほしいけど」


 頷いた僕にというより、みんなに向けてだろう、ジリアンがそう言った。


「うーん、どうなんだろうねえ」

「お、もうすぐ着くぞ」


 乗ったエスカレーターから降りて行き着いた所は、随分と地下にあるのであろう四角い空間だった。

 柱が所々にある。テーブルや椅子もある。それも結構な量。

 それらを眺めていると、横から声が掛かった。


「あれ? どこかで」

「ん?」


 振り向いた。そちらにはベンチもあった。自動販売機もあって、そこでは休憩もできそうだ。

 ベンチの所から歩いてきながら声を掛けてきたようだった――その人は女性で、確かにこちらとしても見たことがある気がした。


「覚えてない?」

「あ! ああ! 大会の! すみません、名前は忘れちゃって」

「フィンブリィよ。フィンブリィ・アウスイット」

「フィンブリィさん! お久しぶりです」

「そういやその子もいるのね」

「そうなんです」


 フィンブリィさんが手で空中のピアノを弾くみたいな動きをすると、ケナも控え目に手を挙げた。

 その手が下がってすぐ、別の方向から男性の声が。


「や、すまん、待たせた」


 それに対し、フィンブリィさんが。


「じゃあ行こっか」そしてこちらを見ると。「多分受かってると思うけど、また本試験場でね。じゃあね」

「はい。また」


 ――本試験場? ここから、いつか移動するのか?


 声を掛けてきた男性の後ろに男性と女性が一人ずついた。合わせて四人で、フィンブリィさんたちは奥へと向かう。

 それを見送る。

 フィンブリィさんたちは誰かに何かを見せた。書類のようだった。その誰かが、通させまいとしている扉を開いた。そして「通ってよし」とでも言ったのか、彼ら四人は扉の向こうへと。

 それを眺めている僕と仲間四人の元へ、誰かが近付いてきた。


「どうも。今回の試験監督官を担当してます、ウェヒーブ・アイッカといいます。まずは受験料を頂くんですが……一人十万リギー……カードでもいいです、お支払いいただけますか?」

「じゃあ僕が」

「いいのか?」レケが聞いたけれど。

「いいよ。僕が貰ったお金だけど、みんなのために使いたいし」


 財布をバッグから取り出し、カードを差し出した。

 ウェヒーブさんは腰からぶら下げるようにしている装置にそのカードを通し、すぐにこちらへと返した。そして言った。

「五人ですね?」

「はい」

「では少々お待ちを」


 ウェヒーブさんは一旦僕らから離れた。どこへ行くんだろうと見ていると、最終的に彼は監督官以外立ち入り禁止と書かれた扉を開け、別の部屋へと入った。

 エスカレーターから見て右手。ここまでの経路や空港一階の構造からしてそちらは恐らく南側。

 ちなみに角にはトイレがあるらしい。

 一分もせずに、とある紙を持って出てきたウェヒーブさんが近付いて来た。そしてまた。


「こちらをどうぞ」


 手渡されたのは問題用紙だった。一人一枚らしい。――なるほど。だから机や椅子がこんなに。

 実際、席に着いて鉛筆を走らせている者が今も、左奥にいる。

 早速そこら辺に座った。ずらりとあるのは八人が余裕で座れそうな丸テーブル。真ん中に鉛筆立て。その鉛筆を取り、早速、筆記試験開始だ。

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