026 過去の己と年を超え
年越しの瞬間は地球にいた。
リビングでゆったりしているとお母さんからの質問が飛んだ。だから礎球でのことを話した。その話を、妹がそれはそれは面白そうに聞いていた。
――礎球に行きたいなんて言わないだろうなぁ……
少々不安ではある。
ただ、割り切ってはいるようで、そこまでの発言はしない。まあまあ頭がいい子なんじゃないかと兄馬鹿の気持ちを抱いた。
妹の恵はまだ幼さがある印象ではある。実際にはもう小学六年生。それなりの考え方もできる子だ。
ただ、礎球へ行くのはダメとまでは思っていない。それ自体はいい。肝心なのはどう定住するかだ。僕の場合は養子に。同じ方法を取るとしても、気を許せる相手はそうはいない。ダイアンさんに引き取られる手はもう使えない。偶然では片付かなくなってしまうので不審に思わせてしまう。
――もしそんなことになればコースルトさんを頼るかなぁ。
ただ、恵は結局、僕が礎球に再び行く日までに、一緒に行くなどというようなことは一言も言わなかった。
一緒にテレビゲームやしりとり、トランプ、パズルでとにかく遊んだ。そして花火を見た。神社へお参りしたり買い物に付き合ったりもした。そんな年越し。
帰る前に、一つ重要な話をお母さんにしておこうと思った。
「ケータイ、解約しといていいからね」
「そう? もしこっちで何かあったら――って時のために残しておいてもいいのよ」
「んー……そんときゃ借りるよ、金掛かるでしょ」
「そう? それでいいなら」
――僕とお母さんって、なんか、似てるのかもな……
「行ってきます」
「無理しないでね」
「うん」
どちらも僕の世界。大事な世界。そう思いながら鳶木公園へ足を運んだ。
一旦こちらの星に「じゃあまた」と別れを告げると、木漏れ日の中の芝生以外何もない空間に念じた。
白いリンクゲートが姿を現す。それを通ってあの崖上へ。
ダイアンさんに電話で一報入れてから崖上で待っていると、そこへダイアンさんが来た。
鏡が目の前に出現。ダイアンさんが出した。それは最初からゲート化していて――
それを通ってゼフロメイカ家の庭へと帰ってきた。
――両方とも帰る場所なんだよなぁ。
「ありがとうダイアンさん」
「うん? 何がだい? こんなのは当然だよ」
急に何だという顔をされた。でも言えてよかった。
ダイアンさんは「じゃあ仕事に戻る」と言うとすぐに別のどこかへと飛んだ――その様を、「いってらっしゃい」と言ってゲートが消えるまで見送った。
さて早速特訓を再開――
と思ってすぐ考えたのは、捕まえるための礎術をもっと覚えておきたいということだった。
――僕の場合は対象はビーズだから……そうだなぁ……
相手の視界をどうにかしたい。それができて相手の操作対象をどこかへやれば、相手は、どこに念じればいいか判らなくなる。これを簡単にできればよりいいが。
――だったら……
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ケナが施設『太陽の家』のみんなに挨拶をして新年を楽しんでから、俺の実家へと戻った。父さんと母さんは、ケナが寂しさや悲しさを感じないようにといつも楽しそうに振る舞った。
ケナがよく笑うようになって、我が家は明るくなった。自分の楽しさから自然と笑うことも増えていった。
ケナに本を読み聞かせる。一緒に遊ぶ。そんな温かい時間がするすると過ぎていく。
ちょうど二つの満月の日に、俺たちは家を発ち、ゼフロメイカ家へと戻った。
――ユズト。お前、本当になんてやつだよ。
再び再開した特訓の中で、ユズトと戦ってみた。手も足も出ない。いや、少しばかり念動の応酬などはあったが、結局白いビーズが俺に忍び寄って少し顔を覆っただけで、俺の視界は隅々まで真っ白になった――上にも下にもどこまでも白い宇宙、数秒間そんな場所にでもいるかのように。
その効果から解放されてから聞いた。
「今の、新しい力か、白いビーズの。決め兼ねてたよな」
「うん。視界を塞いで念じたら念じた分だけ、相手の視界を真っ白にしたままにする」
「なるほどな。今ので十数秒か。それだけで十分ってくらいだな」
「いいでしょ」
「ふふ、最高だ」
その白いビーズのことをユズトが何と呼んで出現させるのか、聞いてみた。
【ゼロビジビリティ・ホワイト】
ユズトはそう言った。それを技名のメモのユズトの欄に書き足した。
このゼフロメイカの家に来てから料理をたまに担当した。
作ったものを皆、ペロリと食べる。
ある時、そんな食事を終えてユズトが聞いた。
「そういえばさ。摂取する礎力素が多い食材、多く食べた方が訓練にいいから、何も拒まず食べようとは思ってたけど……どういうのに多く含まれてるの?」
小腹が空いた時にも、知っていればより積極的に採れる。俺が丁寧に答えた。
「ムラサキクダイモっていうのが代表的な材料だな、ほかには、アイレンコン、クロミアケビ、ムラサキトマト、アイバジル、アオゴメ、アカサヤヒシマメ、ムラサキコーン……くらいだな。手軽な栄養補給用にお菓子みたいになったものもあるぞ」
「へえ。メモメモ」
こういった知識も礎術の質に関わる。誰かが知っていればいい程度ではあるが、知って損は絶対にない。
そして訓練は一対一のものばかりではなかった。この五人でだが、どちらかが大勢でやることも。特にユズトは単独側になることが多かった。ユズトが絡まない場合は二対二だったりも。
雨の日も訓練。室内訓練もあった。各自部屋の中でできる念動と大きさ変更による対象の弄び。ちょっとした時間も無駄にならないように、片手間でもできるようにと――
「コップ取って」と言われた時なんかも、なるべく対象を操作して運んだ。
そしてとある日。
「どーもー、みんな、私のことはメイって呼んでね」
元気な女性――ドナの護衛としてよく見た女性だ。彼女が、俺たちが訓練中の庭に来てそう言った。隣には前に見たことがあるとある男性の姿も。
「私のことはウェガスと呼んでください。今日はメイと私を相手に実践をやりましょう、やるのはレケ様、ジリアン様、それとベレス。いいですか?」
「構いませんが」ベレスは何か思ったらしい。「比べられてしまいますね、これだと――」
「元同僚だと嫌?」メイが聞いた。
「そういう訳では」ベレスは否定する。「どんな結果でも何かこう……言われそうで」
するとウェガスが、咳払いした。注目が集まると、ウェガスが。
「私たちが勝っても、その強さで今後護衛をしていけるということなのだから、ベレスたちは安心して試験に臨めばいいし、ベレスたちが勝てばその強さで安心して試験に臨めばいいんですよ」
「なるほど?」つい俺の口からも声が出た。
ウェガスが続けた。「あなた方が強くなっていることは解っています。レケ様たちは今日、経験を積むのです。さあ始めますよ」
感心した。気の持ちようという言葉はこういう時に必要なのだと頭と心に刻まれる。
「あたしは? ねぇあたしは?」ケナが場に問い掛けた。
「ケナはこの前やったでしょ。今日は見学」とは、ユズトが答えた。
ユズトの言う『この前』にケナが実践訓練をした相手はベレスだった。その時、ケナは真っ白な消しゴムの大きな壁で、ほぼ全ての攻撃を防いだ。そのままベレスを包み込んでしまおうとケナが向かわせた白い壁から逃れたベレスが最終的にケナの両足を結束バンドで縛ったが、それでもケナは強い。攻撃時に課題があるだけだと言っていい。
ということで、メイとウェガスを相手に、ジリアン、ベレス、そして俺――という戦いのために、まずは移動。庭が広いとはいえ家の近くでの実践となると本気を出し渋ってしまう。庭には――割と屋敷の近くに――池があって、池を挟んで向こうにも広大な私有地がある。そちらへの移動……を終えると――
「さあやるよ? 準備いい?」メイが聞いた。
「ああ。大丈夫だ」
「私が森に入ったら、二十数えてから三手に分かれて入ってきてね、追い込み漁みたいに。いい?」
「ああ」
「イエッサー」
「それじゃぁよろしく!」
メイが森へと入っていった。
この森はまあまあの広さだ。この全体もまたゼフロメイカの私有地らしい。ウェガスもそこへ入っていく。
二十秒のカウントを心の中で終える。だいたい同じ速さでジリアンもベレスも数え終えたはず。そんな頃ジリアンが言った。
「私、こっちから攻めるね」ジリアンが森の北側を指差した。
「じゃあ俺はまっすぐ」
「では私がこちらから」ベレスはまず南へと森に沿って走った。
そして入る。それぞれ警戒しながら、屋敷の東の森へと。
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「周りに何か飛んでいってもいいように、囲っておくか」
ユズトがそう言ったから、今回お休みのあたしも同じことをしたくなった。
「あたしもやる~」
「ケナも? 集中を途切れさせちゃ駄目だからね、できる?」
「できる!」
「よおし、じゃあ行こう」
ユズトはそう言うと、目の前にビーズを呼び出して大きくした。ビーズ製のベッドみたいになったそれにユズトは乗った。
私も、自前の消しゴムに乗って飛び上がった。いざ上空へ。
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ケナと僕は、それぞれ、かなり多くの消しゴムとビーズに念じ、森に壁を作った。森の端にあるフェンスが道路に沿うようにあるので、その敷地全部の上空を丸ごと囲ったということになる。
これで外への影響はない。そこまでの念動も来ないだろう。
――うん、安心安全。
そしてこれも僕とケナの訓練――ドでかい壁を作って維持もするという――
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森の北部を進んで南の方を見やる。と、一人でいるメイが見えた。息を潜めた上で、リップスティックを礎術で無から出現させ、ジリジリと近付く。
こちらが気付かれてはいない。――なら……今!
まずは、かなりの大きさになった口紅の蓋だけを放った。
どこかで枝葉にかすったのか、メイがこちらを急に見た。確かにチッという音がした気がする。
次の瞬間、飛ばした口紅の蓋を飲み込むように、大きな四角い物体がこちらへと猛スピードで飛んできた。一瞬ではあったけれど、それがマッチの外箱だとは解った。
飲み込まれた口紅の蓋は、通り過ぎた先の何かに当たることもなくなぜか消えた。多分箱がゲート化している。
私がリップスティックの蓋じゃない方を目の前に立てるようにしてガードすると、当たる前に箱が引っ込んでいった。
型みたいに切り抜かれそうなくらいの勢いを感じた。ゾッとしてしまう。
木の陰に隠れた。そして考えた。
――危なかった……アレをどうしよう。うまく掻い潜ればどうもしなくてもいい…かな。
こちらの得物としての蓋はもうどこへやら。見失ったせいでどこかへ行ってすぐ消えている。さっき盾にしたスティック本体も消して、またワンセット、リップスティックとその蓋を無から生み出した。
幾つか木陰を移る。タイミングを見計らう。顔だけを覗かせて――
メイは、向こうを見た時、視界の端にでも何かを捉えたようで、前を見ては焦ったように急いでこちらの方へと走り出した。
誰かが攻撃をした。
それが何か、誰の仕業か、ということは考えもせず、ただリップスティックを放った――どこかに隠れようとしているであろうメイの走りそうな箇所を想像し、予想通りなら当たればいいと思いながら。
――ビンゴ!
メイは足を止め、目の前にマッチ箱のバリアを張った。こうなると回り込ませるしかない。――でも多分手を打たれる。
――だったら足元!
マッチ箱のバリアから掛かる圧力から逃れるように、リップスティックを下へ瞬時にずらした。するりと股下に潜り込む感じだ。このまま向こうにいるメイの足元に……
――あれ? そうか、メイがそこにいつまでもいるはずが。
マッチ箱の盾が大きいからメイがどこへ行ったかもよく解らない。
周囲に警戒した。
左を向いた時だ。巨大マッチ棒がいつの間にか目の前に飛んできていて――蓋でそれを受けた。
「くっ――!」
飛んできた巨大マッチ棒は二本あって、一本は私の脚をかすめた。すると、この脚をなぜか動かせなくなった。
――ッ? 固定する力? マッチのか!
念動に頼らざるを得なくなる。こちらは一歩も引けない。
通り過ぎてぐるりと旋回した方のマッチ棒が私目掛けて飛んでくる。
それを――蓋の脱げたリップスティックを上へやり、上からぶつけることで――地面へと叩き落した。――成功してよかった。
淡い紫の口紅がそのマッチ棒についたのを、私は見逃さなかった。かなりの礎力を込め、口紅本体から塗られた口紅へと、電流を流す能力を発動させた。
するとマッチ棒は焼け、黒焦げになってほとんど炭でしかなくなった。
マッチ棒と言えなくなってから初めてメイの操作対象ではなくなる。ただの炭を操れないメイは新たにマッチ棒を出すかマッチ箱を飛ばしてくるはず――
そう思い、焼く際に使ったリップスティックを手元へ引き寄せた。蓋のないそれを繰り出そうとする。
片や、両者のあいだ右上の空中にて、リップスティックの蓋とメイのマッチ棒による拮抗がいまだ行われている。それも戦いの要。相手が引けば吹き飛ばすように動かし、こちらの本体の口紅で――
――つまり今メイが動かなければこちらが有利……? さっさと飛ばせばいい、行け――!
考えたその時だ。メイは拮抗させたまま引きやしないし、目の前に、急に何本ものマッチ棒が――
「ええ! 多過ぎ!」
それならこちらもと、リップスティックを、無から生む。それでも三本が限界。蓋を分けて考えても六本。
――外れるのを想定して痺れさせる!
そんな時。
「あふ!」
かなり前方(多分、十数メートルくらい前)にメイがいたけれど――そのメイの顔にクリームが。
マッチ棒が小さくなりながら地面に落ちた。視界を遮られて顔の向きが変わったからか。
「いいね」メイが言った。「どちらかが引きつけたり戦ったりして隙があるなら突く、武器破壊、そして――」
レケが木陰から現れてメイの近くまで行き、念動で絞り袋を操り、メイの腕を触れずに縛り始めた。
するとメイがさっきの言葉の続きを。
「――そうそう、行動不能にするのが一番大事」
一呼吸置いてから、またメイが。
「いやぁ、いい感じだよ。私も結構強くなったし本気だったんだけどなぁ。でもその分いいね。レケメラウガーさんも気配をうまく消せてたし。ジリアンはあの電流を放つのを躊躇ってそうだけど、私の武器の破壊には役に立ってるし、動きもいい。ネックはその躊躇だね」
――確かに躊躇ってる。弱い電流を放つのは既にできているとは思うけど……
メイからお褒めの言葉と助言が聞けて嬉しい。ただ、構図が何とも言えない。
「あの……ねぇメイ、とりあえず顔拭こっか」
「ふふ、そうだね。あぁ、そうだ、この味、相変わらず程よい甘さで最高」
「それなら何より」レケも笑った。
私たちの自信も、特に今回はレケの自信も、かなり大きくなったように思う。
ただ、まだ終わってはいない。
「次はウェガスだね」
とは、私がレケに向かって言った。ただ、脚が動かない。メイの礎術の効果が残っているらしい。
そこで、メイが。
「あー……ちょっと聞いて」
こちらが顔をメイに向けると。
「今日の私たちみたいにバラけて動いてる犯人グループもあるだろうけど、きっちりと連携される場合もある。次はそういう実践をするって言ってたけど――」
「ん? 言ってたけど? って誰が?」と私が聞くと。
「ウェガスがね、ユズト君と話してて」顔のクリームを拭いながらメイが言った。
「ああ」
「でね、えっと……今から行った先でウェガスとベレスが戦ってたら、見守っててほしいんだ」
するとレケが。「もしかしてそういう風にしたかったのか? 今日」
顔からほとんどのクリームを落とせたメイが、かすかに残ったものを拭いながら、こくりと頷いた。
「私でもよかったんだけどね。だから運にも任せた。でもウェガスも『力を確かめたい』って。いつかいつかと思ってたらできないかもしれない、そうなるくらいなら、今ちょうどいいから……戦ってたら手を出さずに見守ってやってよ」
「ん、了解」
その頃には私の脚も動くようになっていた。
――メイが念じた度合いによる? 目が塞がれていてもしばらくは動かなかったから、そうなんだろうな。
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多くの可能性を考えながら、急いで東へと森を動いた――音だけは極力出さないようにもしながら。
そしてある時、人影を見た。ジリアンかレケかもしれない。よく見てみた。
ウェガスだった。
ウェガスと一対一……だろうか。足場は少しばかり悪い。こんな状況でも勝てるように訓練を積んだはずだと自分を奮い立たせた。
心で念じる。『ムーヴトゥハンド』
すると手に結束バンドが。ポケットからの瞬間移動だ。今はとりあえず両手に二本ずつ。準備は万端。
――よし。
ウェガスは少し丘になっている所の――西から見たら陰になる部分にいた。
こちらは気付かれてはいない。ならば――とバンドを放った。
ウェガスは意外にもあっさりと胴を縛られた。これを脚にずらして強く締めれば、ウェガスは歩けない。
だがウェガスは眼鏡拭きを巨大化させて自分自身を包んだ。
ほとんどマントのようになったそれをウェガスが翻して姿を現すと、こちらのどこに私がいるか目を凝らしたようだった。その腰に、一本の結束バンドは、もうなかった。
多分足元に落ちている。視界を遮られるのと似た状況ではあるが、礎力を込め続ける場所そのものは移動してはいない、私が込め続けることはできる――のに、効果がないようだ、なぜなのか。
ウェガスが眼鏡拭きで起こす特殊な派生技の効果を私は知らない。
推測も私の課題。
恐らくこちらの礎術を受け付けなくさせた、そんな所だろう。
と考えた時だ、巨大眼鏡拭きが飛んできた。
――バレた……!
アレに押さえ付けられないように、横に動きながら一発放った。
相手の得物は布だ、貫ければとは思うが……
しかし巨大な眼鏡拭きはこちらの放った結束バンドを簡単に受け流した――まるで風そのものを後ろへ流すみたいに。
――まったく、これだから布系は!
背を向けて走った。森を縫うように木陰から木陰へと。
空中を漂う巨大眼鏡拭きは枝や木そのものが邪魔になって動きを制限される――距離が開くはず。
そしてやはり大事なのはこれらの大元、礎術師。
ウェガスを見やった。さっきからあまり位置は変わっていない。
――走って巻き付け!
イメージ通り、結束バンドがウェガスに向かう。二本まとめて。
その時だ、ウェガスの胸元から別の何かが飛び出してきて壁になった。大きな紺色の壁。
当然それも眼鏡拭きなのだろう。手元で操れる分を持っていたか。
きっと防がれてしまう、ならばどうすればいいのか――
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見付け出しに行く前に、メイは言った。
「ああは言ったけど、ウェガスも、強くあってほしかったのよね」
様々な想いがあるなと実感しながらウェガスを見付け、見守った。
どうやらベレスは攻めあぐねているようだが……
「見て」
ある時、ジリアンが俺に言った。
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ウェガスの布の壁に阻まれた。このまま打撃を与えても意味はない。このままでは――
――ならばこうする!
巨大化した眼鏡拭きの壁はウェガスが五人くらいいてもこちらから見えないくらいの大きさで、念じられている間はとても強固なままだろう。それに輪っかを掛けるように、向かわせた二本の結束バンドを縦に動かしぐるりと縛る動きをさせた。
ウェガスもそれを見たら警戒して引っこ抜くはず。
その一瞬にゲート化させた。
ゲート化には行き先を思い浮かべる必要がある。行き先にも開く。それによって空間が分断され、巨大な紺の布は二本のバンドによって三つに……まるで三枚下ろしのようになった。そして地に落ちた。
ゲート化を解くと、それを向かわせ――
「くっ」
とウェガスが『何もない所から出現させた』眼鏡拭きを無視して、脚を縛った。
脚をぐらつかせ、ウェガスがその場に倒れた。そこでその顔にも結束バンドを向かわせた。
こちらが喰らうのが先か、あちらが視界を塞がれるのが先か。
姿勢を低くしたこちらへと攻撃は来ていた。眼鏡拭きがこちらに既に当たってはいた。しかしそれが私を押し倒そうとする寸前、その圧がフッと消えた。
「参った」ウェガスの声だ。「ベレスはトレーニングボックスを使わなかったからどうかなと思ったんですがね」
「私もやるでしょう」
「これなら心配要りませんね」
「心配だったんですか?」
「……いえ、ユズト様の元で、もっと技を磨くでしょうし、心配はしてません。確かめたかっただけですよ」
全ての礎術を解き、ウェガスに手を差し伸べた。この手を取った彼が身を起こした。
「すみませんね、眼鏡拭きを一つダメにしてしまいました。とっさに胸元から――出たあれは本物だったんでしょう」
「構いません。買えばいいんです。これも思い出ですよ。心とあれに刻まれた」
ウェガスが地面に視線を落とした。私もまた見た。三つに分かれた紺の布。
私の胸にも刻まれた。自信と共に。
と、そんな時、木陰から誰かの足音が。見やる。そこにいたのはレケとジリアン。
「お見事!」ジリアンが手を叩いた。パチパチと音が鳴った。
レケも笑顔だ。「さ、戻りましょ」
まだまだ訓練は続く。試験の日まで。
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「ユズト、終わったよ」
後ろから声がした。ジリアンの声だとすぐに分かった。後ろを向く。
誰かから聞いて上空に飛んできたんだろう、彼女は巨大化させたリップスティックの幅をもっと広げた桶状態のものに乗ってケナの隣にまで浮遊して来ていた。
操作対象が弾き飛ばされて歩道より遠くの誰かに危害を加えないかと思ったが、そんなこともなかった、そのための壁を全部フッと消すと、それを見てジリアンが言った。
「マジでそんなことしてたんだ? ビーズなんて巨大化だけで疲れそうなのにあの量、やば……っ」
「ケナもやったよん」とケナが言うと。
「ケナも成長すごっ。え、何、ずっと浮いてたの?」
「うん。あ、あと、あたしは違うけどユズトは本を読んでたよ」
「え!」
「だって時間もったいないじゃん、礎球の知識も、もっと知りたいしさ」
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「そ、それはいいんだけどさ……」と言ってから、私は思った。
――相変わらず、何なのよ、この桁違い感は。
とにかく。
このチームなら困ることはなさそう。そう思いながら池の前に戻った。
それからまた、体術や礎術の自主練や稽古。試験から一週間とちょっと前まで、そんな日々が続いた。




