020 再会
シミーズ市コオーカー区のホテル『セントパーク30』――その五階の通路の窓から見下ろすと、一階入口の前がよく見えた。
ケナが帰っていった残像が目に焼き付いている。もう視界の中にいないのに、あの寂しそうにトボトボと歩いていた姿が、まだ見える気がした。
ホールに戻ってみる。まだジオガード志願者たちの談義は続いていた。
ジリアン(……で合ってるよな……ジレニアと似てるんだよな、ごっちゃになる)と、レケの二人とは再度話し、両方とケータイの番号を交換した。
しばらくしてから時間になり、お開きとなった。
最後の挨拶は、ベレスが自ら引き受けると言ったから彼に任せた。
「皆様、今日はお集まりいただき、ありがとうございました。もう終了時間です。まだ対談したい方は、連絡先等を聞き合って、別の場所でお会いくだされば幸いです。よき友と出会えましたでしょうか、そうであれば私どもも幸いです。私たちは同志です。いつかまたお会いしましょう。ではごきげんよう」
いい挨拶だと思いながらみんなと聞いて、ベレスと合流して、それから人を探したが、見つからなかった。
――まぁあとで連絡って形でもいいけど。
仕方なく、去っていく大勢のあとからエレベーターへと向かう。乗り込む人で混雑していたので予定変更、階段で下りていった。
一階に着きロビーを歩いていると、フロントの男性が近付いてきた。
こちらから言う。
「ああ、無事終わりましたよ、時間より前……これでよかったらいいんですけど」
「よろしゅうございます」
「はぁ、よかった」ついホッとする。
「今ちょうど四十五分です、こちらの余裕を考慮していただけたようで、本当にありがとうございます。利用料は既に支払われておりますので、このままお帰りいただいて結構です。ご利用ありがとうございました」
「では」
互いに会釈して、頭を上げてから入口へと歩き始めた。
途中、呼び止められた。
「ねえ、ユズト」
声の方を見やる。
ジリアンだった。ロビーの椅子に座っている。隣にはレケも。
ジリアンが率先して話した。
「私たち、同じチームになれたらなって話してたの」
「ちょうどよかった、僕も探してた」
「え、私たちを?」
「そうだよ、二人と組みたいって思ったからさ」
「え~~嬉しい」
「はは、だね、ちゃんと組めて僕も嬉しい。あ、でさ、あともう一人考えてるんだけど――」
どう言えばいいかな……と悩んでいると。
「あー……あの子? 話してたよね」
ジリアンが聞いてきた。
うん、と頷く。
次に何か言う前に、喉に違和感が。
「あ、ごめん、喉渇いた。話す前に何か買いたいんだけど、みんな飲み物は?」
「俺はもう持ってる」
「私も」
レケが掲げて見せたのは炭酸っぽい缶。さすがに酒ではないだろう。
ジリアンの方はオレンジジュースのようなもの。
「ちょっと待ってて」
喉の違和感を我慢しても心配させてしまうだけ。自分を労う意味も込めて、ベレスと二人で一階の隅の、エレベーター付近にある自販機の前へと立った。
「スポーツ飲料みたいなのでいいんだけど」
――会の途中で買って飲んでればよかった。話すのに集中し過ぎだろオイ。
過去の自分にツッコミを入れながら観察していると、ベレスが教えてくれた――のが、爽やかな薄緑のペットボトル。名前はスキットアクア。
ベレスも、すずやかティーと書かれたペットボトルの冷たい緑茶を買った。
小銭を初めて自分で使った。
十リギー硬貨は銅色で、百リギー硬貨が銀色。
――貨幣ってのはいつでもどこでも、そんなもんなのかもなぁ。金属の価値に引っ張られる……みたいな。
ペットボトルを持って二人の元へ戻りながら一口飲んでみた。
――え、飲みやすい、また買うかも……はぁ、やっと潤った……
そう思ってから二人の前の席に座った。
「あの子――ケナのことだけど、五日待ってほしくてさ、もう少しこの辺にいてもらうことって、できる?」
こちらの問いへの応えを、ジリアンが先に口にした。
「私は、少しくらいなら。というかどこかに泊めてもらえたら嬉しいけど」
「俺も問題はない」
「いいよね、うちに泊めても」
とベレスに言ってみた。すると。
「部屋はありますし大丈夫でしょう」
「よし。じゃあすぐにでも」
そう言った僕に、ジリアンが言った。
「いいけど安宿に今日まで泊まることにしてたから、今日は解散させて。明日またここにでも」
「俺は今日でもいい」
「解った。じゃあそういうことで。レケはすぐにだね」
「ああ」
それから四人でホテルを出た。
少々駄弁ってから手を振り合ったあと、ジリアンが東へ歩き出した。僕らは逆へ。
……そして翌日。ゼフロメイカ家の庭。
ちょうど僕らが的あての特訓をしていた時、ジリアンが訪れた。ホテルで待ち合わせたベレスと来たようだった。
「やほ。やってるね。というか凄いね、当てるのもそうだけど、動きながら何度も正確に当てるなんて」
「そうなの? ここにもう一人それができる人がいるけど?」
こちらの言葉を聞くと、ジリアンがクスッと笑った。
ベレスは音もなく微笑んだ。
「じゃあ次、俺な」
そうレケに言われて頷き、僕が家の方に近付く。と、レケが前に出た。
ベレス、ジリアンが見守る中、僕は特にほら見逃さないでねと言わずに手で示した。
当人、レケが手に持っていた絞り袋を操作し、横に動きながら飛ばした。それらが的に――突き抜けるように当たった。
通り過ぎたのが手元に戻ってきた。その絞り口には紙屑が。
「俺もなかなかやるだろ」
「やるっていうか当然のように当てるじゃん」まずはジリアンが褒めた。
「あ、見て見て、紙の端の十字マークをしっかりえぐってきてる」と僕が言うと。
「よぉし、狙い通り」
「素晴らしいですね」ベレスが褒めた。
「これがもっと凄い精度でできればな」更なる目標を掲げるレケの笑顔はとても輝いている。
このやり取りをして感じ入るものがあった。
――同志っていいな。
それ以上でも以下でもなかった。ほかに特別な感情はない。仕事仲間になる。大事な仲間だ。
合流後は四人で特訓。ベレスもジリアンもだ。
ジリアンはボールを投げた。その動きをできるだけ早く終わらせる練習をしていた。燃焼や濾過の早送りもした。
早送りの能力は戦闘向きではない気もする。それでもいい。気にしているかもしれないので一応言う。
「ジリアン」
「何?」
「専心礎術を身に付けてないのを気にしてるかもしれないけど、狙撃手袋でもいいからね、全然」
ベレスによると、ジオガードや警察でそれを頼りにしている者は意外といるらしい。だからこその言葉。
「大丈夫。気にしてないよ」
ジリアンは微笑んだ。
そして自分はというと、ほかにできることを増やせないかと考えを巡らせてみた。
――前にも思ったけど、ビーズの色ごとに何かできれば、イメージしやすい……どうしようかな。とりあえず僕もゲート移動の力は欲しいな。
手に持った瓶に念じてビーズを目の前に呼び出した。半透明な青のビーズだった。大きくし、それを黒に変え、透明度を下げ、全く向こうが見えないようにし――その輪の中が別の場所とリンクするようにイメージ。何度も念じた。
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ユズトはああ言ったけれど、身に付けられればどんなにいいか。
私だけ特定の操作対象がなくて、モノに乗れない。
まあ、代わりにできることに特化すればいい、だなんてユズトは言いそうだけれど。
――足を引っ張らないといいな……なんかチームのレベルが高い気がする……
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そして四日後。
今日はケナのいる施設に行く。レジリア市にある『太陽の家』という名の施設。そんな名前だと知って礎球でも太陽なのかと聞いてみると、ベレスはこう言った。
「大抵はそうですね」
「そういやこれ前にも聞いたね」
「ええ、私が答えましたね。ただ……太陽と呼ばれる前の呼称としてテヌート、テンツァ、アテンツなど昔は色々あったんですよ」
「へえ」
「今では地球の太陽と区別して礎球の太陽を示す時くらいしか呼ばれません、その際もほぼテヌートのみです」
「じゃあ使い分けることないだろうし、太陽でいいんだね、やっぱり」
「そうですね」
その『太陽の家』から、ケナもよくシミーズ市のホテルまで来たなと感心した。
施設前に、ベレス、レケ、ジリアンの三人と共に到着。
呼び鈴を押して対応される。
「どちら様で……あれっ……どこかで?」
その声には聞き覚えがある気がした。気がしただけでよく判らなかったが。
「あの。ケナのことで。シミーズ市のホテルにまで来たからその件で……話し合いをと」
――普段ならちゃん付けで呼ぶのになんでだろ。仲間になるかもしれないから? そこだけでも対等に関わりたいと思ったのかな。
それを意識していたから昨日からケナ呼びなのかも……という考えに自分で驚いた。もしかしたら僕は結構認めてる。本心では望んでるのかもしれない、ケナを仲間にしたいと。
――目の届かない所で野垂れ死にさせたくはないしなぁ……色々思いはするけど。
「ああ、はいはい。じゃあ……あなたがユズト君?」
「そうです」
「院長のリタです。まあここで話すのも何なので」
ああ、この人がリタさんか――と大会の医務室を思い出してからすぐ応接室へと通された。
「少しお待ちくださいね」
歯医者の待合室みたく棚があった。そこに地図の本なんかも。
――ケナが来るまで読んでみるか。
手に取り開いてみる。
七大陸という文字が目に映った。
礎球には昔七つの国が存在していて今は一国に統一されている。過去国だったのが州となった、とある。この七大陸と呼ばれる地以外には、人が安全に、快適に住める土地はない。北極や南極はあるがそこは過酷な氷の土地だと書かれている。
――へえ、こうなってんのか。
南半球の温帯辺りにディヴィエナ州があるように見える。地図の中心はそこで、そこから北西にフラウヴァ州、西にウィローフィア州、東にセントリバー州。セントリバー州の南東には大きな島が多くある。
セントリバー州の北に、赤道が通るイーヴィストン州がある。
――ここがお母さんの秘境がある所か。
そこから更に北と北西に広がるのがスピルウッド州――今いる所。セントリバー州とイーヴィストン州とスピルウッド州は繋がっていて陸幅が狭い所が州境になっている。それゆえ三連大陸と呼ばれている。
ウィローフィア州の北には赤道辺りまで島が点々としていて、その北にも大陸が。点々と連なる島々の半分から北がメラーリーフ州。
ほぇぇ~こんな感じなのかぁ――と思った時だ、ドアノブの回る音がした。
リタさんがドアを開け、ケナが入ってきた。
ケナが僕たちの前に座る。ちょこんと。
「じゃあ答えを聞いてもいい?」
僕がそう言うと、ケナは深呼吸したみたいだった。
それから、ケナは、お互いの間にある机の端でもじっと見たようだった。心の中で整理したようで、それが言葉になり始めた。
「あんな想いをしたから、私って弱いなって感じたの。強くなりたいのはホントだよ、でも、それだけじゃないの。あんな想いを人にさせたくない。誰かのためにも強くなりたい。自分の為だけじゃない、何かをして守りたいって思った。私、私みたいな人に増えてほしくない。私が強くなるのは誰かのためになる。でもそのくらい強くなったからって、そこで終わらせない。困ってる人のためのことをずっとしたい、し続けたい。ジオガードになれたら、ジオガードとして恥じないように……ううん、人として恥じないように! だからお願い」
――そうだ、そういうことだ、僕らに必要な覚悟っていうのは……
と、そんな時、ベレスの声が。
「そういうことですよ。ユズト様がこだわっていたのはそこです。でしょう?」
「ん、まあね……」
一旦ベレスに目を向けてそう言ったあと、ケナに視線を注いだ。
「本気なんだな」
「うん」
「自分だけじゃなく、苦しむ人のためにも」
「うん、そうしたい」
ケナはまっすぐな目でこちらを見詰めている。僕もじっと見て、それから――
「……うん。覚悟のほどがよく解ったよ。色々言ってごめん、本当にごめんね、悪かった。その覚悟があっても、どうしても……ケナぐらいの年齢ならできればやらせたくない――って、そういう気持ちも僕には強くあった。もし気持ちが数日で消えるなら……とも思った。でも、その覚悟が何より固いなら……行こう一緒に。色んな人やものを、守ろうな。守れるようになろう」
「うん……!」
言いながら、ケナは、膝の上でぎゅっと拳を握った。
さてと。
ここからは身の上の話。誰かが引き取った方がいいだろう。
――この『太陽の家』もケナの家には違いないけど、でも……何かケナが頼る必要がある時……もっと多くの人を頼れた方がいい、ケナの周りにいい人を増やしてあげたい。そんな何かがあった時施設が忙しそうだと困るしな……やっぱりケナを助けられる人がほかにもいた方が……
と、思ったのを僕が話すと、ジリアンが。
「そうだね。私も、折角だしケナに新しい家族ができてしまえばいいと思うよ、そんな思い出がないのも嫌だろうし」
そう聞いて頭の中に色んな映像が浮かんだ。
礎術大会でケナの身に起こったこと。彼女の実の父親、ハーミットのことも。それら以前にも何かあったかもしれない。どうして施設にいるのかという経緯まで気になった。
――ケナの嫌な経験を払拭するためにも、誰かの家で、幸せを感じていいんだって思ってほしいな……ダイアンさんに頼むか?
と思った僕の横で、立っていたレケが声を発した。
「じゃあ俺が。というか俺だとアレか……。俺の実家に入ってもらうよ。きっと物凄く面倒見てくれる。ちょっと電話してくる。……ケナ、それでいいか?」
「うん。いいよ。みんななら信じられる」
――信じられる、か。そう聞けてよかった。本当に色々あったもんな、ケナは。そんなケナを強くするのも、僕の仕事、か……
ならばと――レケが一旦応接室の外に出たのを見てから――ケナに向き直り、話を変えてみた。
「ケナ。蹴ったものの重さを変えてたよね? 大会で…見たよ」
「うん」
「それ以外に力は?」
「別の礎術はまだ。私のあれは多分血筋のやつ。だから、専心礎術がまだ」
「できるようになれたらいいな、それ」
「うん」
「もしできなくても、礎術の程度には礎力がものを言うから、そこは確実に育てる」
「……? どうするの? 普通に訓練すればいい?」
「まあ訓練すればいいけど……対象に最短距離で礎力を込める、散らばらないように密度を高くする――っていう風に込めると、より効果的に訓練できると思う」
「それはどうやるの?」
「えっとね。まず……礎力、見えるでしょ? 蜃気楼みたいな……ほぼ透明だけど……景色の揺れがある所……みたいな」
「……? 見えないよ?」
「え?」
「ちょっと待って? ユズト、何言ってるの? まるで礎力は見えるものだよ……みたいな」
ジリアンまでもが疑問符を投げかけてきた。
「え? いや……見えるよね? 礎力の跡……込める際の軌跡だよ、見えるでしょ?」
と、聞いた僕に向けて、ベレスまでもが。
「そ、そんなものは見えませんが……」
――え? じゃあ、どういう……
「でも僕には見える……から、その……とりあえず言われた通り最短距離と散らばらない高い密度のイメージをして、込めてみればいい、それをすれば、してない時よりも、明日の成長率が違う。自分の全部の礎力を100だとするでしょ? その礎力を使い切ったらちゃんと休む、次の日105になってるのが普通だとすると、最短距離高密度散らばりナシを意識したら105にじゃなく120になってる……みたいな。これを毎日やったら差はどんどん膨れ上がる。でも大抵の人はこれをやって……いると思ってたんだけど……何? 僕おかしなこと言ってる?」
みんなが変な顔で僕を見ている。
「もしそれが本当なら……」
ベレスが、驚きを宿したみたいな目で僕を見た。実際そうだとは思う。戸惑いっぽい声をベレスが連ねる。
「とんでもない発見ですよ。なぜ世間に知られていないのか……初の発見なのかもしれませんよ、これは!」
「ええ? そうなの? え、じゃあみんなやってないから僕が四十九日間の修行でこうなるのは至極当然だったってこと?」
「合点が行きましたよ、そうか! そうなんですよ!」
ベレスがうんうんと頷いた。
ジリアンは口を開けっぱなしだ。そしてある時突然、嬉しそうにした。――強くなる道がハッキリ見えたからだろう、多分。
それにしても、なんで僕には礎力が見えるのか。
――まぁいっか! 考えても解んない。そういうことってあるよな。
その時だ、この部屋のすぐ隣で話していたのか、レケの通話の声が聞こえてきた。
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「解ってるって。あの子はそういうんじゃない。これはあの子のためだ。それだけだよ」
壁に背を預けて通話していた。
俺がそう言うと、帰ってきたのは優しい拒否を含んだ言葉だった。
「父さんたちのことを考えて言ってるんだろう? そうじゃなくていいんだぞ」
「違う、そんな気持ちからのことじゃないんだ、これは」
「どう違う。お前も忘れられないだろう。だから代わりみたいに――」
「本当にそんな風には思ってない。しつこくそう言うのは俺の口から『本心ではそうだ』って聞きたいからか?」
「いや……」
「もういいんだよ、俺は解ってる。ただ俺の恨みは消えない。そりゃあそうさ。少しは弱まってもきっとあり続けるよ、でもそれとうまく付き合っていける、今はそう思ってる。だから今は、目の前の子供のためにできることをしてやりたいだけなんだよ。頼むよ。父さんだって、放っておきたくはないだろ?」
顔は見えないから、耳に集中した。聞き漏らさないように。
「そうだな、うちで何とかできるなら」
「……いいんだな? 何日か預けるかもしれないけどいいんだな?」
「ああ」
歓喜に震えた。ぐっと拳を握った。
「ありがとう、父さん」
「ああ、俺も、お前と今話せてよかったよ」
「俺もだよ。じゃ」
「ああ、またな」
そう言って電話を切ったあと、すぐに応接室へと戻った。
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何となく聞こえていた。途中からではあったが。
レケの過去に何があったのか、少し解ってしまった。
戻ってきたレケに僕は言った。
「誰かを恨んでるって話が聞こえてきたよ。あったんだね、何か」
いつかは聞く話だ――気を遣い過ぎて嫌な思いをさせるのも嫌だと思ったから聞いた、いいよな別に、聞いても――そう思って言葉を待った。
レケは言った。
「妻と息子を殺された。そういう犯罪者を許せなくて、自分が何かできないかと考えて……料理人の手を止めた。それだけだよ」
「そっか……まだ、逮捕されてない?」
「ああ、まだだ」
「いつか逮捕されるといいね」
「自分ですることになるかもな」
「そうだね、ありうる」
僕も連想した。母の一族をほぼ全滅させた集団もいつかは逮捕されればと。そうさせるのは自分じゃなくてもいいが、それに似たどんなことでも、未然に防げればいい。
ふと、みんなの顔を見てみた。ベレスも、ジリアンも、何かを真剣に考えているような目をしている。
――みんな、色んな想いがあるよな――
胸に言葉を並べてから、話を進めることにした。
ケナの訓練のことを考えて、あの白い訓練箱を思い出した。僕が二番目の使用者だったはず。計五人までだったと思うから、あと三人。
――ケナは使うとして、ジリアンにもやってもらうか。あとは……
「とりあえずトレーニングボックスをダイアンさんから受け取って、ケナにはすぐにでも入ってもらって専心礎術の習得に勤しんでもらおう……でいい?」
「いいよ、いい案だと思う」
とは、レケが頷いた。
ダイアンさんに電話をすると、今ちょうど時間だけはあったようで、持ってきてくれた。
「ではまた」
そう言って去っていった――のを見て、レケが言った。
「ここ数日お世話になっても会わなかったが……本当に州知事の養子なんだな……」
「自分でもびっくりですよ、こういう境遇になるなんて。……ところでコレ」
と、僕がテーブルにトレーニングボックスを置き、そして再び。
「ケナ。ええと……そうだなぁ、えっと……そうか、何か操作対象にしたいものをここに持ってきて。複数持ってきていいよ」
「わかった」
応接室を出ていったケナが再び戻ってきたその手にあったのは、ハサミや消しゴム、マグカップだった。
「よし。じゃあそれらを持ってこの扉に触れて、礎力を込めてみて、そうしたら中に入る。中の一時間が外では一週間。とりあえずその中での一週間で専心礎術を覚えるのだけは目指してもらう。いい?」
「ん、了解」
ケナが意気揚々と、ハサミ、消しゴム、マグカップを抱えたまま箱の扉模様に触れ、念じたようだった。そして消えた。中に無事入った。
「これで僕らは一時間待っていれば――ってことで済めばいいんだけどね」
「ケナならきっとうまくやるよ」ジリアンが言った。「あの目ができるなら、きっと大丈夫。ユズトからコツも聞いたしね」
ジリアンが大きく笑った。
その笑顔のおかげか、僕も信じられる気がする。ケナなら大丈夫。
「ジリアンはまだいいの?」僕が聞いてみた。「同時に使ってもいいはずだけど」
「私は……まだどんなのがいいか解んないから」
「そっか。でもジリアンも、きっとうまくいくよ」
「ありがと」
「じゃあレケは?」と向き直ると。
「俺か? 俺とベレスどっちがいいか、もうちょっと相談するよ」
「そっか」
ケナは大丈夫。もう一度そう思って、時間を潰すことにした。




