083 埋め満たす泥は目印
※地球でのことではなく礎球でのこと、つまり空想ですので、実在の団体がもしあっても関係が無いことをよく理解してお読みください。
アンクウィット市の市役所に行って礎術診断椅子で確認したら、礎術を奪う礎術の欄が、『青白い爆破光線を放つ礎術』になっていた。
「マジかぁ……」
だったら、もしかしたら本当にラウツさん頼りなのかもしれないな――なんて、思いながら、ジムへ向かった。
そんな休日も終え、翌日、任務受付へ行くという時、今日はジリアンの家に集まってみたが、そこで、レケが。
「清川霊獣を宿せたよ」
「え!」
「名前はミゲルになった。水の力と、苔を生い茂らせる力――だからミゲル」
それが可視化された。魚だ。魚の霊獣。礎力の塊のような存在。多分コレ……ヒレ全部が緑色で、それ以外は真っ白――綺麗な大魚だ。口が小さい、シュッとしたスタイルの鯉みたいな。
「やったね、レケも」
「ああ」
喜び合う。それだけ七霊獣に認められているという事だから。
ともあれ。
車で本部地下へ。そこからエレベーターでいつもの受付へ。
「さて。なんか凄い任務があるな」
『ドロウミネコが町中を徘徊。本来の森から町に来ているだけで住民にとっては危険。森に返したいが、素早く逃げるために、捕獲もままならない――』
「これ拘束パーカーでいけるかどうか。僕らでやろう」
「そうですね。私も頑張らないと」
「ベレスは訓練用の白箱を使ってないんだから気にしちゃダメダメ」
「そうだよ」ケナも僕に同意。「気にしちゃダメダメ」
そこまで真似しなくても。
なんて事がありながら――セントリバー州ニエヴェッツァ市のジオガード支部の転移室へと、まずは空間接続本で移動。そしてニエヴェッツァ市から南東にあるマーシュヴェッツァ市の北部ウルマーシュ区へ飛行機で。本部へは別の州からの仕事も来るから、そんな大移動もする。そのあいだに現場はどうなってるんだろうと思うけど――まあ、住民なら、見掛けたら気を付けるくらいはしてるんだろう。まさか近付く人なんていないだろうし。
飛行機の中で、ジリアンとこんな話をした。
「おっきいのよ、ドロウミネコって」
「虎と一緒くらいだっけ?」
「うん、ほぼそれ。フォルムは可愛いんだけどね」
「確かにそんな感じだった――使術動物図鑑で見たことあるんだよね。大きいからそれだけでも危ない……怪我――してなきゃいいけどな、現場近くの人」
「ね。あ、大きいので思い出したけど。クロダマオオイワトカゲ、元気?」
「元気も元気。ご飯代は掛かるけど、全然大丈夫」
――まあ任務報酬と給料、ほとんど充ててるようなもんだけど。今度、指名手配犯を逮捕でもしてみるか。報奨金目当てではあるんだけど、やる偽善。冤罪でなきゃいい。……誰かが真似しなきゃいいけどな。僕だからできるのであって。相手も礎術を使うだろうし。
「何ちゃんだっけ」
「え? 何が?」
「だから、クロダマオオイワトカゲ」
「ああ――クロ、シロナ、キイチだよ」
「……餌代、私も出すよ」
「い……や……うーん……そうしてくれると助かる」
――消臭代も掛かるんだよなぁ。あの独自の青いペットボックスの中。汚れを取るのは瞬間掃除機とクリーン・グリーンでできるけど。だから、固形尿と糞だけでも小さくして運び出して、元の大きさにして何かの肥料に……発酵のためにと提供したりもしてるけど……。礎球だからこそだろうけど、あってよかった、大きなトカゲの糞用コンポスティング施設。……そもそも、あのコたちを元の大きさに戻してるのは、自然に暮らしてほしいからで。その自由を奪いたくなかったしなぁ……。
思ってからは、レケとも話を。
「そういやターナさんはどう?」
「まあ活発な人で、悪い人じゃないし、部屋は賑やかだよ」
「付き合ったりしないの? 好かれてんでしょ?」
「――俺は自分からそういう気持ちにはなれない。今は。……だから、いつまでも居られるのは――そう思って困ってる」
「そっか……思わなくなるか、それか、距離を置けたらいいね」
「別居みたいな言い方」とジリアンが言った。
「ホントだ」
少しクスリとしてしまった。レケも、気分が軽くなればいいのに。でも難しい問題だ。解る。自分だって家族が死んだら――
それに、レケの中で、何かこう……上書きしてしまう感じがするんだろうな。それはちょっと……自分も思いそうだ。それを、レケ自身も、いつか許せたらいいのに。それに、僕も前に……色々思ったし、僕自身も、複雑な気分だ。
……さて。
まあ、そんなこんなでウルマーシュ区セントラル空港に着いた。
空港に、警察のお出迎えがあった。
「安全課のトゥーノ・ジャイスです」
「ロキシー・ウィトホニーです」
中年とまでは行かない男性の方がトゥーノさん、若い女性の方がロキシーさん。ふむ。
「問題のドロウミネコの場所――今どこにいるかは判っているんですか?」
と僕が聞くと、トゥーノさんが。
「それが、すばしっこいし、すぐ隠れるわで」
「なら判定――追跡しましょう、そういう礎術を使えるので」
ビーカーを想像から礎物化させ、そこに水を生む。そしてお願い。町に来ている問題のドロウミネコの居場所へ案内してよと。その水が赤いゲル状に。浮遊し発光もして――ふよふよと、どこかへ。それを、トゥーノさんの操る巨大紙やすりに乗って追った。
行き着いた所は――
「森か。大通りから少し路地に入った――ごく普通の」
「近くに肉をくれる所でもあるんですかね」
「ああ……で、隠れやすい、と」
トゥーノさんは、僕にそう言ってみんなに聞かせた。
さて、あとは作戦だ。
「僕が囲ってレケが蓋をする」
「じゃあ私があっち――奥から」ジリアンが言った。
「では私が森の右手から行きますよ」と、ベレス。
「じゃああたしが左から」と、ケナが。
「じゃあ」トゥーノさんが。「私は正面から行きますわ」
「アタシはその子と一緒に行きましょう」とは、ロキシーさん。
森をほぼ完全に、超特大ビーズで囲うと、それを透明に。その上に、レケの絞り袋のビニールが載り蓋になる。
……で、ケナが言うには、追い込み漁のように動いたらしい。トゥーノさんの紙やすりの巨壁で押し寄せるのも効果的に働いたとか。ロキシーさんの巨大化綿棒の嵐で行き場を制限することも、何とか成功、そこへ、ベレスが結束バンドで前足の動きを封じ、ジリアンがスタンリップで感電させて、ケナが神木霊獣のダダの力を借りて、大量の枝で拘束したらしい。
そこへ拘束パーカーの内側に入るように、とにかくきちんと包めば――ドロウミネコは、泥を生み出して飛ばしてくるなんてことも、しなかった――という事だった。
森から、僕とレケがいる側へみんなが出て来たのを確認してから、想像から生まれた礎物を僕とレケが消した。そのあとで、みんなと一緒に、より近付いて来てから流れをそんな風に話したケナが――
「やったね」
と、今、満足顔を見せた。
ただ、まだ問題は解消されていない。だから僕は――
「どこへ帰せばいいんですかね、そのコ」
「そうですねえ」トゥーノさんがアゴに手を。「北の山かなあ」
そこでふと、僕は思い付いた。
「でもなんで町に来てたんですかね。それが何か大きな理由によるものだったら……」
「それを解消しないと、また来るよ――ですか?」
ロキシーさんがそう聞き返したから、言おうとしたけど、僕よりベレスが早かった。
「そうですね、どうしてか解りませんか?」
「いやぁ」トゥーノさんは頭を傾けた。
「ハイ!」とケナが手を挙げた。
「はいケナ」僕が指名すると。
「最初の目撃場所はどこ? そっちの方に行った山に何かあったのかも」
「だね。行ってみよう」
僕がそう言ってから、ジリアンがリップスティックの蓋を巨大化させ、その中に――拘束パーカーに包まれた上、ケナが木の枝で縛ったままの――ドロウミネコを入れた。そして、
「最初に見られたのはこっちのはずです、それが北の山に近いんです。だからそこへ帰せばいいかと」
と、ロキシーさんも言ったから間違いなくそっちなんだろう。そちらへ向かう。
ドロウミネコをその辺で解放したら、更に北の方へ行きはしたけど……問題は、なぜそんなに町に近付いて来たのかで――
と、そんな時。
バタバタバタ――と、ヘリの音がした。礎球でそういう音のものもあれば、静かな音のものもあるらしいけど……
「なんだ?」レケがそう言った。
「まさかアレが?」とロキシーさん。
僕も気になったから、ビーカーを生み出した。少し書き方に悩んだけど――ポーチから出したメモ紙にまず『あのヘリの中の何かが、ドロウミネコが町に来たくなるような事を起こさなかった』と書いて、それをメモ帳から破り取り、その紙だけを、礎力で水を生じさせたビーカーへと投入。……すると、水は赤くなった。
「アレのせいってことだな」とレケがまとめた。
ヘリが近くに降りたようで、そこへ近付いた。見やる。
三人の男が出てきてMサイズ容量拡大バッグをヘリの側面の何やら出っ張りに掛けた。そしてジッパーを下ろした。そうすると入りやすい。
「何か出すのか?」とレケが言った。
「いや、離れてく。……何か外から入れる?」ロキシーさんの声。
「乱獲しに来たのか? 何かの動物の角とか、遺体を」とはトゥーノさんが。
「理由にはなりそうだけど」僕はドロウミネコを想像して。「角だけとかじゃなさそう」
「それって」ジリアンが。「動物がいるなら町に来そうにないから?」
「そんな感じ」
僕がそう言った時だ。一人の男が巨大な紙を操ってブタを遠くからヘリへと追いやる姿が目に映った。これもまさに追い込み漁。
そのブタは礎球の生物で、メブカセブタという種類。大人になっても割と小さい可愛らしい使術動物。種が芽吹くのを促進する礎術を持つ。野生なのに牙はほぼ無くて木の実を食べる。
それを、男のうち一人が網を使って捕まえると、Mサイズ容量拡大バッグに入れた。そしてもう一匹、もう一匹と、どんとん捕まえ入れていく。
「そうか、これで食べる相手そのものがゴッソリ減って――」
「じゃあもういいな」
トゥーノさんは、そう言うと男に向けて――
「おいコラ! 何やってんだ!」
そういう訳で縛り上げた。
メブカセブタは最近人気らしい。だからと言って、そのものを捕獲しまくっていい訳が無い。
「ここのメブカセブタをそのまま持っていくな、その商売をしたいならちゃんと飼って責任持って増やせ、生態系に関わる」
トゥーノさんのあとでロキシーさんも。
「今捕まえたコたちを山に帰しなさい」
「はぁい……」
意外と話がすんなり通った。そんな人でよかった。
野に返されていくメブカセブタを見送る。その先で、別の何かが木陰に見えた気がした。犬のような何か。それらの気配も消える。静かになる。
事件は落着。
「ありがとうございました」
署で礼を言われ、手を振った。
あとは空港に行って帰るだけだと思っていたけど――思い付いた。
「そういえば、ドロウミネコって、ドロでエサを隠す習性があるよね」
「ああ、そうだったね」とはジリアン。
「その隠し場所が、町にいっぱいあるとどうなるか……それに、どんなものを食べていたかによっては、ちょっと恐ろしい気も――して――……あ、これあの人たちと調査した方がいいかも」
「……?」ケナは不思議がってる。
僕は続けるだけ。「もし……もしもだよ? 動物もだけど、人間がもし食べられてたら? しかもそれが、何かの事件の死体だったら? ドロウミネコはさ、そんなのに対して配慮も何もしないから、警察が見つけるはずだった遺体でも、滅茶苦茶にしちゃってるかもしれない」
「なるほど。ちゃんと探しておいた方がいいか」
レケがそう言ってから、僕たちは警察署に戻った。そしてその考えを、トゥーノさんとロキシーさんを探して話すと、また同行することに。
僕がビーカーへ問うことで、その――町の中やふもとまででの――ドロウミネコがドロで食事を隠した場所は、すぐに判った。赤い発光ゲルが導いた。
そして、問題は、そこが実際にはどうなっているのかだが――
最初の一か所は、ただ、スーパーの肉の残りなんかが埋まっているだけだった、そう判ったのは判定能力を使ったからだ。二か所目は、魚の尾ビレ。三か所目も、スーパーの肉。
なんだかホッとした。心配するほどでもなかった。その思いが満ちる。
そして……五か所目。
頭骨が埋まっていた。
「あ……ホントに」とロキシーさんが言った。
新たなビーカーを出し澄んだ水を生んだ。そしてポーチから出したメモ紙に、『この骨は何かの事件に因るものではない』と書いて入れると、水が赤くなった。つまり事件。透明状態に戻してから『人の手に因らない』と書いて入れると、それも赤くなった。
……しばらく考え込んだ。
「警察では、これに関しては調査を……」レケがそう言って、
「まあ、しますよ。遺体の見付かっていない事件はここらではそんなにありませんけど……」
と、トゥーノさんが言った時、思い付いた。紙に、『この誰かを埋めたのはジオガードではない』と書いてみた。余罪が気になった。違えば別の件が発覚。合っている方がまだそんな犯人が増えた訳ではないとは思える。その紙を入れた水は……赤くなった。念のため、あのチームかどうかを確かめる内容を書いたもので試した、つまり『あのチームではない』と書いた。……それは赤くなった。
「フィンガーズだ」
僕はそう言って、顔を少しだけ暗くしてしまった。だけど割り切れてはいる。探し出されてよかった――今の感情はそんな感じだ。ベレスもきっとそう。
ドロによる隠し場所は全部で十一か所に及んだ。人の骨はあの一か所のほかに、もう一か所あった。もう一か所は『フィンガーズがやったのではない』という文面で水が赤くならなかった。別件。そちらは近くの署が調査していくことになる。
「こんな判定まで……重ね重ねありがとうございます。事件が表に出ないことを防げた」
「いえ。自分が確認したくてやっただけです」
今度こそ本当の終わりだ。トゥーノさんとロキシーさんとは別れ、空港へ戻った。
ジオガード支部のあるニエヴェッツァ市へと飛び立つまでに、自由にできる時間が生じた――ので、僕は、お土産のクッキーと、一応ご当地名物の使術動物でもあるらしいドロウミネコのストラップを買った。人形も買った。
「こっちはメグミが喜ぶかも」
「コハルさんには何かないの?」ケナがそう言った。
「こっちのストラップは、コハルさんにあげようと思ったんだよ」
「ああ、だからか。可愛いよね、多分嬉しいと思うよ」
「ありがと、そう言ってくれて」
「いえいえ」
それから飛行機に乗った。
色んな感情が任務では生まれる。でも、やっぱり最後は、スッキリした気持ちでいるのがいい。そんな気持ちでいられて、胸が、少し温まった。こんな温かさを大事にしたい。




