5分でわかる!第三章 ~決闘編 (前編)~
こちらは第十五話~第十九話までの内容となります。
ある日、ヴァルハラ・ホライズンは、企業からの依頼で“本業”であるアビサル・クォーツの探鉱作業に取り掛かっていた。その作業中、ふいにジョニーが呟いた。
『一度裏切ったヤツは、何度でも裏切るぜ』
裏切り──殺し屋グリムにB・Bを狙わせた、あの行い。
得体の知れないB・Bへの恐怖と、妹を守りたいという家族愛。
それらの想いが暴走を招き、彼を極端な行動に走らせた。
されど、セレジアはジョニーの裏切りを許すことにした。
その不信の原因は、彼女自身の秘密主義にある。
──そう考えた。
「誰にだって、チャンスは必要ですわ。貴方にも、わたくしにも」
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その夜。セレジアの元に、バートラムがある情報を持ってきた。
連続襲撃事件の発生を知らせる、開拓者ギルドからの緊急連絡網だ。
いくつもの開拓者の艦船が、GSが犠牲となっていた。
そして、共通して撮影された資料に映る襲撃者──深紅のGS。
数か月前、ATS社の艦を襲撃した所属不明のGS部隊だった。
そして、彼らの背景にはゼニット・コンツェルンが関わっている。
セレジアは確信する。
「ソフィアが、動き始めたんですわね」
「おそらくは。どうなされますか」
「……明朝、B・Bたちを呼んで頂戴。戦いに備えなければ」
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翌日。ヴァルハラ・ホライズンが引き受けた今回の仕事は、開拓者ギルドを通して回ってきた依頼ではなく、とある非正規SNSから届けられたものだ。
メールの送り主は海洋民兵。この惑星に定住化し、海原を故郷と見做す人々である。企業の資源開発に反対し、武力抵抗を続ける彼らからの依頼は初めてだった。
だが、セレジアは迷いなく仕事を引き受けた。
依頼文にあった「深紅の部隊」という言葉に、関心を強く持ったからだ。
*
アルジャバールと海洋民兵の会合の場となった「ブルー・レーン」からさほど離れていない採掘プラント跡「エダフォス」で、彼らは落ち合った。
「……さて、よくぞ来てくれた。私は海洋民兵団ロドス海域群司令、タリク・フロスト。さっそくだが、我々の状況と作戦概要について伝達させてもらう」
タリク曰く、海洋民兵は立て続けに所属不明勢力の襲撃を受けているという。
それらの襲撃は戦闘そのものを目的としていて、「深紅の部隊」は潜航可能なステルス・キャリアー艦で現れ、まるで“辻斬り”のように襲撃を行っているのだと。
「ただの海賊ということはなさそうですわね」
「同意だ。おそらくは企業の差し金……。一連の襲撃は、新兵器、あるいは新技術の類を実験するための“辻斬り”と言ったところか」
セレジアは彼を聡明な男と見た。
それがゼニットの強化兵士部隊の実地テストである、という憶測をセレジアは既に立てていたが、タリクも同様の結論に辿り着いていたのである。
そこまで考え至ったタリクが打つ次の手は何か。
「そこで、我々は所属不明勢力の機体を『鹵獲』することを決定した。それによって連中が実験している技術を解析し、対策を立てるつもりだ。諸君ら──ヴァルハラ・ホライズンには、この鹵獲作戦への協力を要請したい」
セレジアは歯噛みして聞いた。
解析──とは言ったが、戦力に乏しい海洋民兵のことだ。
可能であれば、その技術を取り込むことを考えるだろう。それが不可能でも、鹵獲した強化兵士の技術を手札に、アルジャバールとの再交渉に挑むかもしれない。
どちらであっても、ゼニットの名を穢す、呪われた技術の拡散を防ぎたいセレジアにとっては、不都合なことであった。彼女は黙ってタリクに従うふりをした。
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「──クラン『ヴァルハラ・ホライズン』はこの鹵獲作戦に介入しますわ。ただし、目的は敵機の鹵獲ではなく、敵機の確実な破壊でしてよ」
セレジアはプランを練った。
深紅の部隊の襲撃が多発する海域に、おとりの採掘艦を泳がし敵襲を誘う。
そこを海洋民兵たちとともに包囲して、鹵獲を実行する──。
これが海洋民兵たちに示したプラン。
そして、クランの皆にはもうひとつのフェイズを用意している。
*
霧深いタングレス海域で、戦いは始まった。
作戦は順調に進み、深紅の部隊の半数を海洋民兵たちが抑えた。
ここでセレジアのプランの第二フェイズが発動する。
「どういうことだ!? 敵機は全て制圧したのではないのか!」
「どうやら伏兵がいたようですわね。……何も確認できませんが」
B・Bがジャミングによって戦場を撹乱し、敵の伏兵を装って彼らを襲撃。
深紅の部隊もろとも、海洋民兵たちを葬り去るダーティ・ワークだ。
だが、深紅のGS一機が攻撃を逃れ、ヴァルハラ・ホライズンに立ちはだかる。
『さあ、そろそろ死んでもらいましょうか!』
「遅い」
『なんだと……!?』
激しい戦いの中で、ジョニーの負傷はありつつも、B・Bは敵機を撃破した。
彼が打ち上げた「要救助者あり」の信号弾を最後に、長い戦いの夜は終わった。
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──数日後。
「ファースト・ロットが全滅……一体なんなの……?」
タングレス海域で消息を絶った深紅の部隊の捜索を任せていた“ウィスパー”からの報告を受け取ったソフィア・リングは、激昂した。
ほとんど実用レベルに近かった強化兵士たちが、一晩にして全滅したのだ。
彼女はしばし逡巡し、ひとつの考えに思い至る。
「ウィスパー。海洋民兵たちには協力者が居た可能性が高いわ。それが開拓者なのか、傭兵なのかは知らないけれど、見つけ出して──殺して頂戴」
『いよいよ僕たちセカンド・ロットの出番っすね、任せてください。適当にアタリつけて、適当に殺しますよ。何人か兵隊を連れていっても構いませんか?』
タイプ・ウィスパー。
より完成度の高いこの強化兵士は、まるで自分に感情が、豊かな喜怒哀楽があるかのように振舞う。だがその実、彼の脳は需要する感情、体験を選別している。
「うちで管理しているリソースなら好きなだけ使って。私のプロジェクトに泥を塗ったヤツは、絶対に殺すのよ……絶対に……絶対に……絶対に……」
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「バートラム。わたくしはいよいよ、外道に身を墜としましたわね」
先の共同作戦から数日経っても、セレジアの気分は晴れなかった。海洋民兵を騙し、一方的な犠牲を強いるプランを使ったことに罪悪感を感じていた。
それも、自分の個人的な目的のために──。
「──“その道を恐るるべからず、汝の歩みは覚悟と共に在れ”……」
「バートラム……! それは我が家の家訓……」
「たとえリングの名を失ったとしても、お嬢様は誇り高き一族の血を引く者であり、その責務を果たそうとするお強き方であると、私めは心得ております。貴方様がその道を進むのであれば、私は誠心誠意、その歩みを支える限りです」
バートラムの励ましに、セレジアは気持ちを入れ替える。
「……よし。街に繰り出しますわよ、バートラム。たまの休暇ですもの。ショッピングでもして、気分を切り替えますわ!」
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一方で、B・Bとナイアはゲームセンターに遊びに来ていた。
負傷して入院中のジョニーを放って……。
『──STAGE COMPLETE……』
「1クレジットクリア! とってもクールだよ、B・B」
そんな彼らを、遠巻きに見守る影があった。
「あれがヴァルハラ・ホライズンのエースか。ふふっ」
男は艶のあるブロンドの前髪をくるくると指先で撫でた。
「……? どうしたの、B・B」
「いや。……殺気を感じたんだ」
B・Bが振り返ったとき、そこには既に誰も居なかった。
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