6分でわかる!第一章 ~最強クラン結成~
──メルヴィル。惑星表層の98%が海洋に覆われたこの星は、かつては「銀河の果ての青い荒野」とも呼ばれ、長らく不毛の地とされていた。
人類の居住に適した大陸も存在せず、海原が際限なく広がるだけの青い惑星。
だが、海底深資源「アビサル・クォーツ」の発見が全てを変えた。
その昏い青色をした鉱物結晶は、次世代型の動力システム「小型核融合」の安定稼働化に大きく寄与することが判明し、人類は一転してこの星に目を付けたのだ。
瞬く間に、大手企業からは数えきれないほどの採掘船団が派遣され、彼らは都市規模の海上プラットフォームを次々に建設していった。次第に、星を覆う穏やかな海は、鉱業と資本主義、そして欲望の渦巻く激しい奔流に飲み込まれていく。
これが、後の世で呼ばれる「青のゴールドラッシュ」の始まりであった。
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“ゼニット・コンツェルン”
メルヴィルで頭角を現す、五大企業の一つ──。
「セレジア。お前には失望したぞ。何度も私の警告を無視するとは……」
コンツェルン総帥、カシウス・リングの執務室に呼び出された事業統括部長にして本作の主人公、セレジア・リングは父から恫喝めいた言葉を掛けられた。
彼女は社内で進められている「強化兵士計画」の非倫理性を問題視し、何度も社内の倫理委員会の監査命令を出していた。強化兵士計画とは、人体改造によって感情や理性を完全に抑制された最強の兵士を作り出す恐るべきプロジェクトである。
しかし、その研究主任であるソフィアは彼女の妹であり、そもそもこの計画の実行を決定したのは他でもないこの組織のトップである、カシウス・リング。
内部監査は時間稼ぎにしかならず、計画は強行され続けた。
そして、この日、ついにはそのことで父に呼びされたのである。
「名誉なき力など、ただの暴力に過ぎません」
セレジアは自らの信念と共にそう言い放つ。
だが、思いもよらぬ言葉が彼女に返されるのだった。
「お前を、リング家と、ゼニット・コンツェルンから追放する!」
「それがあなたの答えですか」
「……餞別として、何でも一つくれてやる」
父の気まぐれから、最後に何でひとつ持ち出してよいと言われたセレジアは、強化兵士計画のアーキタイプとして生み出された試作型の兵士の一人を要求する。
「あの失敗作を飼い育てるつもりか。どこまでも甘い。母親似だな」
「……ッ。貴方は、どうせ、もう顔も思い出せないでしょうに」
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そんな悪夢から目覚めたセレジアは、いまでは母方の姓のコリンズを名乗り、クォーツ採掘船「インスマス号」のクルーたちを率いて違法採掘に従事していた。
寡黙な兵士B・Bと、忠実な元リング家執事バートラム・チェスターが仲間だ。
小型核融合の重要なパーツとなり、高値で取引されるアビサル・クォーツの採掘作業中、インスマス号に警報が鳴り響く。それは敵襲を知らせる警報だった。
彼らを襲撃してきたのは、開拓者くずれが駆るグラウル・サーヴァントである。
グラウル・サーヴァント──GSとは、このメルヴィル環境下で絶対の戦闘力を誇る人型自在巡航艇、すなわちボートから発展した海戦用人型ロボットである。
この三機のGSの襲撃に対して、セレジアはB・Bに出撃を命じる。
彼の愛機、濃淡の青で塗装された専用GS 《ブルー・ブッチャー》は、その圧倒的な戦闘力で開拓者くずれたちのGSを瞬く間に撃破したのだった。
無事に浮揚都市ティレムスに帰港したインスマス号は、手に入れたクォーツ片を売却し、合法的なアビサル・クォーツ採掘事業者──開拓者としてギルドに登録。
そんな彼らが最初に開拓者として引き受けた依頼は、ATS社からの探鉱依頼だった。これは複数の開拓者を募った競争ミッションであるが……。
「……お嬢様、B・B様は本当に大丈夫なのでしょうか?」
バートラムが尋ねたのは、作戦内容に危険な好奇心を示したB・Bのことだ。
言ってしまえば戦闘狂。彼は戦い以外のことにほとんど興味を持っていない。
なぜなら、B・Bの正体はセレジアが連れ出したアーキタイプだった。
戦いに最適化された人類は、競争という環境でどう振舞うのか。
「彼は必ず、私の命令に従ってくれますわ」
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場所は変わって、ルコール海域。極寒の海として知られるこの場所で、ATS社の代わりにクォーツ鉱脈を探すのが、開拓者たちに与えられた仕事だった。
開拓者は各々のGSからセンサーポッドを投下し、探鉱を開始。一方、次々とセレジアが指示した場所を回るB・Bに対して、一人の開拓者が因縁をつけてきた。
『てめぇ、欲張りすぎだろうが!』
ミサイルランチャーをロックオンされるB・Bだが、彼はものの数秒で開拓者を撃退。この男こそ、後の仲間であり、ライバルともなる男ジョニーであった。
『わ、悪かった! 悪かったから……! 命だけは……頼む!』
B・Bは愛用のモーターナイフ“藍銅”で彼を脅し、適当なところで許した。
*
やがて、探鉱作業が終盤に差し掛かってきたころ、事件は起こる。
依頼主であるATS社の旗艦「オクタヴィア」号が襲撃を受けたのだ。
『……逃げろ、奴らは、俺たちを皆殺しに……』
その不穏な言葉を最後に通信途絶するオクタヴィア号。
インスマス号の格納庫では、B・Bが既に再出撃の準備を済ませていた。
『セレジア、カタパルトの用意をしてくれ』
「B・B? 何をするつもりですの?」
『状況の確認が必要だ。敵なら排除する』
またもや危険な気配を漂わせるB・B。
セレジアは苦渋の決断で出撃を命じるのだった。
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《ブルー・ブッチャー》は、すぐにオクタヴィア号の周辺に到着した。
そこでは苛烈な戦闘が起こっており、地獄絵図と化していた。
開拓者たちが謎の深紅のGS部隊に襲われ、次々と死んでいく。
その統率のとれた動き、B・Bも苦戦を強いられるのだった。
……が、一人の開拓者が彼に手を貸したことで状況は好転する。
彼女は、ナイア・バーシュ。先にボコられたジョニーの妹である。
調子に乗っていた兄に「灸を据えた」ことが、彼女の興味を惹いたのだ
B・Bとナイア、《ブルー・ブッチャー》と《ダブル・ダウナー》。
二機のGSの連携によって深紅の部隊を撃退するが……。
オクタヴィア号はただ一人の生存者を残して沈没してしまう。
生存者のマハル・マイヤーは、後にインスマス号で雇われることとなる。
マハルはセレジアに、重要な情報を伝えた。オクタヴィア号から出現した深紅の部隊が、ゼニット・コンツェルンからの支援物資の中に潜んでいたのだという。
彼女はそれこそ強化兵士の実験部隊だと推測し、決意を新たにする。
「──これ以上は、やらせない。我が家の名誉は、わたくしが必ず……」
ゼニットの、父カシウスの野望を砕き、リング家の名誉を守る。
彼女が固い決意を抱いたとき、その思いに呼応するように客人が訪ねた。
応接室に入ると、そこに居たのは作戦に参加していたバーシュ兄妹だ。
「率直に言うと、アタシたち、セレジアさんのクランに入りたいんだ」
「わたくしの、クランにですか?」
聞けば彼らはクランを探しており、B・Bの強さに魅かれたという話だ。
ふたつ返事で二人を招き入れたセレジアだが、ある問題に直面する。
「……あれ? なんだっけ、セレジアさんのクラン名」
「クラン名……?」
「……コホン。お嬢様、現在わたくしどものクランは暫定的に『クラン2184』という番号だけが付与されている状態でございます」
味気ないクラン名を前に、急遽全員で始まるネーミング・コンテスト。
「じゃあ、『ホライズン』なんてどう? ミライへの広がり、感じない?」
「……『ヴァルハラ』などはいかがでしょうか? 古い神話において、死闘を戦い抜いた戦士たちが辿り着くという、栄光の殿堂のことでございます」
ナイアとバートラム、二人の案をセレジアは掛け合わせることにした。
「そうね、それで決まりですわ。『ヴァルハラ・ホライズン』──未来への広がりと、戦士たちの栄光を求める旅路。ふさわしい名だと思いますわ」
かくして、二人の開拓者兄妹を仲間にしたクラン──。
“ヴァルハラ・ホライズン”の戦いは幕を開けるのだった。
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