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第98話 もしかして、なんだけど





 俺たちは公園につくまでの間に、自販機で小さなペットボトルのジュースを買った。俺も黒川も、同じリンゴジュース。黒川の唇が汚染されないように、間違えないよう注意しておきたいところだ。


 そして、小学生らしき子供二人とその保護者っぽい女性の三人がいる公園に、俺たちも入っていった。子供たちは、キャッチボールをして遊んでいるようだ。


「私、鉄棒でぐるぐる回るやつできるんだよ!」


 スポーツテストではあまりいい成績とは言えなかった彼女だが、自信満々に俺にそう言うと、鉄棒を握ってからひょいっとジャンプし、片足を鉄棒にかける。


 あぁ……ちょうどこの鉄棒のところで俺は――そう考えている間に、黒川はぐるんぐるんと鉄棒を中心に回転し始めた。おぉ……見てるだけで酔いそう。すごいな。


 それはまぁいいとして……、黒川は現在スカートなんだよなぁ。


「あの、黒川……? その格好であまり回らないほうがいいと思うんですけど」


 顔を引きつらせながら、丁寧に呼びかける。ぴたりと停止した彼女は、顔を真っ赤にしてから慌てて鉄棒から降りた。そして、現状抑える必要のないスカートを前と後ろから手で押さえつける。


「み、見えましたか?」


 黒川も動揺しているのか、俺と同じように丁寧な言葉遣いになっていた。


 さて、ピンク色の布を直視してしまった俺は、ここでどう返答すべきなのだろうか。蓮にチャットで教えてもらおうかしら――なんて現実逃避している場合じゃないですねすみませんごめんなさい。


「見えてないよ」


 迷いに迷って、嘘を吐くことにした。優しい嘘も時には大事ですよね、ええ。


「……本当?」


 黒川が、顔を真っ赤にしたまま俺に詰め寄ってくる。プルプルと顔を震わせて、心の底から恥ずかしそうに。


「……本当の本当?」


「……すまん、ちょっと見えた」


「うわぁあああああっ! 忘れて忘れて!! 可愛い下着履いてたかなぁああああ」


 黒川はそう叫び、俺の顔を見ないように少し視点を下げて、ぽかぽかと俺の胸を叩いてくる。さすがに色しか判別できなかったから、どんな下着なのかまでは見えてないぞ。


 まぁそれを言っても藪蛇になりそうだし、「一瞬だけだから」と慰める言葉をかけることにした。これは真実だ。


「べ、別のところに行こう! 滑り台――は、ちょっと汚れそうだし、ブランコとか?」


「んー……どっちにしろ多少は汚れると思うぞ」


「そうだよねぇ……じゃあシーソー?」


「それがこの公園の遊具だと一番マシかなぁ」


 他にも遊具はあるけど、俺の見立てでは一番遊んでも汚れなさそうだ。たぶん。


「……でも、体重が……有馬くんより重たかったらどうしよう」


「さすがにそれはないだろ」


 どう見ても彼女が六十キロを超えることはないだろうに――そう思ってクスリと笑うと、黒川は楽しそうに「笑ったなーっ!」と抗議をしてきた。笑顔だから全然怖くないんだが。


 その後、ガタンガタンと俺たちは高校二年生としては違和感があるかもしれないが、シーソーを楽しんだ。シーソーというよりも、揺られている間に交わした会話を楽しんだ――といったほうが適切かもしれないが。


 シーソーが終わってからは、ぶらぶらと公園の中を歩いたりした。特に目的があるわけでもなく、ただふらふらと話をしながら。


 黒川の言う通り、体を動かしたのが良かったのか――たしかに俺の気分は少し晴れた。この場所で告白し、振られたということを少しの間忘れることができるぐらいには、効果があった。


「ありがとな、黒川。おかげで少し気分が――」


 隣を歩いていた黒川と向き合って、そんな言葉をかけた時、俺からみて左側、黒川から見て右側のほうから「――あぁっ」という焦ったような声が聞こえてきた。


 目を向けると、野球ボールがこちらに向かって迫ってきている。軌道的には、黒川の顔面コースだ。


「きゃっ」


 悲鳴を上げて、黒川は体をひねりながら後ろ方向に倒れる。とっさに突き飛ばしたほうがいいだろかとか考えてしまったけど、見事な反射神経――だが、このままではまずい。


 俺は飛来するボールをかいくぐり、地面を蹴って黒川へと手を伸ばした。背に手をまわして、俺の胸に引き寄せるように――そして俺が下敷きになるように抱きかかえる。


 別に彼女が後ろに倒れたぐらいじゃ怪我なんてしないだろう。

 でも、身体が動いてしまった。いつかの階段と、同じように。


「す、すみません! 大丈夫ですか!?」


 ドサリと倒れこんだ俺たちのもとへ、子供たちの保護者らしき人が声を掛けてきた。

 俺は黒川の下敷きになったまま、「大丈夫です」と返答。その後すぐに、子供たちも俺たちに向かって頭を下げて謝っていた。


 黒川も、体を起こしながら「大丈夫ですよ」と返答していたけど、なんだか声が小さい。というか、震えているように聞こえる。


 絶対に怪我をするような形ではなかったから……俺のことが触れられないぐらい嫌いという可能性は除くとして――抱き着かれて照れている、とかだろうか?


 そんな、平和すぎる考えをしている間に、子供たちは去っていった。


 そして、子供たちを見送った黒川が、俺のほうを向く。呆然とした表情で、夢の世界にでもいるかのような、ぼんやりとした様子で「もしかして、なんだけど」と口を開いた。


「あの時階段から落ちた私を助けてくれたのは――有馬くんだったの……?」






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