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あの日、キミを助けたのはオレでした  作者: 心音ゆるり
第三章 有馬優介は告白される
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第66話 親友たちに相談





 プールでの一件以降、黒川さんの態度が変わった。

 というか、俺と彼女の関係は同じクラスになって以降変化し続けているといっていいかもしれない。そしてその変化の内容は、俺に対する距離感というか、わかりやすく言うと親密度である。


 もしかしたら俺のことを好きなのではないか?

 そんな風に勘違いしてしまうような場面もちらほらとあるし、毎日ではないものの、時々夜にはチャットのやりとりもしている。


 ここまで来てしまえば、嫌でも相手を意識してしまうというもの。

 俺と目が合うと照れたように笑う黒川さんを見ると、なんだかこちらも照れ臭くなってしまう。だが、これが恋愛感情なのかと聞かれると、それはまだはっきりとはわからない。たとえ九十パーセントの確率でそうだったとしても、グレーであることには変わりはない。


 身長や体重、スポーツテストの結果のように、恋愛感情も数値化してくれたらありがたいなぁと思う今日この頃である。


 土曜日。


 本日は蓮と由布と遊ぶことになった。

 二年になるまではこの三人で遊ぶことがほとんどだったから、なんとなく実家に帰ってきたような安心感がある。今では熱海がいる風景も日常と化しているといえばそうなのだけど、なんというか――祖父母の家を訪れたような感覚だった。

 場所は、ファミレスなのだけど。


「それで、アリマン私たちに相談があるんでしょ? なんのことかは察しがつくけどさ」


 全員がドリンクバーを持ってきて席についたところで、由布がそう切り出してきた。

 そう……本日は彼女たちに相談という名目で招集をかけた。

 今日は熱海や黒川さんと約束しているわけではないが、万が一我が家に突入されたら困るので、この場所を選んだという経緯がある。


「大丈夫、アリマンの足は臭くないよ」


「そっか、それはよかった――ってそんな相談をしにきたわけないだろうがアホ」


 というかお前、俺の足を嗅いだことないだろうが。

 あると言われたらそれはそれで怖いけども。


「わー、ねぇ蓮、アリマンがいじめるぅ~」


「見事な棒読みだねぇ」


「目の前でイチャイチャすんなよ」


 隣に座る蓮に寄りかかって大根役者を演じている由布にジト目を向けて、ため息を吐く。

 本当にこいつらに相談して大丈夫なのだろうか……いや頼りになる奴らであることは間違いないんだけどさ。不安になるわ。


 ひとしきり蓮に甘えた由布は、どっかりと背もたれに背を預けて、カフェラテを一口。

 それから、俺の顔を見ながらも、どこか独り言のように言葉を漏らした。


「本当に地獄に向かって突き進んでるよねぇ。でもまぁ、これを乗り越えられない程度の気持なら、あの子に資格はないと思うけど」


「……? 地獄とか資格とか、急に何の話をしてんだ由布」


「え? あぁ、ごめんごめん。なんでもないよ~」


 わざとらしく片目をつむってから自分の頭を小突く由布。なぜか蓮がぺしっと彼女の頭に追い打ちの平手を落としていた。


「紬の妄言はさておき、相談ってのはどうしたの? 黒川さんのことかな、って思ってたけど」


「お、おう……いや、それはそうなんだけど。そうじゃないというか……どっちかというと俺側の問題で」


「私知ってるよ~。アリマン、ヒナノンが気になり始めたけど、自分の気持ちが恋愛感情なのかどうかわからないんでしょ~」


 ニヤニヤといつも通りの気楽な表情で、由布が言う。

 まさに俺が相談しようとした内容をズバリ言い当てられてしまったのが悔しい。蓮ならまだしも、別クラスの由布にバレたというのがさらに悔しい。

 というか、由布に気づかれているということは、もしかするとクラスの奴らにもバレている可能性が大いにあるということなのではなかろうか……。


「もしかして俺って、わかりやすいのか? 他の奴にもバレてたりする?」


「はは、心配しなくても大丈夫だと思うよ。これはいつもの紬――昔から彼女は人のことよく見ているからね」


 あー……いつもの、と言われても俺はあまり経験がないのだけど、それでも複数回彼女に心を見透かされていた過去があるので、納得。一緒にいる時間の長い蓮が言えば、さらに説得力は増すというものだ。


 彼女の本当に怖いところというのは、本人さえわかっていないところまで、見透かしてしまうというところなのだけど――いったい、今の由布に俺はどういう風に映っているのだろうか。


 気にしたところでわからないし、聞いたところで、教えてくれないことはわかっているのだけども。


「一緒にいるとドキドキする、一緒にいると安心する――恋愛にはいろいろ形があるけどさ、アリマンは圧倒的に経験値不足だよねぇ」


「理解しております――って言っても、お前たちもお互い初恋同士だから、経験値としては少ないんじゃね?」


「優介よりはマシなんじゃないかなぁ」


 それはそう。


「例えばの話だけどさ、いまアリマンが、ヒナノンとみっちゃんに同時に告白されたら、どういう答えをだす?」


「前提が狂っているとしか思えないんだが……そもそも、熱海には長年好きな王子様がいるだろ」


「だから『例えば』の話だって。ちょっと考えてみてよ」


 考えてみて――と言われてもなぁ。

 熱海も黒川さんも、学年を代表する人気のある女子だ。

 二人を恋人にしようとして撃沈した男は数知れない――だというのに、女子二人はいまだ誰とも付き合ったことのない難攻不落の城塞である。


 そんな二人が――友人の数は片手で事足りてしまい、容姿でいじめられていた過去のある俺に告白する――真夏に雪が降るほうがリアリティがありそうな内容だ。

 まぁ由布や蓮の視線が『考えろ』と言っているので、大人しく悩むことにしよう。

 そもそも、彼女たちは俺の相談に乗るために、今日ここにやってきてくれたのだし。


 熱海道夏に告白され、黒川陽菜乃に告白される。

 考えるべきは、どちらを選ぶかということだよな。

 そしてどちらかを選ぶということは、どちらかを選ばないということ。

 少しじっくり、考えてみることにしようか。

 




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