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あの日、キミを助けたのはオレでした  作者: 心音ゆるり
第三章 有馬優介は告白される
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第58話 変化する関係




 じゃあまた明日――いつもの言葉で三人と別れ、俺と熱海は二人だけになる。

 夏が近づくにつれて空が明るい時間が長くなり、汗ばむ日も増えてきた。

 夏は暑いし蚊も出てくるから嫌だなぁという思いと、早く夏休みになってほしいという矛盾した思考を巡らせつつ、右隣を歩く熱海に目を向ける。すると、彼女もちょうどこちらを見上げたところだった。


「有馬はどの季節が好きなの?」


 どうやら、熱海もちょうど季節のことを考えていたらしい。俺が答えようとすると、彼女は「あ、待って。当てるから」と笑いながら言った。


「秋か冬でしょ? 一番は冬かしら?」


 ……お、おう。すごいな、ドンピシャであててきたぞコイツ。

 なにかそれっぽい情報を漏らしただろうかと考えてみたけど、これまでに熱海の前で季節の話題なんて出した覚えはない。となると――、


「あぁ、なるほど。黒川さんと一緒ってやつか……正解だ」


 答えると、彼女は呆れたように首をかしげて、「やっぱりね」と小さく言った。

 熱海よ……お前は自分からダメージを負いにいっているのか? そういうのが好きなタイプなのか? それとも、一縷の望みにかけたとかだろうか。


「熱海は夏が一番で、春が二番ってこと?」


「そういうこと。真逆すぎて、逆に面白いわよね」


 面白いという言葉をまったく面白くなさそうに言った熱海に、俺は少々気恥ずかしい話をすることにした。これを話してどうなるかと言われても、俺自身よくわからないのだけど、少なくとも今よりは明るい顔になるんじゃないかと思ったのだ。


「その部分だけ見ればな。たしかに好きな季節に関しては違っていたけど、俺もいま歩きながら、ちょうど季節のことを考えていたんだよ。もうすぐ夏だなぁ、熱いのは嫌だなぁ――とかさ。だから熱海から季節の話が出てきて、内心ビックリしてた」


「え? ほんと?」


 そう言ってこちらを見上げる熱海の嬉しそうな顔を見て、『やっぱり嘘』と言ってしまいたくなったのはここだけの話。ひねくれてんのか俺は。


「こんなしょうもない嘘をつく理由はないだろ。趣味嗜好は逆だけど、案外考え方とか思考回路とか、俺たちは似てるのかもな」


 例えばどんな風に? と聞かれてしまえばパッと思いつかないのでゲームオーバーなのだが、とりあえず口が動くままに言葉を発した。後のことは後の俺が上手くやってくれるはず。


 そんな俺の考えは杞憂に終わり、熱海は「そっかそっかー」と少し高くなった声色で口ずさむ。存外わかりやすいやつである。

 それを指摘したら十中八九反論されそうだし、俺が口にした言葉が少々恥ずかしいということもあって、俺はだんまりを決め込んだ。

 ……こんなにも体が熱いのは、夏のせいということにしてもいいだろうか。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 中間試験を境に、俺と熱海の日常は多少変化したのだけど、それは弁当の有無だけではない。俺の腕のギプスが外れて、右手がフリーになったから、彼女が無理に俺の家の家事を手伝う必要がなくなった――のだが、こちらに関しては、今は二人でやるようになっている。


 別にしなくていいと言っているのだが、彼女は『一人でいても暇だし』ということで、お互いに家族が家にいない時は、毎日我が家に訪れてご飯を食べている。

 ただ、ご飯を食べたあとは、熱海はすんなり家に帰っていた。


 いままでは、お風呂を済ませてから再度俺の家にやってきたり、最初にお風呂を済ませてからこちらにやってきて、保護者たちが帰宅するギリギリまでくつろいでいたりしたのだけど、それが無くなった。八時過ぎには、もう帰宅してしまっている。


 なんとなく、熱海は俺と距離を取ろうとしているようにも見えるのだけど……それも微妙なんだよな。本当に距離を取りたいのなら、そもそもうちにこないだろうし。

 しかし、これは俺の考え過ぎで、単に一人の時間が欲しくなったというだけの可能性も十分すぎるぐらいにあるんだよな。過去のいじめのせいで、どうにもマイナス方向に考えがちである。


 熱海と一緒に夕食を食べてから、風呂に入り、二時間ほどは一人だけの時間。

 中間試験も終えたばかりだし、自主的に勉強をするようなタイプでもない俺は、のんびりと漫画を読んでいた。

 と、そこに、チャットの通知がやってくる。


『こんばんは! まだ起きてる?』


 相手は黒川さんだった。

 起きてるかって――まだ八時半だぞ? いまどき小学生でも起きている時間じゃなかろうか。じいちゃんばあちゃんならば寝ているかもしれないけど……はたして黒川さんはどちらに寄った思考をしてそう思ったのか。ま、ただ会話の切り出しとして用いただけなのだろうが。


『寝るには早すぎるだろ。風呂あがってのんびりしてたとこ』


『そっかそっか! 私もね、いまお風呂あがったところなんだよ~。髪を乾かしてる!』


 実に他愛のない会話だ。何の要件で連絡してきたのかという考えは、彼女の『髪を乾かす』というワードで吹き飛んだ。以前、彼女に髪を乾かしてもらったことを思い出したからだ。


 熱海はリラックスできて、黒川さんは緊張する。

 はたしてこの差にどんな意味があるのかを、俺はまだはっきりと理解していない。


『有馬くんは運動得意なんだよね? 私は苦手だから、水泳もスポーツテストも憂鬱だよ~。あ、ちなみ道夏ちゃんは両方得意だよっ!』


『それはなんとなく、体育の様子を見ていたらわかる』


 もしかしたら女子の体操服姿が好きな奴だとか思われないだろうかと、送信したあとに気づいたが、黒川さんは特に気にした様子もなく、普通の返信をしてくる。


『有馬くんは体育見学してるもんね。もうそろそろ大丈夫なの?』


『右手をたくさん使うやつはまだ無理かなぁ』


『そっかぁ。有馬くんの運動してるとこ、見てみたかったんだけどなぁ』


 黒川さんにそんな風に言われたら、勘違いするやつが一定数いるだろうなあと思い苦笑した。だけどきっと、彼女は見てみたいと思ったから、見てみたいと言葉にしただけなのだろう。少なくとも、俺はそう思った。


 その後も、黒川さんから話題をふってくる形で、夜の十時あたりまで俺たちはチャットを続けた。結局、重要そうな話は何もなく、ただただ世間話のような話をしただけだった。


 黒川さんに男友達がいる雰囲気はないし、もしかしたら目新しさを感じているのかもなぁ。

 彼女もまた、熱海と一緒で付き合いやすい友人になってくれたな。





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