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あの日、キミを助けたのはオレでした  作者: 心音ゆるり
第三章 有馬優介は告白される
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第57話 よくわからない恋




 昼休みに入る前の授業は現代文で、ちょうどうちのクラスの担任だった。その時に中間試験の成績が書かれた紙を配られたのだけど、案の定教室内は騒がしくなる。そしてその騒がしい雰囲気を保ったまま、昼休みに突入した。


「ふっふっふ~、私、初めての一桁順位でしたっ!」


 いつもの五人で集まると、鮮度の高い中間試験の話題となった。

 ニコニコと心の底から嬉しそうに話す黒川さんの雰囲気にあてられて、周囲まで和やかなムード――とはいかなかった。というのも、どうやら熱海は順位が下がったらしく、一桁順位から二桁の順位に落ちてしまったらしいのだ。それでも彼女は、「おめでとう」と言う言葉に加え、拍手もしていたけど。


 熱海は今回十三位という俺からすればいい成績だったのだが、本人としては落ち込んでいる模様。ちなみに、俺も少し前回から順位を落としてしまった。まぁ右手が満足に使えずに勉強に集中できなかったということで、許してほしい。


「というかさ、熱海の順位が下がったのって、もしかしなくても俺のせいなのでは……?」


 こころなしかしょんぼりしている熱海に向けて、そんな言葉を掛ける。


「だってほら、俺の右手が使えない状態だったから、熱海には二か月ぐらい色々世話を焼いてもらってたし、授業中もノートを取ってたりしてくれただろ? 本来勉強できたはずの時間を、俺に使ってたよな?」


 それだけではなく、毎晩のように我が家の家事をこなしていたし、中間試験を境に無くなったとはいえ、それまでは弁当も作ってもらっていた。熱海の時間は、かなり俺に割かれてしまっていたはずなのだ。


「別に、いつもと勉強した時間は変わらないわよ」


「……そうか?」


「そうなの。だから有馬が気にすることは何もないわ――いつもよりちょっと気を抜いていただけ。期末試験で取り返すから、問題なし」


 そう言って、熱海は小さな口を大きく開けて、ぱくりと卵焼きを放り込む。

 俺がコンビニで買った弁当にも卵焼きは入っていたので、俺も熱海と同じように食べた。おいしいけど、なんだか味気ない。


 同じクラスの女子から弁当を作ってもらうなんて――これまでが恵まれていた状態なのだから、熱海が終わりを宣言してしまえばそれまでとわかっていたのだけど、いざその時が来たら寂しく感じてしまう。


 何かお返しを――と思ったのだけど、彼女に拒否されてしまっている、が、タイミングがあれば何かプレゼントしたりしようかなと心の中で計画中だ。何も決まってないけど。


「見て見てアリマン! すごく順位アップしたんだよ私っ! まぁ本気だせばこんなもんだよねっ!」


 会話の切れ目に、素早く由布が言葉を差し込んできた。順位の書かれた細い紙を広げて、俺に見せつけてくる。百七十五番らしい。由布にしては、たしかに頑張っている。前回は二百五十番ぐらいだったし。


「由布はもう少し本気の頻度を増やそうな。玄仙に入学できたんだから勉強ができないってわけでもないだろうに――じゃないとその度に蓮に苦労を掛けることになるんだぞ?」


 俺がそう言うと、由布は人差し指を立ててそれを左右に振る。


「本気はたま~に出すから本気と言えるんだよ。いつも出せるようじゃ、それは本気とは言わないと私は思うね」


「紬も今回は頑張っていたし、順位も上がったんだからさ、今日のところは優介も褒めてあげてよ。僕、人に勉強を教えるのはそこまで嫌いじゃないからさ」


 まぁ――この中で僕が教えられるのは紬ぐらいだけど、と蓮は苦笑しながら言葉を付け足す。成績の順番的に言えばそうかもしれないけど、そんな単純なものでもないだろうに。得手不得手とかあるじゃないか。


「城崎は由布さんを随分と甘やかすわね~。見ていてニヤニヤしちゃうわ」


 熱海はその言葉通りの表情を浮かべて、城崎由布カップルを見る。

 心の中では、自分も運命の人に――王子様に甘やかされたいとか思っていたりするのかもしれないな。


「その代わり、厳しくするときは厳しくするけどね。というか、熱海さんこそ恋人ができたらその人を甘やかしそうな気がするよ、僕は。自覚はあるでしょ?」


 優しい笑みを浮かべながら蓮がそう言うと、熱海はうっと言葉に詰まっていた。図星らしい。たしかに、熱海は甘やかされるより甘やかす側だろうな。王子様ではない俺相手ですら、かなり過保護に接してきているのだから。


 本人はなぜか、運命の人に出会うことに対して消極的になっているけど、七年間も想い続けているし、実際まだ彼のことを好きなままだと言うのだ。なにか特徴とか教えてくれたら、俺も気にかけておくんだが……本人も覚えてないみたいなんだよな。

 俺が知っていることなんてせいぜい、熱海の『命の恩人』であるということぐらいだ。相手が覚えてくれていたら、いいのだけど。


「道夏ちゃんはたしかに甘やかしそうだよね~。あと、すごく嫉妬深そうかもっ!」


「ちょ、ちょっと陽菜乃!?」


 突然の親友からの攻撃に、熱海は目を丸くする。

 熱海には悪いが、俺もその意見には完全に同意する。もしも運命の人が誰か他の女子と楽しそうに話していたら、それだけで拗ねてしまいそうな印象だ。


「悪い意味じゃないんだよ? だってヤキモチ焼くのって、私可愛いと思うもん」


「あー! 私もわかる! みっちゃん拗ねたら絶対可愛いしっ!」


「由布さんまで!? ふ、二人とも、そんなに可愛い可愛い言わないでよっ」


 黒川さんの言葉に由布も同意し、熱海は顔を赤くする。これはガールズトークというやつなのだろうか。

 男の俺が口を挟める雰囲気ではないので、俺は心の中で黒川さんと由布に同意しつつ、視線をこの場にいる俺と同性の人間に向けた。


「優介はどう? 嫉妬する人」


 ニコニコとイケメンスマイルを浮かべながら、蓮が聞いてくる。俺のピエロスマイルと交換してやりたい。

 蓮に対する嫉妬はさておき、女子の嫉妬かぁ。


「嫉妬するってことは、裏を返せばそれだけ好きでいてもらえてるってことだよな。幸せなことなんじゃないのか?」


「そうだね。何も思われないより、そう思ってもらえたほうが僕も嬉しいかもしれない。束縛がきつすぎると、ちょっと疲れちゃいそうだけど――そこはなんとかして信用を勝ち取るしかないかな」


「なるほどなぁ……恋愛って大変だ」


 その大変さを考慮しても一緒にいたいと思えるから、付き合ったり結婚したりするんだろう――なんていうのは、きれいごとなんだろうか。


「他人事みたいに話しているけど、優介だって恋愛をこれからするかもしれないんだから」


「どうだろうな~」


 適当な返事を返して、俺は弁当に手を伸ばした。口に入れたブロッコリーを咀嚼しながら、考えてみる。

 恋愛――といって頭に浮かんできたのは、熱海と黒川さんの姿だ。

 というか、俺と関りがそこそこある女子が由布をのぞくと彼女たちぐらいしかいない。つまり恋人になるという妄想も、彼女たちぐらいでしかできない。


 黒川さんは良いとしても、熱海は王子様にご執心だから――選択肢から外す、というのは、どうなんだろう。好きって感情は、そんな風に簡単に割り切れるものなのだろうか。


 本当に好きになったとして、そんな簡単に諦められるものなのだろうか。

 俺にはまだそのあたり、よくわからなかった。





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