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あの日、キミを助けたのはオレでした  作者: 心音ゆるり
第二章 黒川陽菜乃は気付かされる
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第29話 有馬モテモテ大作戦




 熱海あたみ道夏みちか

 二年生になって同じクラスになった、長い黒髪の女子。


 やや吊り目で、なんとなく性格がきつそうな見た目の女子なのだが、顔も知らぬ王子様相手に片思いを続けているという乙女チックな部分もある。時々暴力的な一面が見えてくるが、俺が骨折状態であることをよく心配してくれているし、色々世話をやいてくれる優しい女子だ。


 熱海とは学校でのクラスが一緒だし、席が前後、さらに言えば隣の部屋に住んでおり、家族が同じ職場で働いているという、嫌いなやつだったらオーバーキル状態だ。

 やや頑固な部分はあるけど、それが気にならなくなるほどには、良いやつだ。


 そして黒川くろかわ陽菜乃ひなの

 熱海と同じぐらいの身長で、たぶん155センチ前後。

 髪は肩にかかるぐらいで、前髪を白い蝶のヘアピンで留めている。


 女性らしさというか――いわゆる胸だとかお尻だとか、そういった部分の凹凸が、周囲の男子の視線を吸い寄せてしまうような見た目をしており、俺もその例に漏れているわけではない。

 見ないように意識はしているけども。


 彼女は熱海と真逆で親しみやすそうな雰囲気の女の子だし、俺と好みがほぼほぼ一致していることから、恋愛を知らぬ俺でもちょっとだけ意識してしまう女の子だ。

俺はよく知らなかったのだけど、友人の蓮によると、彼女たち二人は、美少女として学年で有名らしい。


 俺はそんなアイドル的女子二人と仲良くさせてもらっているわけだから、それなりに嫉妬の視線は受ける。蓮というイケメンが傍にいてくれるおかげで、多少は和らいでいるようだけど。



 熱海との不和が解消されて、土日が明けた月曜日。


「ほら、バッグこっちに向けて。弁当入れてあげるから」


「お、おう……今日も作ってくれたのか。ありがとな」


「本番に備えての練習だから気にしないで」


 先日の金曜日に続き、熱海はまた俺の分の弁当を作ってくれたらしい。

 この弁当に関して――金曜日に蓮、由布、黒川さんには『熱海の実験台になった』という理由を話したけれど、万が一勘違いされてもいけないので、このことは俺たちだけの秘密ということにしてある。熱海が『運命の人が好き』ということを公言しているとはいえ、勘違いしてくる奴はいるだろうからな。


「あたし、思いついたの」


 マンションのエントランスから出て、歩道を歩き始めたところで熱海がそんな風に口を開く。


「また余計なことを思いついたんじゃないだろうなぁ」


 ジト目を向けながらそう言うと、彼女はムスッと不満げな表情に変わって「真面目だもん」と拗ねたように言う。あのケンカ以来、こいつも丸くなったよなぁ。

 言ったあとに気付いたけど、先ほどの俺の発言は、以前ならば熱海から物理的攻撃を受けてもおかしくないようなものだったし。なんというかこう……可愛くなったというか、可愛くみせられているというか……言葉にするのが難しいな。


「まぁ話を聞くだけ聞いてみよう」


「それでいいのよ――あたし『有馬の幸せってなんだろう』って考えたのよ」


 随分とお節介な内容を考えていたらしい。


「俺より自分の幸せ考えとけよな」


「あたしはいいの。有馬は二人も助けてるんだから、いっぱい幸せになるべきだわ」


 熱海の視線は前方に向かっており、グッと拳を握って気合をアピールする。

 別に俺は見返りが欲しくて助けたわけじゃない。

ただ、俺を助けた父さんの命の価値を高めたかっただけだ。

 そう言う意味では、もう報酬は受け取っているようなものなのだが。


 しかし……幸せか。幸せってなんだろうか。本人である俺にもわかんないんだが。


「ほら、有馬ってあのクソ女のせいで、人助けっていうすごくすごく立派なことに対しても、引け目を感じちゃっているでしょう? 容姿なんて関係ないのに――だいたい、そもそも有馬はかっこ――」


 もにょもにょと俯いて口にするものだから、ほとんど聞き取れなかった。かろうじて俺の名前が聞こえたような気がしたけれど。


「ん? 最後なんて言った? だいたいの後」


「な、なんでもないっ! そ、それよりも、そのクソバカザコ女のせいで、ライフセーバーの夢も辞めちゃったんでしょう? ずっと勉強してきたのに」


 相変わらず熱海が俺の助けた女の子に向けるヘイトがすごい。俺は怒ってないと何度も言っているのだけど、相変わらずものすごくその子のことを嫌っている。

 もしその女の子と会う事になったとしたら、熱海だけとは邂逅させないようにしておこう。


「有馬に自信が付けば、また元の有馬に――本来の有馬に戻れると思うの」


「ふむ」


 彼女の言う自信とはつまり、容姿に対しての自信のことだろう。

 身体は痩せたし、なんなら腹筋も多少割れている。身長も去年の時点で百七十を超えていたし、こういった部分で馬鹿にされることはないと思いたい。

 だけど、顔に関しては自信を持つのは難しいんだよな。告白されたこともないから、それが答えなのだろうけど。


「あたしが思いついた作戦――それは、有馬モテモテ大作戦よ!」


 有馬――モテモテ、大作戦、だと?


「内容にもツッコみたいが、なによりもそのひどいネーミングセンスはどうなんだ?」


「う、うっさい! 昨日十個ぐらい候補を考えて、これが一番良かったんだもん!」


 え、えぇ……こんなもんに頭のリソースを使うなよ。俺のためとはいえ、ちょっとこいつアホなんじゃないかと思ってしまった。ぜひ残りの九個のネーミングをみてみたいものである。


「まず歩いている時の姿勢! ほら、背筋をビシッと! 顎も引く!」


「へいへい」


 別にモテることが嫌なわけじゃないし、これぐらいのことで周囲からの視線が変わるとも到底思えないが、姿勢が良くなることは悪い事ではない。むしろ良い事だ。

 人助けをして誤魔化すのだって、しないほうが言いに決まっているし。

 というわけで、俺のために悩んでくれた熱海の気持ちを汲んで大人しく従うことに。俺は言われたとおり、背筋を伸ばして顎を引いた。


「あとね、いつものクールな表情も素て――ま、まぁ悪くはないんだけど、ちょっと口角をあげてニッコリしていた方が親しみやすいと思うわ」


 ……いまこいつ、俺のことを『素敵』って言いかけなかったか? いや、さすがにそれはないだろうし、俺の勘違いだろう。


「ニッコリって……それはまた難しい注文だな」


 意識しなければできるのだろうけど、自らやろうとすると頬がぴくぴくと痙攣する。というわけで、骨折していない左手の親指と人差し指を使って、無理やり口角を上げてみた。

 その顔で、熱海に目を向ける。


「――ぶっ、ぶはっ、あはははっ! ちょ、あんたなにそれっ、ピエロじゃないんだからっ」


「これで俺もモテモテか」


「そんなわけないでしょっ! あーおかしい、涙でちゃった」


 俺のふざけたノリがウケたらしく、熱海は口にした通り目尻に涙を浮かべていて、それを指先で拭った。笑ってもらえてなんだか俺も楽しい気分になってしまった。芸人を志す人たちは、こういう些細な出来事がきっかけになったりするんだろうか。


「――ま、今の顔も一部の人は好きなんじゃない? 有馬のことを好きな人がいたとしたら、その人にとってはきっと最高のご褒美よ。絶対写真に収めたいと思うに違いないわ」


「そんな奴いねぇっての……そして写真は勘弁――」


 俺がそう言いかけていると、なぜか熱海はスマホを胸ポケットから取り出していた。


「え? だめ?」


「なんでお前が撮ろうとするんだよ……」


 こいつの場合、俺を見て笑いたいだけなんだろうな。

 写真撮影は、丁重にお断りさせていただきました。






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