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あの日、キミを助けたのはオレでした  作者: 心音ゆるり
最終章 振り返れば、すべて必要なことだった

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第116話 親友たちと





 熱海、黒川の二人がそれぞれ家に帰って、夜。


 夕食、風呂といういつもの過程をこなしたあとは、まだ寝るには早い夜の九時からベッドで横になっていた。考え事をするときは、横になるに限る。


『お父さんから“優介くんは大丈夫そうかい?”って聞かれたんだけど、どう答えたらいい?』


 頭でいろいろなことを考えながらゴロゴロしていると、そんなチャットが届いた。熱海からである。今日面と向かって話したのだから、そのままの感想を伝えていいと思うが……律儀なこった。


『大丈夫って答えていいぞ。実際、今日の昼間でかなり頭の中が整理できたし』


『わかった。ありがと』


 あっさりとチャットは終わってしまった。心が落ち着かないので、もう少し何か話しておきたかったなぁと思うが、何を話せばいいのかも浮かばない。


 まだごちゃごちゃの真っ只中だからなぁ……俺だけじゃなくてきっと、熱海や黒川も同じような状況なのだろう。


 ――そうだ、電話をしよう。


 あの二人とは昼間に目いっぱい話したばかりなので、数少ない貴重な男友達と。


 スマホでコールすること十秒ほど『もしもし』と普段と変わらないようなテンションで蓮は俺の呼びかけに応えた。何かあったことは理解しているのだろうけど、それは表に出さないようにしているらしい。


「よう、由布からもう話は聞いてるな? 陰でいろいろやってたらしいじゃないか」


 俺が開幕そう言うと、通話口からは気まずそうな笑い声が聞こえてくる。

 予想通り、由布と蓮の間では秘密の共有が行われていたようだ。


『あはは、何もやってないよ。僕らは何もしないことを選択したからね。というか、優介はいったいどういう経緯で気づいたんだい?』


 隠していた身としては、やはりそこが気になるのか。


「向こうで熱海の父親に会った。あっちが俺のことを覚えていてくれたというか、ずっと俺のことを探してくれていたらしいんだよ」


 七年もずっと。もしかしたら、熱海も父親と一緒にあの場所へ探しに来ていたりしたのだろうか。今度確認してみよう。


 なるほどね――と呟いた蓮は、さらに質問を投げかけて来る。


『熱海さんと黒川さんとはもう話したんだよね? 大丈夫だった?』


「あっちはあっちで二人で話すらしい。あー、それと、由布も交えて三人で一回話しておきたいからさ、十六日とか空いてるか?」


『僕は大丈夫だよ。たぶん紬も空いてると思う』


「そっか。熱海と黒川の二人もお盆明けに話すって言っていたから、ちょうどいいだろ。ファミレスにするか?」


『そうだね。紬には僕から連絡しておくよ』


「おう、よろしく」


 実にあっさりと約束を取り付けることができて、一安心。


 俺もそうだけど、たぶん蓮も、あまり事を大きくしないようにしているのだろう。内容としてはかなり重大な案件だと思うけれど、これをきっかけに誰かが苦しむような展開にはしたくない。


 きっとそれは、俺たち五人の総意なのだろう。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「さて、今日は由布と蓮の奢りかな?」


「あははっ、僕は別にそれでもかまわないよ」


「蓮が全部出すからぁ、許してアリマン~」


「冗談だよ――というか自分だけ助かろうとすんなアホ」


「へへっ」


 十六日。ファミレスで俺は蓮と由布の二人と顔を合わせた。


 ここ数日、つまりお盆の時期、俺は家でのんびりと過ごしていた。熱海は両親が帰ってきていたし、黒川も黒川で家の用事があったようだし、由布や蓮も同じく暇ではなかった。


 俺は母さんがサービス業であるため帰省の時期をずらしていたから、みんなとは少々休みがずれる感じになってしまったというわけだな。


 まぁ一人でだらだら過ごしていた俺も、お盆最終日には熱海家の人達と再度挨拶をするぐらいのイベントはあった。それ以外は、夏休みの宿題をすることで気を紛らわせていた。


「……ムカついてた、ってほどではないんだけどさ」


 三人でドリンクバーを注いできてから席に戻ると、由布がそう切り出した。


「有馬をずっと傷つけていた熱海さんは、少しぐらい苦労するべきだと思った。いや、苦労させたかったというよりも、『この程度で諦めるようなら有馬に恋なんてするな』って思っちゃったかな」


 両手でコップを持ち、水面に視線を落としながら由布が言う。


 あだ名で呼ばないってことは、どうやら真面目モードで話しているらしい。まあ内容が内容だしな。俺は無言を貫くことで、続きを促した。


「もしも熱海さんの想いが中途半端なものだったら、有馬は黒川さんと付き合うって選択肢を選んだと思う。結局、どっちも同じぐらい強い気持ちで有馬のことを想っていたから――こういうことになってるわけだけどさ」


 私も全てを予測できているわけじゃないから、あくまで予想なんだけどね――と由布は言葉を付け加える。結構由布は未来予知に近いことを考えてる気がするけどな。


「私、いろいろ黙ってたことに関して、申し訳ないって気持ちはあるけど、後悔してないよ。これをきっかけに有馬に嫌われたり――熱海さんや黒川さんに恨まれることも可能性としては十分にあったけど、それで有馬が幸せな道を歩けるなら、それでいいと思ったからさ」


「お前、俺を含め全員に地獄の道を歩かせてなかったか?」


 まぁ俺が選んだ選択肢ではあるんだけども。あの時は心理テストぐらいにしか思ってなかったんだけどなぁ。


 重苦しい雰囲気を和らげるようにそう言うと、彼女は隣にいる蓮と一緒に苦笑した。


「言い方間違えちゃった。たどり着く場所が幸せだったらいいなって」


 なるほどね。


 きっと最初の段階では、いろいろな選択肢があって、いろいろな形の幸せが未来にはあったと思う。


 ただ、由布の企みがあったとはいえ、彼女が本当に未来予知できない限り、結局は同じところにたどり着いたかもしれないし、そうでないかもしれない。パラレルワールドがあるなら、ぜひとも見てみたいものだな。


「これから優介がどうなるかわからないけど、そもそも恋愛なんてさ、うまくいくほうが稀だと思うよ。ほら、熱海さんや黒川さんに告白して玉砕した人達の数、すごいでしょ?」


「らしいな……その現場はまだ見たことないけど」


 そう思うと、いかに俺が表面しか見えていないことがわかるな。


 普段過ごしていたあの学び舎で、恋をしている人はたくさんいただろう。付き合えた人もいるだろうし、失恋した人も山ほどいただろう。


「たとえ失敗したり、間違ったりしても、それを糧にできればいいと思うんだ。なにせ僕らはまだ、成人もしていない高校生なんだからね」


 随分と大人ぶったことを言う。お前たち、本当に俺の同級生か?





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