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あの日、キミを助けたのはオレでした  作者: 心音ゆるり
最終章 振り返れば、すべて必要なことだった
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第105話 お盆の予定




 黒川に告白され、それを俺は断った。

 そして熱海に告白して、俺は振られた。


 まさか自分が物語で見るような三角関係の当事者になるだなんて、まったく思いもしなかったなぁ。本当に、人生は何が起きるのかわからないものである。


 三者三様の想いを抱えて、それぞれが好きな人と結ばれたいと願って、誰もが成就することのない、悲しい三角関係。


 一時はどうなることかと思った、だけど、俺の想像以上に女性陣は強かった。


 熱海と黒川は、俺との間にできてしまった亀裂を、積極的に埋めようとしてくれている。一緒に宿題をしたり、蓮たちを誘って一緒にカラオケに行ったり、チャットでちょこちょこと連絡をくれたりと。


 もちろん俺だって、彼女たちと元の関係に戻れるように動いた。


 だけど、彼女たちほど積極的に動いたかと言われると、首を振らざるを得ないので、俺は彼女たちを『強いな』と思ったのだ。


 そんな関係修復のための日々が続き、八月に入ってから一週間ほど経過した。


 今日の夜も、熱海とグループチャットでやり取りをしている。黒川も入っているのだが、彼女は現在お風呂に入っているから、既読の数は一つのみ。


『じゃあお盆には熱海の両親がこっちにくるのか』


『うん。だからその辺りはもしかしたら遊んだりできないかも』


『いやいや、それぐらい気にするなよ。ほぼ毎日会ってたから違和感あるかもしれないけど、俺だってその前に実家に行くし』


 熱海の親が、十三日から十五日の間、こちらにやってくるらしい。

 そして俺は十一日と十二日、母親と一緒に祖父母がいる実家に帰省する。


 実家から帰ってきたら、熱海の両親と話したりすることもありそうだなぁ……お互いの家にこれだけ入り浸っていたら、その話も少なからず伝わっていそうだし。


『気を付けて行ってらっしゃい。お土産話とか楽しみにしてるわね』


 熱海からそんなチャットが届いたかと思うと、もう一通、熱海からの通知が届いた。グループではなく、個人のほうで。


『あのね、有馬が向こうから帰ってきたら、聞いてほしい話があるの。こんなこと言ってモヤモヤさせて申し訳ないんだけど、自分の逃げ道を塞ぎたかったというかなんというか……意気地なしでごめんなさい』


 歯切れの悪い文章だ。この文字を入力するのにも、結構な葛藤があったんじゃないかと思う。どんな内容なのかはわからないけど、たぶん、恋愛がらみの話なんだろうな。


『まぁたしかにモヤモヤはするな』


『うっ、ごめん』


『ははっ、冗談だよ。前みたいに「うっさい!」とか言っちゃっていいんだぞ? しおらしいのは熱海らしくないからなぁ』


 平然と俺の頭を握りつぶそうとしてきたりするほうが、俺としては居心地がいいのだ。そういう性癖ってわけじゃないんですけどね。気持ちよくなったりはしてないですよ。ええ。


『う、うっさい!』


『おお、それでこそ熱海だ』


 流れから考えて、無理をして文章を入力したんだろうなぁ。だけど、こうして形から入るだけでも、少しは前の関係に近づけると思うのだ。


 こちらに戻ってきてから、いったい彼女が俺に何を話すつもりなのかはしれないけど、予想したところで彼女が話す気にならなければ意味がないだろうし。いまはこれでいい。


『そ、それでね、もしかしたら有馬に、うちのお母さんとかお父さんとも話してもらうかもしれないんだけど……大丈夫そう?』


 なんだと……? 熱海から言ってくるということはまさか、交際のご挨拶――っ!? なんて一瞬頭によぎったけど、どう考えてもそんな雰囲気ではない。まぁ俺、熱海に振られてるしな。


『全然構わないぞ。熱海の親御さんも、隣にどんな奴が住んでるか心配だろうからな』


『うん、ありがと有馬』


 俺も会話に入るだろうけど、どちらかというと親同士の話になったりしそうだな……母さんにもそれとなく伝えておくとしよう。


 そして俺は俺で、向こうでちょっとした――些細な目的がある。


 七年前のあの日、俺を見て泣いてしまったあの子を助けた場所に行って、過去と決別したいのだ。


 そこになにかがあるわけではない。あるのは記憶だけ。


 もう俺は、あの頃の太っていじめられていた俺ではない。だけど、心の奥底ではずっと怯えていた。だからこそ、高校に入っても人間関係はずっと希薄なままだった。


 しかし数少ない友人たちの話を聞いて、少しずつ『心配することはない』と思えるようになった。


 見た目なんか関係ないと、熱海は怒ってくれた。

 プールで溺れていた黒川を助けても、誰も俺を非難することはなかったし、むしろ感謝された。

 そしてこんな俺を、黒川は好きになってくれた。


 誰かひとりのおかげではない、俺に関わったたくさんの優しい人たちのおかげで、俺はここまで立ち直ることができた。


「本当、恵まれすぎているな、俺は」


 スマホを枕元に置いて、天井を見上げながら呟く。


 再び届いたチャットは黒川からで、『有馬くん宛にお手紙を書いたから、今度渡すね』とのこと。間接的に俺が受け取った蓮宛の手紙を、俺用に書き直してくれたようだ。


「一度はお礼を断ったけど、嬉しいもんだな」


 俺がする人助けには『父の命を価値あるものに』という自分本位の考えが多分に含まれていたけれど――もっと俺は、人からの感謝に目を向けなければいけないんだろう。

 




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