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ディバイン・インキュベーター1946~東京天魔揺籃記~  作者: 月見里清流
第四章 呪われた力の行く末
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10-1 mayhem(ウリエル)――旧函館要塞

挿絵(By みてみん)


「『ロバート隊長、第十一空挺師団から直通電話が入っています』」

「『――うむ』」

 朝一番の電話はキャサリンの取次で始まった。

 2月も半ばを過ぎ、まだまだ春の訪れは遠いと痛感する寒さ。にも関わらず、相変わらず事務所と倉庫は暖房に恵まれている。

 寝ぼけ頭に強めのコーヒー。こうでもしなけれれば、睡魔がそろりそろりとやってきて、微睡みの中に意識が沈み込むのは必定である。

 ヒロポン(除倦覚醒剤)が市販され、よくよく効果覿面と喧伝されているが、()()()()()()()()なんぞこちらから願い下げだ。

『……珍しいですね、直接電話なんて』

『しかも第十一空挺師団だろ? ハスキー作戦(シチリア侵攻)以来、結構激戦を潜り抜けてきた連中だが、確か今は北海道に進駐してたかな?』

『正確には札幌だな。北海道は札幌に空挺師団が駐屯し、防諜隊部隊(CIC)の連中が分遣隊として道内各所にいるはずだ』

 電話の邪魔にならないように、互いに情報を出し合う。

 電話口の先を一体誰か――?

 普通の部隊であれば、軍人同士の他愛ない会話かも知れないし、武器弾薬の融通に関する連絡かも知れない。

 しかし、ここは『()()()()』である。


『ロバート隊長に連絡という事は――』

『今度の敵は()()()()()()か!』

 俄にクラウディアが張り切り、目を見開いた。

 相変わらずの戦闘狂(バーサーカー)。彼女なら北極でも南極でも、喜んで戦いに行くのではないだろうか。

『勝手に盛り上がるんじゃない!』

 電話をしながら、隊長が念話で我々を一喝した。

 口では用件を、頭で説教。随分と器用である。

 全員が肩を竦めて目の前の仕事、報告書の作成と資料整理作業に戻る。それから数分もしない内に、隊長は大きな溜息をついて受話器をガチャリと強めに置いた。

『騒々しいことになりそうだぞ、まったく――』

『どうしたんですか? ロバート隊長』

 私が恐る恐る尋ねると、鼻で息をならしながら窓の外を眺めた。晴れ渡る青空を滑るように輸送機(スカイトレイン)が飛んでいる。

『――全員聞いてくれ。急な話だ。北海道の函館山にて、怪異現象が発生。2日前の夜19時頃、短時間の間に大規模な発光現象が確認された』


 ――目撃証言に曰く。

 函館の夜空を貫く雷光、いや、見たこともない輝き目撃された。青白いリング状の電光と、その真ん中を貫く白刃の電光が、闇夜を切り裂き街を照らした。音もなく、山頂部が光るような発光現象が、断続的に三十分ほど続いた。

『現象自体はそれきりで、まず昨日早朝にソ連の新兵器を疑い、防諜隊部隊(CIC)と第十一空挺師団の兵士数人が現状を見に行ったが、異常は発見されなかったそうだ』

 米ソの対立――。

 米軍側が認知していない現象は畢竟敵側であるソ連の謀略である、というのは寡聞にしても理解出来る。何も発見できなかったのは調査隊としては歯痒いだろうが、ないならないで自然現象と割り切る事も出来た。

 だが、それで終わらなかった。


『初動調査の後、北海道に滞在していたG2(参謀第2部)、おそらく特務機関所属の数名が、同地を探索すると第十一空挺師団に報告。その後、連絡が途絶えたとのことだ』

 話を聞く、皆の目が大きく開く。

 電流が走るように背筋が伸びる。

『隊長、それは――!』

『あぁそうだ。()()()()だ』

 京都での折、デービッドが口にした存在。

 正式名称は不明。いや、看板を掲げているのかも疑わしい。

 隊長の調査によれば、米国統合参謀本部のOSS(戦略情報局)――この組織はもう解散したらしいが、その構成員が一部進駐軍内部の連中に引き継がれ、日本で活動しているらしい。

 戦時中に『ラセツ』や日本人に対し『呪殺の祈り』なる秘儀を行っていたというが……実感は全然湧かない。戦場での怪談話、行方不明になった兵士が化かされたという噂もあるにはあったが、死は往々にして敵軍の弾丸や砲弾によるものである。

 戦場では『不思議』は()()()()()として処理される。

 怪異に関する報告は上がらないし、戦闘詳報や記録にも残らない。だから、どれほどの効果があったかは未知数だ。

 ただそれでも、米軍の作戦に協力し関与していたのは間違いないだろう。

 その彼らが北海道で怪異の調査をしていた?


『連絡途絶の報告を受けた第十一空挺師団の師団長が心配になり、我々の構成員という伝を頼ってここに連絡してきたらしい。現場は彼らを中心に封鎖されているが――、厄介なことになるぞ』

 隊長の一言に、皆が一様に黙考に入り込む。

 何かがおかしい。

 直感がそう告げている。すると、私より先にデービッドから疑問が上がった。

『どうして彼らがここまで早く――? そもそも秘密工作行う特務が第十一空挺師団に報告する義務などないようにも思えますが……』

 全く同じ事を考えていた。

 あらゆる組織的行動に報告は必要不可欠だが、組織の()()()を飛び越えてまで報告を行うことは非常に稀である。

 旧陸海軍の対立は語るに及ばないとしても、いささかに不穏。その疑問に答えたのは隊長ではなく、髭を撫でながら目を瞑っているマイクだった。

『デービッド、難しく考えるなよ。早く動くって事は急ぎの用、誰よりも先に何かを確認したいってことだろ? ()()()()()()()()()()()がそこに在ったって事だ。それに、通常考えられないことをするって事は、()()()()()()を見込んで動いた証拠だろう』

『想定外の事態って、……なんですか?』

 キャサリンが訝しげにマイクに問うが、それに応えたのは意外にもクラウディアだった。


『――案外助けを求めてるんじゃねぇか? ここ(神聖同盟)によ』

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