表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/78

第43章 父からの手紙

前回から間があいてすみません。

これから少しずつ投稿します。

  

 そして五人で会合を持ったその翌々日、再び私達は第三騎士団の小部屋で、クロフォード殿下抜きの会合を持った。

 殿下が加わると目立つからだ。もちろんロンバード子爵親子もかなり目立つのだが、前日子爵邸には変装道具を届けておいたのだ。

 

 フィリップから話を聞いてみると、たった二日で事態がかなり変化していた。

 おそらくそれを動かしたのはキンバリーだろう。

 早くフィリップと婚約して結婚したいのに、口約束から一向にそれが先に進まない。その事態に焦っているというか、苛立っているのだろう。

 このところキンバリーは、何度も王城にいるフィリップのところまで押しかけてきて、耳元のイヤリングを揺らしていたという。

 

 これまでも彼女は怪しい香水を使ってフィリップを誘惑していた。

 しかし、このところなぜかその効果が薄まったように思っているようで、必死な形相をしていたらしい。

 実際は弱まったわけではなく、フィリップが夜香草(やこうそう)を上着のポケットに忍ばせていたからだったのだが。

 

 香水による効果は、たまたま側をと通りかかった彼の同僚の目付きが変わり、キンバリーに熱烈な視線を向けていたことでもはっきりした。

フィリップだけではなく、私の部下やキンバリーに付けた騎士達もそれを目撃していた。

 もちろん彼女が帰った後で、誘惑された彼らのことは浄化してやったそうだ。

 今まで自分も彼らのように、熱を帯びた目を彼女に向けていたのかと思うと、ゾッとした。そうフィリップは言った。

 

 キンバリーは叔母である|ジルスチュワート侯爵夫人《母》にも、早く婚約の書類にサインをしてもらうように、ロンバード子爵を誘導して、と頼んだらしい。

 しかし今は息子の婚約者候補のお試しをしている最中なので、子爵と会う時間はとれない。焦らず少し待つようにと諭されてしまったようだ。

 

 母はもちろん姪の恋を応援していたが、今はそれどころではなかったのだ。

 そのことを昨日私はカイルから聞いていた。

 なんと五日前に領地にいる父から手紙が母に届いたのだそうだ。そして同じ内容のものがカイルにも届いていたようだ。

 その手紙には

 

「たった一人の大切な跡取り息子に未だに婚約者も見つからないのは、全て母親である君のせいだ。

 その意味は君が一番よくわかっているだろう。

 自分に断りもなく、前時代的な婚約者候補のお試しなどをやっているようだが、まったくもってジルスチュワート侯爵家の恥である。

 しかし実施してしまったのなら今さら仕方ない。

 これでもし、セルシオ(ルシアン)の婚約者が決まらなかった場合、君とは離縁する。その覚悟を持ってやるように。

 それと候補のご令嬢方にはくれぐれも失礼のないようにしてくれ」

 

 と書かれてあったらしい。母はこの手紙を読んで仰天していたらしい。

 両親は政略結婚で、二人の間に愛情があったことなど一度もない。祖父とのことが判明するまでは、父は一応母と上手くやろうと努力はしていたらしいが、母の方がまるで歩み寄らなかったらしい。

 祖父とのことがばれても、どうせ離縁されることはないと高を括っていたらしい。

 嫡男を産み、最低限の義務は果たしたのだからと開き直っていたようだ。

 

 高位貴族の夫婦がそれぞれ愛人を作るのは普通だと、領地で父が幼なじみの未亡人である侍女頭が仲睦まじい、という噂を耳にしても気にすることもなかった。

 そして自分自身も見目麗しい若者と、日々逢瀬を繰り返していた。

 ただ避妊だけはしっかりやっていたらしく、父親違いの兄弟は誕生しなかった。

 どうやら、私を産んだ時、体型が崩れて大騒ぎをしていたらしいから、二度と子供を産まないと決めていたのだろうと思う。

 

 そんな自由奔放な母は、ずっと父と夫婦でいるつもりはなかったようだ。

 侯爵夫人の仕事はただ華やかに社交をしていれば済む話ではない。家政を任され、屋敷を切り盛りしなければならない。

 いくら優秀な家令や執事がいても、最低限の仕事はしなくてはならないのだ。

 母はそれが鬱陶しくなったようで、円満な離縁をしてある程度の財産分与を受けて、運命の人であるロンバード子爵の後妻に、いずれは納まる腹積もりをしているらしい。

 

 それなのに、侯爵夫人としての役目をこなさなかったと有責で離縁されてしまったら、予定していた財産分与がもらえるかどうかわからない。

 しかも、まだロンバード子爵との仲も以前のような関係には戻っていない。

 今離縁されては困ると、母は今かなり焦っているらしい。

 

 そんなところに、あの食中毒騒ぎが起こって、婚約者候補の三人のご令嬢が入院してしまった。

 しかも殺人未遂事件の容疑者として、自分が預かったロンバード子爵令嬢が、騎士団の留置場に拘留されてしまったのだ。

 母の不手際だと父から叱責されても当然の出来事だ。それ故に母親の頭の中は今、どうやって事態を収拾するかで大わらわで、姪のことなんてかまっている場合ではなかったというわけだ。

 

 しかし、しばらく待つようにと言われて待つキンバリーではない。

 それを一番わかっているだろうに、母は浅慮で危なっかしい姪を放置してしまった。

 その結果、キンバリーはその翌日、つまり一昨日、なんと先触れなしにロンバード子爵家を突撃したらしい。

 

 キンバリーの動きは影の報告でわかっていたが、その滞在時間はわずか十分程度で、しかも屋敷の中にも入らなかったと聞いていた。何をしに行ったのだと訝しく思っていた。

 フィリップによると、キンバリーは領地へ行く前に見舞いに来たのだと言っていたそうだ。フローディア嬢に会って直接贈り物を渡したいと。

 しかし、誰が来ても絶対に屋敷の中に入れるなとフィリップに厳命されていたランメル夫妻によって、中には入れてもらえなかったようだ。

 いくら突然の訪問であっても、本来なら格上の家のご令嬢を門前払いするのは失礼に当たる。

 そこで彼らはこんな小芝居をしたそうだ。

 

「フローディアお嬢様は今流行り病に罹って寝込んでおります。

 私が最初に罹って移してしまったのです。ただでさえお体が弱いのに、今大分ひどい状態なのです。高熱で苦しんでおられて。

 レイクレス伯爵令嬢様にもし移してしまうと大変ですので、このままお帰りください。

 ゴホッ! ゴホッ!」

 

 目の前でレンネさんに咳き込まれて、流行り病を移されては大変だと、キンバリーは珍しく素直に帰ったのだという。

 ただしフローディアへの贈り物だといって、化粧品のセットをレンネさんに手渡したそうだ。

 

「いくら病人といっても女の子は可愛く、美しくなりたいと思うものでしょう。

 私とフィリップ様の婚約式や結婚式にはフローディア様にぜひ参列して頂きたいの。

 だから、お化粧の仕方を練習しておいてね、とお伝えしてちょうだい」

 

 と言いながら。

 

「キンバリーが訪問したことをフローディア嬢は知っているのですか?」

 

 私が訊ねると、フィリップは頭を横に振った。そしてキンバリーが持ってきたという化粧品を、テーブルの上に広げた。

 それを見て私とマッケイン伯爵は顔を合わせて頷き合った。

 やっぱり思った通りだった。派手な濃いショッキングピンクのコンパクトケースに入ったファンデーション。

 そして金色のスティック状の真っ赤なルージュ。

そして豪華なガラス瓶に入った化粧水。

 ディアナ嬢が夫人の部屋から見つけた品々と同じ物だった。

 そしてそれらの化粧品には、それぞれ違う毒が入っていたのだ。それらはみな少量だったが、使用すればするほど体に蓄積されていって、やがて死に至らせる。

 しかも死因が特定されないように、複数の毒が混ざり合うようになっていたのだった。



読んでくださってありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ