6話
私は 生まれた 親が 親になった
イロイロあった イッパイあった
待っててね 沢山のお土産話もって帰るから
前回のおさらい
パパ お願い
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ランコは笑顔で
ハルと室長の後ろ辺りに手を合わせて語りかけた
「お前は 言い出したら聞かない子だからねぇ
室長さんの言うことをきちんと聞くんだよ」
突然 森の大きな木が枝を揺らし始めると
数多くの鳥たちが鳴きながら飛び去る
「「えっ?」」
ハルと室長は突然の事に驚いて反応しきれない
「ありがとね パパ大好きね」
満面の笑みをランコが見せるなか
「貴方は 本当にこの子に甘いんだから」
諦めの吐息がまじった様な別の声が聞こえる
「まぁ いいじゃないか母さん
かわいい子には旅をさせろって言うだろ?
それに、この子なら何があっても大丈夫だ」
ハルと室長はようやく後ろの二人の会話が
我が子の話をするご両親の会話であることに理解が至り
挨拶をしなければいけないと考え付き
振り返ることが出来た
「「なっ・・・」」
いつの間に後ろに接近されたのか全く気づかなかった。
大きな顔が幹に形作られた大木と
紫色の花をつけて
葉っぱの部分に目がある少し禍々しい感じの木が
そこには立っていた
「ママも心配しないで大丈夫ね」
ランコは母木?にも声をかける
「あら 私は貴女が何処に行っても大丈夫だし
誰の目に触れても恥ずかしくない
自慢の娘だと信じていますよ?」
抱きついてきたランコを優しく受け止め
母木は、紫色の花のついた枝で丁寧に頭を撫でる
「室長さん 貴殿方は
娘を その・・・ランコと呼んでくれていましたよね
娘の事、宜しくお願い致します」
父親木?の大きな木が枝をワサワサと揺らしている
頭を下げているのだろうか?
「あっ はい私が責任をもって
娘さんを預からせていただきます」
室長は、自分の立場を弁えて、ランコを守ると誓って見せる
その横で
今度は、母親が紫の花のついた枝をハルに向ける
「ランコを悲しませるような事は
しないであげてくださいね?
さもなくば、生きながらに動けず眠れず抗えず
貴方が死にたいと願っても死ねず
殺してくれと懇願しても殺さないままに
永遠に生き血を吸い続けますからね?」
そっとハルにだけ聞こえるように脅しをかけてきた
「ももももももモチロンそんな事はさせませんですよ」
フワッと甘いニオイを残して紫の花付きの枝が引っ込む
「母さん ランコの事が可愛いのは分かるが
ココは1つ、信じてみようじゃないか」
父親木は、話の内容こそ聞き取れていなかったが
母親木の性格は把握しているようで
ハルへの内緒話にも見当がついているらしく
軽く、本当に軽く 母親木をたしなめていた
「ランコちゃん 良かったわね
ご両親の許可が貰えて」
室長はランコを抱き締めた
「ひっ・・・」
ハルだけが両親木を
見ることのできる立ち位置なのを良いことに
両親木は、鋭くとがった枝を
ハルを貫かんとする勢いで伸ばす
「どうしたのハルトさん
そんな怯えたような声を出して」
室長の気遣う声にも
両親木の目が光ったように見えているハルは
「何でもないです 大丈夫です 問題ありません」
首を激しく左右に振って誤魔化すしかなかった
室長もランコもハルの様子が よく分からなかったが
ハル本人が気にするなと言うので、特に気にはしないようだ
「ところで・・・
この森にいる間の事は、全て見ていたのでしょうか?」
室長は、言葉を選びながら質問をしていた
「それはもう しっかりと見ていましたとも
我々の見守るなか、大人の階段を一歩ずつ」
父木が身を捩らせながら、説明を始めたところで
「わーわーわーあーーーあああああ
ちょっと待った ストップでお願いします
そこはもうオッケーです 詳細はいりません」
室長が出せる限りの大声でそれを遮ると
「我々は常にオープンゆえ 気になんかしません」
少し残念そうに説明を止める父木。
「うちの娘も、大層喜んでいるようでしたのに」
母木もそれに習い、一言を加えるにとどまる
「一生の不覚だわ まさか全部見られていたなんて」
室長が、赤面したまま地面に崩れ落ちる
「室長 ドンマイね 気にすること無いね」
ランコは笑って室長の肩をポンポンと叩く
「あの えっと・・・」
ハルも何か慰めを言おうとするが
「お前は 何も喋るなぁ~~~」
地面の低いところから鋭い切っ先を貫きあげる
ハルは小さく悲鳴をあげて死を覚悟するが
ギリギリ一歩引くことが出来た
その一歩が命運を分けたらしく
目の前がドクロに埋まるのではなく
室長の貫きあげた剣の切っ先に
視界の全てを奪われるに止まることが出来たようだった
室長は、この時 更に風の刃を突き上げていたらしく
丁度 頭上にあった雲が
その風の刃によって霧散していたのだが
その事を、室長を含め現場にいた者達は
誰も気付いていなかった
この後も ずっと自分の醜態が頭にちらついては敵わないと
「ちょっと休憩しましょう」
室長は有無を言わせぬ素早さで
強引に、お茶セットをテーブルに用意する
「では 私たちだけでも同じ席に座らせて頂きましょうか」
大きな父木が体を揺らすと
テーブルの近くに2本の枝が落ちてきた
次の瞬間 その2本の枝が
熊の顔をした大男と
紫色の化粧が少しキツメで
昔ヤンチャしてましたと語り出しそうなすらりとした女に
姿を変える
ハルが なぜ熊?と
ツッコミを入れるか迷っている内に
「パパと、ママね」
ランコが母木に抱きつきながら
ハルと室長の二人に紹介をしていた
「改めまして
娘さんを一時的とはいえ預からさせて頂きます」
室長は挨拶をしてから、香りの良い紅茶をカップに注ぐ
「まだ世間知らずな娘ですので
いろいろと勉強させてやってください」
ランコの事を
とても深く愛しているのが分かる優しい顔で
ランコの頭を撫でながら、父木が室長に頭を下げる
「室長 これ魔法のスープね?
パパ ママ、魔法のスープ美味しいね
飲んでみてほしいね」
ランコは、早速新しい発見が出来たことが嬉しいのか
両親木に熱心に薦めていた
「ランコちゃん ちょっと待って
最後の仕上げをするから」
微笑ましい光景に室長も嬉しそうだ
ハルだけが、父木の熊顔にショックを受けたままだが
誰も、その事を気にする者はいなかった
「昨日のとは、また少し違うけど
やっぱりスゴく美味しいね」
ランコの輝く笑顔に、少し場が落ち着きを見せる
室長も紅茶を飲み、呼吸を整えているようだ
「ところで室長さん うちの娘が見せた
変身ともとれる、あの姿はどういう魔法なのですかな?」
そろそろ頃合いだろうと、熊顔の父木が訪ねる
しかし 室長は驚きの表情を見せて
「すいません
私も今、お尋ねしようと思っていたところなんです」
ランコの体に不調が無いことだけは確認できたのですが・・
それだけしか、室長は付け加えることが出来なかった
「娘よ 体が変化している間と
元に戻ったあとに、体の異常は本当に無いのだな?」
父木がスゴく心配そうに聞く
「大丈夫ね 体は何とも無いね。 ただ・・・」
ランコは少し言うことを躊躇っているようだが
「ランコ 出来るだけ状況は把握しておきたいんだ
だから頼むよ」
ハルが熊顔のショックから立ち直って
ランコを説得すると
ランコは頷いた
「美味しそうと思った石はね
口に入れると、爽やかな感じがしてから
少し甘いニオイがして
気がつくと、室長がメロメロになってるね」
また その話に戻るのかと
室長は顔を赤くして項垂れるが、ランコは気にせず続ける
「だけどね
美味しそうと思わない石は口に入れても ただの石ね。
全然美味しくなかったね」
ハルと室長が目を離している隙に
ランコは一人、自分の変化を調べているらしかった
「そちらのマスターとやらに
勝手に名前を付けられて」
父木のトゲの有る言い方に
ハルは頭を下げて、謝罪を呟く
「強力な魔法力を持つものと契約を交わして
娘の体内に魔法力が急激に流れ込んできた為に
娘の体内の魔法組織が
我々の思いも依らぬ変化をもたらした・・・と」
父木は事実だけを客観的に述べてみた
それから少し考える姿勢を取ると
「母さん」母木に視線を送る
頷いて答える母木は
「娘の門出ですし 身だしなみとして
持っていても可笑しくないものね」
母木は後ろ手に自分の服の中に手を入れると
中から小さな小箱を取り出した
「2つ3つまでにしなさいな
あとは、そこのマスターさんに上手におねだりするのよ?」
「すごい宝石やアクセサリー、指輪の数」
ランコより室長の方が目を輝かせていたが
ハルは気にする素振りもなく
「ランコ この中に気になる物は有るのか?」
ランコに訪ねた
「この青いやつ 爽やかな味がして
とっても美味しいね」
ランコがつまむと、すぐ口に入れようとするが
ハルは、それをギリギリで止めた
「ランコ ちょっと待った
今は食べるのは止めておこう」
物欲しげにサマーサファイアの指輪を見るランコ
その、すぐ横で舌打ちをして
ハルを睨む室長の姿があったが
ハルは気付かない振りをしてやり過ごす事にした
「それだけか?」
ハルに聞かれ、ランコは再び宝石箱に視線を戻す
「今は どれも食べちゃいけないね?」
ハルが頷くのを見てから、2つの宝石を手にとって見せる
「この中では あとコレとコレね
他は美味しそうとは思わないね」
「桜真珠と・・・ 何かしら、見たことないわね」
室長が横から片方の石の名前を教えてくれた
「これはダメよ」
その場にいた1人を除いて
名の知れぬ石の観察をしていたが
母木が そっとソレを宝石箱に戻すと
サマーサファイアと桜真珠を残して
服の中に仕舞い込んでしまうのだった
「ママ 今のは、何と言う石ね?」
ランコの興味本意からの質問に
「ママのオバァチャマから
娘ではなく、孫に相続させるよう厳しく言われた物なの
貴女に子供ができて
その子供が、周りから大人になったと認められたら
その時は孫に渡すから、自分で聞いてみなさいな」
柔らかな笑顔の奥に、頑なに言わないと
決意が見えた気がハルにはしていた
「うーん そんなの待ちきれないね
それに別の場所で見つかるかもしれないね」
ひとまず母木の隠した石は話題を逃れると
「こっちの桜真珠も食べてみるね?
そしたら、また室長とラブラブね」
ランコは余計な事を言い、室長はダメージを受ける
「いや 止めておこう
凄く綺麗だし、まず勿体無いよ」
ハルは、宝石を食べるとか幾らかかるんだよ・・・と
食費の事で憂鬱になりながら、ランコを止めた
「ちょっと気になるけど
マスターが言うから止めておくね」
ランコも素直に従ってくれた
「そうした方が、良いかもね」
室長はランコに桜真珠を見せてほしいとお願いする。
ランコは食べられないのならと、室長にすぐに手渡した
室長は桜真珠を覗きこむように目を近づける
「うん、やっぱりコレ桜真珠の中でも
凄く良い部類に入ると思うわ
産地を知っているのだけれど
大きさも形も色も、いろんなヤツを見たことがあるもの」
室長から返してもらった桜真珠を
次はランコが見ていた
「産地・・・ですか」
サマーサファイアの時には出なかった明確な情報だ
「マスター 私、やっぱりコレ食べたいね」
我慢しているようだが、ハルが許可を出せば
すぐにでも食べてしまいそうな勢いをランコの目はしている
「まだちょっと地名とか分かんないですけど
その産地と言うのはどんな所なんですか?」
ハルはランコには首を左右に振り許可を与えずに
室長に質問していた
「海・・・じゃなかった、とっても大きな川よ
そこで養殖っぽいことをして
この桜真珠を特産品として扱っている町があるのよ」
室長は突然何かを思い出したかのように
魔法のメモを見始める
「ランコ 海くらい大きな川って見たこと有るか?」
ハルはランコから、桜真珠を食べられないよう
取り上げてから聞いていた
「うみ・・・っていうのがチョット分からないね
でも見たことないね
私、近くの町までしか行ったことないね
だから そのうみって言う場所、私行ってみたいね」
ランコは海がどんな場所なのか
思いを馳せているようだった
「杉流ハルトさん」
「はい」
室長が突然ハルをフルネームで呼び出したので
ハルは驚いて、佇まいを整えて直立する反応を見せる
「まずはコチラを見てください」
室長のマジックメモに
知らない中年男性の写真が表示される
「・・・この人は?」
ハルは知らない人の、しかもオジサンの写真を見せられ
沼とはいえ 森とはいえ
見たことの無い新鮮な光景ばかり見て
頭の中のゲーム脳が喜びに満ち満ちていたが故に
急に現実に戻らされた感が募り
不快な思いを感じていたのだった
「この人を 知らないのですね」
室長は少し落胆を見せながらも続ける
「では まず そうですねぇ
この人を調べるところから始めてもらいましょうか」
いろいろと決め事をしているらしく
「ハルトさん
この男性を、地球に帰還させてください
それが、初仕事です」
室長が、知らない男の写真を得意気に見せているが
「えっと いや
話の流れ完全に無視してませんか?」
ハルが困惑の表情を見せると
「大丈夫 何も問題ありません」
今や、ランコや両親木にまで掲げているが
おっさんの写真なのが、何とも締まらない
「何故なら この人は、桜真珠の産地の町に居ますので」
ランコは楽しそうに室長の周りではしゃいでいた
「なんとも ご都合主義な・・・」
ハルが冷めた感じでツッコミを入れると
「何を言うの?
最初に送り込まれるフィールドと
近隣の城や町なんかは全て把握しているの
場所に合わせて、初仕事を割り振るなんて
造作も無いことよ」
室長に人差し指をビシッと突きつけられ
反論が許されない格好になっていた
「じゃあ 最初のくじ引きって」
「あれは本当にランダムで
草原や森 海や川、谷とか山とか砂漠とか
いろいろ揃えてあったのよ」
ハルにとって
ようやくクジ引きの謎が解けたわけだが
「だからって それで
どことも知れないフィールドの空中に投げ出すのは
やりすぎなんじゃないですか?」
ハルは、謎ではないが不満に思っていることを愚痴っていた
「あー・・・あれはですね」
途端に 室長のさっきまでの勢いが無くなる
「大体 実際のラノベとかと違って
仕事として異世界転移するわけだから
最初のフィールドがクジ引きなのは良いとしても
ちゃんと地面に足をつけた状態で転移してくれないと
新人研修も何もあったもんじゃないと思うんですよ」
何度も、主に室長に殺されて変に度胸が着いたのか
ハルは室長に詰め寄っていた
しかし室長は、それをサッとかわすと
ランコに駆け寄り
ポケットに隠し持っていたサマーサファイアを食べさせる
ランコは目には見えていなかったが
口のなかに入ってきた感触で、それが何か判ると
次の瞬間には、夏夢の姿に変身しているのだった
「夏夢くん ハルトさんが苛めるの
だから慰めて」
室長は既に夏夢の胸に飛び込んでいる
両親木からは
実際に娘が変身したことへの感嘆の声が漏れていた
「アッ きたねぇ まだ隠し持っていたんですね
だけど夏兄になったからって
空中に放り出したのを許すことには
繋がらないですからね」
ハルは夏夢になったランコも意に介せず
室長に詰め寄り続けていた
「確かに あれは私がくしゃみをしてしまった事に
クスティアが驚いてしまって
空中に放り出すような形になってしまったのは
申し訳ないとは思・・・グフフフフフフ」
夏夢の腕のなかに包まれながら
謝る姿を不憫に思ったランコは
夏夢の姿で、室長の頭を優しく撫でる
「マスター ヒミコも謝ってるね
許してあげるね」
しかし ハルは許しを乞うランコから室長を引き離すと
「ランコ、騙されるな
これが人に謝罪をしている者の顔かどうか見てみるんだ」
室長はすかっり目をハートにしていて
「あー もうちょっとギュッとしてぇ」とか
「耳元で やさしくヒミコって呼んでぇ」とか
ボソボソと呟いていた。
「ヒミコ」
さすがに だらしない顔をしていた室長を見て
引いてしまったのか、ランコも苦笑いを浮かべていたが
次の瞬間
一番最初にあった幼女の姿に、見た目が戻ってしまっていた
「あらやっぱり 早かったわね」
抱きついてもらう側の体勢だった室長は
今は、ランコを抱きしめる体勢に入れ替わっていた
「今ので また少し分かったことがあるわよ」
顔も締まりの無い顔ではなく、仕事モードの顔に戻っていた
「正直 何形態位、変身出来るのかはまだ分からないけど
幼女形態の時と少女形態の時とでは
変身していられる時間に大きな差があるということと
ランコちゃん自体が変身を維持する意思の有無でも
差が出るっぽいわね」
ランコの頭を撫でながら、室長は説明を加える
「あと 変身が解けた後に幼女形態に戻るやつは
一種のガス欠モードって認識で良いと思う
時間が経過すると元に戻るみたいだし」
この場にいるランコ以外は
分かりやすい説明を披露する室長に
感心の眼差しを送っていた
「室長さん
かなり分かりやすい説明ではあったのですが
ガス欠と言うのはどういう状態を指すのですかな?」
そもそもの文明が違う父木には分からなくて当然だったが
娘の事を少しでも理解しようと勤めていた
「あぁ そうね、ごめんなさい
ガス欠って言うのは簡単に言うと
すんごいお腹が減って動けない感じ
魔法力が無くなる寸前位の事を言っているって
思ってもらってかまわないです」
室長の説明に
父木は、大体の事は理解した有り難うと感謝を述べると
情報を整理したいのか、腕を組んで目を閉じてしまう
「じゃあ 自分も一つ聞きたいんですけど
ランコの魔法力って成長するんですか?」
ハルは、今後の事をいろいろ考えながら聞いていた
しかし、室長の答えは
「解らないわね
正直、住む世界が違ったんだもの
それは コレからじゃないかしら」と言うことだった。
「じゃあ俺は?」「ゲームよ」
「は?」
室長は、ハルの次の質問を読んでいたのか
間髪入れずに答えを返してくる
だがそれを、ハルの方が受け入れられないでいた
「えっと
ゲームっていうのはどういう・・・」
更なる説明を求めるハルに、人差し指を突きつけると
「これ以上は 社外秘です
地球に戻りましたら説明すると言うことで
今は納得して頂けないかしら?」
笑顔で、これ以上の追求を止めさせたのだった
「それは 分かりましたけど
ランコは本当に連れていけるのですか?」
いつの間に眠ってしまったのか
今は母木に支えられる形で寝息を立てていた。
「やっぱり 変身て疲れるんですかね」
ハルはそれを心配しつつも微笑ましく見ている
「どうかしら そこら辺も正直何とも言えないわね」
室長も同じ顔をしてランコを見ていた
「室長さん マスターとか言う輩よ
ウチの娘を宜しく頼みます」
父木が、再度頭を下げて頼んでくる
「私は、ずっと一緒にいられるかは判りませんが
この男はずっとランコちゃんと
一緒にいることをお約束しますし
守らせることもお約束させていただきます
今はまだ頼りない男ですが
殺す気で鍛え上げますので
二人の成長共々、暖かく信じてやってください」
室長も丁寧に頭を下げ返す
(殺す気でって、そんな物騒な)
ハルは若干引きながらも
チートのような魔法力があることを思うと
そこまでは心配していなかったのだが
「えっ?
ずっとパーティ組んでくれるんじゃ無いんですか?」
自分の事を簡単に殺してくれるが
知識や戦力として、頼りになるとあてにしていたのだが
それすらも違っているらしかった
「当たり前でしょ?
私は言うなればエリアマネージャーのような存在なのよ
いつまでも、あなた一人を世話し続けるなんて
出来るわけないじゃない」
しかし ハルがあまりにも驚いた表情を見せるので
「とは言え、あなたとランコちゃんの二人だけに
押し付けるなんて事もしないから安心してね
入社してすぐ先輩風吹かせるなんてなかなか無いわよ?」
室長はポジティブな情報を言ったつもりだったが
「それって人手が足りてないだけなんじゃ・・・」
ハルは、しっかりネガティブに捉えていた
ド直球な返しに、痛いところを突かれた室長は
「そんな事言わずに頑張ってよ
新規開拓事業の拡大中で、こっちも手探りなんだから」
下手に出て、態度の低い姿勢を取っていたが
「会社として、仕事としてやっていけるんですか?
コッチに居る間に
会社が潰れて帰れなくなりましたとか
嫌ですからね?」
ハルのこの一言に
「ハルトさん
アナタ私の仕掛けた罠に見事に掛かったわね」
先程までの低姿勢が一変 ふんぞり返る姿勢になっていた
「私と女神様とで
いろいろ試行錯誤したと言うのは会議室で話しましたよね
その中に副産物として
莫大な利益を挙げているものがあるの
あの立派な社屋を見たでしょ?
そんな簡単に倒産なんてしないわよ
ただ もし、会社がダメになる時が来るとしたら
それは地球とシクスティアの
両方が消滅する時かもしれないわ」
室長は高らかに笑いあげていた
「室長さんがスゴいのは分かったので もう一杯」
味を気に入ったのか、父木がおかわりを所望する
「よろこんで」
室長も、存外調子に乗りやすい所があるようで
居酒屋のノリやヨロシク
次第に集まり出していた木々達に魔法のスープを
振る舞いまくっていた
ハルが室長と父木や他の木々達との
宴会風景を眺めていると
「マスターさん 少しよろしいですか?」
ランコの母木が声をかけてきた
娘が急遽明日旅立つ事になったのだ
母親として、心配するのはごく自然な事だろうと
ハルは母木に向き合うように座り直す。
「娘の事、ヨロシクお願いしますね
私が言うと、親バカと取られるかもしれませんが
あの子は とても賢いんです。
きっと貴方に何かを感じ取ったのだと思います
それが何かは私には分かりませんが
あの子の事を、どうか導いてあげてください」
皆の前では ふざけてか、鋭い枝をハルに差し向けもしたが
今は、ハルに向かって真摯に頭を下げる母がいた
「僕も 偉そうに言えるほど立派な人間じゃ無いですが
ランコちゃんを悲しませるようなことはしませんよ」
責任の重さに、身が引き締まる思いで
ハルは、今の正直な気持ちを母木に伝えていた
「はい よろしくお願いしますね」
少し安心したのか、母木はもう一度ハルに頭を下げる
「えっ? 何かめっちゃ色気のあるお母さんだな」
ハルは不意に赤面してしまい、顔を背ける
「おい お前、娘を奪うだけに飽きたらず
俺の女にまで手を出そうとは、どういう了見だ」
そして 目を背けた先にいた父木と
ばっちり目が合ってしまう
「いや ちが・・・」
ハルは否定を試みるが父木の伸ばす枝に絡まれて
グルグルに縛り上げられ喋ることが出来ない。
言葉を発することが出来なくなってしまったので
室長に視線で助けを求めるが
「ハルトさん 少し痛い目にあった方が良いのでは?
不倫ダメ絶対!!!」
室長に助けてくれそうな気配は無かった
そしてハルは大きな木の一番上から吊るされてしまい
その下で盛大な宴会が催されているの見ているしかなかった
そして翌日の朝
二日酔いの室長と
簀巻きの吊るされからようやく解放された
ゲンナリ顔のハルに
元気一杯のランコというチョット残念なパーティが
新たな旅立ちの時を迎えているのだった
「娘よぉ いつでも帰ってきて良いからなぁ」
父木は最初こそ我慢していたが
直ぐに堪えきれなくなったらしく大号泣している
そんな父木の横に寄り添うように母木が立っていて
「楽しい お土産話イッパイ見つけてくるね」
ランコは二人に大手を振って
いつまでも、何度でもバイバイを叫んでいるのだった
「旅立ちって、結構感動しますよね」
ハルは室長に晴れやかな表情で話しかける
「ええ そうね
これも旅の醍醐味の一つかしら」
室長も笑顔で歩いていた
ここに来てようやく寄り道ばかりのハルは
ずっと遠くに見えていたシクスティアで初めての町に
向かって歩き始めた
・・・が、室長は何かを思い出したように二人を止める
「あっ ちょっと待ってください
大体でいいので、三日に一度くらいのペースで
これを使って
地球の会社に定時連絡を入れてほしいのです」
そう言って室長はスマホを取り出して見せる
「あの 定時連絡を入れるって言うのは判るんですが
スマホ・・・なんですか?」
ハルとしては見慣れたものだったが
未だ異世界の文明にあまり触れておらず
ちょっと残念に思ってしまうのも仕方が無いところだった
「いや あの これはですね
通信手段的にはどれだけでも用意出来るのですが
女神クスティアが着信が有ると喜ぶんです」
室長の苦笑いの返答に
「ボッチのJKかっ」ハルは思わず突っ込んでしまったが
室長は、苦笑いを浮かべたまま通話を始めてしまったので
ハルとランコは待つことしか出来なかった
「マスター ボッチのJKって何ね?」
ランコが目を輝かせて説明を求めてくるが
「あぁ まぁよくは分からんが淋しい奴ってことだな」
ハルも説明に困る内容だと濁すしか出来ないでいた
「そんな・・・ ・・・そうですね そうしましょう」
異世界でスマホを使い通話する室長という
なんともシュールな光景を眺めて静かに待つ二人
ようやく室長が通話を終えて、二人に向き合うと
「桜真珠の町に向かうね」
意気揚々とランコが声をあげる
しかし
「その事についてですが
一度地球に帰ることになりました」
室長は少し申し訳なさそうに告げる
「何でなんですか」
ハルは当然の様に説明を求めると
「前に見せたお客様を、覚えていますか?」
とても大事な事のように言う室長に
「もちろん覚えていますけど
あのオッサンに何かあったんですか?」
ハルは少し不吉な予感を感じつつ聞く
「御帰宅されました」
「ゴキタクサレマシタ?」
ハルは何を言われているのか理解できないと
室長の言葉を繰り返すが
「地球のご自宅に、お帰りになられたということです」
今回のミッションはクリアです。と
室長は笑顔で締め括ってしまう
「あー ちょっと予定より楽しみすぎちゃったけど
気が済んだし帰ろうかって事で帰ったって事で
間違い・・・」「ないです」
ハルの言葉に被せるように室長が言い切る
「まぁ じゃあ仕方無いのか」
ハルは溜め息と共に諦めの言葉を口にする
「いやね こんなにすぐ別れたくないね」
ところがランコが何かを察知したのか
二人と離れたくないとゴネだす
「ランコちゃん 落ち着いて」
室長の言葉が届いていないらしく、ハルに抱きついて
「一緒にいたいね 寂しくなるのは嫌ね」
年相応の駄々をこねる女の子のように泣いていた
ランコの泣き声であまり聞き取れてはいなかったが
ハルには室長が打開策を話そうとしているように見えていて
泣きじゃくるランコの背を軽く擦りながら
「ランコ ちょっと一回室長の話を聞いてみよう なっ?」
優しい声でランコを説得しようと語りかけていた
それからしばらくは ランコが落ち着くまで待つことになり
ようやく話を聞けるようになったらしいランコは
ハルの手をギュッとつかんで説明を求めた
「まずは はっきり言っておくと
ランコちゃんの今の魔法の操作力では
私たちの世界の状況には対応できないの
地球は魔法力の質量が圧倒的に少なすぎるし
魔法濃度の水準も物凄く低いの
だから地球に来ても身動きが出来ない
ここまでは良いかしら?」
まずは一つ目と
室長がどれだけ理解できたかの確認を取りに来ると
「やっぱり 離れ離れになるね?」
また少しランコがグズりだしていたが
「いや ランコ、室長の話をちゃんと聞くんだ
今は・・・って事は、いずれ・・・って事だし
身動き出来ないってだけで
来ることは可能なんですよね?」
室長は、ハルのただ復唱するだけでなく
理解しているかどうかを示す単語が拾われていることに
安心を覚えて説明を続けた
「この世界シクスティアと私達が住む世界地球とでは
時間の流れが違うから
それを踏まえて別行動する方法もあるのだけれど
今はとにかく一緒に居ることが
重要であると判断しましたので」
室長は、そこまでの反論を許さず一気に言い切ると
ランコを指差し
「今回 ランコちゃんも一緒に地球に行くことにしますが
ランコちゃんは、魂だけの存在で
見ることしか出来ません それでも良いですか?」
選択肢は無かったが
最大限の譲歩を感じられる室長の問いかけに
「ありがとうね 嬉しいね」
ランコは室長に抱きついていた
「室長 ありがとうございます」
ハルも、自然と室長に感謝を述べていた。
「はい じゃあ この話はここまでとして
ここにマーキングして、さっさと地球に帰りましょうか」
室長は鞄からマチバリのような小さい針を出すと
「ハルトさん ちょっと血を頂いてもよろしいですか?」
どんなに血を抜かれても
一定以上の痛みは無さそうだったので
ハルは腕を出しつつ説明を求めた
一瞬 チクッとしたハルだったが
刺された針が光に姿を変えるのを見て驚いていると
室長は次に一枚の紙切れを出して
針が変化した光を紙の上に誘導する。
すると誘導された光は紙の中に吸い込まれていくのだった
「おぉ なんかスゴいファンタジーな光景だー
ーーったけど・・・」
目を輝かせて事の成り行きを見ていたハルの目の輝きが
次第に消えていき
「なんでQRコード?
ってか、さっきからチョイチョイ時代遅れな
機器が出てくるのってなんなんですか?」
我慢しきれなくなったハルが盛大にツッコミを入れていた
「そこは大目に見てあげてください
女神クスティアが喜ぶんですよ」
室長が目を逸らしながらもクスティアのフォローを入れる
「スゴいね 見たことない模様ね
魔法陣か何かね?」
ただ一人 ランコだけはQRコードに大喜びだったが・・・
ハルは気を取り直してスマホでQRコードを読み込んでみる
するとアプリのインストール画面が表示され
インストールが始まったことを知らされる
ただの儀式的な意味だけなのだろうか
処理速度を無視したスピードで
あっという間にインストールが終わると
画面は、かなりの高さから撮られた上空写真の様な地図に
切り替わっていた
「いや 衛生写真かよ」
もはや言葉使いも気にしていないハルのツッコミに
「シクスティア全体を包む魔法力が
ハルトさんの血と反応して映像として見せているのよ」
反応することなく室長は
説明しながら、スマホの画面を拡大する操作をして見せる
「リアルタイムで
ほとんど誤差なしの映像が見られるのは
スゴいですけどね」
室長が上空に向かって手を振ると
スマホの画面の中の室長が
ハルに向かって手を振っているようだった
「ここに来て 変に魔法力が絡んでくるんですね」
ハルは、少しツッコミ疲れを起こしていた
「おぉ 室長!この板の中にもいて、小さくて可愛いね」
ランコだけはずっと楽しそうだった
「このアプリを使えば
ハルトさんがシクスティアに来てからの行程が
地図に自動更新されていきますし
チェックポイントを設置すると
いつでも瞬間的に、その場所に戻ることができます。」
設置できる数は一つですが・・・と
言葉を締め括る室長に
「最後に訪れた町に戻るタイプなんですね」
よくあるゲームタイプを挙げて、理解を示す
「さぁ これで本当に一度地球に帰ります。
準備も整いましたし、女神クスティアに
転移をお願いしましょう」
漫画やラノベでは、ほとんど帰ることの出来ない異世界に
自分は 仕事で来ることが出来るようになった
多少 時間経過に誤差は有るものの
初めての景色を目に焼き付けようと
ハルが周りを眺めていると
「来るときは
大空に放り出す様なことになってしまいましたが
本当は、本当にもっと安全な場所を行き来する筈でした」
最後に 再度、室長は謝ってくれた
「そして この青い光を触れば一瞬で」
初めてだからと、ランコはハルに抱きついて
室長はハルと手を繋ぎ青い光に触れる。
次の瞬間 目の前が真っ白に光る。
その光の眩しさが落ち着くにつれ、見た事のある風景に変わり
反応することも出来ないまま
ハルは会議室に戻ってきたことを目でもって自覚するのだった
室長が、ハルと繋いでいた手をソッと離す。
「別に決まった呼び方が有るわけではありませんが
私たちは地球に帰ってくることを帰世と言っています」
異世界から戻ってくる時って何て言うんだ?と考えた
まさにそのタイミングで
室長は説明をしてくれたのだが
心を読まれたのかと、思ってしまったハルの反応は
「なぁんぎゃあ~~~」
と何とも情けない叫び声を上げただけだった
< 続く >
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すっかりお馴染みランコちゃんのコーナーね
今回はマスターが
パパとママに「娘さんを下さい」って
挨拶しに来るところからね
パパもママもとても大きいから
マスターも室長も驚いていたね
両親の器が大きいと、娘である私は
自由に育てるから、とても嬉しいね
私は両親の前で変身も披露したね
やっぱりヒミコがメロメロになってたけど
変身って不思議な力ね
これからきっとイロイロ分かっていくね
それからそれから
桜真珠っていう、とても美味しそうな石のことが
知れて良かったね
どんな味なのか早く食べてみたいね
そうだ、ママがダメって言ったけど
もう一つスゴく美味しそうなのが有ったね
アレもいつか食べてみたいね
それから魔法水のパーティが始まったね
マスターはカラフルなのが好き?ん?何か違うね
でもよく分かんないね
とにかくパパが怒って、マスターを木に縛り吊るしてたね
不倫ダメ 絶対!! あはははは面白いね
そして、いざ旅立ったけど
いきなりマスターのお仕事終わっちゃったね
私、森に帰らされるのかと思って不安になったね
でも室長もマスターも一緒に行こう言ってくれたね
次はチキュウ?って言うところに行くね
私 よわっちいらしいくて
地球じゃあ まだ動けないらしいね
私 がんばるね
マスターの雄叫び?の続き
またきっと見に来てほしいね バイバイね
すこしづつ増筆します
ゆっくり待っていただければ幸いですが
なるべく精進する思いです