4話
与えたい 配りたい 分けあいたいし分かち合いたい
終わりなんて言って悲しまないで 喜びあいましょう
あなたは 主に何を望みますか?
前回までのおさらい
死んだ
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クスティアが小さく呟き
その場の全てが、凍りついた瞬間だった
「えっ?」
誰の声かも判別できないほど、全員の頭が真っ白になる
しかし さすがに室長といったところか
「クスティア何をしているの
私を早く、シクスティアに転送したなさい
私が行ってくるから」いち早く冷静に戻り 指示を出す
「でも ちょっと驚いちゃって
予定の位置と違うかもしれないんだよ?」
クスティアは、慌てて動揺しながらの返事を返す
「分かった
じゃあ あの沼上空に私を飛ばしてくれれば良いから
貴女は、杉流さんの遺体と魂を上空に引き上げて
蘇生してちょうだい
意識が戻るまでに、私が合流しておくから」
クスティアの祈りに、室長の体が光だす。
「私とクスティアがどちらかに移動するときだけ
他の人たちより時間がかかるのが、今は焦れったいわね」
歯がゆそうに室長は呟く
「杉流さんの蘇生完了
元々杉流さんの体だし魂との繋がりも十分なので
問題ありません 外的損傷も無さそうです
だから なるべく早く見つけてあげてください」
クスティアの言葉を最後に、室長は光と共に姿を消す
その場にいた全員に聞こえるように
「わかっている」と返事を残して。
そして「沼だったんだ・・・」
クジ引きの結果は知らずとも
内容を知っている全員がハルの転移先を聞いて
ハルの不運を憂いてため息を漏らすのだった
「杉流さん 杉流さん 起きてください
私です 分かりますか?」
ハルは自分を呼び掛ける声に気づき意識が目覚め始める
真っ暗だった視界に光が入り込み
ボヤけていた輪郭が少しずつハッキリと形を帯びていく
ハルの目の前には、先程までとは違う服装の室長がいた。
「良かった 杉流さん」
とりあえず安堵の表情を見せる室長
「杉流さん 本当に申し訳ありませんでした
十分な説明もしないままに
シクスティアに転送するようなことになってしまって」
すぐさま 頭を下げて、室長は謝っていた
「えっと・・・ そのワザとじゃないんです
その・・・ なんと言いますか」
歯切れの悪い室長に
「くしゃみで飛ばされるとか
どんだけマンガだよって感じですよね」
ハルは他意無く笑って見せるが
「すいません 本当にすいません」
室長は赤面のまま謝り続けていた
肩身の狭そうな室長を横に
ハルは自分の体に異常が無いかチェックしていると
「ところで杉流さん 何があったのか
説明してもらっても宜しいでしょうか?」
室長が説明を求めてくる
一応念の為にと、ハルは室長から
見たこともないような色の液体を 薬ですと渡され
それを甘くて美味しいな・・・とか思いながら飲み干す。
心よりも体が水分を欲していたようで
体の中を流れていく薬に
ハルは何かほぐれるものを感じながら
自分自身にも理解させるように語りだしていた
「地球で あの女神様が私の転送を進めてたっていうのは
分かっているんです
それから室長さんのくしゃみがキッカケで
視界がグニャリってなって
眩しく光ったかと思ったら、空の上に・・・」
室長は ようやく落ち着きを取り戻したかに見えたが
また赤面に戻り肩を落としている
その様子が、少し不憫で 少し可愛かった
「いや本当 怒ってはいません。驚いただけですから」
ハルの必死すぎるやりすぎフォローに
「すいません 続けてください」
室長は、恥の上塗りを少しでも防ぎ
このくしゃみ転送を一秒でも早く過去のモノにする為
続きを促した
「空の上にいるなぁ・・・って思ったら
当然の事ながら落下しますよね それで」
「ちょっと待ってください 落下はしますが
どんな状態で飛ばされたとかを抜きにしても
女神クスティアの御加護が働いて
落下程度の衝撃で死ぬなんて事ありえません」
ハルの説明を強制的に止めて
介入した室長は、言葉を捲し立てた
「えっ? そうなんですか?
自分の場合 地面に風で衝撃を和らげるイメージの
魔法を試してみたつもりだったんですけど」
早速 魔法を使おうとしたと言うハルに場所を聞き
室長は、周辺の空気中魔素を調べてみる
「残念ながら 魔法の類いは何も発動していません」
そして、痕跡が無いことをハッキリと告げる
「そうか・・・
いきなり使えてしまったと、テンション上がったのに」
ハルが少し落胆していると
「だからアナタが死ぬはずが無いんですよ」
室長は、なかなか進展しない話に苛つきを見せる
「風の魔法が成功したと思っている自分は
この沼地に着地して、その場を見回しました
そしたら、地面に女の子が頭から埋まってるじゃないですか
自分の魔法で埋まっちゃったと思い
助けなきゃって、引っ張り上げるわけですよ
そしたら その女の子、僕の顔を見るなり
「 」って
何言ってるのか分からなかったんですが
突然 視界イッパイにドクロがわき出て
体と意識が別々になってしまったのか
体が遠く離れて行くのに戻れないし
視界が少しずつ閉じて真っ暗になり
電源がオフになるようにブチって途絶えて
気づいたら、今に至るわけなんですけど・・・」
ハルは起きた出来事を一気に室長に捲し立てていた
そしてハルは、室長を見るが
室長は自分を見ずに違う方向に視線を向けている
「あ あれ?室長、私の話聞いてました?」
「あぁ・・・」しかし室長は軽い返事しかしない
軽い返事しかしないどころか、次の瞬間には
室長の目が見開かれ、ハルの背後に手を伸ばしてくる
「背中に何か?」
「 」
ハルは先程死ぬ直前に聞いた
意味のわからない聞き取れない声を聞くが
「この分からない声を聞いたら、意識が・・・」
視界イッパイにドクロが広がることはなく
先程と違って
光る室長と、室長に手をかざされ光るハルの姿があった
「なるほど そういうことがあったのですね」
室長は、全てを理解した表情を見せる
「杉流さん 動かないで」
後ろからしがみつかれるままになっているハルに
それだけ言うと
室長は小さな鞄からマントのようなものを出す
動くなと言われただけで、固く瞼も閉じていたハルは
恐る恐る辺りを見渡そうとするが
「まだ見ちゃダメです」室長に思いっきり怒鳴られる
「はい すいません
見てませんし 当然見ません すいません」
口早に謝るが、何が起こっているのか
完全に理解しているわけではないハルだった
「いいですか?
アナタは一応女の子の見た目をしているのです
無闇に人前で肌をさらすようなことは
慎んでください」
室長は ハルに抱きついていた女の子?にマントを被せる
そして、小さな声で女の子を注意をしていたが
残念なことに、ハルにも聞こえてしまっていて
目を閉じると、頭の中ではマントを羽織る
裸の女の子でイッパイになっていた
相変わらず 女の子の言葉は理解できないハルだったが
室長にかけてもらった体を包む光のオーラが
自分を死から守ってくれているだろうということは
しっかりと理解できていた
「とにかく そのマントは外さないように」
室長は、再度それだけ強く念を押す
「杉流さん どうやら、この女の子は
私たちの世界のゲームのキャラで位置付けすると」
説明が始まったので、目を開けてもいいと判断したハルは
マントを羽織った女の子をとりあえず見てみようと
視線を送ってみる
すると 丁度目が合い、視線が重なりあうのだが
ハルの想像していたよりもずっと幼い
おおよそ中学生くらいの姿をした女の子で
ハルは心底驚いていた
その驚く姿を見せるハルに女の子はニコッと笑みを見せ
羽織ったマントを上空に投げ捨てるのだった
そこには上空を指差す素っ裸の女の子が
満足そうに微笑んでいた
そして 驚いてはいるが
視線を逸らすことの出来ない情けない男に、天罰が下る
「は?」
しっかりと足は地面につけているはずなのに
視界だけが上空に飛ぶ
そんな景色を見た男の最期の一言は、あまりに軽かった
そして 再び上空に舞ったかと思った視界は
ドクロに染まり、暗転する
「な、なんだぁ?」
暗転した次の瞬間 ハルは地面に横たわっていた
そして ハルを心配そうに見守る二人の影
「室長と、・・・うん」
何度も死ぬ体験をさせられる少女だった
「もう大丈夫ですよ」
驚くハルに室長が説明に入る
「分かりました
2度目に死んでいる最中にそんなことが有ったのですね
って、それだけの為に俺を殺したって言うんですか?」
説明曰く 裸で迫る少女を押さえるより
ハルを一度動けなくしてから
少女をどうにかしようとした・・・ということらしい
一応 その目論みは上手くいったのか
今、少女はしっかりと服を着て
目を覚ましたハルに抱きついている
「些か 早急に事を動かそうとし過ぎたかもしれません」
室長は淑やかに頭を下げる
「それで この子は?」
ハルは、頭を撫でてやると嬉しそうな顔をする
少女の説明を求めた
「先程から まるで話が進んでいませんね」
室長はため息をつきながら続ける
「この子は簡単に説明しますと
マンドラゴラの一種ではなかろうかと」
詳しくは分かりませんが・・・と室長は説明を終える
「あぁ・・・」
ハルは最初に死んだときの事を思い返して
納得するものがあった
「あれ? でも、こんな可愛らしい女の子でしたっけ?」
ハルも 自身の知る限り、思い返してみるが
ここまでしっかりと人の形をしたタイプは見たことがなかった
「ですので マンドラゴラの一種ではなかろうかと」
少し困り顔の室長だった
「ヒミコ? 杉流さんは大丈夫でしたか?
それとも何か別の問題でも有りましたか?」
どうするかを思案していた室長の脳裏に
通信の様な念波が送られてくる
クスティアが室長に話しかけたようで
そのまま室長は、念話を始めてしまう
暇になったハルは、マンドラゴラの少女の頭を撫でながら
周辺を見回していた
「お前 親御さんは居ないのか?」
少女は ハルの問いかけに答えようとして
室長と目があったのか、声を出すのを止めてしまう
「そうか声を出したらマズイんだった」
つい その事を忘れて話しかけてしまったハルも
少なからず反省をして
「でも個人名くらい有るもんだよな
俺の名前は 杉流ハルト
どんな名前なのか 文字書ける?」
地面にハルトと書いて、文字と自分を交互に指差す
しかし少女は首を横に振るばかりで
名前が有るかどうかも分かりかねる反応だった
「う~ん 真名的なヤツは教えられないって事なのか?」
少女も答えられないのが、少し残念そうにみえていた
「そうだな・・・ マンドラゴラかぁ・・・」
ハルは口に出して、種族名かも知れない名前を呟いてみる
少女はそんなハルを見上げていた
「よし じゃあランコって呼んでも良いかな?」
少女は、自分を指差して首を傾げる
「呼び名が無いと、何処かの町に送り届けて
そこでサヨナラだとしても不便だと思うしな」
と、説明してから
「君が嫌じゃなければ、ランコって呼んで良いかな?」
もう一度 確認をとるように聞いてみる
「 ランコ」
前半は相変わらず聞き取れなかったが
最後に少女自身が確認をするように
ハルに呼ばれた少女の名を呟いていた
「おっ? おおおおおおおおおおおおおお」
ランコと呼ぶことを認めてくれたかと喜んだ瞬間
少女の体が眩い光を放ち、少し大きくなったように見えた
否、確実に少女とは呼べない位に成長しているのだった
「何? 次は何が起こったっていうの?」
ずっと眺める程度にしか二人の事を見ずに
クスティアと話し合っていた室長は
突然の少女の変化に、事の顛末の説明をハルに求めた。
「いやぁ 呼び名が無いのは不便だと思ったので
ランコって名前をつけたらピカッて・・・」
最後に小声で すいませんでした。と付け加えたのを
室長は、持っていた剣をハルに突きつけたときに
なんとか聞き取れていた
「あのさぁ杉流さん
名前をつけたら主従関係が出来ちゃうってゲーム
たくさんクリアしてましたよね?
そういうことになるって
少しも考えなかったのですか?」
ハルはもう一度小さく すいませんと、室長に謝っていた
「ごめんなさいね」
女の子もハルの横で、ハルの姿勢を真似ながら謝っていた
「貴女は謝らないでいいの
何故なら これは杉流さんがけいそ・・・つな・・・」
室長の言葉が止まり、すごい勢いで女の子を見る
「あ あなた、私たちと同じ言葉が喋れるの?」
口から声を出すようなジェスチャー付きで訪ねる
「私ね マスターと結ばれたね 言葉はね
多分、それで判るようになったね」
今はハルが頭を下げているので
ランコも同じように頭を下げて話す。
「結ばれた・・・って
貴方達 いつの間にそんな関係になってたのよ
人のいる前で、よくそんな事ができたわね」
室長は、ハルを何か汚いものを見るような目で見る
その目は、幼い見た目ながらに迫力があり
ハルは土下座の姿勢をとっていた
「ごめんなさい すいません
でもまだ何もしていません すいません」
必死に誤解を解く言葉を並べたてるが
やましい気持ちが全く無かった訳でもない焦りが見えて
少し痛ましかった
「ごめんなさいね 私たちまだね」
ランコの言葉は、聞きようによっては
更なる誤解を産み出すものだったが
「分かっています
今のような 軽はずみな行動を控えてくださいと
言いたかっただけです」
短くため息をつき、ランコを見る室長
「シクスティアより魔力濃度が低いかわりに
潜在的に高度な魔力操作スキルを保有する
地球人の杉流さんが名前をつけただけあって
魔力増幅と似た恩恵が発現したわけですね」
理解はできるが 見た目まで、こうも変わるのだろうか
室長は考えていたが、その答えは出なかった
「それにしても この姿は、杉流さんの趣味ですか?」
ハルは周りの温度が、5度ほど下がったように感じて
剣を握り直す室長に恐怖を覚えていた
「そうですけど 違います 何かの手違いです」
ハルの必死な弁明を余所に
ランコは、今着ている服を脱ごうとしていて
ハルは、更に死への危機感を募らせるのだった
「ランコ ちょっと待ってって
今 お前がその服を脱ぐと、俺の首が物理的に飛ぶんよ
お願いだから 待ってくれ」
ハルは服を脱ごうとするランコの手を
上から押さえつけて、必死に自分の命を守った
「何でね この服スゴい小さいね 窮屈で苦しいね」
愚図る子供のように、まだ脱ごうとするランコへの
説得を諦めたハルは
「室長 俺は、すぐに後ろを向きますので
お願いしても宜しいでございましょうか」
これ以上簡単に殺されてしまうのだけは避けようと
必死に懇願していた
「わかりました 今着ている服は
先程までのサイズに合わせて誂えたもの
急成長によってサイズが合わなくなったというのは
一応、認めましょう」
急激な発育に目を奪われて、顔の方を見ていなかったハルは
少女の顔のままモデル体型になったランコを想像して
動揺を隠せないでいる
「変な想像していませんよね?」
凍りつくような視線を送りつける室長の問いかけに
「してない してない 本当にすいません
ごめんなさい すいません してません」
ハルはヘンテコな謝り方しか出来ない自分が情けなかった
室長の溜め息が痛いハルだったが
ここにきて、なんとかランコの顔を見るに至る
「あれ? さっきまでと全然顔が違うけど・・・」
理解の追い付かないハルのリアクションに
「今のランコさんに、心当たりは無いのですか?」
室長も行き詰まりの様相に困り果てていたが
「そうだ わかった
何か見たことがあるような気はしてたんだ
そうか そういうことか」
何かに気づいたハルが、一人だけで理解して
一人だけで盛り上がっていた
そんなハルにイラつきを覚えた室長は
剣の切っ先をハルの眼前に差し向ける
「説明を求めなければ
説明はして頂けませんか?」
なかば説明を強要するように迫る室長。
「今します すぐしますから
その剣を下ろしてください」
ハルは懇願しつつも内心では
(蘇生が可能だからって、殺すことへの抵抗が減るのか
命の危険って室長次第なんじゃないのか?)
こう思っていたが
勘が鋭いのか、ハルの顔に出ていたのか
室長はもう一歩、構えた剣をハルに近づける。
「チョット待ってって 本当、今すぐしますから」
ハルは後ずさりながら、ようやく説明にはいる
「こっちの世界 シクスティアに来る前に
女神と、俺の女性バージョンを創造したんですけど
服以外そっくりなんですよ」
たったこの程度の説明さえ
大騒ぎするハルと室長を見ていたランコは
「マスター この女、マスターのツガイね?」
一段落した頃を、見計らってハルに質問をする
「なっ」
強く反応したのは室長で
思わずハルに突きつけていた剣を、手から滑らせてしまい
その切っ先は、ハルのつま先 数センチの所に突き刺さる
ハルは顔面蒼白になり剣を見つめるが
室長はいち早く自分を取り戻すと
「ランコちゃん でしたわね?」
ハルが勝手につけた名前を
確認する意味でも、声に出して呼んでみる
「うん 私、ランコね
マスターに名前つけてもらったね」
とても嬉しそうに応えるランコの頭を撫でながら
「私は そのマスターの、マスターなのよ」
室長はキッパリと言い切った
ハルも内心では
まぁ上司な訳だし、その説明で間違ってはいないか
・・・なんて思っていたのだが
「なるほどね そういうことね
私は 貴女の奴隷のドレイということね」
ランコの世界観の言葉に、二人とも愕然としてしまう
「違う 断じて違うぞランコ
俺は、お前を奴隷のように扱ったりはしない。
あと俺に対する奴隷と自分に言うドレイの
言い方が若干違う気がするんだが」
「それは気のせいね」ランコは微笑むだけだった
室長は、ハルの想像する奴隷が
卑猥なものを指していると
手に取るように判ってしまい、ため息を漏らす
「まぁ 別にいいんじゃないかしら?
仕事に影響が無ければ、私は気にしないわよ」
理解ある態度を示してから、室長は
「それとねランコちゃん
私とハルト君、あぁ貴女のマスターの事ね
ハルト君との契約は労働に関する主従関係だけだから
特に、何も気にしないでね」
ハルとの関係を明白に宣言していた。
「わかったね 室長はマスターのマスターで
上位マスターね」
頷きながら、ランコは理解を示す。
「俺は 室長の奴隷なのか・・・」
いつの間にか奴隷に転落してしまっていたハルは
大きなショックを受けている
「安心しなさいよ シクスティア基準ではなく
あくまでも私たちの世界基準よ
常識を逸脱なんてしないんだから」
室長は笑顔だった
「その世界基準に、俺は殺されているんですが?」
ボソッと呟いてから、ハルは下手を打ったと
後悔を見せるが、時すでに遅く
「まぁ シクスティアでも殺人は重罪とはいえ
私たちの世界ほどではありませんし
沼地にハマって出られなくなってしまっては
私が手を出すまでもなくですね、あぁそうそう
元々このシクスティアの住人でもない貴方が
例え死んでしまったとしても
どなたか、気づかれる方は居られるのでしょうか?」
「すいませんでした」
ハルは今まで、一番早い土下座を繰り広げていた
「すいませんでしたね」
ハルの横で、ランコも土下座していたが
意味まで分かっているのかどうかは、正直怪しい処だ
「まぁ わかれば良いのよ」
室長としても、気に喰わないことがあるたびに
殺せば済むと、思っている訳ではなかった
土下座した体勢のまま、顔をあげたハルは
「あの さっきから何も話が進んでなくないですか?」
どうにか現状を打破しようと試みる
「それもそうなんだけど
正直、チョット疲れてきちゃったわね」
室長も、正直にそれを認めていた
「あんまり準備もしてきていないし
近くの町まで移動しましょうか」
室長はそう言って手を掲げると
空中にモニターの様なものが表示され
周辺とおぼしき地図が、選択によって浮かび上がる
「おぉ」
それを見てハルとランコの二人は
興味津々の歓喜の声をあげる
「そうか この説明もまだしていなかったのですね」
その二人を見て室長は
話が進んでいない現状を、突き付けられるのだった
そこから ただの沼地が学校の教室に変わり
モニターシステムの講習が始まる
途中 ハルはモニターを出せるが
ランコが出せないことが分かり
ランコの機嫌を損ねる場面もあったが
これはクスティアに頼んで
どうにかしてもらおうという話で、一旦は終息を迎える
そして簡単に説明が終わったところで、室長が提案を出す
「私は 大体の都市や町、その他イロイロ
人が集まる場所へは行った事がありますが
杉流さんの地図を見てもらえば分かるとおり
大半のゲームと同じように
訪れた事の無い人の集まる場所は
地図には記載されません
今から 最寄りの町までは行きますが
この世界シクスティアをより知るためにも
今後は、杉流さんの足で訪れて貰いたいのです」
室長は二人にモニターを見せて
「それではシカロの町に行きましょう」
場所を指差しながら宣言する
室長は目を閉じ、何か念じ始めると
室長の体が光始めて、それに続くようにハルも光始める
「うぁ 光った」
ハルは自分の体を不思議そうに見た瞬間、視界が歪む
そして まわりを見るため、顔を上げたときには
周りの景色が、未だ森の中とはいえ
遠くに人の住んでいる気配が有りそうな
建物とバリケードが見えた
「おぉ すごいなランコ見てみろよ・・・って
あれ? ランコはどこ行った?」
一緒にいるはずのランコの姿がなく
ハルは、呆然と立ち尽くすしかなかった
それはランコも同じようで
この時に、すぐ動けていたのは室長だけだった
(杉流さんの魔法力を
分けてもらって成長したランコちゃんが
取り乱して、叫び声をあげようものなら
ここら周辺の生物は、全て死滅してしまうかもしれない)
そう判断した室長は、先程まで居た場所に舞い戻る
案の定 事の顛末を悪い方向に考え始めていたランコは
目に涙を溜めて、今にも決壊しそうになっていた
「ちょっと待って 大丈夫だから・・・
大丈夫だから ランコちゃん」
まだ膨大な魔法力を解き放つ前だったランコを
室長は正面から抱き締める
そして自身より大きなランコを抱き締めると同時に
外にランコの暴走した魔法力を流さないように
結界を張った
「室長ぉお マスターがね
マスターが突然居なくなったねぇ」
室長の姿を見て安心したのか
ランコは室長に覆い被さるように泣き出してしまう
結界の中とはいえ
ランコの無意識の魔法力を直接押さえ込む室長は
苦い思いを受けつつも
「ごめんね 私の考えが足りなかったみたいで
ランコちゃんを不安にさせてしまって・・・
貴女を置いていこうなんて
少しも考えていないから、安心して大丈夫だよ」
ランコを泣かせるがままにした
そしてランコが少し落ち着き始めた頃
室長は、二人に走りよる気配に気づいて
密かに注意を払い始める
・・・が。
「って居た痛ったぁ」
ハルは見つけたと同時に、盛大に転んでしまう
全身泥まみれになったハルを見つけたランコはしかし
泥まみれなことも気にせず抱きついていた
「ランコ せっかくの服が汚れるだろ?」
感情を爆発させるランコに、嬉しくも戸惑うハル。
「いい 服なんてどうでもいいね
マスターに捨てられることの方が、よっぽど嫌ね」
頑なに離れようとしなかったランコが落ち着いたのを
ランコの頭を撫でながら見ていたハルは
「室長 さっきの瞬間移動みたいなやつ
ランコは連れていけないのか?」
今後の事を考えると
連れていける移動手段は知っておきたい所だった
「結論から言うと出来るわね
瞬間移動の特性上、コツは必要だと思うけど。
それはね、私と杉流さんのように異世界人は
魔法力の波長がよく似ていて合わせやすいからなの
量も膨大だから、少し位無駄に消費しても良いやって
でもシクスティアの世界の人達は
生まれたときから空気中の魔法力が
豊潤なこともあって
魔法力を使うことに、体の抵抗が少ないの
そしてこの瞬間移動は
一度に 瞬間的に、爆発的な魔法力を使うから
体が、爆発的な魔法力に驚いて拒否しちゃうの」
そこまで説明して、室長の言葉が止まる
「あれ? じゃあ、出来なくない?」
おっかしいなぁ 確か方法があったはずなんだけど・・・
思い出そうとして、思い出せない室長に
ランコが悲しそうな顔色を見せる
「私 マスターと離れたくないね」
ランコがハルに必死に懇願する横で
室長はクスティアと連絡を取り
解決策を見出だそうとしている
「えっ? うそ・・・ それはマズイわね」
ランコの頭を撫でながら
「置いていくなんて事はしないから 大丈夫だよ」
ハルはランコを慰めていたが
室長とクスティアのこぼれ落ちる会話から
嫌な予感を感じているのだった
(終わり)
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じゃんじゃかじゃ~~~ん
遂に登場ね!!
謎の美少女こと ランコちゃん ここに見参ね
これからの大・大・大活躍お楽しみね
でも、それは次のお話ね
ここからは、おさらいコーナーね
楽しんで行こうね
実は一番最初にマスターを死なせちゃったの
私だったね イタズラしただけだったけど
反省反省ね
でもすぐに生き返って、私 この人だと思ったね
運命を感じたね 本気ね
そしたら、すぐ別の女連れてたね
驚いたけど、私寛容ね 甲斐性っていうね知ってるね
それからランコって名前つけてもらったね
もう離れられないね 惚れた弱味ね
でも、私 勘違いしてたね
室長がマスターの女じゃなかったね
マスターが室長の奴隷だったね
マスターはチョット複雑そうな顔してたけど
私が支えるから、大丈夫ね
だから室長はマスターを簡単に殺しちゃったけど
あれで よぉく理解したね
室長には逆らっちゃダメね 要注意ね
室長は 服を脱いだら怒るね。 これ物凄く重要ね
私 これだけは気を付けること、肝に命じたね
そんなこんながあって
疲れたから町に戻って休もうって話になったね
そしたら突然 マスターと室長が居なくなったね
私 これからずっと一緒に居たいって思ったのに
いきなりでビックリしたね
驚いたね すごく怖くなったね 悲しくなったね
そして泣いちゃったね
でも、すぐに室長とマスター戻ってきたね
優しくしてくれたね 私、チョットだけ甘えちゃったね
甘えちゃってて、気づかなかったけど
マスターは室長の様子から嫌な気配を感じてたね
次回もとっても気になるね
私も活躍するからまた見に来てほしいね
ばいばいね~