3話
暗闇を歩いていた 微かに見える光を信じて
その光は 辿り着けない幻か それとも道標か
私は歩き続けた 光の照らす その場所へ
前回のおさらい
会社に着いたね
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ついていくハルに、説明は続く
「そして今は、そのお客様がお使いになられるフロアの
準備も最終段階に入ったと聞いています
これから忙しくなりますので
杉流さんには、なるべくはやく研修に入ってもらいたく」
どこまで降りていくのか判らない
エレベーターの中で説明が続く
「あの すいません 接客はチョット・・・」
ハルは学生時代の苦い思い出が甦ってきたらしく
少し困った顔で告白した
「それも心配するな なんとかなる
そして、他人と関わらない仕事なんて
この世には 存在しない事を肝に命じておけ」
エレベーターが目的の階層に着いたらしく 停止した。
ハルが、説教の中断に安堵していると
エレベーターの扉が開く
「なんだこれ・・・」
広い空間にいくつものモニターが掲げられていて
その画面には、見たこともない広大な自然や見たこともない動物
見たことのない人間・・・
「ん? 見たことのない人間?」
世界は広いのだからと
見たことのない動物までは、自分を納得させられたが
見たことのない人間の方は、スルーすることが出来なかった
「実写映像に近いリアルな画像?」
まわりの目も気にせず、ハルは一人つぶやく
「でも すごいな、こんなリアルに表現できるなんて」
視線を向けられても、好奇心の方が上回っているようだ
食い入るようにモニターを見比べたりして
完全に目を奪われているハルに
「杉流 春斗さん、貴方のゲーム情報は見せていただきました
仕事の説明に入っても宜しいでしょうか?」
香菜が声をかける
「あっ はい」
正直 もっと見ていたかったが
引っ張られるように、違う部屋に移動させられるハル。
このとき ハルの頭の中は、怪しさと不安のメーターが振り切れていて
何も考える余裕なんて無かったのだが
後々振り返ったときに、この時こそ冷静じゃなくて良かったと
一人、大笑いするのだった
そして今は 会議室に通され椅子に座らされていた。
先程まで一緒だった室長が、部屋に入ってくるのを待っているらしい
ハルは会議室に通されたとき
面接が始まったのだと勘違いして
入るなり、緊張するがままに自分の名前を高らかに宣言し
案内役に過ぎない香菜に、深々と頭を下げていた
「私はただの案内人です もう少し緊張を解いて
室長が入ってくるのを待っていてください」
顔色一つ変えずに指摘されるハル
ただただ恥ずかしい思いをするハルは、消えてしまいたかったが
会議室の扉のドアがノックされ、それも許されない
「お願いします」香菜が入室を促す返事をすると
ドアの開く音がする
ドアを背にして居心地が悪いままのハルは
室長の姿を確認することもできずに
身動き一つ取らず、石のように頑なに待っていた。
「先程 PS4のデータを見せてもらいましたが
杉流さんは、多彩なトロフィーコレクターのようですね」
室長の幼いが凛とした物言いに思わず
「ありがとうございます」
誉められたと、ハルは感謝の意を示す
「PS5を買う予定は有りますか?」
続く質問に
「PS4のソフトをチョット積んでしまってたので
それをクリアするまでは・・・とは、思っていたのですが
今朝がた それも解消できたので
折りをみて、買うのも有りかなって考えてます」
就職希望の会社にゲーム事情を、訪ねられる面接なんて
今まで経験したことが無かったハルは
とにかく正直に話しておけば、不採用だったとしても
笑い話に出来ると考えていた
「先程のモニターの感想など、聞いても良いですか?」
椅子に座り、面接官モードに入っているらしい少女が
それらしい口調で質問をして来た
「とにかく広大さが、すごいと思いました
あれだけの広大さを持つオープンワールドのゲーム・・・
タイトルって何なんでしょう?
PS5だとしても ソフトとハードをセットで
すぐにでも買いに行きたくなりますね」
それなりにいろんなソフトを、プレイしてきたハルでも
見たことのないグラフィックだったため
完全に新作ソフトだと思い込んで、話をしていたのだが
「スゴい綺麗な世界でしたよね でもあれは、ゲームでは無いんですよ」
自分の自慢話をする様に語る室長は続けて
「異世界はもう
ゲームやマンガ、アニメだけの話では無くなってきた
と、いう事です」
決め台詞として、用意していたのか
高らかに言い切ると、立ち上がり
「女神様 今ひとたび この場所へ 顕現して下さいませ」
両手を大きく高く広げて、顕現を乞う祈りのしぐさをとる
・・・が、モニターも無い会議室では
何も起こらず、まばゆい光が辺りを包み込むこともない
「め めがみさま?」
ハルから見れば、完全にやらかしてしまっている少女は
咳払いをしてから もう一度
「女神様 今ひとたび この場所へ 顕現して下さいませ」
今度は、少し顔を顔を赤くしながら唱えてみるが
やはり なんの変化も起こらない
香菜は視線をそらしてはいるが、肩を小刻みに揺らし
笑いたい気持ちが吹き出さないように堪えているようだった
室長は、恥ずかしいが怒りに代わり始めたらしく
スーツからスマホを取り出すと、どこかに電話をかける
「ねぇ アンタ何してんの? 出番よ 出番
え? 休み? 何言ってんの?
アンタに休みなんて有るわけないじゃない」
さらりと超ブラックな発言に耳を疑うハル。
「ボス戦だから待って? そんなのストップできるじゃない
今すぐ来ないと 電源全部落とすわよ?
いいの? 私は、本当にやるからね?」
どうやら今 この場に現れる予定だった女神様が
ゲームをしていて、現れなかったらしい
「いや あの ボス戦だったら止められたくないし
少し位は 待ちますよ?」
もし自分が同じ境遇であれば・・・と
待つことを提案したハルに
「アナタはチョット黙ってて」
少女は、視線も送らずに一喝して拒否をした
ハルは、これ以上の介入を諦めて 静観することを決めた
「大体 その曲から察するに
全然ラスボスじゃないじゃないのよ」
口撃に熱が籠ってきたのか
「そいつ 火が見かけによらず弱点だから
それで一気に倒してしまいなさいよ」
拳を振り上げて、助言しているが
目と口は、笑ってはいなかった・・・
「どう 死んだでしょ? ほら 早くこっちに来なさいよ
アンタの事、いつまでも待たせていられないのよ」
ようやく一度 こちらを向いて会釈されたのだが
先程までの姿を見ているので
ハルとしては 苦笑いを返すしかなかった
「うそつき・・・」
少女の高らかな祈りも納得できるほど
突然に光の扉が現れた
そこから半泣きの恨みがましい視線を室長に送る
女神?が姿を見せる。
「ねぇ 火が弱点って言ったよね?
ねぇ なんで? それを信じたのにさ
回復して反射して
死にそうになったところを
全体攻撃でトドメさされちゃうの?
セーブしてなかったんだよ?
いったいどれくらい やり直しになるかわかる?
それともセーブしてなかった私が悪いって言うの?
あぁそうか セーブしない私が悪いんだね
ついでだから 私も火に包まれて死んじゃえば良いって
メッセージなんだよね
ゴメンね 今まで気づかなくて
うん でも分かったよ、火に包まれて死んでくるから」
辛うじて聞こえる程度の声量で
室長を睨み付けながら、恨み節をぶつけ続ける女神?
「そんなに落ち込まれるなんて
私 思ってもいませんでしたわ」
あまりの落ち込み具合に顔をひきつらせる室長は
「・・・ ・・・
でもあのソフトは、階層が変わるたびに
オートセーブされていませんでしたか?」
女神?のご機嫌を取りに行った。
「えっ?」
女神?の負のオーラが急速に静まっていく
女神?は一度全員に背を向けると、服装の乱れを直す
「ヒミコ その人が新人さんですか?」
何事も無かったかのように
光のオーラで輝きながら神々しい笑みを見せていた
「なかなかに恥ずかしい一面を見せてしまったが
彼女が、先程の画面内の
異世界を守護する女神クスティアよ
そして、こちらが見学希望者の杉流 春斗さん」
二人にお互いを認識させる。
「あと魔力測定の結果、魔力は2261だそうだ」
室長の言葉に驚き振り向き
「私は魔法なんて使えませんし、いつ調べたんですか」
非難の声をあげるハルと
「あら 久しぶりの2000越えね」
喜びに満ちた驚きを見せるクスティアが
ひどく対照的に見えていた
「細かい説明は面倒なので省かせてもらうが
地球というこの世界は、異世界シクスティアと比べて
驚くほどに空気中の魔法力が少なく
誰の目にも、魔法として使われることが無いのです
それとは逆に異世界シクスティアは
空気中に豊富な魔法エネルギーが含まれた世界なので
コツを掴むだけで、驚くほど凄まじい魔法が
使えるようになるのです。」
得意気にそれだけ言うと、室長は片手をハルに向けて
「ハァッ」と少し気合いを放つ。
当然 いきなりの事で意味がわからないハルは
とまどいの表情を見せるが
「いきなり使うと危ないから」
クスティアは、驚いて避けるしぐさをとっていた。
「今でこそ 何の現象も起こってはいませんが
シクスティアで、同じことをすれば
ハルトさんは骨も残らず、命を落とすことになっていた
・・・という事です」
得意気な室長は、次にクスティアに同じしぐさをとると
女神は小さい悲鳴をあげて、身を守る体制をとり
恐る恐る室長の様子を伺っていた
室長は、魔法を放つしぐさを解除しようとみせかけて
「ハァッ」と、放つしぐさをとる
「予想していたので 平気です」
女神は、防御の構えを解かないまま室長に反論する
「後ろがガラ空きですよ」
いつの間に移動していたのか
香菜がクスティアを羽交い締めにして
強制的に、防御の構えを解除させていた
「しょ・・・そんな」
青ざめた顔をするクスティアと
全ての勝利を手にしたかの様な表情の室長が
向き合う形だったが
ハルは一人、自分の内々たる体内に存在すると言われた
魔法力に感動していた
「そうか 俺は魔法使いだったんだ」
どんな魔法を使おうか
目の前のやり取りを、漠然と見ながら考えていた
ひとしきりクスティアと戯れて気が済んだのか
「杉流さん ここから先は
アナタが、入社する事を決断してからになります。
改めてお訊ね致しますが
わが社に入社したいという思いに
今も変化は有りませんね?」
室長が、大人びた声で最終確認ともとれる
質問を投げ掛けてきた
「えっ?」
突然の質問に驚くハルに重ねて
「私としては、アナタに入社していただきたい
・・・そう決断に至りました」
室長は採用の意思を示す
「俺も・・・すいません
私も入社したい考えに変わりはありません」
先程の魔法が使えるかもしれないというワクワクが
ハルに辞退の言葉を吐かせるわけもなく
最終確認の質問に肯定の意を示させていた
「ありがとうございます 杉流さん
そして これから宜しくお願い致しますね」
室長が、天使の微笑みを持って頭を垂れた
「では 今から話す内部情報を、外部に漏らすと言うことは
四肢を欠損させるくらいのペナルティがありますが
それも了承したと言うことで、宜しいですね?」
垂れていた頭を引き上げたとき
そこに天使は居らず、悪魔に入れ代わっているのだった
「えっ? えぇぇ・・・」
ハルは昔 心は充実していたが、体がついていかず
職場で倒れて、辞職してしまうという
苦い経験をしていた事を思いだし
そのニオイを感じ取ったがゆえの戸惑いを覚えていた
しかしそんなハルの心情などお構いなしに説明が始まる。
「ではまず この地球とシクスティアが
どうやって繋がったのかと言いますと・・・」
世界同士のなれ初めや 女神の立ち位置、仕事の内容など
先に聞いておかなければいけないことを
ここにきて、ようやく聞くことができたハルは
「つまりは、シクスティアって世界に
旅行で行けるようになったんだけど
魔法が使えて楽しいから帰りたくないって客を
帰るように説得するか
地球との繋がりを絶って
向こうに移住する決断をさせるか選ばせる
と言うことですね」
ネット情報より高額に提示された給与額に驚きながらも
必死に情報を理解して解釈してみせるハル
「杉流さんには 交渉する際に
当事者に、30メートルま近づいて貰いたいのです」
「あぁ 会話する電磁波の、中継地点になるって事ですね
要するに、動くアンテナ的な?」
ハルは頭の中で、アンテナっぽい着ぐるみを来て
走り回る自分を想像していた
「言葉を選ばず言うならば そうなりますね」
室長は、クスティアがアンテナの着ぐるみを来て
走り回る姿を想像して、笑いそうになっていた
「大体分かりましたが、あと一つ聞いていいですか?」
ハルは転生や転送シリーズで必ず話題になる
質問を切り出した
「自分は、シクスティアと地球の行き来は
どうするんですか?」
クスティアが待ってましたと言わんばかりの顔で
ハルを見るが、室長に手で制されてしまう
「それはですね 私とクスティアの相性が良いらしく
世界の行き来は自在にできますし
両方とも、どちらかの世界に渡り
二人のいない世界に、他の者を送ることも可能です」
室長の説明で ハルは、ハルの知る限り
世界の行き来が自由なパターンは多くないと思っていたので
かなり気が楽になっていた
「ですが」「・・・ですが?」
ただ やはり全能と言うわけにもいかないらしい制約を
今から、室長が話そうとしていた。
「これは何度も世界を行き来して、分かったことなのですが
どちらかの世界に、私とクスティアの二人が揃うと
私は少し若返り、クスティアは少し年を取ります」
室長は説明してから溜め息をつき、困った素振りを見せるが
表情は困っているようには見えなかった
「・・・ ・・・」
クスティアは恨みがましい視線を、室長に向ける
「若返るといっても、僅かですので
その差異に気付くものはあまりいないでしょう」
(だから、室長はこんなに幼く見えるのか)
謎が一つ解決したのをハルは、感じていた
「ちょっとやっぱりコレって、ズルいと思いませんか?」
クスティアが非難の声をあげる
「誰だって いつまでも若く綺麗でいたいはずじゃない
それなのに二人揃うと
私だけ老化が加速するなんて、可笑しいですよ
どうせなら、私が若くなりたかったです」
クスティアには、不満が有るようだった
「そんなの私に言われたって知らないわよ
こっちの世界は魔法の力が弱いから
バランス取るためーとかじゃないの?」
シクスティアを慰める室長の顔が笑っていて
いまいち思いが伝わっているようには見えない
「でもいいんです 私、気づいたことがあるんですが
どちらの世界にも、幼い女の子が好きな特殊・・・」
「それ以上は言わないでおきましょうか」
室長の手刀が、クスティアの脳天を捉える
「~~~~~~~~・・・」
クスティアは頭を押さえてしゃがみ、黙らされてしまう
室長は、軽く咳払いしたあと
「見ての通り、私は大分若く見えていると思いますが
そういった事情なのでお察ししていただきたいのです」
「嬉しかったんですか?」
ハルは 自分で言って、自分で何を言ったのかと驚き
室長は咳払いの姿勢のまま固まってしまう
「いやだって永遠の若さとか
過去のどの偉人も探し回ったのに手に入れられず
死んでいったのですよ?
それが手に入ったときは、どれだけ喜んだことか
それにクスティアは一応女神なだけあって
あり得ないくらい長寿で、変化も分からなかったし
誰にも信じてもらえないだろうからと
最初は二人だけで、イロイロ試していたりして
結果としてこうなってしまったわけで
別に 幼い頃に可愛い子がいるからって
しょっちゅうモデル事務所から声かけられてたとか
成長が進むにつれ、モデル事務所から声を掛けられる
回数が減ったときには
失ってはじめて後悔する恐ろしさに
夜な夜な一人泣いたとか・・・
いえ違うの、学生時代にも周りからの評判は
上々だったのよ?告白だって何度もされたし
でもね 幼き頃の程ではなかった
人が減るって怖いのよ? それがアナタに・・・」
ここでようやく室長は、ハルの苦笑いに気づく
「脱線してしまって すいません・・・」
赤面する室長は、深呼吸して場を取り成すと
「説明に戻らさせて頂きます」小さく呼吸をして
「私と女神クスティア以外の者を転移する方法は
人形転移と生体転移、完全転移等があり
今後 研究が進めば増える可能性もありますが
しばらくは、この3つがメインの転移方法になります」
香菜が運んできたホワイトボードに
3つの転移方法の名前が書かれている
(おぉ 無理矢理だったけど、話を本筋に戻したぞ)
ハルは少し感心していた
「人形転移は 主にお客様専用で
正直かなりのチート要素満載なのですが
あくまでも異世界を存分に楽しんでもらうのが目的だから
性能に上限もあったりと、3つの転移法の中に限っては
当然最弱の転移法になります
次に生体転移ですね
これは私たち旅行会社のスタッフがメインで使用します
魔法力やイロイロな物で強化可能。
そして人形転移より強力な力が使用できます」
ここまで一気に説明すると、室長は一息いれる
「そして3つめが完全転移です
これは、よほどシクスティアが気に入ったお客様が
地球との縁を切っても良いからと
どうしても説得に
応じてくれない場合などに用いる方法で
言葉からもわかる通り、地球との接点を切り離し
シクスティアに移住する方法です
性能的には、人形転移と変わりません」
室長は、説明を止めて紅茶を飲む
「ここまで、よろしいですか?」
大丈夫ですと答えるハルに
「それでは ここまで口頭でばかりの説明でしたので
実際に異世界シクスティアに行ってみましょうか?」
室長が立ち上がる
「お お願いします」
見た目年齢ではない室長に
いつの間にか、すくなからず畏れを抱いていたハルは
声を裏返して返事をする
「そんなに緊張しなくても良いですよ?」
おどけて見せる室長の後ろに
また別の女性が、何かを持って立っていた
「ありがとうございます」
室長はそれを受け取り、ハルに近寄る
「では まずこちらにサインをしていただき
この採血器具に、ちょっとだけ血を採らせてもらいます」
急速にリアルなやり取りが戻ってきた感があったが
ハルは素直に応じる
「すいません 一つ聞いてもいいですか?」
サインをした紙切れと、採血器具を女性に渡す。
「何でしょうか?」ハルは質問を許されたので
「死んだらどうなりますか?」
先程 室長とクスティアの、冗談のようなやり取りが
向こうの世界では、命のやり取りに直結する事で
自分が気付かない瞬間にも
思いもよらず死んでしまう何てことも
重々承知して、考慮しておかなければならなかった
室長は、ハルの率直な質問に
「女神との契約下にあるかぎり
女神の加護で死ぬことはありませんが、記憶は残ります」
なんの冷やかしもなく静かに答えた
「記憶?」
思いもよらなかった返答に、更なる説明を求めるハル
室長は説明を続けた
「体が持つ記憶力は、私たちが考えている以上に強力です
傷の痛みや痣、火傷の痕等 目に見えるものや
傷を受ける瞬間の記憶を取り除くことはできますが
それとは別に、体が無意識に反応してしまうのです
例えば、その日のお昼に 目の前に大きな怪獣が現れて
ガブリとかじられて死んでしまったとします。
それを女神の力で傷を癒し
その日一日の記憶を全て消し去ったとしても
怪獣が目前まで近寄ってくると
恐怖による硬直で、動き出すのが自分で考えているよりも
遅れてしまうのです
ですが、それを乗り越えることはできます
体の記憶を、心の記憶で上書きすることは可能です」
重要な事だからと、室長は説明を加えた
「心の記憶は、消せるんですね」
ハルは軽く聞いたつもりだったが
「そうですね 今日のこの説明を
聞かなかったことには出来ますよ。
家の玄関で、気を失って座り込んだと思うでしょう
そして あなたは説明会には来なかったと
採用を見送る話にすれば、何も問題ありません」
さほど重要と考えてはいないのか
ハルの疑問は、あっさりと認められてしまう
その事に 少しの恐怖を覚えたが
「もう一つ聞いていいですか?」
聞けることは、何でも聞いておこうとハルは思った
「シクスティアでしたよね?
そっちの世界から地球に来ることは出来ますか?」
コレも気になるところと、ハルは質問をする
「出来ますよ 来るだけと言うのなら、ですけど」
ひどく限定付けた言い方で、室長は続ける
「二つの世界の魔法力の差が影響するようで
シクスティアに生きるものは
そのままでは、形を形成することができず
霧となって、散ってしまいます
また木材や石材、宝飾品の類いは特殊なケースにいれて
ようやく持ち帰れたくらいで
そのケースも製造が難しいみたいです」
室長の説明に引っ掛かりを感じたハルは
「こっちから持っていったものを
持って帰ってくることはできないと言うことですか?」
そう質問していた
「そうなんです そこなんですよ
そこに気づいてからは、割りと自由に
物の移動は出来るようになりました
なぜ もっと早く気づかなかったのか
私はあの時、少し落ち込みました
もう一つ、際限無く持ち込まれても困るので
お客様には電波の届かないスマホと小物程度しか
持ち込めない設定で話を進めますのでご了承ください
旅行者が、電波を探し回る姿が目に浮かびますけどね」
いたずらっ子の顔をした室長だったが
ハルの視線に気づくと「すいません・・・」謝っていた
どうにも脱線癖が有るようだが、室長は呼吸を整えて
「他に聞きたいことは有りませんか?
疑問に思うことは素晴らしいことです
できる限りの返答はさせていただきますので」
次の質問をしようとして、自分がビビっていることに気づき
ハルは少しテンションを落とすが
これも大切なことと、何とか口にする
「やっぱり痛いのは痛いですよね?」
自分にそんな趣味は無いと、先んじて言っておく
「そこはですね 私も経験が無いので聞いた話になりますが
女神の加護が、相当素晴らしいものらしくてですね
麻酔がかかっているときと、同じ感じらしいです」
室長は クスティアを誉めたのだが
クスティアに反応がなく、様子をうかがうと
いつのまにかクスティアは眠り始めているらしかった
「せっかく誉めてあげたのに・・・」
室長の呟きを、ハルは聞かなかったことにして
クスティアを起こすのを待つ
「さっきまでやってたソフト
オートセーブなんて無いわよ?」
室長は、クスティアの耳元で囁くと
クスティアの表情が曇り出す
「って言うのは嘘」
さらにそう囁くと
険しかった表情が穏やかなものに変わっていくが
「オートセーブが実装されたのは
リメイク版になってからだけど、大丈夫?」
心配するように伺うと
後半は寝たフリをしていたらしいクスティアが
目を閉じたまま涙を流し始めて
「リメイク版じゃない・・・」そう独白するのだった
「あらま それは残念。 もう一度頑張るしかないわね」
これ以上はどうにもならないと見限った室長は
静かに近寄ってきた部下から伝言を受けとると
「さて大変長らくお待たせいたしました
準備が出来たようなので
実際に、シクスティアの方に行ってみましょうか」
室長が立ち上がり ハルについてくるよう指示を出す
そして一歩踏み出したところで、動きを止めて振り替える
「1つ 大変重要なことを忘れていました」
そう謝辞をのべ 頭を下げてから
「杉流さんは シクスティアに行きましたら
どのような姿が宜しいですか?」ハルに訪ねてくる
ハルも 今の姿のままだと思い込んでいたので
考えていなかたのだが
「アバターってやつですよね?
今 この状態から、どれくらい変化出来るんですか?」
死すら越えられる異世界がハルは楽しみで仕方なかった
「見た目や性別はモチロン 種族や個体の大きさまで
おおよそ自由に出来ますが
あまりにも大きすぎたり小さすぎたりすると
コミニュケーションが取りづらくなるので
サイズに関しては、なるべく普通にしていただければと」
山のような大きさや 小粒くらいの小ささを
室長は言っているのだろうが
ハルはそんなこと、少しも考えておらず
「種族かぁ・・・」
少し鳥人間よりな自分の姿を想像したりして
ハルは楽しんでいるのだったが
室長は、それを何か誤解したらしく
「一応仕事ですので、あまりいかがわしい見た目にするのは
控えていただきます」ビシッと釘をさしてくる
会議室内の女性達の視線が
「コレだから男ってヤツは・・・」
と、冷たいものに変わっていた。
「いえいえ 違いますよ
翼とか生えたら、空飛べるのにって思っただけですよ」
先程 モニターで見た広大な空を飛んでみたいと
ハルは思っていた
少しエッチな想像をしたのも確かだが、それは黙っておいて
「空を飛ぶのに、翼なんて要りませんよ
私たちは シクスティアに行けば
少し練習するだけで、飛べますし」「えっ?」
誤解が解けたのか微妙なまま
ハルの夢は、室長にアッサリと潰されてしまう
突然の衝撃的事実に反応できていないハルに
室長は追い討ちをかけてくる
「アクセサリー程度に翼を生やすことは可能ですが
地球とシクスティアとの魔法力の差がありすぎるのか
体にオーラをまとわせるイメージで飛べるんです
簡単に言うとドラゴ」
「分かりました 分かりました もう結構です」
踏み込んでは行けない領域な気がして
ハルは、室長の説明を口ばやに遮った
「一応 シクスティアにも有翼人種はいますが
正直、その・・・ 服装がとても独創的なので」
室長はこれ以上のことは、どうにも歯切れ悪くしか
教えてくれることはなかった。
「あと一つ
杉流さんのお仕事は
地球に帰りたくないと抵抗するお客様に近づくことです
時には 忍んで行動する必要性も出てくるはずですので
女性タイプの姿も、創造しておきましょうか」
室長は クスティアに視線を送ると
クスティアはハルに近づいていき、頭の上に手をのせる
「細かい微調整はシクスティアに着いてからするとして
杉流さんの頭の中で
どういった姿にするか想像してみてください」
ハルは 突然の事だったので
思わず母親の姿を想像してしまう
「ずいぶんとはっきりイメージ出来ているようですが
この可愛らしい女性は
どなたかモデルさんが居られるのですか?」
ハルは顔を赤くさせながら
「母です」小さく答えた
「とてもお若く見えますが、昔の写真とかですか?」
クスティアのグイグイくる質問に「今朝の母です」
この時ばかりは さすがにこの場から
逃げるように帰りたいとハルは思っていた
「父親の再婚相手さんですね
こんな若くてオキレイなお母さんでしたら
さぞかし鼻が高いというものでしょう」
妙に艶かしい設定を作ってくるクスティアに
「両親共に産みの親で、年齢もそれなりにいってますが
両親共に見た目が若いようで
人生謳歌してるみたいですよ?」
今ごろ 東京に着いて、お茶でもしてる頃か?
・・・なんて勝手に思っていると
「では 女性タイプはこの姿でよろしいでしょうか?」
クスティアが絶対に聞き逃してはならない質問をしてくる
「ちょっと待ってください」
なんとか聞き逃さずにギリギリの所で
止めることができたハルは
マザコン社員のレッテルを張られるの回避するのだった
それからハルは頭のなかで
イロイロなゲームから顔や服装などのパーツを組み合わせて
ハルだけの女性タイプを作り上げたいった
「お母様もオキレイでしたが、この女性タイプも
オキレイなエルフタイプで、私は良いと思いますよ」
クスティアの手が僅かに暖かくなり
ハルの頭の中で、創造した女性タイプが固まっていく
「コレで本当に、全ての準備が整いました
最後にあと一つ、お楽しみ要素を決めてしまいましょうか」
ハルの女性タイプの完成度に満足しているらしいクスティアを
横目で見ながら、室長が大きな箱をハルの前に差し出す
「では このクジ引きを一つ引いていただき
中を見ずに、私に渡してください」
何かが本当に始まるのだろうという予感もあるが
不安が無いわけでもなく
ハルは訝しげな視線をクジ引きの箱に向けつつ
思いきって箱のなかに手を突っ込んでみる
中身は、本当にクジくらいの紙片があるだけだった
「何ですか? これは」ハルの問いかけに
「新人研修みたいなものですよ」
とだけしか室長は教えてくれない。
これ以上は、知り得ないだろうとハルは紙片を一枚抜き
室長に言われた通り、中を見ずに手渡した
「ほぉ これはこれは・・・」
中身を確認した室長が、幼くも怪しい笑みを浮かべている
それを横からのぞきこんだクスティアは
「良いんですか? 本当に?」
少し心配するように、クジとハルを見比べていた
「大丈夫 何の問題もありません」
クスティアに最後のGOサインを出す室長
「そのクジは何ですか?」
再三聞いても答えてもらえなかったハルの体が発光し始める
「うわっ えっ? えっ?」
理解が追い付かず、体も光始めていよいよパニック寸前
といったハルに
「安心してください クジの内容を明かすのは
転送準備が始まってからと決めていましたので」
室長は得意気に言う
「どんなRPGでも主人公は最初に現状を
把握するのがお決まりの流れとは思いませんか?」
「まぁ 異世界転生系ともなると、特にそうですね」
どんどん心拍数の上がるハルは
必死に冷静を装い話を合わせていた
「ですから そのクジは・・・ クシュン」
室長は突然くしゃみをする「えっ?」
それに驚いたクスティアがハルを完全に転送してしまう
「・・・ ・・・」
室長は周りの視線を一気に浴びて
何かを言わなければと、必死に頭を動かすのだった
「わわわ私のせいじゃないですよ?
あそこでヒミコがくしゃみするなんて
思ってもいませんでしたから」
クスティアはクスティアで 自分には非がないと
半分パニックになりながら言い訳しているところだった
「まぁ 生理現象は致し方無いと言うことで
次にどう行動するか、考えましょう」
室長は、室長で完全に自分の過失だとは思っていたが
くしゃみが出ちゃったんだから、しょうがないじゃない
と、内心 開き直っていた
「カナ 杉流さんの現在地を出来るだけ細かく
出来るだけ速やかに割り出して」
室長は、手のひらのクジを再度見て 周りに指示を出す
「クスティア 今回の件は、私が非を認めるから
私をすぐに転送する準備を始めてくれないかしら」
室長の指示に、自分の殻に閉じ籠るように
無実を訴え続けていたクスティアが顔を上げる
「そ、そうだよー ヒミコがいけないんだからね
でも そうだよね
杉流さんを助けに行かなくちゃ行けないよね
分かった すぐ準備するから」
クスティアが次の転送準備を始めた瞬間
「うそ・・・」
クスティアの動作が止まり 顔がみるみる青ざめていく
「どうしたの 急がなきゃ」
室長が クスティアに何事かと詰め寄るが
「杉流さん 死んじゃった・・・」
クスティアは小さく呟くだけだった
(終わり)
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今回も 私の登場はここだけね
早く 皆さんに会いたいね
だから また見に来てほしいね
それじゃあ 今回のおさらい始めるね
今回は本文が長かったからギュッと纏めてみるね
大きいモニターで見た異世界シクスティア
室長の甘言を信じて撃沈する女神・・・
泣きながら現れて可愛そうだったね
ハルは内容のわからないクジを引かされて
説明を受ける直前に飛ばされちゃうね
それで すぐに死んじゃったね 困ったもんだね
焦る室長や女神様と大慌てね
今回で 最終回ね
ん?私出てないね まだ終わらないね 終われないね
お願いだから また見に来てほしいね
ギュッと出来てたかな? 難しい事よく分からないね
でもきっと 次は皆に会える気がするね
それまで 少しバイバイね~
全然中途半端ですが毎週日曜日(時間は毎度違います)に、600文字前後書き増していく予定なので
続きを読んでもいいと思ってくださるなら、月曜日に見に来てください
文章が下手なので読みにくいかもしれませんが、暖かい目で見守っていただけるなら幸いです