1話
自分に嘘はなるべくつきたくない
そう思ったとき、私はこんな仕事がしたいと願っていました
「よっしゃあ トロコン完了」
男は画面左上に映るお知らせに満足そうに頷くと、メニュー画面を開きアイコンを表示する
「これでトロフィーも1751個になったなぁ」
誰にも誉められる事ではないと知りながらも
自身の好きが講じて集めた結果だと、なんだか少し誇らしかった。
「やっとのことで積みゲーを消化するも、次に挑戦するソフトは無しっと・・・」
薄っぺらい財布を持ち上げて中身を確認するも、ほとんど入っていない財布
誇らしげな気分が一転して惨めな気分と現実が押し寄せる。
「ハルー?ちょっとハル起きてるの?朝御飯の時間よ?顔洗って起きてきなさい」
母親の援軍を得た現実は、財布の紐でハルを縛り上げ一気に勝ちを決めにかかる
「いや 今はまだゲームをクリアした高揚感の方が勝っているはず」
ハルは自分にそう言い聞かせて立ち上がり部屋を出ようと、ふと時計に目が止まる
「まじかよ もう朝の7時なのかよ」
ゲームに夢中になりすぎて寝ることを忘れて、今が朝であることにゲンナリとするが
体は朝御飯という言葉に反応したらしく、突然空腹を訴え始める
前の会社を体調を崩して辞めてから早くも6年がたつ。
途中、我慢のしきれなくなった両親との大喧嘩が4年前
自室に籠りゲームをする日々も、つい先日30才と齢を数えるにいたる
そんな俺は、立派なニートだった
しかし あの4年前の両親との大喧嘩の時に交わした約束を
先ほどのトロコンで締結する時を迎えたのだった
「リアルも動き出す頃合いだよな」
その事を意識したハルは不思議と前向きな気分に包まれていた
「ハル 早く起きてきてよ ちょっと話があるから
朝ごはんも早く食べてほしいし」
いつもよりしつこい母親の呼び掛けに
働き出すっていうタイミングが来たのかと
ハルは晴れやかな気分でもってドアを開け放ち、部屋を出た
食卓には、いつもと変わらない朝ごはんが置かれている。
(ここからまた、社会人としての日常が )
朝ごはんを眺めながら決意を新たにし 仕事の話を振られてから話すのではなく
自分の方から話して、今のこの決意や気分の高揚を壊されないようにしよう
そう決めたのだった
ハルの目の前に味噌汁を置き、これで全て揃ったのか出来映えに満足そうな母に向かって
「母さん 俺、今日から仕事を探そうと思うんだ
4年前の約束もさっき全部終わったしさ」
ハルは完全に話題の主導権を握ったと確信していた
しかし
「あっ うん分かった 前みたいに体壊さないように気を付けてね」
一瞬だけ意外そうな顔を見せ、すぐに嬉しそうな顔になる
「分かってるって」
母親の予想だにしなかった軽い返しに、肩透かしを食らうハル
それだけに止まらず母親は凄まじい勢いで追撃を加えてくる
「その話はまた今度聞くから、今は朝ごはんを食べちゃってね
それを片付けたら、お母さん出掛けるんだけど どこいくと思う?
なんとね海外旅行に行ってくるのよ すごいでしょ?
あっ でもそんなに急いでる訳じゃないのよ?
飛行機までも時間あるし
久しぶりに東京行くからソッチの観光もしようかって話になって」
とても楽しそうに話す母親の顔を呆けた顔で眺めることしかできないハルの後ろから
「母さん こっちの片付けは終わったし 私はいつでも行ける準備が出来たからね
おっ?ハルか
ハル 悪いが今日から母さんと旅行してくるから
飯の準備くらい自分で用意するんだぞ」こちらも少し浮かれた声で話しかけてくる
父親はそれだけ言うと、テーブルの上に3万ほど現金をおく
「2週間だからな まぁ少し多いのは分かっているが、私たちはそれ以上に
豪華な食事を楽しむ予定なので、おあいこって事で許せよ?」
ハルの決意を知らない父は、知らないままに旅行の話をする
「海外旅行ってどの国行くのかは知らないけれど、変なことに巻き込まれるなよ?」
親子間の仲は悪いわけではないが、このまま引き下がる事を良しとしなかったハルは
精一杯の強がりを言ってみせた
「母さんを守るのが父さんの役目だからな」
「お父さんカッコいい」
やたらと満足げで自信溢れる笑顔の父に軽く抱きつく母親
「オレ 今日までどっからどう見てもニートだったけど
30になるし、子供の前でイチャつくの止めてくれよ」
押されっぱなしのニートが嘆く
「いーやダメだ 止めないぞ なぜなら30にもなって好きな女の一人や二人
愛することもできないお前に、男が女を愛すると言うことを教えてやるのが
親としての、残された責務だからな ささっ母さん熱いキスを一つ」
抱きつかれていた父が、母を抱き返し 口づけをするために目を見つめる
(えっ・・・)
驚いた表情を見せ 困惑して 一瞬だけ息子のハルを見るが
キスを受けようと 母は目をつむり父を待つ形に入る
(いやいやいや 受け入れるなよ
って、その前にこっち見るなよ妙にリアルに艶かしくなっちまうじゃねぇかよ)
これ以上 ここでの会話を続けさせない為にも、目をそらしたいという意味でも
ハルは朝ごはんを一気に掻き込み始めた
そこを見計らうかのようにピンポーンと来客を告げるチャイムが居間に鳴る
その瞬間 父親とハルの視線は玄関の方に反射的に向く
ただ一人、母だけは そんな父親の横顔を見ていて「あら残念」
それだけつぶやくと、父親の顔に手をかけ 頬に軽くキスをする
驚いた顔で振り向く父親に、母はウィンクをしながら
「また あとでね」ニッコリと微笑み、台所に嬉しそうに戻っていくのだった
母の父への、悪戯のようなキスの その瞬間こそ見ていなかったが
全てを見ていたかのように悟ってしまっていたハルは
急いで玄関に通じるドアに視線を戻していた。
「母さん 愛してる」
父は頬に手を触れ、感触を思い出すかのように一人呟く
(母さん めっちゃ可愛かった)
息子としての意見ではないので、ハルは思うだけに止まっていた
そしてこれがハルが恋人を作らない理由の一つなのであり
もう一つの理由が、この部屋に近づいていた
「オハヨー お父さんお母さん あのね今日の話なんだけど
ちょっと職場に早く行かなきゃいけなくなったから、今からでも行ける?」
扉を開けるなり捲し立てるように話をするスーツ姿の黒髪女性
「・・・・・・」
しかし何の反応も無いことに、視線を部屋中に巡らせる
「おっ ハル兄オハヨー
ってお父さん なに嬉しそうな顔で固まってるのよ
ねぇ さっきの私の話聞いてた?」
父は台所に視線を取られたまま反応せず
ハルは理解の追い付かない状況を見守ることしかできないでいた
「あら冬香おはよう もうそんな時間なのかしら困ったわね
ハルの食器がまだ片付いていないのよ」
ただ一人全ての状況を理解しているであろう母が台所から顔を出す
「いいよ母さんオレが後で洗っておくから」
嬉しそうな母を足止めするのも忍びないので、自分からかってでると
「う~ん でもそれじゃあハルに悪いわ」
言葉とは裏腹に本当に嬉しそうな顔を見せる母
「いいわよ どうせ暇なんだし
もしやってなくても、今日仕事帰りに様子見に来るつもりだったし」
妹は時計をチラチラ見ながらせき立てる
仕事で急ぐというのは、どうやら本当の事らしい
「そうそう それ位やっとくし、旅行から帰ってきたときには
もう仕事も始めてるだろうしな」
ハルは少しばかりの名誉挽回の為に言っておく
「うそ ハル兄、仕事する気になったんだ・・・ってゴメン
本当に出来れば、もう出たい時間なのよ
慌ただしくしちゃって悪いけど、お母さん準備お願い」
冬香が両手を合わせて母をせき立てると
母はエプロンを台所に片付けて
旅行の最終的な準備を始めに自室に向かったようだった
「でもハル兄 もう大丈夫なの?」
心配しつつも嬉しそうな妹の冬香に
「前の仕事も、別に嫌で辞めた訳じゃないしさ
オレ自体は働くことに特に抵抗は無いつもりだから」
まかせろと言わんばかりの顔をするハル
「んじゃあ 今日仕事終わったらまた来るから
次の仕事の事、一緒に話そうよ
最近の就職事情は、私の方が詳しいし 相談にも乗りたいから」
時間を気にしつつも、嬉しい事を言ってくれる冬香に
「頼れる妹は、本当に超可愛いな」
丁度食べ終わったし、立ち上がるついでと言わんばかりに
妹に抱きつこうと近寄る
「近寄るな この無職めが 髪が乱れるだろ」
妹の拳がみぞおちに吸い込まれるまでが、コースのお決まりだった
「本当にたくましい妹に」
膝から崩れ落ちると、オレの頭が丁度良い高さに来たらしく
可愛い自慢の妹の柔らかい手が、頭をポンポンと撫でる
「まぁでも また働く気になったのは良かったよ
今度は、仕事が楽しいからって
自分の体もお構いなしに働き続けるハル兄を
止めるだけの冷静さはある会社を、選んでよね」
手を置かれたままの、その笑顔は反則だと思ったので
「本当に可愛いなぁ」再度ハグを試みることにした
「だから今から仕事だし、髪が乱れるからヤメテって言ったよねぇ」
撫でるようにハルの頭に添えられていた冬香のその手は
アイアンクローに変化する。
「アイタタタタタ ゴメン悪かった もうしない許して その左手とかー」
アイアンクローで逃れられない状態のオレに、無慈悲な右ストレートが炸裂する
吹っ飛ばされたオレは、居間のソファに叩きつけられたのだった
「さすがの威力だが、ソファのクッションに着地させる辺り
家族への愛を感じるぜ」
今生の遺言になっても構わないと、オレは本気で思っていた
「うるさいバカムショク 早く働け」
憎まれ口を叩く妹も可愛かった
「あらあら今日も仲良しね お母さん嬉しいわ」
微笑ましい二人のやり取りを笑顔の母は歓迎していたが
「お母さんも来たし そろそろ行こうよ
下手に渋滞に巻き込まれでもしちゃったら面白くないじゃない」
妹の急かしに背を押されるように 玄関に行き靴を履く両親
そして その両親をのせた車が走り去る
「なんだか怒濤の展開で圧倒されてしまったが
2週間もあれば、就職先なんて見つかるんじゃね?」
自分の朝ごはんの食器を洗いながら、ハルはそんなことを考えていたりした
「まぁ 今日はネットで調べるくらいにして
履歴書とか買いに行かなきゃな」
食器を洗い終えて 自室に戻るとパソコンの電源を立ち上げ
用意したコーヒーを一口飲む
目の前のパソコンは起動処理を忙しなく行っていた
「まずは近所ででも探してみるか」
求人サイトにおおよその住所を入力して 年齢を打ち込み検索をかけてみる
「おぉ? これなんか当たりなんじゃね?」
ハルはにんまりとしながら、その求人の募集要項を読んでみる
「え~っと、駅の反対側だけど 最寄りのバス停も激近有り
勤務時間も定時上がりで 休みも週3日あって、この給料・・・
仕事内容は 事務処理と軽作業で残業は交代制
未経験歓迎の人間関係は家族のようにアットホームです
採用試験は有りますが、福利厚生も充実していますので
見学だけでも、是非検討お願いいたします だってさ」
始めこそ魅力的に思えた募集要項も、内容が良すぎると
うさんくさく思えて仕方が無かった
しかし そこまでは条件が良すぎると苦笑する程度だったが
他の求人と明らかに一線を置く 一文が最後にあった
「RPGが好きな方は、特に頑張れる職場です・・・か」
ハルは
ゲーム好きの多い職場なのか?や
ゲームを作る会社だったらプログラミングを覚えるのか?など
自身で想像できる範囲の仕事内容を考えていた
「クリエイターだと、ちょっとキツいかな?」
自身の性格上泊まり込み、倒れるまでパソコンにしがみつく様子が
目に見えてリアルに想像できしまう
「まぁ 細かい仕事内容までは書かれてないし
面接まで行けたら、そこで聞けるだけ聞いてみるのも有りか」
このあと もう一度読み直してみても
現在浮かんでくる疑問に答えられそうな箇所は見当たらなかった
ハルには少し思い込む性格もあってか
職探し1日目の1つ目の求人内容に運命を感じてしまい
「面接の練習がてら、応募してみるのもありか」
という結論に至るのは容易なことで
断られて当たり前 程度の軽い考えでスマホから電話を掛けていた
数コールの後
最初に出た女性が、面接担当に繋ぐというと保留音が流れる
まずは最初の休憩ポイントだと、一息着こうとするが
そんな間も与えられず 人が出る。
「貴方が 面接希望の杉流 春斗さんですか?」
相手は、とても若い女性の声だった
ハルは「はいそうです」と応えると
電話の先の若い女性も声に気持ちを入れたのか
ハルには声のトーンが変わったように聞こえた。
「まずは 何を見て、応募してくれたのですか?」
「ネットです。」
「サイトを見てくださったということですね
ありがとうございます
そこで仕事の内容に興味を、持ってもらえた感じですか?」
簡単な質疑が始まる
「いえ 仕事の内容はあまりよく分からなかったのですが
RPGが好きな人は頑張れますって、文が気になりました。」
ハルは、嘘をいっても仕方がないと正直に言う
「そうです そうなんですよ
説明会に来ていただけたら詳しく説明させて頂きますが
本当に、その文がその通りなんですよ。」
担当の若い女性は嬉しそうだ
「それで、ですね
私どもとしては いつでも説明会を開催しているのですが
杉流さんとしては、説明会の方にお越しいただくことは
考えておられますでしょうか?」
「お願いしたいと思っています。」
ハルは丁寧な言い回しに、できる限り応えようとしていた。
「ありがとうございます
それでは、ご希望の時間などございますか?」
どこまでも丁寧な物言いに
「特に予定とか無いですし
いつでも、いいですけ・・・」
受話器の向こうから担当者の短い悲鳴と
「室長待ってください~」と急にドタバタする音が聞こえ
ハルの答えを聞いている風には思えなかった。
「もしもし私が室長だ
お前が今、メインで遊んでいるゲームのハードはなんだ?」
先程までの若い担当の女性より、更に若いと言うよりも
もはや子供の女の子の声が尊大に訪ねてくる。
「PS4ですけど・・・」
とっさに答えてしまったハルに
「そうかPS4か わかった
よし今からハードだけ持って、すぐ会社に来い
場所分かってるんだろ?」
更なる大波が打ち付けるように、来社を要求される
ハルは「はい・・・」とだけしか応えられない
「室長 家屋特定、及び会社までのルート」
「月乃、まだ早い 聞こえるだろ」
電話の向こうで、室長と呼ばれた女の子が
月乃という女性を叱責するが
「室長の反応の方がマズイですって」
担当者が室長をツッコミ、黙らせようしているらしかった。
(それが全部筒抜けなんだけどなぁ・・・)
ハルは、早くも次の職場を探す事を意識し始めるが
「見学だけでも良いから来いよな 逃がさないからな
あとPS4は絶対に持ってこい」
と、再度慌ただしく捲し立てられると
「見学くらいなら・・・」
そう素直に返してしまう巻き込まれ体質なのだった
そして、電話が切れたあと
「社会復帰第一歩目の会社見学が、これだけインパクトでかければ
母さん達が旅行から帰ってくる前に、職探し位楽勝クリアだな」
なんてお気楽な事を呟きながら、PS4のコードを外し始めるのだった。
「そう言えば、何時に行けば良いのか 時間の話していなかった」
自分も大概抜けたところがある気がして、ハルは泣きそうになっていた
「まぁ帰りに履歴書とか買いに、本屋行くこと考えたら
今から行っちゃうか」
PS4を鞄に入れて、外出する服を選ぶ
「別にスーツじゃなきゃいけないって雰囲気でもなかったよな」
(小さな女の子が、室長って呼ばれてるくらいだし・・・)
ハルは、声で勝手に室長のイメージを決める。
一応就活だからと、落ち着いた無難な服を選び
働いていないからと、人目を気にすることもないという理由で
タオル掛けに成り下がっていた姿見の前で、服装を正す。
ピンポーン
そこに来客を知らせるチャイムが鳴る
「今から出掛けるのに、間の悪い客だ」
ハルは、チャイムを鳴らす来客を確実に帰らせるために
返事もしないまま準備を終わらせる
「本当に出掛けるしな」軽く自分に言い訳をしながら。
そして一度しか鳴らなかったチャイムに少し疑問を覚えつつ
玄関に到着した頃
ピンポーン 二度目のチャイムが鳴る
(まだいたんだ・・・)
ハルはそう思いながらも靴を履き、 ドアノブに手をかける。
「すいません 出掛けるので、話は聞きますけど
後日、改めてもう一度来てもらっても・・・」
(終わり)
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新しく始まるコーナーね
謎の美少女が任されたね
それではスタートね
コホン・・・
マス・・・じゃなかった ハルが
ゲームをクリアして、ニートもクリアしようと決意をした朝
ご両親は海外とか言う場所に旅行に行っちゃったね
マス・・・ ・・・ハルは気にせず職を探したね
そしたら なんだか気になるお仕事が有ったみたいね
ゲームのハード?っていうのを持ってくるよう言われたみたいね
そんな会社ってあるのね? よくわからないね
でもゲームが好きなハルは、ハード?を準備して
向かうことにしたみたいね
そしたら誰か来たみたいね 誰だろね?気になるね
でも今回は、ここでおしまいね
また会いに来てくれたら嬉しいね
以上、謎の美少女だったね
バイバイね~
全然中途半端ですが毎週日曜日(時間は毎度違います)に、600文字前後書き増していく予定なので
続きを読んでもいいと思ってくださるなら、月曜日に見に来てください
文章が下手なので読みにくいかもしれませんが、暖かい目で見守っていただけるなら幸いです