#9
ここを越えればきっとゴールがある、そう信じて彼らは気力を振り絞る。
「「ぬおぉぉおおおおおおおおおおおおお‼」」
野太い雄叫びと共に桃次郎とレッドフレイムが足を踏み出す。斜め前方を見るとイエローボルトがふらつきながら坂を登り切っていたところだった。
「いけーー! イエローボルト!」
「桃次郎! もう少しよ!」
「負けないで! レッドフレイム!」
いつき達も激アツのラストスパートに熱い声援を送っていた。
「これ・・・・・・で、坂も・・・・・・終わ・・・・・・・・・み、水ぅううううううう‼」
やっとこさ坂を登り切ったイエローボルトの目の前にはゴール・・・・・・ではなく、給水エリアの水飲み場が設置されていた。爆発寸前の心臓、マグマのように煮えたぎる血液、ガクガクブルブルと痙攣する全身の筋肉。今のイエローボルトには目の前の水飲み場がキラキラと輝くオアシスに見えた。
勢いよく水飲み場に飛び込むイエローボルト。ゴールは水飲み場と目と鼻の先にあるが、限界を迎えた肉体の前ではゴールより、目の前の水。
「おおーーーーい! イエローボルト! マジかよー! 走れ! 走れ!」
いつきの父親はイエローボルトに檄を飛ばす。
「桃次郎! いまよ、今のうちにゴールして!」
いつきの母親は隣の夫にニヤリと笑いながら、桃次郎を応援する。しかし桃次郎も坂を登り切って気力が切れたのか、目の前のオアシスに勢いよくダイブした。
これにはいつきの母親も桃次郎が水飲み場に張り付く光景にガックリとうなだれた。
桃次郎から遅れて、レッドフレイムもフラフラと坂を登りきり、顔を水飲み場に突っ込む。
『地獄の坂の後のオアシスには絶対に誰も逆らえない! イエローボルトも桃次郎も・・・・・・そして少し遅れてレッドフレイムも、水飲み場に首を突っ込んだ!』
「レッドフレイムーーーー‼ 頑張れーーーー‼」
それでもいつきは諦めない。最後までレッドフレイムの勝利を信じて応援する。
レッドフレイムもイエローボルトも桃次郎も、水飲み場から動けないらしい。イエローボルトと桃次郎は、力なくだらんと水に浮かび、レッドフレイムも指一本すら動かせないでいた。
しかし突然、レッドフレイムが水飛沫を上げて水面から顔を離す。
「・・・・・・・・・・・・」
レッドフレイムは無言のままフラフラと立ち上がり、よろけながらゴールに進む。その姿は何度やられても、諦めずに立ち上がり続けるヒーローのようだ。