#5
『右から順に、情熱の赤! 暴走特急列車のレッドフレイム! そして慎重の青! 計算高い分析家、ヒステリックスノー! 黄色い雷! 足は速いが食いしん坊、イエローボルト!』
飼育員の実況に合わせて、三羽のアヒル漢が肩や首を回しながらスタート位置につく。
「スノー、今回はオレが勝たせてもらうぜ?」
「ハハッ。フレイム、冗談はよせよ。勝つのは私だ」
「へへっ、このボルトの足について来れるかな?」
『緑の疾風! 空に羽ばたけ、グリーンウィンド! 高貴な紫! 王となるか道化師となるか、パープルクラウン! ピンクの兄貴! 次に鬼退治に行くのはこの俺だ! 桃次郎!』
「俺の顔いつ見てもヤベーわ。くしゃみ寸前の顔じゃん。いま撮り直してくれないかな」
「ミーの写真も撮り直してくれー! 今の美しい姿を撮ってくれ!」
「やぁだもぉ、アタイ鬼退治なんて怖くて行けないわよ。ね、グリーン、クラウン」
紹介を受けた彼らもスタートラインに立つ。この三羽だけ決めポーズを決めている。
『最後は戦隊ヒーローの特別枠。清き白! 聖なる潜水艇、ホワイトマリン! 真の黒! 影の支配者ブラックニンジャ!』
「ブラック、もしかして今日もやるのかい?」
「拙者、勝つためなら手段は選ばぬよ、マリン殿」
最後の二羽もスタートラインに立つ。全員揃ったところで、飼育員がスタートケージの扉を棒でコンコンコンと叩く。その音を聞いてアヒル漢達は急に真剣な眼差しに変わる。
『さあ、よい子の皆、これからレースが始まるよー! 位置について~、よーい、ドン!』
棒でケージを叩いていた手を止め、開始の合図と同時にケージの柵を上げる。
「「「うおらぁぁぁあああああああああああああああああ‼」」」
野太い咆哮を上げて一斉に走り出すアヒル漢達。最初の直線はみんな固まって走行している。
「どけどけどけぇえええええ‼」
群れて走るライバル達をエルボーで薙ぎ倒しながら、レッドフレイムが集団から先頭で抜け出る。エルボーを喰らったアヒル漢達は横に飛ばされ、転倒していた。
彼らの豪快なスタートの様子をノリノリで実況し始める飼育員。
『おぉ! 流石は暴走特急列車! ライバルを次々に押し分けて、レッドフレイムがトップに飛び出たよ!』
レッドフレイムが最初の長い直線を爆走していると、目の前に少し長めの坂が現れる。
「坂がなんぼのもんじゃーい! うおおおおおお、お・・・・・・・・・え?」
レッドフレイムが一気に坂を駆け上がると、その先は断崖絶壁のようになっていた。下はプールとなっており、カラーボールが隙間なく浮かんでいた。崖から池までの高さが意外にも高く、彼は恐怖で思わず立ち竦む。