#4
「次のレースで走るヒーロー達は、あのアヒル達だよ! お父さんもお母さんも、良かったら予想して下さいね!」
飼育員が立ち上がり、スタートケージの方に手を伸ばす。いつき達が手の指す方へ目を向けると、スタートケージの上にオスのアヒル達の大きな写真パネル飾られている。嘴を大きく広げた顔や、目を閉じている顔等、コミカルに写るアヒル達の写真が並んでいた。
それぞれの首には八色に分けられたカラータイがついている。
「こちらの売り場で、一着の予想券を買って下さいね。一口百五十円です」
飼育員がU字トラックの手前にある台車で、それぞれ赤、青、黄、緑、桃、紫、白、黒の色とアヒルの名前が書かれた紙が売られている。
「あれ? 昔は百円だった気がするけど・・・・・・」
「最初は百円だったんですけど、飼料の値上げに伴って、百円での維持が難しくなりまして。申し訳ないんですけど、それで五十円値上げさせて頂きました」
「あぁ、なるほど。それは大変ですね。えっと、それじゃあ、三枚下さい」
「ありがとうございます! 何色になさいますか? ボクも何色にしようか? 迷ったら名前で決めるのも良いかもしれないよ」
飼育員が三人にアヒル達の色と名前と顔写真が記載されたラミネート加工済の紙を見せる。
「ユニークな名前だね~。じゃあパパは黄色のイエローボルトにしようかな」
「私は・・・・・・そうね、ピンクの桃次郎にしようかしら。一羽だけ漢字で男らしくて好きよ」
「ぼくは赤のレッドフレイムにする! リーダーみたいでカッコイイもん」
いつきとその家族が飼育員から予想券を受け取り、父親が三人分の四百五十円を支払う。アヒルの競争の時間が近づくにつれ、広いコースの周辺に子供連れの観客が続々と集まってくる。
一方、アヒルの美少女達も、自分達の食事を掛けて、アヒル男子達の一着予想をしていた。
「アタシは断然、パープルクラウン様かな」
「えー? 絶対レッドフレイム君でしょ。あ、でもヒステリックスノー君もアリね」
実況役とは別の飼育員が、スタートケージにオスのアヒル達を連れてくる。
『さぁ、アヒルの競争、オスの部! 開催です! 走ってくれるアヒル君達は~・・・・・・』
実況に合わせてアヒル達が尻をフリフリしながら可愛らしく登場した。観客達はアヒルがスタートに向かう際の行進に、黄色い歓声を送る。
しかし、アヒル達の目線では、筋骨隆々で精悍なアヒル漢達が威風堂々と歩いてくる。ホリの深い眉に、艶のある嘴と割れた顎。頭より太い首、アフロのような胸毛が様になる立派な大胸筋。鍛え上げられた逞しい腕と脚、引き締まった水掻き。
実況役の飼育員がアヒル達の写真を指差して、
『紹介しますので、スタート上にある写真と見比べて見て下さいね!』
そこには観客や飼育員目線では可愛くてコミカルな写真となっているが、アヒル目線では爽やか系や中性的で色んなジャンルのイケメン達が並んでいる。しかし、どのアヒル男子達も今の姿とは違い、当時の面影が一切残っていなかった・・・・・・。