#2
「でも、あなた。それってまだやってるの?」
「どうかなぁ・・・・・・・・・おっ、まだやってるみたいだぞ」
妻が夫にアヒルレースが現在も開催されているのか尋ねると、彼は自分のスマホを取り出して検索してみた。すると、今も開催されているようで、スマホの画面を妻と息子に見せる。
「パパ! ぼくここ行きたい!」
「そうだな。今日は日曜日で病院も休みだし、ドライブがてら楽園地に行こうか!」
「うん!」
父親の提案に、いつきは満面の笑みで返事をした。
父親の運転で、母親といつきが後部座席に座る。三人が乗った車は大分市街を抜けて、別大国道へ入り、片側三車線の長い道路を走る。左手には山、右手には海が見えていた。
「いつき、車の中でゲームしてると酔うわよ」
「だって、さっきから、ぜんぜん勝てないんだもん!」
車の中でもいつきはゲームに夢中でスマホの画面をずっとタップしながら、スタート時のタイミングや、走行中もリズム良くタップをして走らせていた。
その間、車は別大国道を抜け、水族館を通り過ぎ、そのまま別府市街に入る。
「ねぇ、ママ、課金してもいい? このガチャしたい」
レースに苦戦するいつきはガチャを回して戦力増強をしたいようだ。
「課金はダメよ? 引けないなら我慢しなさい」
「えぇ・・・・・・だって、この服があったらすごく強くなるんだよ」
課金を窘める母親に、いつきはイベントガチャの画面を開いて見せる。そこにはガチャで手に入るアヒル少女達のラインナップ、それと装備の衣装のラインナップが並んでいた。
「課金はしないって約束でしょう?」
「やだー‼」
「まぁまぁ・・・・・・ほら、楽園地が見えてきたぞ」
街から山側に向かって車を走らせると、赤い屋根の城のような建物が見えてきた。楽園地のメインゲートだ。ここで入場チケットを購入し、別府市内が一望出来るケーブルカーに乗って山を登り、園内に入場するのだ。
ケーブルカーの中から景色を楽しむ両親の横で、いつきはまだゲームを続けている。彼のスマホの画面では、使用しているアヒル美少女を先頭に熱いレースが繰り広げられていた。
そして別府楽園地の名物『アヒルの競争』の方でも白熱した試合が行われていた。親子連れの観客がアヒル達に歓声を上げている。走っているのはメスのアヒル達だ。
『いまゴール‼ 一着は黒だー‼』
八羽のアヒルたちが鳴き声を上げながら、ぞろぞろと一斉にゴールする。レースを実況していた飼育員が結果を告げる。一着のアヒルの首には黒のカラータイが巻かれていた。