92.事件のその後★
冒険者のリーダーのような人に戦闘時の様子を聞いた後。
騎士団から軽い聴取を受け、俺はその場で解放された。
部外者である俺がそこに居座るのは気まずかったし、出来ることも無かったので、他の冒険者達に軽く会釈をして立ち去る。
「この辺りか」
「グララァ」
そして向かったのはチョコが標的を見失った地点。二番街と三番街の相中。
騎士団にも伝えておいたので後で彼らも調べに来るのだろうが、自分でも何かできないかと動かずにはいられなかった。
けれど結局、何も見つからないままその日は宿に戻った。
次の日。あんなことがあった翌日だが、今日も《迷宮》に行く。
犯人捜しに加わったところで何ができるわけでもない。昨日痛感したが、俺にはまだまだ力が足りない。お金も稼がなくてはならない。この世界が物騒なのは分かっていたのだ、赤の他人が死んだくらいで落ち込んでなどいられない。
「何か昨日から暗いけど大丈夫?」
「別に、何でもない。《装備品》変えたから少し不安なだけだ」
「そう?}
「それよりこの辺にトレントは居ないよな? 俺の《気配察知》には何もかからないが」
「うん。一番近いのでも百メートルは離れてるよ」
俺の《気配察知》は未だ《レベル9》だ。トレントの擬態を見抜くのはマロンに頼りきりである。
そんな調子で第二十四階層を攻略して行き、《階層石》に辿り着いた。
木の洞に嵌った《階層石》に、手を翳して魔力を登録する。
「よし、これで明日は守護者だね」
「なあ、それはもう少し後にしないか?」
「え?」
キョトン、と不思議そうに首を傾げられた。
提案の意図が分からない様子だ。
「いやな、最近は一回一回の戦闘時間が伸びてるだろ?」
「まあね」
「守護者に挑むには俺達の《レベル》がまだ足りないんじゃないかって思ってな」
「またそれ? ニ十階層でも言ってたけど結局大丈夫だったじゃん」
「あの時よりさらに《レベル》差が開いてるだろ。今いくつだよ」
「六十九だけど……」
「俺も同じだ。二人とも七十未満。十以上も離れている」
二十五階層の区間守護者は《レベル80》。このままでは勝てないかもしれない。
「それに、前に戦った《ウィザリングトレント》、あいつを倒すのにも少してこずった」
「むう……」
「もう少しこの階層で鍛えてから挑戦したんでも良いんじゃないか?」
「私がいれば大丈夫なのに……でも、分かったよ。今日と明日はこの階層で《レベル》上げね」
武闘会は明々後日から開始だ。それまでには守護者を倒しておきたいと考えると、妥当なペース配分だと思われた。
「ああ、それでいいと思う」
「じゃあもう少しこの辺で狩っていこ」
その後ひたすらトレントを倒しまくり、その日の活動は終了を迎えた。
それから二日、レベリングに勤しみ。守護者に挑戦する日がやって来た。
《レベル》は上がり、資料も読み込み、準備はバッチリである。
「たった二日だったけど、思ったより《レベル》上がったね」
「ここまで来ると《レベル帯》もかなりのもんになるからな」
第二十四階層に現れる魔物は《レベル54~78》。俺達より《レベル》の高い個体も多く現れるため、そこそこ効率よく《経験値》を集められた。
「それじゃあ準備も万端だし行きますか」
「だな」
答えて、自身の《ステータス》を鑑定する。
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人間種―魔人 Lv73
個体名 リュウジ
スキル 剣術(下級)Lv1 体術(下級)Lv10 砲術(上級)Lv5 棒術(下級)Lv10 風魔術(特奥級)Lv2 土魔術(上級)Lv4 火魔術(上級)Lv4 光魔術(上級)Lv8 水魔術(上級)Lv9 闇魔術(中級)Lv8 暗視Lv10 気配察知Lv9 職権濫用Lv4 双竜召喚Lv8 竜の血Lv--
称号 竜の体現者Lv7 迷宮攻略者Lv4 竜骨Lv3
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目立った変化はない。《レベル》も《スキル》も順調かつ地道に育っている。
強いて挙げるならば《双竜召喚》の《スキルレベル》が上がり、チョコとミルクの基礎能力が微増したことか。
次にマロンを鑑定する。
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人間種―獣人 Lv73
個体名 マロン
スキル 槍術(上級)Lv9 体術(中級)Lv10 風魔術(下級)Lv7 土魔術(下級)Lv4 火魔術(下級)Lv10 光魔術(下級)Lv7 水魔術(下級)Lv9 闇魔術(下級)Lv6 暗視Lv10 凶神に捧ぐ舞踊Lv10 気配察知Lv10 潜伏Lv10 ビーストボーストLv10
称号 迷宮攻略者Lv4
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彼女も以前見た時から成長している。
特に目を引くのは二つの《ユニークスキル》。どちらもいつの間にかカンストしている。素晴らしい成長速度だ。
……いや、でもちょっとおかしくないか?
《レベル10》にするには尋常じゃない《スキル経験値》が必要なはず。《ユニークスキル》をともなれば尚更だ。にもかかわらず──。
「早く行こ?」
「あ、ああ」
第二十五階層の扉をくぐり、守護者部屋へと進んで行く。
「来たね」
「やっぱ守護者は擬態してないんだな。資料の通りだ」
「ぐ、が、が、が、ご」
木を隠すなら森の中という格言に反し、森の中にあって全く隠れられていない巨体。
他の木々とは一線を画す異様なデカさの大樹がゆっくりと前進して来ていた。
まだまだ距離はあるというのにその姿はハッキリと見える。
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木魔種―メガジャイアントトレント Lv80
職業 区間守護者
職業スキル 守護者の妙技 守護者の偉容
スキル 体術(特奥級)Lv8 風魔術(上級)Lv8 土魔術(上級)Lv8 火魔術(中級)Lv8 水魔術(特奥級)Lv8 生い茂る葉刃Lv8 樹態Lv-- 気配察知Lv8 剛健の樹皮Lv8 根衾Lv8 自動再生Lv8 自動治癒Lv8 常緑Lv-- 千貫枝Lv8 潜伏Lv8 葉吹雪Lv8 フルーツボンバーLv8 森の掟Lv--
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「ぎ、ぎ、ぐ」
樹高五十メートルは下らない大トレントが先制攻撃を仕掛けて来た。
最初の攻撃は葉っぱ飛ばし。《葉吹雪》による広範囲攻撃だ。
「〈セイクリッドウォール〉」
聖なる壁の後ろへマロンと一緒に身を隠す。そこへ葉刃が襲い掛かる。
照準は甘いが弾数と範囲が驚異的なのがこの攻撃だ。数枚の葉刃が壁に突き刺さり、無数の葉刃が森の木々を伐採した。
あのサイズ感だとちっぽけな人間を狙うのは難しいのだろう。
「頼んだぞ」
「うん」
先の攻撃によってすっかりすっきりしてしまった森を駆け、マロンが大トレントへと向かって行く。
俺も〈魔術〉を撃つタイミングを見計らう。
《葉吹雪》が再使用されるのは約一分後。それまでにある程度追い詰めてしまおう。
スポーツの日も投稿します。




