64.再会
「よお、お二人さん。A級に上がったんだってな」
「あ、久しぶりー」
「ネグアさん、お久しぶりです。はい、先日どうにか試験に合格できました」
A級冒険者昇格から数日経ったある日。以前巨大樹エリアで鳥人達に囲まれていた、先輩冒険者のネグアにギルドでばったり遭遇した。
どうやら今日は一人のようで、パーティーメンバーは見当たらない。
「若者の成長は早いなぁ。あっという間に抜かれちまった」
「ははは、ありがとうございます。若者と言えばセイルさんはその後どうですか?」
「ん? あいつはいつも通りだよ。いや、いつも以上か? ここ最近は珍しく、全く調子を崩してない。リュウジの紹介してくれた《魔道具》のお陰だな」
「元気そうで何よりです」
そんな風に近況を話し合っているとさらなる来客が。
「やっと見つけましたよっ、マロンさんとリュウジさん!」
入口の方からやって来たのは赤毛の《魔道具》屋、デシレアだった。
相当探し回ったらしく、息を荒げている。
「ご無沙汰してます」
「久しぶりだね、デシレアちゃん」
「あー、そちらのお嬢さんを紹介してもらってもいいか?」
ネグアが控えめに声を上げた。
デシレアはここでネグアに気が付いたようで「お邪魔しましたかね」とバツの悪そうな顔をするが、ネグアは「大した話じゃなかったから気にしないでくれ」と首を振る。
ここは共通の知人である俺から紹介するべきだろう。
「こちらはデシレアさんです。《魔道具》を作っていて、セイルさんが買ったのも彼女の店のです」
「おお、そいつぁ奇遇だな。俺ぁネグアってんだ。甥がいつも世話んなってる」
「お客様に満足いただけてるなら何よりですよ」
ぺこぺこと会釈し合う二人。自己紹介を済んだのでそろそろ本題に入ってもらおう。
「それで、今日はどうしたんですか?」
「あ、そうそう、実はお使いを頼みたくてですね」
「何がいるんです?」
「《潮風石》という鉱石をペティで買って来て欲しいんですよ……」
「ペティ……?」
聞き慣れぬ単語にオウム返しする俺。文脈的に場所名なのだろうが『ペティ』とは一体どこなのだろうか。
「リュウジ君知らないの? ほら、クレン山を越えてちょっと行ったとこにある港町だよ」
「ああ、港町ね」
マロンの口振りから察するにかなりメジャーな町らしい。「ああ、あそこね」とでも言うかのような調子で頷いた。
海が近くにあることすら初耳だったが。
「何で行商に頼まねぇんだ? ウチとペティを往復してる商人なんざ腐るくれぇ居んだろ」
「いやー、古馴染みの方にお願いしてたんですけどねぇ……」
彼女の話によれば、その行商人は《潮風石》を買えなかったらしい。
何でも、先月に採掘船が壊れたとかで鉱石類の価格が高騰。
用途は限られるものの沿岸沿いでは一定量の需要がある《潮風石》はその傾向が顕著であり、たった一グラムで銀貨が飛ぶほどの大幅値上げが行われていたのだそう。
そうなっては採算が取れないため、その行商人は買い付けを諦めたとのことだ。
そして、そのことをつい先ほど知った彼女は、大慌てで俺達を探していたという。
「そろそろ採掘船は修復されてるはずですし、今から行けば安く買えるはずなんです」
「それならその行商さんに頼めばいいと思うけど、急ぎなの?」
「はい、できれば鎮魂祭の二日前までにはお願いしたく……」
「鎮魂祭だと!?」
ネグアが素っ頓狂な声を出した。
「鎮魂祭って確か来週でしたよね」
「正確には八日後だね」
「おいおいおい、馬車を使う商人でもペティまでは片道一週間かかるんだぞ。いくら冒険者の足が速いからってそいつは無茶だろ」
「ええ、ですのでクレン山を越えていただければなぁ、と」
目を逸らしながら言うデシレア。
なお、クレン山とはメルチアの西に見える大きな山で、変異種が多く住む危険地帯だ。
「うーむ、行き来に時間がかかるのは南北に伸びるクレン山を迂回してるってのが大きい。そこを突っ切れば確かに一週間で往復することも可能かもしれん。が、危険すぎる」
ネグアが唸る。
「知ってるかもしれんがクレン山は一つの山じゃない。山地だ。通るルートにもよるが最低二山は越えないと平地には出られねぇ。クレン山で野営すんのに比べりゃマシだが、一日で二山越えて、疲弊した状態で森で一晩明かすのも充分に危ねぇ。二人の実力は知ってるが、さすがに断った方が良いと思うぞ」
もっともである、と先輩冒険者の忠告に深く頷く。ベテランだけあって的確にリスクを挙げてくれた。
加えて、マロンがどうかは知らないが、俺には野営の経験が無いためそこも不安要素となる。
「やっぱり駄目ですかね……」
「……いえ、大丈夫です。その依頼、受けますよ」
ここで一旦、ネグアの方を向く。
「ご忠告ありがとうございます。ですが、俺の《ユニークスキル》は山越えに適しているので心配いりませんよ」
「そうか、そうだったな。あのドラゴンが居れば……。ま、勝算があるなら俺から言うことは何もねぇ。等級も俺の方が下だしな」
でも油断だけはしないようにな、と最後に付け足してくれた。
それからマロンにも確認を取る。
「そっちはどうする? 正直、行って帰って来るだけだし俺は一人でも行けると思うが……」
「いやいや一人じゃ危険でしょ。リュウジ君の《気配察知》じゃすり抜けて来る敵も居るかもなんだし。それに友達が困ってるなら助けてあげたいよ」
「そうか」
というわけで、二人で港町ペティまで行くこととなった。
「ありがとうございますっ、本当に! 報酬は何でも言ってください!」
それに対してデシレアはまるで命でも救われたみたいに大袈裟な反応で、俺とマロンは顔を見合わせて小さく笑った。
「では、これ借りて行きますね」
「はい。もし壊しても弁償しろなんて言いませんので存分に活用しちゃってください。何なら他のも持って行きますか?」
「いえ、これ以上は嵩張るので遠慮しときます」
ギルドでのやり取りの後、ネグアと別れた俺達はデシレア一家の《魔道具》屋に来ていた。
俺も、そしてマロンも野営は初と言うことで、通常のキャンプ道具よりも、扱いやすい《魔道具》を使った方がいいだろうという判断だ。
自分から頼んだことだから、と言ってデシレアは《魔道具》を無料で貸してくれることになった。まあ、さすがに壊した時には弁償しようと思うが。
「遠慮しなくて大丈夫ですよ? こちらのフライパンは火を使わずに物を焼けて便利です」
でもそれ柄の部分も熱くなるじゃん。
「ありがとうございます。でも大丈夫です。それより報酬の方、お願いしますね」
「それはもちろんです。腕によりをかけて《付加》させていただきます」
この依頼の報酬をどうするかについては少々悩んだ。
どのくらいが適正なのか、どのような形態で払ってもらうのか、そもそも友人の頼みを聞くのに報酬が必要なのか。
最後のについてはデシレアが払うと言って譲らなかったのと、ネグアに「友人だからこそ金勘定はきちんとすべきだ」と諭されたことで貰うことになった。
それからまた少し話し合い、俺は《濡羽の王笏》に《錬金術》で効果を《付加》してもらい、マロンは現金をもらうという結論になった。
「それではまだ準備もありますので」
「また明日ね、ばいばーい」
「はい、また明日、よろしくお願いします」
そうして俺達は《魔道具》屋を後にした。
ネグアに教えてもらった旅の準備はまだいくつかある。今日中にそれらを終わらせてしまうとしよう。




