61.A級昇格試験★
時間はあっという間に過ぎて行き、A級試験当日を迎えた。
俺とマロンは《中型迷宮》の広場で合流した。
「それじゃあ行こうか」
「ああ」
入場料を払い、大きな扉をくぐって《中型迷宮》に入る。
やたらと長い螺旋階段を上り第二十階層前の踊り場へ。
「結構集まってるね」
「だな」
踊り場には冒険者達がたむろしていた。
数人ごと、恐らくそれぞれのパーティーごとに集まっていて各々に雑談している。
俺達もそこでしばらく待っていると、切れ長な目をしたギルド職員がやって来た。
「これより試験を開始します。本試験に当たって私から皆さんに伝えておきたいことは──」
それからしばし、職員の話を聞いた。
曰く、A級やB級は一流である。冒険者の規範である自覚を持たなくてはならない。しかし、近頃は行方不明になる高位冒険者も多く嘆かわしい。
これより昇格試験を受ける俺達には、試験中も試験後も油断せず慢心せず活冒険者としての手本を見せて欲しい。
とまあ、そんな感じのことを話していた。
「──私からは以上です。心して臨んでください」
職員による開幕の挨拶が終わり、最初の挑戦者が階層の入口をくぐって行く。
俺達が呼ばれたのは三番目だった。入口から勢いよく弾き出された── 《エスケープクリスタル》を使うとこうなる──パーティーと入れ替わりに第二十階層に入る。
守護者部屋までの道のりを二人で黙々と歩く。
「さっきの人達、落ちてたね」
「そうだな」
欠員がなさそうだったのは不幸中の幸いだろう。
「私達は受かるかな」
「そうだな」
「……もしかして緊張してる?」
「そ、んなことは、ないぞ」
「めっちゃしてるじゃん」
「…………」
ふう、と息を吐く。
「やっぱ格上相手は緊張するな」
「これまで戦って守護者も大体格上だったじゃん」
「そう……なんだが。やっぱ目の前で失敗するのを見ちまうとな」
自分達もそうなるんじゃないか、という負のイメージに囚われる。
「〈儀式魔術〉を防げなかったらゴメンな……」
「元気出して。いざとなったら私がフォローしてあげるからさ。そんな落ち込んでたら勝てるものも勝てないよ」
「それもそうだな……」
腕を伸ばし、肩を回し、一度深呼吸する。そしてこれまでのことを振り返る。
最終守護者の使用《スキル》や〈術技〉はバッチリ頭に叩き込んだ。解毒用の《薬品》も買い足した。出来ることは全てやった。
次に自身の《ステータス》を見る。
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人間種―魔人 Lv55
個体名 リュウジ
職業 風魔銃士 土魔銃士 光魔銃士 水魔銃士 闇魔術見習い
職業スキル 魔風の銃弾 魔術強化 儀式魔術 砲術強化 火器強化 魔土の銃弾 光魔術強化 魔光の銃弾 魔水の銃弾 闇魔術強化
スキル 剣術(下級)Lv1 体術(下級)Lv8 砲術(上級)Lv4 棒術(下級)Lv5 風魔術(上級)Lv6 土魔術(上級)Lv4 火魔術(中級)Lv10 光魔術(上級)Lv2 水魔術(上級)Lv2 闇魔術(中級)Lv2 暗視Lv6 気配察知Lv8 職権濫用Lv4 双竜召喚Lv6 竜の血Lv--
称号 竜の体現者Lv5 迷宮攻略者Lv2 竜骨Lv3
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この十日間で随分と成長した。昨日が休みで一日中《スキル》を鍛えていたため《土魔術(上級)》も《レベル4》になった。
出来ることはぐっと増えた。それに心強い仲間もいる。
きっと上手く行くだろう。
「もう大丈夫だ。そうだな、さっさとボス部屋に行ってサクッと倒しちまうか」
「そうそう、その意気だよ。がんばろう!」
そうして無理矢理にでもテンションを上げながら三番目の部屋、最終守護者の待つその部屋へと足を踏み入れた。
入口は開けた広場に繋がっており、遠くにこの二週間近くで見慣れた岩山が広がる。そちらに向かって少し進むと、岩山の奥まったところ、目測だが一キロは離れているのではなかろうかというところから大きなヒトデが浮かび上がった。
あれが最終守護者の《海星王》だ。
「あー、アタリかぁ」
「みてーだな、〈セイクリッドウォール〉」
辺り一帯を覆い尽くすほどの濃密で強烈な攻撃の気配。それを感じるや否や用意していた〈上級魔術〉達を発動させていく。
初めに光の壁を設置し、
「〈スチールシールド〉」
続けて大きな鋼鉄の盾を生成し、
「〈ストームドーム〉」
仕上げに嵐の外殻で周囲を包む。ゴウゴウと吹き荒れる嵐の中で壁と盾が俺達を守る、万全の布陣が出来上がった。
「来るよ」
そこへ最終守護者の〈儀式魔術〉が襲来する。
それは氷刃の群れだった。吹雪に含まれる氷雪一つ一つを刃に変えたようなそれらが、文字通り疾風の速度で殺到する。
〈ブリザードブレード・グランド〉と言う名のこの〈魔術〉は威力・速度共に並外れているが何よりの特長はその攻撃範囲だ。
空を埋め尽くすがごとき無数の氷刃に前に逃げ場はなく、こうして防御系〈上級魔術〉で耐え忍ぶ外ない。
「うぅっ、音、凄いねっ」
「ああっ」
ギャリギャリと嵐の外殻と氷刃が削り合う大きな音が響く。
この〈儀式魔術〉は範囲が凄まじい、つまり威力は比較的低いため、ただの〈上級魔術〉である〈ストームドーム〉でも拮抗させられている。
だがそれも数秒の話、嵐の外殻は完全に散らされ氷刃達が鋼鉄の盾に到達する。こちらも〈上級魔術〉だが先程の例を見るに長く持たないことは明白だ。
〈ブリザードブレード・グランド〉は二十秒ほど持続するとのことだった。このままでは氷刃によってズタズタに切り裂かれてしまう。
「〈スチールシールド〉、〈ストームドーム〉、……〈セイクリッドウォール〉」
なので防御陣を再展開する。
嵐の外殻が時間を稼いでくれていたおかげでクールタイムが過ぎ去り、再発動が間に合った。〈セイクリッドウォール〉だけはクールタイムが若干長いため一拍遅れての発動となったが。
無限に続くかに思われた氷刃の勢いもやがて落ち、最後の一本が鋼鉄の壁に突き立った。
「なんとか、なったか」
大規模攻撃を防ぎ切ったことで少し安堵する。〈儀式魔術〉はクールタイムが非常に長い。この戦闘中に使われることはまず無いだろう。
けれどまだ戦いは始まったばかりだ。心の中で気持ちを引き締め直す。
「こっからが本当の戦いだな」
「うん、作戦通りに行こう」
俺達は揃って壁の後ろから飛び出した。
 




