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58.砦貝

 一日の休日を経て。俺とマロンは再び第十九階層にやって来ていた。

 試験まではあと五日。《土魔術》を鍛えることも必要だが《レベル》上げもしておきたい。

 岩山エリアはメルチア最難関だけあって人が少なく、魔物との遭遇率が高い。いい《経験値》稼ぎになるだろう。


「おっ、宝箱の気配」

「どこどこ?」

「あそこの出っ張りの上らへんだ」


 それから宝箱も見つかりやすい。これで本日二つ目だ。

 人が少ないということはそれだけ手つかずの場所が多いということ。物陰の宝箱が見つけられず放置されていることが多いのだ。

 そういった宝箱を《称号》で余さず見つけられるため、その発見数はかつてないほどの値を記録している。普通の冒険者なら一ヵ月に一つ見つければいい方──ミミックを含めればもう少し増えるが──と言えばその豊作具合がわかるだろう。


「じゃあミルク、取って来てくれ」

「グルッ」


 白い小竜が飛び上がり岩の出っ張りに登った。

 ミミックではなかったようで戦闘音は聞こえない。しばらくごそごそやった後、中身を口で咥えて帰って来た。


「何だこれ?}

「何かの骨……かな?」

「ガウ?」


 揃って首を傾げる。

 ミルクが取って来た物は確かに骨のようだった。青みがかった白色で、ほっそりとしたそれらが束になっている。

 考えていても答えは出ないので鑑定してみた。


「《空クラゲの骨》、っていう素材らしい」

「クラゲって骨あるの?」

「これは似てるだけで本物の骨ってわけじゃないみてぇだぞ」


 鑑定結果をマロンに共有する。

 一口に鑑定結果と言ってもかなりの情報量になるため掻い摘んでだ。


「ふーん、薬の材料になるんだ」

「主に、な」


 特に傷を治す効果の薬と相性が良いようである。


「まあこれは売却かな。《ランク4》ならそこそこ高く売れるでしょ」

「そうだな」


 持っていても使い道が無いため売るしかない。ポーション屋に持って行くという手もあるが、回復|《薬品(ポーション)》は昔に買ったのが未だに残っている。普通に換金した方が良いだろう。

 とまあそんな具合で探索を続け、大岩がゴロゴロ転がる山間を歩いていると魔物と遭遇した。


「《フォートシェル》か」


 それは空を漂う巨大な貝だった。形はサザエに似ている。

 灰色の殻に覆われた体からはフジツボの代わりに砲塔が突き出し、周囲を威嚇している。

 数は一体だけだが《レベル》は五十六。油断できる相手ではない。

 口の部分を上に向けて浮遊するソイツから、攻撃の気配が発せられた。


「〈アイアンウォール〉」


 俺の眼前に鉄の壁が現れた数瞬後、ズガンッ、と何かが激突する音が響いた。

 音は一度で終わらず連続している。あの魔物は〈魔術〉の他にも遠距離攻撃用の《スキル》をいくつか持っているのだ。

 このままでは遠からず〈アイアンウォール〉は破られるだろう。


「〈ストーンシールド〉」


 なので近くにあった岩の陰に転がり込む。移動中は石の盾を展開して身を守った。

 小竜達と無事、岩の陰に隠れられたがそれで攻撃が止むわけではない。数度の攻撃で岩を破壊するのは手間だと学習した大貝はアプローチを変えて来る。


「っ、〈エアシールド〉」


 頭上に広げた空気の盾から硬質な音が響いた。大貝の〈魔術〉を防いだ音だ。

 〈ドロップニードル〉。水滴を針のようにして飛ばす水系の〈中級魔術〉である。

 任意のタイミングで急速に落下させることができ、遮蔽物の向こうを曲射するのに向いている。

 〈魔術〉であるため連射は利かないがこのまま隠れていても埒が明かない。気を引く必要もあるので反撃に出るとしよう。


「《若竜化》、チョコ、行ってこい」

「ガウガウ」


 バサッと翼を広げた黒若竜。大岩を飛び越えて突っ込んで行った。

 だが気配はなかなか前に進まない。大貝の放つ遠距離攻撃に邪魔され思うように近づけないようだ。

 左回りに回り込ませて大岩を射線から外させたが、しかし距離は大して変わっていない。

 仕方が無いのでこちらからも援護射撃をすることとする。


「〈ストーンアロー〉」


 垂直跳びで岩から上半身だけを出し〈魔術〉を放つ。石の矢が宙を翔け大貝の殻を叩いた。

 砲塔の一つから即座に反撃があったがその頃にはもう岩の後ろに戻っている。

 岩の脇から顔を出すと、チョコが大貝を《ドラゴンブレス》の射程に捉えたところであった。

 大口を開け黒き魔力を放出する。


「これも防ぐか」


 けれど突如出現した滝に息吹は遮られてしまう。

 〈フォールズウォール〉。《上級》に位置するその〈魔術〉はブレスを遮断し、大貝とその背後に飛び掛かったマロンを守った。


「とうっ」


 接敵前に別行動を始め、《潜伏》状態で岩山を一周りし、大貝の裏を取ったマロンが犀槍を振り下ろす。

 電柱をへし折ったような大きな音が響き、大貝が地上に叩き落される。


「〈ゲイルジャベリン〉」


 すかさず突風の槍を放つも水の盾で威力を殺され大貝の殻を貫くには至らなかった。


「グラァウッ」


 しかしそれで充分だった。〈ゲイルジャベリン〉を防ぐのに注力した結果、上空から全速ダイブしてくるチョコに対処できなかった。

 マロンの一撃で罅だらけとなった部分へ追い打ちを受け、大貝の殻は破れ、チョコの爪がその中身を容赦なく抉った。

 その中には《魔核》も含まれていたようで、大貝の体はやがて《ドロップアイテム》へと変わっていった。


 山の斜面に着地したマロンがドロップを拾いこちらに歩いて来る。


「いい囮っぷりだったよー」

「そっちもいい不意打ちだったぞ。俺も視認するまではどこにいるのか全く掴めなかった」

「私の《潜伏》は《ビーストボースト》で強化されてるからね」

「羨ましいな。俺は《潜伏》が全然覚えられねぇんだよな。練習始めて結構経つんだが」

「そりゃそんなすぐには覚えられないでしょ。やり方教えてからまだ数日だよ? そんな簡単に覚えられるなら皆|《潜伏》持ってるよ」


 言われてみればそうなのかもしれない。

 《潜伏》は《ランク2》の《スキル》。《術技系スキル》で言えば《中級》相当だ。

 それだけに習得には相応の時間がかかるのだろう。

 なお、同等級のはずの《気配察知》は独学で取れたが、これは《竜の体現者(ザ・ドラゴン)》の補助によるところが大きいのではないかと俺は睨んでいる。

 この《称号》には気配に敏くなる効果もあった。それによって常人よりも《スキル経験値》を得やすくなっていたのだと思う。


「あとさ、リュウジ君は気にしてるみたいだけど、《潜伏》なんて無くても大丈夫だよ? 私達が隠れなきゃならないような相手なんてほとんどいないし、もし居たら半端な《潜伏》じゃ歯が立たないよ」

「でも《迷宮》外で活動するとき何かと不便だろ? 弱い獲物は逃げて行くし強い魔物は寄って来るぞ」

「弱い奴を狩るときは私が頑張るし、強い奴と戦うときは私の奇襲で一気に決めるから大丈夫だよ。そんなことより今は防御〈魔術〉の鍛錬に集中してよね」

「そうっすね……」


 『いつか必要になるかもしれない』なんてあやふやな理由で目の前のことを疎かにするのは良くない。

 今は《土魔術》の鍛錬に集中するべきか。

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