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53.近接戦練習

「飛び級、ですか?」

「はい。その辺の制度がどうなってるのか知りたいのですが」

「私達はC級だけど、もう十六階層まで行けるんだよね」


 セイルを下した俺達はそのままギルドの受付を訪ねていた。

 半年に一度のA級冒険者昇格試験が再来週に開かれる。試験内容は《中型迷宮》最終守護者の討伐。

 今の攻略ペースで行けば俺達はそれに間に合いそうだが、C級冒険者でも受けられるものなのか確かめに来たのだ。


「決まりの上では受験料さえ払っていただければ問題はありません。ですが無理は禁物です。攻略を焦って死んでしまってはいけません」

「大丈夫です、無理はしません。もし最終守護者に挑めるようになったら、そのときにまたどうするか考えてみます」


 A級冒険者になったとしても何か大きな恩恵が得られるわけではない。精々周りに威張り散らせるくらいだ。

 そのため特段、急ぐ理由もなく。無理して攻略しようとは思わない。

 教えてくれた職員に礼を言ってギルドを去る。


「受けれるみたいだね、A級試験」

「攻略が順調に進めばだけどな」


 最終守護者の《レベル》は六十。挑む前にしっかりと《レベル》上げをしなくてはならない。


「そこは意地でも進めようよ。これ逃したらB級試験でもまだ一ヵ月は先だよ?」

「焦りは禁物って言われただろうが」


 ちなみに来月に行われるB級試験では第十階層のトカゲを倒す。

 既に倒した相手であるためB級試験なら合格は確実だろう。


「大丈夫だって。今日の区間守護者も簡単に倒せたんだし」

「区間守護者と最終守護者は同列に扱えねえだろ」


 区間守護者と最終守護者の間には、《レベル》差以上の隔たりがある。

 それは《スキル》や《種族》のことでもあるが、最も大きいのは《職業》の違いだ。

 《最終守護者》は《区間守護者》の上位の《職業》であり、《職業スキル》が一つ多い。


「それじゃぁこの辺で。またね」

「ああ。……あと明日予定空いてるか? ちょっと頼みたいことがあるんだが」

「なになに? 私は暇だけど」

「実はな……」




 それから次の日。


「あれ、今日はリュウジ兄ちゃんも居んのか?」

「そうだぞ。やりたいことがあってな」


 レンを孤児院に連れて来た俺はそのまま孤児院の建物に入って行った。

 中で数人の子供達に囲まれていたマロンを見つけ声をかける。


「おはよう。今日はよろしく頼む」

「おっはよー。じゃあ早速出ようか」


 そうして庭に出る俺達。子供達の居ない隅の方へと移動し向かい合った。

 無手の彼女に対し俺は杖を持っている。《濡羽の王笏》だと折れてしまっては大変なので、訓練用にと持ってきた物だ。魔法使いの杖らしく先端がグルグルと捻じれていて重心が少し歪だが、《濡羽の王笏》も似たようなものなのでこれにも慣れるべきだろう。


「にしてもリュウジ君も物好きだねぇ。魔術師なのに接近戦を学びたいなんて」

「いいだろ、魔術師だって近寄られるかもしれねんだから」


 昨日の模擬戦では同《レベル》の相手に近接戦で後れを取った。そのため、我がパーティーの頼れる前衛である彼女に接近戦の技術を師事しようというのだ。

 《ユニークスキル》や攻撃〈魔術〉である程度カバーできるため必要性は若干低くなるが、負けかけたのは純粋に悔しかったしな。


「私がいるんだしそんな心配いらないんだけどなぁ。まあ備えるに越したことはないか」

「それで、何からするんだ?」

「色々考えたんだけどさ、まずは全力で掛かって来てよ。リュウジ君の実力を知らないことには教えようがないから」

「了解」


 言われた通り向かって行くことにする。

 丸腰でも油断できる相手ではないことは重々承知しているため最初から全力だ。

 素早く駆け寄り、フェイントを挟み、一気に踏み込んでスイング。彼女は身を反らし、手の平を添えて容易く受け流した。

 続けて突き、払い、振り上げ、下段蹴りを放つも悉く躱すか流すかされてしまう。


「ほいさ」

「ぐっ!?」


 さらに踏み込もうとしたタイミングでマロンが横に回り込んで足を払って来た。前へ向かう勢いのままに体が地を離れた。

 けれど俺には強化された動体視力と《敏捷性》がある。咄嗟に片手を地面に伸ばし、倒立の要領で素早く重心を前に移動。片手で体を押し上げくるりと回り、マロンの方に向き直りながら着地した。

 彼女は足払いを仕掛けた場所から動いておらず自然体で立っていた。


「さあ、どんどん掛かって来て」


 両手を広げ余裕たっぷりにそう言った。





「オッケー、取り合ずここまでね」

「ハァ、ハァ……結局掠りもしなかったな」


 十数回の攻防の後、背負い投げを食らって地面に転がっていた俺はゆっくりと立ち上がる。


「……それで、どうだった?」

「うーん、まずまずかな。勢いは良いんだけど技巧が全然だね。無駄が多いし狙いもわかりやすいし」


 でも、と彼女は続けた。


「動きに迷いが無いのは良かったよ。体も結構がっしりしてるし、もしかしてよく喧嘩とかしてた?」

「まあ、ちょっとだけな」

「それでかな。人を攻撃したりされたりすることに躊躇いがないよね。それって実戦ではすっごく大切なことだよ」

「お、おう……」

「それに私の動きをよく視てるのも良かったよ。構えに合わせて色々攻め方を工夫してたし、フェイントも二回目以降は大体わかってたみたいだし」


 やけに褒めてくれる。少し照れる。


「まあ体捌きが粗いからまずはそこかな。型を教えるからそれを繰り返しやってみて」


 立ち方に始まり基本の構え、歩き方、突き方、振るい方、防御の仕方などなど。基礎をみっちり叩きこまれた。

 彼女が修めているのは槍の技術であるため当然、わかるのは槍の戦い方である。しかし槍も杖も同じく棒状の武器。彼女の修める槍術の中には杖術に通ずる部分もあり、そう言ったところを教えてもらっている。


「敵がこう来たときとかに……そう、そういう風に迎え撃って。あ、でも腰はもう少し低く、脇はもっと絞めてね」


 『こう来られたらこう動く』というような動作の型も一緒に習った。

 事前にどう動くかを決め、体に叩き込んでおくことで、いざその場面に直面した時に思考時間を省略して反射的に行動できる。

 また、単純にその動きを繰り返すことで必要な筋肉を鍛えたり、動作を効率化したりと言ったことにもつながるそうだ。

 それからはひたすらに型を反復した。




 そうして時間は過ぎて行き正午を迎えた。十二時の鐘が鳴った。


「このくらいにしとこうか」

「そ、そうだな……」


 息を切らしながら同意する。合間合間に休憩を挟んだとはいえさすがに少し疲れた。


「分かってると思うけどあんまり過信しないでね。今日教えたのは基礎中の基礎だけど、そう簡単に修められるものじゃないから。私は実戦訓練を始めるまでの半年間、ずっとこれだけ繰り返してたし」

「ああ……」


 俺の杖術歴はまだ半日。自分が素人であることは、素人なりに理解している。

 もし近づかれることになっても杖は牽制程度でメインは〈魔術〉を使うことになるだろう。


「それに私のは本格的な杖術じゃないから。リュウジ君なら今のままでも護身術程度にはなると思うけど、本気で目指すなら──」


 と、そんな話をしているとアマグ院長がやって来た。


「マロン、リュウジさん、そろそろご飯にしませんか」

「俺もいいんですか?」

「リュウジさんには今朝も寄付していただいたので。それに今日は傷みかけの食材が多くて作りすぎてしまったんですよ」

「では、ありがたくご馳走になります」


 俺達はお昼を食べるべく、孤児院に入って行った。

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