47.巨大樹エリア★
「〈スプラッシュクラスト〉」
水の球が浮かび、圧縮され、弾ける。
前方にのみ飛散する水飛沫の散弾が、宙に浮かぶ三体の魔物を襲った。
水飛沫一つ一つの威力は控えめなものの数が多い。避けることはできず散弾を全身に浴びせられた。その中には空を飛ぶための翼も含まれている。
魔物達はよろよろと墜落し出す。
「《若竜化》、〈ウィンドカッター〉」
そこへ若竜達を差し向け、同時に〈魔術〉で追撃。それぞれで一体ずつ仕留めた。
魔物達が《ドロップアイテム》に変わる。
「ざっとこんなもんだな、今の〈魔術〉の威力は」
「おー、随分上がったね」
「《装備品》で大分盛ってるからな」
そう言って今一度自身の《ステータス》を見返してみる。
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人間種―魔人 Lv38
個体名 リュウジ
職業 風魔銃士 光魔術見習い 水魔銃士
職業スキル 魔風の銃弾 魔術強化 儀式魔術 砲術強化 火器強化 光魔術強化 魔水の銃弾
スキル 剣術(下級)Lv1 体術(下級)Lv6 砲術(上級)Lv4 風魔術(上級)Lv2 土魔術(中級)Lv6 火魔術(中級)Lv7 光魔術(中級)Lv10 水魔術(上級)Lv1 闇魔術(下級)Lv8 暗視Lv3 気配察知Lv6 職権濫用Lv4 双竜召喚Lv4 竜の血Lv--
装備 巌魔の首飾り
シークレットリング
ジェネラルヘルム
柔鉄の鎧
スパークラークエンブレム
遁走の蹄靴
風魔術師の指輪
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《レベル》は一気に五つも上がっており四十まであと一息だ。
《スキル》ではついに《砲術》が成長した。〈叢裂き〉という速度と貫通力に秀でた〈砲術〉を覚えた。
《魔術系スキル》もいつも通り全体的に伸びている。《水魔術》が《上級》になり新たに《職業》も得た。
ただ、これまでなら二つ三つは成長しているはずの《風魔術》が今回は一つしか上がっていない。《上級》になったことで必要な《スキル経験値》が増えたせいだろう。気長に鍛えて行こうと思う。
あと地味に《職権濫用》の《レベル》も上がっており召喚できる武器が増えている。
最後に《装備品》だが、これは一気に種類が増えた。
《装備枠》は七つしかないので《柔鉄の籠手》を《装備解除》することとなったが、何も籠手自体を外したわけではない。
《装備効果》を受けられなくなっただけで依然、俺の腕は《柔鉄の籠手》に包まれている。
「よし、これで最後だね」
「ああ、進むか」
《ドロップアイテム》を拾い終えた俺達は歩みを再開する。途轍もなく大きな木の枝の上を歩いて行く。
ここはメルチアの《中型迷宮》第十一階層、巨大樹エリアだ。その名の通り十二本の超巨大樹木が存在し、巨大樹の枝や幹に彫られた溝を通り道にして探索していく。
今歩いている枝の道も巨大樹から伸びているものだ。横幅は非常に広く表面も平らに削られていて歩きやすくなっている。
しばらくして枝同士が重なり合う位置に着いた。道の端に寄ると数メートル下に他の枝が見える。
「よっ、と。ほら、リュウジ君もおいで!」
下の枝へと飛び降りたマロンが両腕を広げて言った。それなりに高さがあるので抱き留めてやろうというのだろう。
「いらねーよっ」
ぶっきらぼうに言って俺も飛び降りる。飛行能力で落下速度を緩和しながらマロンの隣へ降り立つ。意外と勢いが出るもそれは膝を曲げて吸収した。
飛行能力は切り札の一つなので大っぴらには使わないがこのくらいなら傍から見ても分からないだろう。
「恥ずかしがらなくていいのにー」
「いいから進むぞ」
悪戯っぽく笑う彼女にそう返して先に歩き出す。
少し歩いて敵の接近をマロンが感じ取った。
「今度は私がやるよ」
俺の感知範囲にも気配が現れ、遅れてバサバサと羽音も聞こえて来る。
またも空からやって来たのはこれまた二体の鳥人だった。巨大樹エリアには主に人間と鳥類を合わせたような魔物、鳥人が出現するのだ。
同じ種族でも個体によって使用武器はまちまちで、短剣に槍、素手、棍棒、斧になんと弓を使う者まで居る。矢をどこで補充しているかは疑問だが、《迷宮》の仕組み自体分からないことだらけなので気にしてもしょうがないだろう。
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鳥人種―バードマンソルジャー Lv34
スキル 剣術(中級)Lv3 盾術(中級)Lv3 ウィングスラッシュLv3 軽業Lv3 気配察知Lv3 潜伏Lv3 鳥目Lv3 飛行Lv3
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二体の鳥人の内訳は、剣と盾を持った個体と槍を持った個体だ。揃って空から突撃をしてくる。
迎え撃つのは前に歩み出たマロン。新調した犀槍を構え待ちの姿勢だ。
「クィェェェェエ!」
《敏捷性》の差から槍使いの方が先に接近した。
槍を前に向けて突撃してくる鳥人に対し、マロンは悠然と構えたままだ。
そして鳥人の持つ槍が間合いに入る直前で動いた。
「フッ」
鋭く息を吐きながら踏み込みに連動させて槍を突き出し、そこで驚くべきことが起こった。
マロンがその円錐状の穂先で鳥人の槍を軽く叩き、その場でくるっと円運動させ、その小さな動きで敵の槍を絡ませ、跳ね上げてしまったのだ。
瞬きの間に行われた早業。それにより鳥人は槍の狙いを大きく上に逸らされた。
どうにか槍を手放すのは堪えたものの、万歳をするような体勢にされしまい、そうなってはもうどうしようもない。
突撃の勢いを殺せないまま待ち構えていたマロンの槍に突っ込んでしまう。
腹部を貫かれたその魔物は程なくして《ドロップアイテム》に変わった。
槍使いの死から数秒後、剣と盾を持った騎士スタイルの鳥人も充分に近づいてきた。
盾を前面に押し出した防御重視の突撃だったがマロンは構わず刺突を放つ。
顔を狙った一撃目でガードの位置が上がったところで足を動かした。
最初の刺突を放つ前の段階で動く準備はしていたのだろう、スムーズに横へズレつつ槍の腹で殴りつけ、鳥人を枝の道の上に転がしてしまった。
体を折り曲げ苦しむ鳥人に素早く駆け寄ったマロンが油断なくトドメを刺した。ドロップに変わる。
しかし戦闘はそれで終わりではない。
「何かもう一体来てるね」
「そっちは俺がやる。《ドロップアイテム》を回収しててくれ」
「りょーかい」
マロンの戦いを観察しながらも〈魔術〉はいつでも撃てるようにしていた。彼女がピンチに陥るとは思っていなかったが不測の事態も考えられるからだ。
今回はそうならなかったが、新たな魔物がもし戦闘中に乱入して来たならばマロンも多少は苦戦したかもしれない。
さっきの危なげない戦いぶりを思い返すととてもそうとは思えなかったが過信は禁物だ。
喪ってからでは遅いのだ。
さて、新たな魔物は俺達の後方からやって来た。
見ればただの鳥人だった。オーバーキルな気がしつつも用意していた〈上級魔術〉を発動させる。
「〈スノーストームストリーム〉」
吹雪が集い、一条の奔流となって迸る。グラウンドの端から端くらいの距離を雪崩のように駆け抜けて、逃げようとする鳥人を呑みこんでしまった。
現在の俺が使える中で最大火力の〈魔術〉が通り過ぎた後には、凍てつき、霜に覆われた鳥人だけが残され、それもじきに《ドロップアイテム》に変わった。
「……もっと引き付けてから倒すべきだったか」
ぼやきつつもドロップを拾うため歩き出した。




