46.新装備
《装備品》の注文を終えた俺達は冒険者ギルドに足を運んだ。
折よく暇をしていたユーカの受付で、《装備品》に使わない変異種の素材を提出していた。
「な、何ですかこの素材の量は……」
「えへへー、実はね──」
タセリ村での事の顛末を語るマロン。特に口止めはされてないので問題はないと思う。
「そ、そんなことが……」
ユーカは引き気味にそう言った。
危険なことをするなとまた怒られるのではないか、と少し思ったもののそうなる様子はない。
「近頃の魔物の分布変化には困らされていましたし、それにお二人はもうC級冒険者ですからね。私から言えることはもう何もありません。でも危ないときは無理せず逃げて欲しいですよ」
素材の査定をしながらジト目を向けて来る。
気まずくて視線を逸らす。
「査定終わりました。こちらが報酬となります」
報酬を受け取り、ギルドを出てからマロンとは別れた。
それからは家で《スキル》を鍛えて一日を終え、新しい一日が始まる。
マロンが武器を持っていないことや遠征から帰ったばかりということもあって丸一日休みとなった。
「あら、リュウジさん。まだご注文の《装備品》は出来てませんよ」
「はい、今日は他に買いたいものがあったので」
近くの食堂で朝食を済ませ、レンを孤児院に届けた帰り道。昨日の鍛冶屋を訪れた。
ある《装備品》に目を付けていたのだ。
「あったあった、これです」
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《シークレットリング》ランク4:装備者への鑑定を防ぐ。
耐久力上昇。損傷を自動修復する。
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手に取ったのは一点の指輪。霞がかった空のような薄水色の金属製であり、宝石などは付いていない。
鑑定能力も対抗手段も希少なためこれまで放置して来た鑑定対策だが、昨日たまたま鑑定した中にこれを見つけた。
情報の秘匿を盤石にできるしお金にも余裕があったので、一晩考えて買うことを決意した。
カウンターまで持って行き値札に書かれた代金を払う。
「ちょうどですね、お買い上げありがとうございます」
店を出ながらそのほっそりとした指輪を嵌める。《装備品》特有のサイズ調整機能で指にぴったりフィットした。
そうして家路につきながら今後の予定を思案する。
少し考えて、やっぱり訓練をすることにした。明日からは《中型迷宮》の第十一階層以降を攻略していくので《スキル》を伸ばしておきたい。
この世界の娯楽に馴染みが無いためしたいことが見つからなかった、というのもあるが。
自宅に着いたので庭に移動する。
ざっ、ざっ、っと靴で地面に×印を付け庭の端まで離れる。
そして腕を伸ばし、《職権濫用》を発動し、狙いを定めて、撃つ。凍拳銃の氷弾は印の中央を撃ち抜いた。
「遅いな」
思い出すのはウォルターとの戦い。
俺は炎銃を呼び出しワーム撃ち落そうとしたがそれより先に《嫉妬》を使われてしまった。
このままでは駄目だ。再び《嫉妬》持ちと戦うときのためにも、銃撃の瞬発力を上げるためにも、早撃ちをマスターしておくべきだろう。
召喚し、照準し、発射する。この手順を出来るだけスムーズかつスピーディに行えるようにするのが今回の目標だ。
早撃ちの高速化に向けて練習を始めた。
「《職権濫用》」
《スキル》の発動と同時、指を引く。
カチリ、と引き金にかかり氷弾が飛び出し地面が凍った。
「こんぐらい出来ればいいか」
満足の行くくらいにはなったので他の訓練もしよう。
今度は〈魔術〉がいいだろうか。《水魔術》が《上級》になるまであと一歩だったりもするし。
その後は《潜伏》習得の訓練もしなくては。コツはタセリ村からの帰りにマロンに聞いてある。
そうして《スキル》を鍛えている内に休日は過ぎて行った。
また一日が経ち。
「はい、頼まれてた《装備品》だよ」
再び武器屋に来た俺達は《装備品》を受け取った。
試着室のある部屋に二人で入り、まず俺から装備してみる。俺が買ったのは靴、首飾り、胸章の三つだ。
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《遁走の蹄靴》ランク4:装備者の敏捷性を引き上げる。装備者の脚力を強化する。
耐久力上昇。損傷を自動修復する。
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《巌魔の首飾り》ランク4:装備者の魔導力を少し増幅する。装備者の魔導力を引き上げる。
耐久力上昇。損傷を自動修復する。
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《スパークラークエンブレム》ランク4:装備者の魔導力を引き上げる。装備者の雷系統の攻撃を強化する。
耐久力上昇。損傷を自動修復する。
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「見た目はあんま変わんねぇな」
「そうでもないよ。ぱっと見の印象が柔らかくなってる」
なるほど、他人から見るとそんな感じなのか。
《巌魔の首飾り》は鎧の下になって見えないし、足元の《遁走の蹄靴》や鎧の胸部にちょこんと付けるだけの《スパークラークエンブレム》だけなら大して変化はないと思ったのだが。
ちなみにこれまで靴は《柔鉄の鎧》のを履いていたが今日からは《遁走の蹄靴》に変更だ。パーツが一つ欠けたくらいでは《装備解除》にはならないので《柔鉄の鎧》も引き続き装備している。
「次は私だね」
俺の代わりにマロンが試着室に入る。
待つことしばし、彼女が出て来た。
「じゃーん、どうかな?」
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《遁走の蹄靴》ランク4:装備者の敏捷性を引き上げる。装備者の脚力を強化する。
耐久力上昇。損傷を自動修復する。
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《破犀槍》ランク5:装備者の攻撃力を増幅する。装備者の槍術スキルを強化する。
耐久力上昇。損傷を自動修復する。
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《紅食みの剛鎧》ランク4:装備者の攻撃力と防御力を引き上げる。装備者の敏捷性を引き上げ高温への耐性を付与する。
耐久力上昇。損傷を自動修復する。
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「おお、どれも強いな」
《クラッシュライノ》の角を加工した槍、《破犀槍》なんて《ランク5》だ。《装備効果》も強力で苦労して狩った甲斐がある。
《紅食みの剛鎧》も優秀な防具だ。《遁走の蹄靴》は俺と同じものだが。
「そうじゃなくてさー、似合ってるかとかそういうのを聞いてるんだよ」
「あぁ、似合ってると思うぞ。赤くて力強い感じがする」
ファッションには疎いので詳しいことは分からないが、彼女の新たな鎧、《紅食みの剛鎧》は赤を基調としており派手で苛烈そうなイメージがあった。
主な素材となったのは瞬殺された赤い熊だが、《装備品》に加工されるに当たって、血痕のようなどす黒い赤から熟れた林檎のような鮮やかな紅へと変わっていた。
「そういや槍はそれでいいのか? 前の奴と違って穂先が刃じゃないが」
彼女の手にする黒い槍を指さして訊く。
《破犀槍》は《クラッシュライノ》の角を先端に利用しているため当然、その穂先は鋭い円錐状となっている。
《鍛冶術》で角の反りは無くしているが、円錐を刃に変えるようなことは出来ないようである。
《破犀槍》については遠征以前に話が付いていたためどのようなやり取りがされたかは不明だが、穂先の形状が違っては使い勝手も変わるのではないだろうか。
「大丈夫大丈夫。どのタイプでもある程度扱えるように叩きこまれてるから」
「それならいいんだが」
本人が大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろう。仲間なのだし信用しよう。
試着室の部屋を出る。外では鍛冶師が待ち構えていた。
「出来はいかがでしょう」
「《装備効果》も着心地も良い感じ! ありがとう!」
「俺のも注文通りの効果にしてくれてありがとうございます」
「それは良かった。実は余った素材でこんな《魔道具》もできたんだ。一つサービスしておくよ」
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《砕地の楔》ランク3:魔力を込めて地面に接触させることで周囲を強く揺らす。再使用不可。
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それは黒く小さな杭だった。
俺達と戦った時は使ってこなかったが《クラッシュライノ》には《アースブレイク》という《スキル》があった。恐らくその特性が反映された《魔道具》なのだろう。
くれるというのだから遠慮なく貰っておこう。
それから《装備品》の代金を払った。材料の多くが持ち込みだったからかこの《ランク》の《装備品》にしては随分と安く済んだ。全部合わせても昨日買った《シークレットリング》より少し高いくらいだ。
そうして店を出る。
「じゃあねー」
「お世話になりました」
「また何かあれば僕に依頼してね」
「今後ともご贔屓にお願いしますね」
新しい《装備品》に身を包んだ俺達は気分も新たに街を歩く。
「それじゃあ早速|《迷宮》に行こうか」
「賛成だ」
一路、《迷宮》へ向けて足を踏み出した。
 




