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41.スカイチェイス

 ウォルター達から目を離さず、ビュウビュウと風を切ってバック飛行する。


「追えっ、《フワールワーム》よ!」


 慌てて追いかけ出したウォルター達と俺の速度はほぼ互角。

 消費魔力を増やせば俺はもっと速く飛べるが《竜の血》を封印された現状でそれをするのは悪手だろう。

 《竜の体現者(ザ・ドラゴン)》の飛行能力は速度を上げるほど燃費も悪くなるしな。


「《ボルテックスボルト》じゃ!」


 ウォルターの命令でワームが《スキル》を発動、一点に集められた魔力が半透明に色づき、渦を巻いて射出される。

 攻撃の気配を察知した瞬間に横にズレて避けた。半透明な渦矢が脇を通り過ぎて行く。


「撃ち続けよ!」


 〈魔術〉と違って連射可能なのが渦矢の利点だ。すぐさま次の魔力が渦巻き発射される。

 俺は今度も横に動いて回避した。空中だと逃げ場が多くて避けやすい。

 右へ左へ動きつつ、時には飛行能力をオフにして高度を下げ、後方への逃避を続ける。

 連発は出来ても同時に複数本を撃つことは無理なため、気配と鏃の向きに注意を払っていれば躱し続けるのは造作もなかった。


「よっ、ほっ、とっ」


 左、下、左下、右、左、左……。

 後ろに下がりつつ渦矢を躱す。その際、左方への回避を多めに採るようにする。ウォルター及びその支配下の魔物達を誘導するためだ。

 このまま直進するとタセリ村に着くが左、つまり北西に行けばメルチアの街がある。《迷宮》目当ての冒険者が多数在籍し城壁に囲まれてもいるメルチアなら、高々二百匹の魔物程度に落とされることはない。

 衛兵も居るしな。


 そして幸いなことにウォルターは俺の誘導には気づいていなさそうである。あるいは気付いているが俺を殺した後で軌道修正すればいいと考えているのか。

 なんにせよ《気配察知》で探ったところ、魔物の群れもきちんと俺に付いて来ているようで一安心だ。


 それからしばらく飛び続け、幾度か下に移動し木々の頂点が踵のすぐ下まで迫った頃。

 初めより幾分か近づいたウォルターが怒鳴るようにして話しかけて来た。


「ふんッ、小蝿みたいにちょこまこ逃げ回りおってッ。じゃが速度が落ちて来ておるぞ、もう〈フライウィング〉が切れるようじゃな! よいのかのう、まだワシの傀儡共を振り切れておらんが!」


 高度は同じはずなのに上から見下すかのような、弱った獲物を甚振るような非常に不愉快な目つきだ。


「っ──」


 沸騰しかけた苛立ちを呑みこみ、努めて冷静に情報を分析する。

 俺が速度や高度を下げているのを〈フライウィング〉の効果切れが近いから、と解釈したのだろうか。

 落下時のダメージを和らげるため、あわよくばそのまま森に逃げ込み姿を晦ませようとしていると。

 そんなことは全然ないのだが誤解しているのならラッキーだ。


 次に意識を向けるのはウォルターの傀儡達。ここまでの飛行逃避行でかなりの数を引き離せたが森林内での移動に秀でた変異種四体が未だに追いすがっている。

 ここで着陸したらリンチにされるのがオチだ。とはいえ残り魔力もそろそろ半分を切る。

 時間もたっぷり稼げた、勝負をかけるなら今だろう。


「ギシャァァァ!」


 俺が考察している間にもワームの攻撃は続いている。多少距離が縮まっても、あまり集中せずとも避けられていたが。

 新たな渦矢が生まれ発射されたそのタイミングで左上に移動し、それまでの逃げから一転して全速力で前に出る。

 これまで上への移動はしてこなかった。お陰で意表を突けたらしい。

 ウォルターがぎょっとしている間に距離は縮まる。ワームも急制動を掛けているが止まり切れない。

 みるみる近づいたウォルターの体が俺の右下、サッカーボールを蹴るときの位置にやって来る。


「らァッ!」

「ぐぅっ?」


 全力で足を振り抜いた。が、感触が妙だ。

 バッティングで芯を捉え損なったときみたいな、力が伝わり切らない感覚。

 足が腕に往なされ滑り抜ける。ウォルターはワーム共々通り過ぎて行ってしまった。


 恐らく防御系の〈術技〉を使ったのだろう。俺の使えるものでも〈流免(るめん)〉という受け流しの〈体術〉がある。

 これでワームの上から落とせたら良かったが相手が《体術》持ちなことは知っていた。

 失敗の想定はしてある。


「〈ウィンドカッター〉」


 くるりと反転しウォルターに〈魔術〉を放つ。

 ワームの《空中遊泳》は空中を泳ぐ《スキル》。機動性は俺の飛行能力より低く後ろへ向き直るのには時間がかかる。

 未だ向こうを向いているワームの背中へと風の刃が駆ける。


「ピギャァァァ⁉︎」

「ぬおぅっ⁉︎」


 ちょうどウォルターの座っているすぐ後ろに命中した。皮膚の耐久性は低いようで大きく裂けて緑色の血が噴き出す。

 ワームが痛みにのたうつ。


「なぬ、〈魔術〉じゃと⁉︎」


 振り落とされないようワームにしがみつきながら叫ぶ老人。そこへ高速で突撃しワームの尾に踵落としを決める。

 ワームさえいなければ空中の俺を捕まえることは出来ない。


「ええい、舐めるでないわ! 〈手刃裂き〉!」

「おっと」


 ウォルターが腕だけでワームを掴み下半身を持ち上げ足刀を放ってきた。

 老齢にもかかわらず恐るべきアクロバティック・アクションである。腰を悪くしないか心配だ。

 蹴り自体は()場が揺れているせいかキレがなかったので退くことで難なく躱せた。

 だがその隙にワームは持ち直し方向転換、俺と数メートルの間合いで向かい合う。


「……お主、まだ〈魔術〉が使えたのか」

「どうだろうな。《ユニークスキル》かもしれねえぞ」


 互いに宙で静止しながら相手の出方を窺い合う。


「フン、本来ならば〈フライウィング〉の効果時間は既に終わっておろう。やけに長持ちすると思っておったのじゃ」

「そこでバレたか」


 息の詰まる膠着状態。この間にも俺は浮かぶために魔力を少量ずつ消費している。

 〈フライウィング〉の場合であっても掛け直すのに魔力が必要なため、ウォルターにとってもこの状態は望ましいものなのだろう、会話には素直に応じている。

 奇しくも。この膠着を長引かせたいのは俺と同じだ。


「折角の切り札を無駄にしてしまって悔しかろうのう。知っておるか、この《フワールワーム》は再生力が高いんじゃ。お主の付けた傷ももうほとんど塞がっておるわ」

「いいや、そうでもないぞ」


 そう言って俺は空の上を指さす。

 《気配察知》で俺が〈魔術〉を準備していないと分かっているからだろう。予想以上にすんなりと、ウォルターも釣られて上を向く。

 果たしてそこには──。


「なんじゃ? 何も見えぬが」


 ──何もなかった。


 俺への警戒は保ったままウォルターが目を凝らし、たちまちワームから飛び降りる。

 直後、ワームの胴体が真っ二つに裂かれた。

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