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40.会敵

 この状況で魔物に乗って近づいてくる奴を警戒しないわけがない。《気配察知》で見つけたその老人には即座に鑑定を行った。


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人間種―地人(ドワーフ) Lv49

個体名 ウォルター

職業 拳士

職業スキル 体術強化


スキル 剣術(下級)Lv2 体術(上級)Lv4 風魔術(下級)Lv3 土魔術(下級)Lv2 火魔術(中級)Lv2 水魔術(中級)Lv3 暗視Lv10 気配察知Lv9 嫉妬Lv3 潜伏Lv5 パペットスレッドプレンティLv2

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《嫉妬》ランク7:自身より優れた者に枷をかける。


《パペットスレッドプレンティ》ランク5:糸を伸ばし、衰弱した対象を《傀儡化》状態にする。自身より弱い対象にしか発動できない。最大百八十体まで同時に支配可能。


 《レベル》は俺より高いがそこは大した脅威ではない。《職業》が弱く《パラメータ》も《レベル》の割に低いのでもし《スキル》無しで殴り合いをしたとしても勝ち目はある。

 だが問題は《スキル》の方だ。魔物を操っているであろう《パペットスレッドプレンティ》は勿論のこと《嫉妬》もヤバい。むしろ危険度ではこちらの方が上だ。


 かつて《スキル》について調べた本には《七大罪スキル》と言うものが載っていた。

 《七大罪スキル》とは特に強力な《ランク7》の七つの《スキル》のことであり、《嫉妬》もその内の一つだ。

 《嫉妬》の効果は《レベル》が上の相手に対する《パラメータ》低下と自身の持たない《スキル》の封印。前者は関係ないが《スキル》が封印されるのは非常に困る。

 手札が大幅に制限される上、《竜の血》が封じられれば魔力切れの心配も出て来る。


 《嫉妬》を使われるより先に、銃で戦闘不能にしてしまおうかとも思ったが、まだあの老人が悪人と決まったわけではない。

 魔物達を《傀儡化》させているのはウォルターでほぼ確定だが魔物達を使って悪事を働こうとしているとは限らない。

 飛んで逃げ帰るのに十分な魔力も残っているしあのうねうねと空を飛ぶ魔物の飛行速度も俺の全速力には遠く及ばない。

 対話を試みる余裕はある。


 さて、彼らが到着するにはもう少し時間がかかる。その前に騎乗魔物の方も視てみよう。


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蠕虫種―フワールワーム Lv42


スキル 暗視Lv10 意思疎通Lv6 空中遊泳Lv8 気配察知Lv5 自動治癒Lv9 蠕動強化Lv7 高速自動再生Lv2 チェイスセンスLv9 同族察知Lv4 毒牙Lv3 ドリルタックルLv5 ボルテックスボルトLv4 魔力自動回復Lv4

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 そいつはミミズを太くデカくしたような魔物だった。横幅は土管サイズで長さは人間一人分くらい。頭頂に付いたまん丸な口には牙がずらりと生え揃い、噛まれると痛そうだ。

 《パラメータ》もそこそこ高く通常の変異種以上、《クラッシュライノ》未満と言ったところ。

 《スキル》もバランスが良く、中でも魔力を回転させ矢のように打ち出す《ボルテックスボルト》は遠距離攻撃なので注意が必要だ。

 けれどなにより厄介なのは《チェイスセンス》だろう。


《チェイスセンス》ランク4:マーキングした対象が効果範囲に居るとき、その位置を把握できる。効果範囲は十二キロメートル。


 こいつが生きている限り俺はどこに逃げても居場所を知られることになる。隠れたり不意打ちしたりするのも難しくなってしまう。できれば先に始末しておきたいところだ。

 と、《ステータス》を確認し、敵だった場合の算段を立てている内に彼らは随分と近くまでやって来ていた。攻撃するか悩んでいた俺の十メートルほど手前で止まる。


「あー、あんた何者だ?」

「ワシか? ワシの名はウォルターじゃ」


 魔物に跨るウォルターが答えた。今のところ敵意は感じない。


「俺はリュウジだ。魔物を狩ってたら不自然な群れを見つけて間引いてたところだ。あんたはどうしてここに? てかその乗ってる魔物は何なんだ?」

「ふぉふぉ、察しは付いておるのじゃろう? この《フワールワーム》を操っておるのもあの魔物達を率いているのもワシの《ユニークスキル》じゃよ!」


 これでもかと口端を吊り上げ目じりに皴を寄せ邪悪に笑って見せるウォルター。やたら上機嫌に答えてくれた。

 どうやら魔物達を《傀儡化》にしているのはこの爺さん間違いないようだ。


「それはいい《スキル》だな。下のは全部あんたが操ってるのか?」

「如何にも」


 鑑定結果からおおよそ見当はついていたが、全ての魔物に《傀儡化》を施しているらしい。魔物は二百体ほどいるので別動隊は居なさそうだ。


「それであいつら使って何しようとしてるんだ? あっちには村があるからできれば進路を変更してもらいたいんだが」

「フン、そのようなこと出来るはずが無かろう。ワシはその村に復讐するために森の深奥にて研鑽を積んだのじゃからな!」


 今度は不機嫌そうに片眉を上げ唾を散らしながら叫んだ。

 それにしても復讐か……。魔物を連れて驚かせに行く、だけでは済まないだろう。ジェノサイドの気配を感じる。


「復讐とは穏やかじゃねぇな。何があったか知らんが魔物をけしかける以外にやり方があるんじゃないか? 衛兵や領主に訴えるとか」

「ワシを山野に追いやったのはその領主じゃ! 国を興す手伝いをさせてやったというのにあの村人共め、領主なんぞに告げ口しおって。おかげで騎士団が大挙してやって来おったわいっ。それまでコツコツと集めた魔物の大半を喪った恨み、片時たりとも忘れてはおらんぞ!」


 ギリギリと音が聞こえて来そうなほどに強く拳を握り締めている。積もり積もった積年の恨みを感じるが共感することは全く出来ない。


「つまりあんたはテロを起こそうとしてたわけか?」

「そうじゃ」

「それでその計画を邪魔した村に復讐しようと」

「その通りじゃ」


 悪びれる様子もなくむしろ自慢気にそう言い放つ。国家転覆から復讐とは、いきなり大幅にスケールダウンした。

 大それた力を持っているだけに余計にみみっちく感じる。


「随分正直に喋ってくれるんだな。俺が衛兵にあんたのことを伝えるとは思わないのか?」

「くくっ、思わんに決まっておろう。お主はここで死ぬのじゃか──」

「《職権濫用》」


 ウォルターの言葉の途中で炎銃を呼び出し狙撃。

 人間を撃つのは抵抗があったので銃口は乗り物のワームを狙っている。引き金に指をかけそして、


「《嫉妬》発動!」


 指が空を切った。炎銃は消えていた。

 小さく舌打ちする。


「ふぅ、油断も隙も無いの。じゃがこれでお主は丸腰じゃな。どうじゃ、長い雌伏の日々の中でワシに芽生えた《嫉妬》は! お主も名前くらいは聞いたことがあろう、《スキル》を封印する《スキル》じゃ。先程の召喚武器には肝を冷やしたがもはやお主に抗う術はないわい!」


 何やら勝ち誇った顔で喋っている隙に自身の《状態》を鑑定する。


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個体名 リュウジ

状態 嫉妬(竜の血、双竜召喚、職権濫用を封印)

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 確かに《嫉妬》を使われていた。特に予備動作とかもなかったし何かをぶつけられたりもしていない。

 無条件で使えるのは本に載っていた通りだが実際に使われてみるとこれほど厄介なものはない。なにせ避けようがないのだから。


「その歳で〈フライウィング〉を使えるとはさぞ優秀なんじゃろうな」

「? まあ、はい……」


 唐突に褒めてくるウォルター。曖昧に頷く。

 一瞬、疑問符が浮かんだがすぐに合点がいった。

 どうも俺が飛行しているのを〈上級魔術:フライウィング〉によるものと勘違いしているようだ。

 褒めてもらって悪いのだが俺の《風魔術》はまだその域には達していない。


「じゃが自慢の《風魔術》もこれでかたなしじゃぁ! ククッ、〈フライウィング〉の効果が切れる前に早く地面に降りたらどうじゃ? そこにはワシの魔物達が待機しておるがのぅ! ふひゃひゃひゃッ!」

「くっ」


 《嫉妬》で封印可能な《スキル》数は《嫉妬》の《スキルレベル》に等しい。そしてその三枠は《ランク》で降順に選ばれるため《魔術系スキル》は一つも封印されていない。

 都合よく勘違いしてくれているようだと内心、ガッツポーズをする。


 想定外の副産物もあったがここまでは概ね想定できていた。

 事前に練った作戦を今一度確認してから俺は、逃走を開始した。

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