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36.変異種の森

 しばらく歩いているとマロンが魔物の気配を感じ取った。


「近づいては来てる、けどこれは、うーん……?」

「どうしたんだ?」

「ちょっと様子見てみよう」


 魔力を練りつつ到着を待つ。マロンは奇襲のため木の陰に隠れた。

 この魔物は気配を隠すのが上手いようで俺の《気配察知》では捉えられない。なのでマロンの合図に従って攻撃する。


「〈ガストブレード〉」


 突風が刃となって樹冠(・・)を切り裂いた。枝から枝へと移動していた魔物は間一髪のところで飛び降り躱したがそこには彼女が待機している。


「ハッ」

「ピギュゥっ!?」


 途中でマロンの存在に気付いた魔物だったがガードは間に合わず腹部をグッサリ貫かれてしまった。明らかに致命傷である。


「よし、死んでる」


 鑑定での死亡確認の後そう告げる。マロンが今回の獲物、大きな白いリスの血抜きを始めた。

 今回襲ってきたのはやはり《クラッシュライノ》ではなかった。

 気配が枝の上からしていた時点でわかっていたことだ。マロンは落胆する様子も見せず淡々と作業をしている。

 それが終わると探索を再開し、間もなくしてマロンが口を開いた。


「こんなに大きいリスの魔物は初めて見たよ。何て《種族》なの?」

「《アッパーチョップモンク》だな。《体術》のレベルが高かった」

「へー、初めて聞いた。気配も強かったし変異種なのかな」


 変異種、というのは特殊な種族に《種族進化》した魔物のことだ。通常種に比べて強力な力を持つ傾向にあり、見つけ次第ギルドに報告することが推奨されている。

 人間の街から離れるほど、森の深くに進むほどに魔物の《レベル》は高くなっていく。従って奥地に行くほど変異種と遭遇する機会も増える。

 目当ての《クラッシュライノ》も変異種であり、見つかったのもかなり奥の方であるため俺達はタセリ村に仮拠点として奥地を探索しているのだ。




 その後も幾度か襲撃があった。俺と小竜の気配に怯まず襲ってきた魔物達と戦闘したものの《クラッシュライノ》は現れず。

 いい時間となったため俺達は帰ることにした。


「駄目だったかぁ」

「また明日頑張ろうぜ」

「うん……」


 しょんぼりしているマロンと共に帰路につく。

 しかし俺達が帰るつもりであったとしても魔物はお構いなしに襲ってくる。


「二時の方向から気配が一つ。上空にいるから多分鳥の魔物」


 森にはたくさんの生き物が居る。その中から俺達が狙われることはないと踏んでいたのだが何の因果かその魔物は真っ直ぐこちらに向かって飛んで来た。

 そして空から攻撃を開始する。


「ピィィィイイ!」


 二人してその場から飛び退く。直後、木の葉を突き抜けて雷の矢が飛来した。

 気配を頼りに鑑定してみると攻撃してきた魔物は《スパークラークLv44》。雷系の《スキル》を持つ変異種だ。

 木よりも上で飛行しているため姿は見えない。絶え間なく放たれる攻撃を避けて避けて避けまくる。

 なぜか俺ばかり狙われており反撃に転じる隙が無い。魔物の高度はそれほどでもないため〈魔術〉を撃てば簡単に届くのだが。


「クソっ、なんでこっちばっかっ」

「リュウジ君の気配を目印にしてるんじゃない?」

「何?」

「だって真っ直ぐ私達の方に来たし、リュウジ君の気配を捉えてるってことでしょ」


 言われてみれば筋は通っている。《潜伏》を使えない弊害がここでも出て来た。


「悪いマロンっ、少し防いでくれないか! 一瞬でいい!」

「ううん、その必要はないよ」


 俺のヘルプを聞いたマロンはしかし首を縦には振らず、足をグッと引いた。

 そして木に向かって駆け出す。

 目を瞠る速度で木に突撃した彼女は幹を駆け上がり枝葉を突き破り空に飛んで行った。


「ハァッ!」

「ピィィ!?」


 樹上で二つの気配が交錯する。

 それまで気配を完全に殺していたマロンの奇襲にはさしもの変異種も驚いたようだ。

 だが動きが大きく制限される空中戦だったからかマロンの攻撃は魔物には当たらなかった。

 魔物がバサバサと慌てて方向転換したために槍の間合いから逃げられてしまったのである。


「ナイス! 《双竜召喚》、《若竜化》!」


 けれど魔物が回避に気を取られたことで攻撃が一瞬止まる。その一瞬があれば十分だった。

 小竜を呼び出し《若竜化》を発動。元の中型犬サイズからトラやライオンなどの大型肉食獣サイズになった小竜改め若竜が、力強く地を蹴って空に舞い上がる。


「グガアァァ!!」


 轟く咆哮。

 マロンの槍を避けるために飛行体勢を崩していた魔物は勢いよく飛び上がって来た若竜にあっさりと捕まってしまう。

 何かしらの抵抗をしたのが気配越しに感じられたがそれはあまり効果を発揮しなかったようで。普通にがぶりと咥えられ地上に引きずり降ろされた。


「グラァ!」


 着地の際、地面に叩きつけられたのが致命傷となったのだろう。

 再度鑑定した《スパークラーク》は死亡していた。


「こんな姿だったんだな」


 地面に堕ちた雲雀(ひばり)の魔物をまじまじと見つめる。これまでは木の葉に遮られていたので姿を拝むことは出来なかったのだ。

 全体的に白く美しい羽毛で覆われているが、黄色い縞や斑が所々入っている。

 体長は一メートルくらい。嘴は鋭く頭の上の冠羽(とさかみたいな羽毛)は雷のようになっていてカッコいい。


「お疲れ~」

「お疲れ、俺はほとんど何もしてないけどな」


 どこかに墜落していたらしいマロンが戻って来た。

 労を労った彼女は次に若竜に近づいて行く。


「ドラゴンちゃんもお疲れ~」


 マロンが若竜の頭を撫でる。


「《若竜化》だっけ? すっごく強いね」

「ああ、飛行能力も上がってるみたいだし今回はこいつが居なきゃ逃がしてただろうな」


 《若竜化》、というのは《双竜召喚》がLv4になって新しく使えるようになった能力だ。魔力を追加消費することで小竜を若竜に成長させることができる。

 若竜になると《パラメータ》及び《スキル》が強化される他、肉体的にも強くなる。

 強力な分、発動にはかなりの量の魔力が必要になり、また維持に使う魔力も急増するため二匹同時に使うと《竜の血》の回復分を越えて魔力がゴリゴリ削られてしまうが。

 現在は一匹に使うのが限界だ。

 とはいえ戦闘力が大幅に上がるため強敵との戦いでは頼れる相棒になるだろう。


「鳥の魔物の解体ってどうやって解体するんだろう。リュウジ君わかる?」

「すまん、わからねぇわ」

「それじゃぁこのまま持ち帰ろっか。結構軽いし」


 そうして《スパークラーク》を抱えた俺達は再びタセリ村に向けて歩き出した。

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