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28.祝勝会

 ミノタウロスを倒した俺達は《迷宮》を出た。今日は三階層しか攻略しなかったが《中型迷宮》は《小型》よりもずっと広い。

 《迷宮》の各階層は正方形をしているのだが、《小型》から《中型》になるとその一辺の長さが二倍になる。つまり面積は単純計算で四倍である。

 地図もあるので実際に歩く距離まで倍にはならないが、それでも一階層を攻略するのにかかる時間は確実に伸びている。

 三階層だけの攻略でもいつもと同じくらいの活動時間になるのだ。


「では換金お願いします」

「はい。少々お待ちください」


 やって来たのは北ギルド。訪れるのは三度目だが換金目的での利用は初になる。

 本日の戦利品を渡し換金を依頼した。


「そちらの包みはよろしいのでしょうか」

「ええ、こっちは気にしないでください」


 リュックに入ったままの葉っぱの包みを指して訊ねる受付嬢に首を振った。

 これを勝手に売ったりしたら後でマロンに怒られてしまう。

 お金を受け取りギルドを後にした。




 茜空の下、俺達は孤児院の庭に集まっていた。

 俺達、というのは孤児院の院長と子供達を始め俺とマロン、フレディのパーティーの面々、そしてジャイル捕縛に協力してくれたノールとその同僚だ。

 庭にはレンガに支えられた鉄板が何枚か置かれ、その下に枯れ木や枯れ葉などの可燃物が集められている。

 アマグ院長が一歩前に出た。


「えーそれでは、騒動の解決を祝って焼肉パーティーを開催したいと思います」


 院長の言葉を合図に枯れ木、枯れ葉へと火を着ける。この鉄板での焼く担当は俺だ。

 頃合いを見計らって食材の盛られた大皿から牛脂を取り出し鉄板に引き、肉や野菜を盛りつけていく。

 肉の焼けるいい匂いが漂い出す。キラキラとした眼差しの子供達を制しながら待つ。

 そしてしっかり火が通ったものから子供達の皿によそう。


 子供達は塩やレモンっぽい果実を好きなようにかけて食べている。

 異世界だから仕方ないのだが焼肉のタレがないのは残念だ。

 箸や焼肉を広めたと思しき先輩転生者には焼肉のタレも普及させて欲しかった。

 そんなことを思いながら肉焼き係に徹していると、子供に混じって肉を食べていたマロンが近付いて来た。


「おつかれー。私が代わろうか?」

「頼めるか? そろそろ俺も食べたい」


 マロンに菜箸をパスして自分の箸と取り皿を持つ。

 そしておにぎりを乗せた。栄養価的な問題なのか玄米が使われているおにぎりだ。

 焼けた肉を貰い食べる。うん、美味しい。日本に居た頃はもっぱらタレ派だったが塩も案外イケるな。


「なあ、兄ちゃんがこの肉獲って来てくれたんだろ」

「うん? まあそうだな。マロンも一緒だったが」


 守護者部屋の宝箱から出て来たのは牛肉詰め合わせセットだった。

 一人二人で食べきれる量ではなく、かと言ってせっかく当たったのに売るのももったいないということでこうしてパーティーを開くことになったのだ。

 肉以外の食材や諸々の必要器具は他の参加者が提供してくれた。


「この肉めっちゃ旨いっ、ありがとな! ……最近は皆元気が無くって、だけど俺なんにも出来なくてさ……。でも兄ちゃんが持ってきてくれた肉のおかげで皆すげー喜んでるっ。本当にありがとぅっ!」

「そう言ってくれんなら俺も嬉しいよ。どっちも俺一人でやったわけじゃねえけどな。あそこのお姉さんにもありがとうって言ってやれ」

「わかった、マロンにも言ってくるっ」


 どうやらマロンは子供達から呼び捨てにされているらしい。打ち解けてるなぁ、と駆けて行く背中を見つめながら思う。

 少ししてまた声を掛けられた。


「リュウジさん~、お久しぶりですぅ」

「久しぶりです……」


 次にやって来たのはフレディのパーティーの魔術師と弓使い、ハンナとアーノルドだった。


「久しぶり。調子はどうだ」

「特に問題はありませんねぇ。あぁでもぉ、最近は森の魔物の生息分布が崩れがちなのでぇ、《迷宮》で活動してます~」

「奥地の魔物が浅いとこに出てきたりするのか?」

「そうです~。初めてお会いした時のミノタウロスもぉ、いつもはもっと奥に居る魔物なんです~」

「何事もねぇといいが……」

「ですねぇ」


 それからもハンナと少し会話した。どうも彼女とアーノルドはジャイル捕縛に協力できなかったことを後ろめたく思っているようでそのことを謝罪してきた。

 フレディとルークが関わらせないようにしていたのは想像がつくので、出来る限り軽い調子で「気にすんなよ」と言っておいた。

 ちなみにそのフレディはジャイルを捕まえた時のことを一昨日、ユーカに自慢気に語り、危ない真似をするなと叱られていたそうだ。何やってんだアイツは。


「それではこの辺で~」

「し、失礼します」

「元気でなー」


 二人が去って行き俺は新たな野菜を皿に取る。その輪切りにされた緑色の野菜は玉ねぎのように円が幾つも重なった形をしていた。がぶりと半分ほど齧る。

 スイカのような甘味、苺みたいな食感、そして焼かれ暖かくなっていることが絡み合い絶妙な不味さを醸し出している。残りを一息に頬張り呑みこんだ。

 これは焼かない方が美味しいと思う……。

 口直しにおにぎりを食べていると今度はノールが来た。


「リュウジさん、お時間よろしいでしょうか? 少しお耳に入れておきたいことがあるのですが」

「大丈夫だぞ、どうしたんだ?」


 こっそりと話しかけて来た彼と共に庭の隅に移動する。内緒の話のようだ。


「ここまで来ればいいですかね。院長さんやフレディさんにはもうお伝えしたのですが、一昨日の晩……ジャイルが殺されました」

「……は?」


 つい声が漏れた。頭の中がこんがらがる。殺されたってのはつまり、死んだってことなのか……?


「我々を信用して身柄を預けていただいたのに申し訳ございません。昨朝、当番の者が様子を見に行ったところ、獄中で血を流して死んでいるのが確認されたそうです。私も死体を見ましたが喉を一突きで殺していました」

「……牢屋には見張りとか居なかったのか?」

「もちろん居ました。脱獄されてはなりませんからね。それに部外者が簡単に侵入できるような施設でもありません。犯人は相当高位の《潜伏系スキル》を所持しているか、あるいは考えたくはありませんが、衛兵の中に内通者が居たかのどちらかでしょう」

「そうか……」


 ジャイルは敵だ。金を脅し取っていた連中の親玉だ。文句のつけようのない悪人だ。けれどそれでも、知っている人間が殺されてしまったと聞いては動揺せずにはいられない。

 くらくらと頭が茹だるようで、思考が空回っているのが自分でもわかる。ノールの話す声もどこか遠くに感じる。


「捜査に進展があればまたご連絡します」

「ああ、その時は頼む」

「お食事中にすみませんでした」


 なるたけ早く伝えようとしてくれたのは分かるけど、確かに食事中にする話ではないよな。なんて、未だに混乱から抜け出せないでいる俺の頭はそんなくだらないことしか考えられなかった。

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