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99-3.VS《強欲》 その3

「《職権濫用》」


 散鉄銃を二丁、両手に召喚して同時に発砲した。

 両腕にかなりの反動が加わったが、《レベル》が上がっていたおかげで痺れる程度で済んだ。

 痺れは無視して斉射を受けたユーカを睨む。

 正確には、彼女の召喚した巨大なタワーシールドを、か。


「特殊な武器を召喚する《スキル》、でしたか。登録のときに聞いてなかったら危なかったかもですね」

「《職権濫よ」

「遅いですッ、《フラッシュムーブ》」


 タワーシールドが消え、彼女が姿を現した。

 散鉄銃を再召喚するも、発砲は叶わない。

 ユーカの動きが急加速し、引き金を引くより早く俺の腕を弾いたのだ。


「ぐっ、〈ウィンドアロー〉」

「まだまだぁッ」


 ユーカの動きはもう元の速度に戻っているが、白兵戦の間合いまで入り込まれてしまった。

 苦し紛れの風の矢も躱され、棍棒が再び振るわれる。


「ぐっ」

「痛っ」


 籠手で受けつつローキックで反撃。

 俺の爪先が防具も無しの(すね)を突き、ユーカが顔を歪めた。

 向こうの棍棒も直撃したが、殴られた衝撃を利用して距離を取れた。

 そしてここで成竜達が到着する。


「ああもうっ、面倒ですねッ」


 三方を敵に囲まれたユーカは、ガムシャラに攻撃を繰り出す。

 非常に高い《パラメータ》で振るわれる棍棒は、乱暴ながらなかなかの脅威だ。

 近付こうとすれば攻撃が飛んで来るので、俺も成竜達も近寄れない。


「《職権濫用》」


 右手に凍拳銃を召喚し、中距離からユーカを狙う。

 成竜達を巻き込まないよう、注意して引き金を引く。


「おっと、ふふ、来ると分かっていたら当たりませんよ!」


 ただ、警戒されているのか銃口を向けた時点で回避行動に出られてしまった。

 凍拳銃の装弾数は六発のため連射するも、全て躱される。


「…………」


 再召喚しさらに連射。けれど結果は変わらない。

 胸の内で焦りが首をもたげた。俺には急ぐ理由がある。


 先程、棍棒で殴るときに使って来た加速《スキル》。アレを近距離で使われた場合、対処法が無いのだ。

 ユーカは体力も魔力も充分に残っているので、消費(コスト)の問題で使用を控えているとは考えづらい。恐らく、ネックとなっているのは時間制限(クールタイム)

 この推測が正しければ、時間をかけるほどに再使用される危険は高まる。

 マロンが帰ってきたり他の人間が通りがかったりする可能性を思うと、短期決戦が望ましい。


「《職権濫用》、《職権濫用》、《職権濫用》」

「当たらないって、言ってるじゃないですか! このままじゃ埒が明きませんよっ、近づいて来てはどうですかっ?」


 しかし、接近するのは躊躇われる。

 身体能力で劣っているのもそうだが、それだけではない。先程棍棒で殴られた際、《熱毒》という《状態異常》を受けた。

 棍棒にそのような効果は無かったためユーカの持つ《スキル》だろう。攻撃時に《状態異常》を付与する《スキル》は多い。

 《熱毒》は既に解除済みだが、何度も受けてそのたび解除するのは負担になる。


 そういう訳で中距離から攻撃を続けているが、躱され防がれ進展はない。

 リスクを取ってでも近づくべきか、俺が決めあぐねている間にユーカが動いた。


「やっぱりリュウジさんから倒した方がいいみたいですね!」


 一気にこちらに踏み込む。

 俺との間にチョコが入るが、そんなのはお構いなしだ。

 背後から襲おうとしたミルクも、突如せり上がった青銅の壁に阻まれてしまった。


「〈アイスサイス〉」


 氷の鎌を回り込ませる。この〈上級魔術〉は軌道をかなり自由に湾曲させられる。

 ユーカが棍棒を防御に回した隙を突き、チョコが牙を剥く。


「《フラッシュムーブ》」


 動作の急加速。それによりチョコの牙は空振りし、その脇をユーカは通り抜けて来る。

 加速していたのは僅か二歩分だけだったが、チョコが追いつくのは不可能だ。

 俺は後ずさりつつ凍拳銃の最後の一発を放ち、ユーカはそれを姿勢を低くして避けた。

 彼我の距離は五メートルも無い。右手の凍拳銃を消す。


「《職権濫用》」


 俺が《スキル》を使おうとしているにもかかわらず、ユーカは回避行動を取らない。攻撃の気配がなかったためだろう。

 彼女は俺へ直進し、そして突如現れたマント(・・・)に顔から突っ込んだ。


「わっ!?」


===============

《風魔導師の外套》ランク4:装備者の魔導力を引き上げる。装備者の風系統の魔術による魔力消費を軽減する。

===============


 《風魔導師》に対応する《装備品》の一つだ。それをユーカの眼前に召喚した。

 彼女が迂闊に接近したため召喚可能範囲に入り込んだのだ。

 俺は後方に退避しつつ、左手に隠し持っていた楔に魔力を込めて地面に投げる。


「ま、待ちなさいっ」


 視界を塞がれ失速していたユーカが、顔のマントを剥ぎ取り、(おく)れを取り戻すように大股の一歩を踏み出した、その時。


「起動、《砕地の楔》」


 楔が地に刺さり内部の魔力を開放、空き地を局所的な震動が襲った。


「なっ、これっ、揺れて!?」


===============

《砕地の楔》ランク3:魔力を込めて地面に接触させることで周囲を強く揺らす。再使用不可。

===============


 強烈な縦揺れでユーカの体が浮かぶ。

 絶好の機会が訪れた。


「〈ゲイルセイバー〉!」


 正面から疾風の剣が奔り、背後からはチョコが迫る。

 前後両方に対処するには時間が足りないと確信しつつ、追撃の用意も忘れない。


「っ、《けじめエスケープ》っ!」


 ボトリ。ユーカの左腕が落下する。

 〈ゲイルセイバー〉やチョコが切り落としたのではない。突然彼女の姿が掻き消え、その場に左腕だけが残されたのだ。

 では、彼女本体はどこにいるかと言うと。


「《剛力無双》、《ハンドスピアー》っ!」

「げヴォっ……!?」


 腹に熱したナイフを差し込まれたかのような錯覚。痛みと認識できないほどの激痛に意識が飛びそうになる。

 千々になった意識を繋ぎ止め、どうにか状況を確認して行く。

 俺の目の前に転移したユーカが、間髪入れず貫手を放ったのだ。それは鎧を貫通し、俺の腹に穴を空けた。

 左腕を無くした彼女も余裕は無いようで、脂汗を浮かべ顔を歪めている。が、より重傷なのは俺の方だ。


「が、ハぁ……」


 痛みに呻くことすら満足にできない。

 生暖かな液体が喉奥から込み上げて来る。

 口に広がる血の味。

 全身から力と熱が抜けて行き、けれど刺された腹だけは燃えるような熱さを持っている。

 思考は乱れ意識も不確かだが、なけなしの理性で魔力を動かす。


「キャアっ」


 震える腕をユーカの背に回し、感覚の抜け落ちて行く指で服を握り締める。

 そして《竜の体現者(ザ・ドラゴン)》の飛行能力を下方向に発動させた。

 ユーカに覆い被さるようにし、俺は即席の拘束具となる。

 片膝を地に突いている彼女がこの状態で移動するのは至難だ。


『俺ごと攻撃しろっ』


 あらん限りの魔力を込めているがそれだけでは勝てない。

 思念を通じ、チョコとミルクに攻撃命令を下す。

 光の鞭と闇の牙。二つの〈中級魔術〉をユーカを襲い。


「無駄ですっ、《伊達盾召喚》!」


 ユーカの背後に散鉄銃を防いだタワーシールドが現れた。〈中級魔術〉は恐らく防がれる。

 それを見て俺は、安堵(・・)した。

 判明している中で最後の懸念点だったタワーシールドを、致命傷にはなり得ない〈中級魔術〉に浪費してくれたのだから当然だ。

 《気配察知》に不慣れな彼女は、自身を襲う攻撃の気配を混同してしまったのだろう。


「〈ストーム、ブルーム〉……っ」

「え……?」


 気の遠くなるような痛みの中で、奇跡的に構築を保ち、完成にこぎつけられた〈魔術〉を発動させる。

 密着するユーカへとゼロ距離で放たれ、ノータイムで着弾した嵐の蕾。

 それに対し俺も彼女も防御策は取れなかった。


 最後に聞こえたのは雷鳴。

 〈ストームブルーム〉が直撃するとこんな風に聞こえるんだな、なんて他人事のように思いつつ、俺の意識は深い闇へと堕ちて行った。

 午後にもう一話投稿します。

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