74 ペットが増えた
「シリウスって、本当に凄いね……」
幻想的な氷の空間に入ってくるなり、そんなことを言うスフィア。
「魔獣って、エルフでも避けるくらいの存在なんだけど……しかも、見たことない魔法だったし。魔獣に氷の魔法なんて効かないでしょ?」
魔獣には大抵、魔法への耐性があり、凍らせ事は元より他の魔法も基本的には効かない。
だから、スフィアの疑問も最もなのだが、その辺はしっかりと理由があったりする。
「まあね。ただ、魔法以外の要素があれば魔獣を凍らせることくらいは簡単だよ」
「魔法以外の要素?」
「色々あるけど、呪術とか仙術とかかな」
呪術は、魔法とは違い、自身の負の念を力に変換する。
仙術は、自然界にある木や水なんかの微量な力と、自身の生命力の変換の仕方を変えることにより発動するので、それらの力は魔力とか異なる原理で使える力だ。
まあ、どっちも使い手は少ないだろうけど。
俺も、両方とも前世で習ったが、その力の存在自体ほとんど誰も知らなかったし。
呪術は冒険者時代に変なローブの女に無理やり教えこまれて、仙術は山奥の秘境で霞を食べてそうなじいさんに教わったのだが、魔法が便利すぎてどっちもあまり使ってなかったのだ。
「うーん、シリウスってやっぱり変……って、何してるの?」
「うん、ちょっとね」
不思議そうな表情をするスフィア。
俺は今さっき倒したケルベロスの残骸から取り出したある物にいくつかの魔法をかける。
それは、ケルベロスの中にあった魔核と呼ばれる、魔物で言えば魔石のようなものであった。
とはいえ、魔石とは存在理由が全く異なるのだが。
魔石は、魔物が魔力を使うための心臓部。
対して、魔核は魔獣が魂を宿す本体のようなもの。
細かくいえばかなり違うが、まあ、その辺はどうでも良くて。
俺が魔法をかけると、その魔核はやがて淡い光に包まれて、やがて小型の3匹の犬がその場に姿を見せた。
「わぁ、可愛い」
チワワのような子犬が3匹いれば、スフィアのようにその愛らしさに微笑ましくなるのも当然かもしれない。
「この子達はもしかして……」
「さっきのケルベロス」
「この魔法もシリウスのオリジナル?魔獣を小さくするなんて、他のエルフが聞いたら絶対皆驚くね。それで、この子達安全なの?」
そう言いながら、ケルベロスのうちの1匹の頭を撫でるスフィアはかなり大物かもしれない。
「大丈夫。この子達は赤ん坊みたいなものだしね」
「赤ん坊?」
「分かりやすく言えば、転生かな?」
これこそが、魔獣の強みとでも言うのか。
魔核が壊されない限り、魔獣は永遠に生き続ける。
とはいえ、姿が変わる度にその個体も別になるので、不死身と言うのとは少し違うもしれないが。
「ふーん。何にしても、可愛いからいいかな」
転生という点においては、俺は魔獣の仲間かもしれないと思わず心の中で苦笑してしまうが、そんなことは関係なしにスフィアは子犬になったケルベロスの1匹を愛でていた。
俺の方にも残りの二体が擦り寄ってきているが、新しいライバルが登場したせいか嫉妬したように頭の上のフェニックスのフレイアちゃんが俺に『構って構って』と、せがむようにつついてくる。
微笑ましいが、ハゲるのでもう少し加減してくれてもいいのよ?
「じゃあ、先に進もうか」
しばらく辺を探索してから、スフィアはケルベロス子犬バージョンのうちの1匹を抱き抱えて上機嫌にそう言う。
ケルベロスに関しては、本当は、魔核を壊すか、こうして新しく転生させて向こうに送り返そうかとも思ったのだが、思いの外元ケルベロスの子犬達が懐いてしまった上に、そのうちの1匹をえらく気にいったスフィアが離さなかったので、新しく側に居てもらうことにした。
召還契約もしたので、これでいつでも呼び出せるが、まあ、それとは関係なしにマスコットが増えて女性陣が喜びそうだ。
ちなみに、元ケルベロスの3匹にも一応名前をつけた。
スフィアが気に入って離さない、黒色成分が強めの子をレント、残りの2匹のうち、白色成分が強めの子をリンカ、そして、その2匹を足したような色合いの子をルルカと命名した。
どうも、レントがオスで、リンカとルルカはメスのようなので、それっぽくしたが、やはりネーミングセンスがないので今後は他にそっちのセンスのある人も欲しいかもしれない。
フィリア達との子供の名前は確実に俺が付けないとダメなのだが、まあ、それまでにネーミングセンスを磨くか。
大なり、元第3王子で、次期公爵となると、子供の名前を決めるのも当主の仕事にされてしまう。
まあ、それとは関係なしに可愛い我が子に名前を授けることはやってみたいけどね。





