48 シスタシア王国
温泉地が手に入るなどの些細なことはありつつも、婚約者3人と少しお疲れ様気味のレグルス兄様を連れて俺たちはシスタシア王国へと到着した。
綺麗な街並みと、活気のある人々。
それらを眺めつつ、また、王子2人の訪問が知られてるのか、はたまた、スレインド王国の紋が入った馬車が人目を惹くのか、そんな注目されている中でシスタシア王国の王城へと到着する。
「お待ちしておりました。こちらで陛下がお待ちです」
ついて早々、俺とレグルス兄様は、部屋へと案内されるフィリア達と別れて直接シスタシア王国の国王陛下と謁見することに。
俺は要らなくね?
などと思うが、こんなんでも第3王子だ。
挨拶はしないと不味いのだろう。
まあ、レグルス兄様が応対するだろうし俺は控えてるだけの簡単なお仕事だな。
……そんな風に思ってた時期が俺にもありましたとさ。
「おお、久しいなレグルス殿。そちらはシリウスだったな。赤ん坊の頃以来だが大きくなったようだ」
「お久しぶりでございます、シスタシア国王陛下」
「ああ、だが、いつも通りで構わないよ、レグルス殿。謁見とは名ばかりの、言わばこの場はほとんど私的な場なのでね」
「……はぁ、分かったよ。元気そうだね義弟くん」
「ええ、お義兄さん」
友人のように砕けた口調の2人。
まあ、確か現シスタシア国王の国王とレグルス兄様は同い年だったはず。
先代が急死して、ローザ姉様が嫁いでから王位を得たので、若き国王様ということだろう。
実際、能力はピカイチらしいし、若くてカリスマもあって父様とは別ベクトルで国民に慕われてるお方らしい。
「シリウスは流石に覚えてないか」
「申し訳ありません」
「気にしなくていいよ。可愛い義弟に会えて嬉しいしね」
そう微笑むその笑みは、きっとレグルス兄様とは少し違う大人っぽさも兼ね備えたスマイルで、女性なら少なからず頬を染めそうだが、俺としてはイケメンってスッゲーという貧困な感想しか無かった。
実は、赤ん坊の頃にこの人が俺を抱いたのを薄らと覚えてるのだが……それを言う必要もないだろうと、そんな返事をする。
「さてと……じゃあ、義弟くん。これが我らが父上からの手紙ね」
「ありがとう、お義兄さん」
きっと、機密事項とかも満載であろう手紙をあっさりと手渡して終わる2人。
まあ、実際この部屋には近衛くらいしか居ないし、その近衛も若き天才国王の信頼を勝ち得てるから問題ないのだろう。
「ふむふむ…·…へー……」
何度か俺をチラ見して、意味深な笑みを浮かべる義兄。
なんか俺に纏わることでも書いたのだろうか?
手紙をそっと閉じると、若き国王陛下は何人かを下がらせてから、微笑んで言った。
「事情は分かったよ、お義兄さん。それにしても、私の義弟は随分と面白く育ってるんだね」
「全くだね。でも、可愛い弟に違いはないからね」
「同感だね。さて、シリウス。早速ローザと子供達に会ってくれるかな?あ、お義兄さんも一緒にね」
そう言って部屋を後にするので、俺もレグルス兄様に促されて部屋を出る。
しばらく進むと、人の出入りが徐々に減っていき、きっと王族の生活空間らしきエリアに突入する。
そして、ある部屋に入ると、そこにはレシア姉様よりも幾分勝ち気そうな印象を受ける我が姉のローザとその子供である男の子と赤ちゃんが居た。
「レグルス兄さん!シリウス!」
嬉しそうに抱きついてくるローザ姉様。
他にも側室とその子供が居るのかと思ったら、どうやらローザ姉様とその子供だけらしい。
「ローザ、久しぶりだね。元気そうだ」
「ローザ姉様、お久しぶりです」
「わぁ!シリウスめちゃくちゃお母様にそっくりになってきたわね!」
これでも、ローザ姉様は現シスタシア国王国王陛下の正妻である、王妃様だ。
ウチの母様といい、親しみやすさはあるのだが……これも魅力の一つなのだろう。
それにしても、そんなに似てるか?
「姉様、その子達が……」
「そう!息子のルーズリーと娘のメルティよ!」
確か今年で3歳になる我が甥、ルーズリーは幼くも父親にそっくりな感じで笑みを浮かべていた。
「レグルス叔父さん、シリウス叔父さん、初めまして」
「赤ん坊の頃に一応会ってるよ。大きくなったねルーズリー。それでこの子がメルティかぁ……」
レグルス兄様が抱き上げると生まれたばかりの姪であるメルティは、レグルス兄様に笑みを向けていた。
俺も抱いてみるが、めちゃくちゃ愛想が良いのはきっと両家の遺伝だと思った。
「さて、シリウス。せっかくだし祖父母ともう1人の叔父達を連れてきてくれるかな?あ、あと叔母もかな?」
なるほど、そういう事か。
どうやら、父様が転移魔法のことを義兄に教えたらしい。
「ん?ねぇ、ヘルメス。どういう意味?」
「まあまあ、見ててよ」
疑問符を浮かべるローザ姉様にそう微笑む義兄。
因みに、義兄の名前がヘルメス・シスタシアと言うが、姉は義兄のことを呼び捨てにしてるらしい。
なんともラブラブなことだ。
俺は大人しく転移魔法で、父様と母様、それにラウル兄様と、嫁いでいるレシア姉様も一緒に連れて再びシスタシア王国の王城の一室へと戻ってくる。
「わ!シリウス消えたと思ったら父さん達だ!しかもレシアちゃんもいる!」
「ローザお姉様!」
嬉しそうに妹であるレシア姉様に抱きつくローザ姉様。
レシア姉様も凄く嬉しそうだ。
久しぶりに会ったことで、姉妹は嬉しそうに会話をする。
まあ、2人とも嫁いでいる上にローザ姉様は国外だから会える機会は貴重なのだろう。
「シリウス、わざわざすまないな」
「いえ」
「それと、元気そうだなヘルメス」
「お義父さんもお元気そうで。お義母さんはますます綺麗になられましたね」
「あら、相変わらずお世辞が上手いわね」
ムッとしたローザ姉様にパチリとウインクして黙らせる義兄は物凄くイケメンだった。
え?そんな技あるの?
俺も使って……みても、需要はないか……
「手紙を読んだ時は少し驚きましたが、シリウスは本当に空間魔法を使えたんですね」
「ああ、分かってるとは思うが……」
「はい、私も可愛い義弟の将来を食いつぶす気はありませんよ」
我が義兄もこれらのことを黙っててくれるそうだ。
なんか、前世と比べると本当に皆優しくて泣けてくる。
「よう!元気そうだなヘルメス!」
「ラウルお義兄さんも、相変わらずお元気そうで」
「おう!おお、子供もローザに似て可愛いな!」
「お義兄さんは相変わらずですね」
ラウル兄様のあしらい方も繊細で、この人のスペックの高さに俺は内心驚嘆していた。
確か、正妻のローザ姉様以外にも4人の側室が居るのだとか。
好色なのかと思ったが、そうでも無いらしい。
まあ、国王としてはその位は娶らないとダメなのだろう。
若き国王としては、ある程度こうして貴族にもチャンスを与えておいて、上手くコントロールする。
そして、実際に娶った女性はローザ姉様が上手く管理していくという好循環……ローザ姉様こそ、きっとこの人の正妻でこの国の王妃様に相応しいのだろうとしみじみ思う。
仕事もあるので、長居は出来ないが、俺がこの国を覚えたことで今後は俺が居ればいつでも会えるので、そのことを知ったローザ姉様は心底嬉しそうに俺を抱きしめた。
あと、何故かレシア姉様にも同じく抱きつかれた。
姉2人から抱きしめられるのは初めてだったが、そっくりな姉妹だと再認識させられた。
今度はローザ姉様を向こうに連れてく約束と、兄や姉の子供も会わせる約束もしたが、その位は家族として当然なので承諾した。
黙っててくれる優しい家族の役には立ちたいしね。





