129 妖精女王
「こちらですよ〜」
ミルに案内されて、城内に入ると、より一層の負荷が掛かったように城内は妖精の力が色濃く出ていた。
不思議なことに、妖精達のサイズからしたら巨大すぎる、人間でも入れるどころか、恐らく規模としては比べようもない程に大きな城。
そここそが、妖精女王の住まうお城であった。
妖精達のサイズのミニチュアなお城ではないのが、色々と謎めいている気がするが、この妖精界に関して言えば、妖精達にとってはサイズなど問題ではないのだろう。
この世界では、妖精達は自由に姿を変えられる。
大きくなるのも、小さくなるのも自由だが、妖精女王の意向なのか、彼女たちは小さい姿を好んでいるようだ。
そんな、妖精達どころか、俺にすら巨大に見える門を開けて中に入ると、迷うことなくミルの案内で妖精女王の好む謁見の間へと足を運んだ。
「では、開けますね〜」
重厚な扉を、ミルは難なく開けて、俺に入室を促す。
「女王様〜、お連れしましたよ〜」
神秘的でありながら、どこか重い空気を感じるこの空間を、それこそ壊すような緩い口調で来訪を告げるミル。
その様子に前の事を思い出しながら、室内に入ると、玉座には久しぶりに会う妖精女王が座していた。
「再び見えることになるとは思わなんだぞ。久しいの、シロ」
人間サイズの玉座に座るのは、正に美の化身のような美しい浮世離れした女性であった。
どこか蠱惑的な、色香を漂わせるようなスタイルのいい美女。
スラリと伸びた手足は白く、それらを際立たせるように妖精特有の綺麗な羽が光を纏って輝いており、一見すると近寄り難いオーラすら感じさせる高貴さであった。
だが、俺は知っている。
彼女はミル以上に構ってちゃんであるということを。
「お久しぶりです。女王陛下。再び会えて光栄です。時に……その姿は相変わらず刺激が強いですね」
「うむ、そうであろう。あまりこの姿は好かんが、そなたが妾に見惚れるのを見るのは悪くないのでな。どうだ?美しかろう?」
「ええ、とてもお美しいです」
「むふふ、そうであろう、そうであろう。さてと……そなたの良い反応も見れたことだし、そろそろ戻るとするか 」
そう言うと、淡い光の粒子が妖精女王を包み込んで、弾ける。
光が止むと、先程の姿から少し幼くなったような美少女妖精がミルと同じようなサイズになって目の前に浮かんでいた。
「やはりこの姿こそ至高」
「相変わらず、美少女がお好きなんですね」
「もちろんだ!可愛いものは何でも好ましい。今のそなたの姿も実に妾好みだ」
この発言から分かって貰えたかもしれないが、妖精女王は可愛いものが大層お好きなのだ。
そして、今世の俺の姿もまた、妖精女王の守備範囲内にあるらしいことも、発覚してしまったが……まあ、童顔なのは今更なので諦めておく。
「何はともあれ、そなたとは話したいこともある。時間を貰うが構わぬな?」
「ええ、勿論です。お茶とお菓子を用意しますね」
ダークエルフ達の件で時間をかなり取られたし、夕飯までには帰りたいので、あまりのんびりする時間は本来なら無いのだが……ここは今世の世界とは別にある妖精達の楽園、妖精界。
ここでの時間の経過は、向こうには何ら影響が出ない。
平たくいえば、こちらにいくら居ようとも、妖精が意図的に向こうに帰る時に時間操作をしない限りは、向こうでは1秒も経ってないことになるのだ。
何ともとんでもないことだが、それさえも妖精の力の一端ですら無いのだから、彼女たちは凄まじいものだ。
そんな訳で、妖精女王と話しても婚約者達を待たせることもないので、俺はゆるりと手馴れたお茶の準備を始めるのであった。





