125 思わぬ再会
「んじゃあ、妖精と会うには、ここで待ってればいいのか?」
「ああ、我らの気配は伝わってるだろうし、そろそろ……」
と、虎太郎の問いにエデルが答えていると、門の向こうから、1人の妖精がその姿を表す。
小鳥モードのフェニックスのフレイアちゃんと同じくらいのサイズの、煌めく羽を背負うどこかぽわんとした表情の女の子。
ん?この子ってまさか……
「ようこそです〜。何だか急な訪問とお客さんも連れてますがお急ぎで……むむむ?」
向こうも俺に気づくと、首を傾げて俺の周りを飛び回って観察してくる。
「うーん……何だか、初対面な気がしませんね〜」
「気のせいだよ。ほら、クッキーどうぞ」
「わぁ!久しぶりのお菓子です〜!」
適当に、別空間からクッキーを差し出すと、嬉しそうに自分と同じようなサイズのクッキーを食べ始める妖精の少女。
うむ、この食べてる様子を見て確信できた。
俺この子のこと知ってる。
今世ではなく、前世の英雄時代のこと……色んな偶然が重なって出会った妖精で、名前は確かミルという名前だったかな?
妖精界には存在しない、お菓子を与えて、結果として餌付けしてしまったのだが、どうやらあの頃からあまり変わってないように思える。
まあ、妖精の場合は時間の感覚なんて俺達とは全然違うので、向こうが思い出すかは不明だが……姿が変わっていても、魂で見抜かれる可能性もあるので、無難に挨拶を済ませるために餌付けに励むか。
「……シリウス殿、今渡したのは甘味か?」
なんて思っていると、驚いたような表情で確認を取ってくる族長。
逆にそれ以外の何かに見えた可能性でもあったのだろうかと、疑問に思ったのは一瞬のこと。
「ええ、俺が作ったお菓子ですよ。空間魔法で別空間に沢山作っておいてあるんです」
「そうか……出来ればでいいが、定期的に我が里、というか、妖精達に甘味を運んでは貰えないだろうか?我々はその手のものはあまり得意ではなくてな」
ダークエルフ達の場合、習慣的なものか、森の恵をなるべく加工せずに食べることが多いのだが、その性質は今世でも同じようだ。
場所的なものもそうだが、妖精達との交流でより一層閉鎖的にならざる得なかったので、益々その手の知識には偏りが生じたのだろう。
「ええ、構いませんよ」
「助かる……何度か請われたのだが、我々では応えられず歯がゆかったのだ。妖精達の中でお菓子について一番詳しいというのが、そちらのミル殿なのだが、説明だけでは何とも言えず」
「妖精ってのは、菓子が好物なのか?」
「いや、本来は妖精界に咲く、花の蜜を嗜む程度だよ」
食事の必要が無いので、妖精達はそれらをたまに口にする程度だったが、俺の余計な行動のせいでそれらに少なからず影響が及んだらしい。
少し反省。
「そうですよ〜。この甘いのを教えてくれたのは、別の世界の人間さんです〜。すっごく、強くて、妖精界にも特例で入ったことがあるんですよ〜」
「なんと……そんな御仁が居るのか……」
「初めて聞きましたよ」
「ほー、とんでもなさそうな奴だなぁ」
……ごめん、それ多分俺です。
なんて言い出せる訳もなく、俺は白々しくも「へー、そうなんだ」と、驚いておく。
「人間さん、人間さん」
その体のどこに消えたのか、クッキーを食べ終えたミルは俺の肩に降りるとペシペシと、頬を叩いてくる。
「はいはい、お代わりね。あんまり食べ過ぎちゃダメだよ?」
「はーい!ありがとう、人間さん〜」
美味しそうに俺の肩でクッキーを平らげていく、ミル。
一方、頭の上では、フェニックスのフレイアちゃんが突然のことに驚いたのは一瞬のこと。
自分の定位置が取られないと知ると、我関せずと頭の上で寛いでいた。
何だか、日に日に肝が太くなって来てる気が……気のせいかな?





