124 祈りの間
「やはり、シリウス殿は凄まじい御仁のようだな。なら、ここも普通に通過できるだろう」
そう言いながら、霧がかってる鳥居を潜って消えていく族長。
凄いな、祈りの間とやらに続いてるのだろうが、一瞬本気で消えたように思えた。
「なあ、祈りの間とやらの入口がここなら、そのさらに先に妖精界とやらがあるのか?」
続いて入ろうとするエデルにそう質問をする虎太郎。
その言葉に、エデルは振り向くと頷いて答える。
「ああ。この先にある祈りの間の中心地に門が繋がっている。それよりも、入るなら気をつけて入ってくれ。父上は言わなかったが、祈りの間に入る資格が無いものは触れた途端に消滅するからな」
そんな物騒な言葉と共に、祈りの間へと消えていくエデル。
「……坊主。俺にもしもの事があったら、家族のことよろしく頼むぜ」
「そんな覚悟しなくても、問題ないと思うよ」
物凄く死亡フラグが立ってそうな言葉を吐く虎太郎だが、どのような魔法なのかは分かっているので、その効果的に考えて、俺や虎太郎が弾かれる恐れは少ないと言えた。
「そうなのか?」
「虎太郎がダークエルフが心底嫌いなら、さっきの言葉が必要かもだけどね」
「好き嫌い以前に、そこまで詳しくはねぇしなぁ」
「なら、大丈夫」
半信半疑な虎太郎を伴い、先へと足を踏み入れると、一瞬で景色が変わって、どこか神聖な雰囲気を感じる広間へと出る。
この感じは、あれだね。
5歳の頃の洗礼の時の部屋と、スフィアと遺跡に潜った時に女神様と会ったあの部屋と似たような感じの部屋のようだ。
先に入った族長とエデルが居るが、その2人の奥にある祭壇のための台座のような場所の前に、妖精界へと通じる門は存在していた。
「問題はないと思ったが、2人とも無事で何よりだ」
すんなりと俺の後に続いてきた虎太郎の姿を確認して、安堵の息を吐くエデル。
何気に優しい所あるよね。
「それで、その如何にもなのが妖精界への門か?」
「ああ。そうだ」
「……そこに今から入るのか?」
見るからに、ヤバそうな雰囲気でも感じたのだろう、珍しいことに虎太郎が表情を引き攣らせており、面白いものが見れたが……どうやら、説明不足だったらしい。
「いや、入ることはないと思うよ。場合によっては入るかもだけど」
「ん?どういう事だ?」
「そもそも、生身で入れるほど人間に優しい世界じゃないんだよ、妖精界は」
世界の法則性も違うし、そもそもこの門を越えることすら難しいかもしれない。
虎太郎レベルですら、向こうで普通に居られる時間は限られるだろうし、それなりの対策が無いと無謀と言えた。
「でも、さっきの話だと妖精と会ってるんだろ?」
「ここで会ってるんだよ。ダークエルフ達からしても、向こうに行くのは辛いだろうし、それに非常事態であろうと、妖精達からしたら、他の種族には入って欲しくないだろうしね」
恐らく、妖精とのやり取りはここで、妖精の女王の遣い……または、女王の力によって、遠隔で話すような力でも使っているのだろう。
こちらへの気遣いというよりは、向こうとしてはどんな事情であれ、自分たちの世界に極力入って欲しくないのだろうと、経験から想像出来てしまうのだから、転生というのはするものでは無いのかもしれないとも思う。
何にしても、俺の予想は当たっているようで、族長は俺の言葉に頷く。
「その通りだ。我らも妖精界を直接この目で見たことは無いが……先代の族長は許可を貰って特例として、一度入ったらしい。その時の負荷が響いて早死したのだがな」
ダークエルフですら、後遺症のようなものが出てしまう程の負荷……うむ、相変わらず理不尽な世界なようで何より。
というか、先代の族長凄いな。
特例だろうと、妖精界に入る許可を貰ったこともそうだが、入って戻って来れたのも凄いものだ。
それなりに妖精からのバックアップもあったハズだが、それでも完璧に負荷を無くせることは難しいし、エデルの祖父で、族長の父親と言うだけあって、物凄く強かったのだろうと予想出来た。
そんな人ですら、後遺症が出てしまうのが、妖精界。
そこに行って何の支障もなく戻ってくるような怪物が居たら、それはきっと余程の化け物なのだろうとしみじみ思う。
まあ、そんな実例を他ならぬ俺が知ってるわけだが……





