118 ラーニョセルペンティ討伐
「それで、どうするよ坊主?」
ラーニョセルペンティの猛攻を防ぎつつ、そんな問いをする虎太郎。
「虎太郎が一人で倒してくれるなら、それでもいいけど?」
「無茶言うなよ。防げるし倒せないこともないだろうが……」
「……ふむ、そうだね。俺が倒す方が手間もないか」
恐らく、虎太郎が本気を出せば倒せないこともないのだろうが、その場合この付近にラーニョセルペンティの血しぶきやら体液が盛大に散らばって後片付けが面倒になりそうだ。
残しておくと、ダークエルフに悪影響が出るだろうし、出来るだけ無傷で倒して、かつ後片付けなどの手間もかからないようにするのなら、俺が適任とも言えた。
「じゃあ、虎太郎。すぐ終わらせるとしようか」
「おう、俺はこのまま時間を稼げばいいんだな」
「んにゃ。その必要はないかも。本当にすぐ終わるから」
チラッとラーニョセルペンティに視線を向けると、俺は手のひらに意識を集中させる。
ラーニョセルペンティの内部にある核……魔石を感知魔法で鮮明にイメージすると、感触を確かめるように手を動かしてから、ゆっくりと魔法を行使する。
使う魔法は、魔物退治において最も有効と思われる魔法……前世においては、禁呪とされていた呪術と魔法の融合によってなし得た絶対必中の技。
「『クラッシュハート』」
ゆっくりと手のひらを閉じると、無いはずの魔石を握りつぶしたような感覚を覚える。
『キィィィイィイ!!!!!!!!!!』
それと同時に核である魔石を壊されたラーニョセルペンティが絶叫を上げてから倒れ込む。
その絶叫からすぐに、ラーニョセルペンティは地に伏せ完全に機能を停止したのであった。
そう、この魔法は人間なら心臓、魔物なら魔石を直接壊して無力化できるという何とも反則的な代物なのだが……実を言うと、そこまで使う機会は多くなかった。
「終わったのか?」
「うん、魔石を壊したからね」
「触れてもないのにそんな事まで出来るとはなぁ……恐れ入ったよ」
肩をすくめる虎太郎だが、これ自体は会得しようと思えば呪術と魔法をある程度極れば、不可能でもなかったりする。
ただ、使うにはそこそこ集中する必要があるし、そもそも魔獣やもっと上位の存在、そして心臓や動力路のようなものが無い生物や無機物なんかには使えないし、前提として魔法と呪術を同時に行使することが必要なのだが、それ自体が少し手間なので、俺の場合はそのまま体に手を突っ込んで心臓や魔石を引き抜く方が楽ではあった。
今回のように、相手が核のある魔石持ちで、ダークエルフ殲滅に特化した能力をしており、魔獣などの天災クラスのような、ガチな上位の存在でもなく、かつ、攻撃を確実に防ぎきれる、頼りになる相棒の存在があればこそ使える技でもある。
……こうして、考えてみると、ソロプレイの俺が使うには確かに不自由な技ではあったかもね。
「なぁ、坊主。魔石は抜かなくていいのか?」
ラーニョセルペンティが完全に機能を停止したのを確認したのか、そんな事を尋ねてくる虎太郎に俺は頷いて返す。
「大丈夫だよ。場所は分かってるし空間魔法で引き抜けるから……こんな風にね」
シュン、と手のひらには拳台の大きさの壊れた魔石が唐突に姿を表す。
予想よりも大きくて取りこぼしそうになったが……何とか全て受けきれたので、ギリギリ格好はついただろう。
「こりゃまたデケェな。魔石引き抜けばこのサイズが手に入ったのにな……」
少し残念そうな虎太郎。
肉体を壊して魔石を取り出すか、魔石を壊して肉体を優先するか……冒険者の名大とも言えるよね。
今回は事情が事情だし、倒せただけでも良しとしたいが、魔石の残骸を見て勿体ないと思う気持ちはよく分かるよ。
しかしね……ふふふ。それは早合点というものだよ?
「その辺も抜かりないよ。こうして、復元すれば……ほら、この通り」
魔法によって、魔石を元の状態に戻すと毒と同じく、禍々しい色の魔石がそこに復元された。
「……復元なんて魔法あったか?」
「ないよ。これは俺のオリジナルだし」
この魔法のデメリットの一つ……貴重な魔石がロストしない対策の一つで考案したが、こちらもあまり使用頻度が高いとは言えなかった。
我ながら、オリジナル魔法とかは多いのに、それらを使う機会はそう多くないのが、本人の人間性を表してるように思えるよ。
「坊主は相変わらずたまげてるなぁ。んで、本体も一緒に生き返った……なんてことはないよな?」
「心配しなくても、1度離れた魔石が復元しても、蘇ったりはしないよ。本体の魂も戻す必要あるし」
極論を言えば、魂と心臓と肉体さえあれば、蘇生も不可能ではないとも言えた。
まあ、これはセリアの時に全て揃っていたからこそなのだが……人間の魂はエルフやダークエルフに比べて脆いのですぐに拡散してしまうから、死者の蘇生はあまり現実的とは言えなかったのだが、使う機会が無い方がいいだろうし、そうならないように大切な人は守るから問題ない。
「何にしても、討伐完了だな」
「うん、お疲れ様」
何の気なしにハイタッチをすると、思ったよりも虎太郎が馬鹿力で手が痺れる。
そんなこんなで、何ともしまらないがラーニョセルペンティはこの時に完全にその猛威を止めるのであった。





