113 入門検査
「ここが里の入口だ」
エデルに案内されて移動すること一時間。
目的の場所へと着くとエデルは、一見何も無いただの森の一角を示してそう言った。
道中、魔物を狩りつつも三人で少し早めに移動しても一時間も掛かるほど険しい道中だったが、前世の事情でそこそこ腕には自信のある俺や、剣士として化け物じみている虎太郎、そして、ダークエルフとして魔法と剣を上手いこと操るエデルというこの三人なら、疲労なども一切なかった。
というか、エデルは思ってたよりもずっと凄腕のようだ。
前世の英雄時代に出会ったダークエルフ達と比べても、相当に上位の実力者と言えるだろう。
虎太郎と同格と言ってもいいかも。
それだけ虎太郎が規格外なのだが……それに匹敵するエデルさん凄いね。
「入口たって、何も無いように見えるが……坊主、分かるか?」
「まあね」
とはいえ、先程の小屋とは段違いの規模と複雑な魔法を幾重にもかけられているものなので、かなりの手練でも存在を感知するのは難しいかもしれない。
「凄いな。一族秘伝の結界なんだが……これは予想以上に大物を連れてこられたかもしれないな」
「期待に答えられるといいけど。それで、ここで待ってればいいの?それとも……今こちらに向けて弓を番えてる人達と戦って勝てば入れるとか?」
里にかけられた結界の中から、隠れるようにこちらに弓を番えてるのが数名、気配の消し方の上手さは凄いけど、こちらへの警戒心が少し漏れていて、虎太郎もそれを察してるのかゆらりと自然体で構える。
「いや、それよりも、その奥の人に伺いを立てるのが早いかな?失礼、シリウス・スレインドと申します。ダークエルフの族長とお見受けしますが?」
その俺の言葉に結界から出てくる、ダークエルフが一人。
エデルが少し歳を重ねたような、ナイスガイなその人こそ、おそらくエデルの父親でダークエルフの族長なのだろう。
「如何にも。そちらはエデルのお客人とお見受けするが、我らダークエルフの里に何用で参られた?生憎と観光を受け入れられるほど、今の我らは余裕が無くてな」
「ええ、それは重々承知しております。エデル殿より、ダークエルフの里の現状を伺いまして、お役に立てればと思い馳せ参じました」
「ほう……」
見定めるような視線と同時に、読心系の魔法の気配を感じる。
驚く程滑らかな魔法行使にびっくりするが、生憎と見せてあげるほどお人好しでもないので何事もなくレジストしておく。
「……なるほど、子供だと侮れないようだ」
「父上、こちらのシリウス殿は凄腕の魔法使いのようで、治癒魔法などにも心得があるらしい。是非とも我らの同士をシリウス殿に見せて頂きたく」
その言葉が果たして、届いていたのか……ダークエルフの族長は俺にしばらく視線を向けていたが、ふっと息を吐くとエデルに視線を向けて言った。
「エデル、村の者たちにシリウス殿のことを知らせろ。今ここに居る連中も使って構わない」
「では……」
「ああ、私から見ても底知れない御仁なのは分かった。それにお前が信じてるのなら、賭けてもいいと思ったのでな」
その言葉に、エデルは頷くとこちらに弓を番えていた他のダークエルフと共に結界内の里へと消えていく。
残されたのは、俺と虎太郎と、ダークエルフの族長の三名。
「さて……では、参ろうか」
「許可を頂けたと捉えても?」
「ああ、可能なら同胞を救って貰いたい。案内は私がしよう」
「ありがとうございます。じゃあ、行こうか虎太郎」
ポンと、まだ少し警戒気味の虎太郎の背を叩くと、ヤレヤレと言わんばかりに警戒を解いて素に戻る虎太郎。
微妙に真面目な所もあるよね。
そんな訳で、何とか里に入ることは出来そうだ。
さて、頑張るとしますか。





