107 頼れる友
「そういや、坊主。米と醤油のアテが出来そうってのは本当なのか?」
欲しい素材を吟味していると、そんなことを尋ねてくる虎太郎。
「うん、何とか商人のルートを見つけてね。割高だけど買えなくない金額だからそのうち仕入れるかも」
「そいつはいいな。この国の料理も美味いが、米もたまには食いたいしな」
東の大陸の小国……まあ、予想するに日本っぽいその虎太郎の故郷では、やはり米や醤油、味噌なんかが当たり前のようにあって、現在俺は何年か掛けて構築した商人のルートから入手する手筈を遂に見つけたのだ。
まあ、本当は現地に行って直接仕入れたいが……これから学園やら、新婚生活やら忙しくなるし、暫くはお預けかな?
「そのうち現地にも行くつもりだけど……虎太郎は里帰りはしなくていいの?」
「おいおい、坊主よ。分かってて聞いてるだろ?」
「そうだね、少し意地悪な質問だったね」
虎太郎の過去に関して、この2年で俺はそれに触れたことは一度もない。
本人が話さないのなら無理に聞く必要もないし、理由があって出てきたのだから、わざわざ突く気もなかった。
とはいえ、色んな人を見てきた前世の経験故なのか……何となくだが、虎太郎の様子からどんな感じで過ごしてきて、何かしらあって国を離れたのだろうと察することは出来ていた。
簡単な推理だが、俺は探偵でもないし真実を突き止める気もない。
虎太郎は虎太郎、ウチの領地の用心棒で、俺の友人。
それでいいし、何かあった時の備えも万全なので悩むことは無い。
「というか、現地に行くと簡単に言える坊主はやっぱりおかしいよなぁ。まあ、ここ数年でそんな事は分かりきってるが」
「そう?」
「そりゃ、距離にして考えると気軽に行ける距離じゃないしな。海を超える必要もあるし……まあ、坊主の実力ならその辺は問題なさそうだが」
「移動手段は豊富だから」
空間魔法の、転移の魔法は、1度は現地に行かないとその地点には飛べないのだが、逆に言えば1度行けばいつでも行くことができる。
そして、そこに行くための移動手段は、魔法での移動……細かい転移の繰り返しや、飛翔の魔法なんかで空を飛ぶことも出来るし、他にも召喚獣や、ペガサスのクイーンやユニコーンのナイトなんかも移動には向いている。
とはいえ、ナイトでの移動は何かステルス任務でもしてるように音も気配も消して行くので、そこまで効率は良くないが……クイーンは見つからなければ恐らく最も早い移動手段であろう。
反則技だと、フェニックスのフレイアちゃんの高速飛行が候補に居るが……フェニックスのフレイアちゃんの場合、クイーン以上に目立ってしまうし、場合によっては通り過ぎた地に何かしらの異変が起こることも大いに考えられるので、やはり頭の上で待機していて貰おう。
そんな訳で、魔法や頼れる仲間たちのお陰で俺は足には困らなかった。
「新婚旅行は嬢ちゃん達連れてどっか行くのか?」
「うーん、行きたいけどあんまり領地を留守にするのもねぇ……」
学園を卒業したら、本格的に俺が治めることになるだろうし、あまり領地のことを任せ切りもいかんだろう。
やはり、もう少し人材が居るに越したことはないし、学園などでもコネを広げてみようかな?
「俺には統治とか細かいことは分からないが……留守を守るくらいは出来るから、そこは任せとけ」
「うん、頼りにしてるよ」
「おう」
ニカッと笑う虎太郎。
何とも頼もしい存在だ。
そういえば昔、こんな風に頼れる人が居た時期もあったなぁ……最初の前世ではなく、英雄時代の前世だけど。
本当に刹那のような時だったけど……暗く濁った記憶にある数少ないその時のことは、まだ覚えていた。
俺のせいで死んだその人と、その無念を抱えつつも、何とか守れたその娘さん……あの子の名前はなんと言ったかな……
「坊主?」
「ん?ああ、ごめんごめん。そろそろ少し休憩しようか」
過去は過去、今世を大切にしないとね。





