103 兄への言葉
「やあ、シリウス。来ると思ってたよ。両手に花で羨ましいね」
笑顔で出迎えてくるヘルメス義兄様は、やはりというか、予期して待ってくれていたようだ。
仕事はひと段落ついてるのか、書類片手にお茶を飲んでいるが……相変わらずその姿が様になる我が義兄は凄まじいものだ。
「ご挨拶に来ました、ヘルメス義兄様。フローラのことどうかお任せください」
「うん、心配してないよ。私の大切な妹を、可愛い義弟はちゃんと責任を取ってくれるって分かってるからね。それに、フローラもシリウスやシリウスの婚約者のフィリア嬢達と一緒の方が楽しく過ごせそうだしね」
何とも有難い信頼だが、これもこの数年の成果……いや、出会った頃からそうだけど、色々と仕事も手伝ったからこその結果だろう。
「お兄様、私、シリウス様やフィリアさん達との生活が楽しみですが、お兄様達との日々も楽しかったです。その……ありがとうございました」
「……ああ、こちらこそありがとう」
フローラの言葉に、ヘルメス義兄様は一瞬顔を逸らしてからどこか安心したようにそう言葉を返す。
不意打ち気味の妹の言葉に、兄として感じるものがあったのだろう。
ヘルメス義兄様は、フローラのこと大切にしてたから、それも当然かもしれないが、その当然が俺には微笑ましいものだった。
「たまには顔を見せに来るといいよ。まあ、シリウスに頼んで私が会いに行く方が有り得そうだけど」
「ええ、その時は言ってもらえれば」
身内のタクシーくらいなら、慣れたものなので頷く。
英雄時代のように物のような扱いなら御免こうむるが、今世の優しい家族には出来ることはしたいしね。
「フィリア嬢も、フローラのこと頼んだよ」
「はい、勿論です」
完璧な淑女の礼をするフィリアさん。
彼女としても、友人であり同じ婚約者のフローラのことは大切なので本心での言葉だろう。
「ありがとう。時にシリウス、せっかくの新生活の始まりに忙しいだろうけど……明日は頼んだよ」
「ええ、分かってます」
何の話かといえば、明日は元々予約を受けていたタクシーの日であった。
携帯の魔道具での連絡でもかなり十分なのだが、やはり直接会う方が進む話も多いので定期的にスレインド王国とシスタシア王国のトップでの話し合いのために俺はタクシー役をしていた。
秘密裏なものだが、レグルス兄様と父様、ヘルメス義兄様の3人での話はやはり色々と議題も多いようだ。
ラウル兄様?
ほら、ラウル兄様はこういう面倒な話は苦手だし……王太子とはいえ、実務の殆どはレグルス兄様の役目だし別におかしい事はない。
傀儡とかではなく、圧倒的なカリスマ性でみんなを引っ張るラウル兄様と、それを影から支えるレグルス兄様の組み合わせは俺の故郷の将来を明るく思えるくらいにはいい組み合わせだろう。
そこに俺も公爵として少し手助けできればなぁ……なんて思うけど、タクシーか脳筋な活躍しか出来ないのであまり役立ちそうにはないかな。
何にしても、優秀な父様の後が俺の尊敬する兄2人なので心配は要らないだろう。
「まあ、ローザがそっちに頻繁に行くかもだけど……何にしても、任せたよシリウス」
「はい、ヘルメス義兄様」
そうして、フローラのことを任せて貰うと、フローラとヘルメス義兄様が少し話をしてから、俺は2人を連れて領地へと向かうことにした。
忙しいだろうし、長居は無用だろう。
それに、ローザ姉様がそろそろ来そうだし、そうたると多分長引く。
最愛の姉に会えるのは嬉しいが、割と頻繁にタクシーで会ってるので、今日はとりあえず2人を連れ帰ることを優先しよう。
何にしても……これで、ようやく俺は婚約者全員との生活が始められるというものだ。
まだ結婚までは時間があるが……それまでに更に仲を深めつつ、のんびりしたいものだ。
学園?
うーん、まあ、人材探しとか学友とかは楽しみだけど、これ以上婚約者は流石に増えないだろうし……増えないよね?
7人も婚約者が居るのは、俺の身近だとあまり例を見ないし、これ以上増えたら相手を出来るか分からないので今くらいで丁度いいのかもしれないな。
「楽しみですね、フローラさん」
「はい、今日は一緒に寝ましょうフィリアさん」
そんな風に不吉な予感を振り切っている俺の隣では新生活にノリノリな美少女2人がおり、誠に和む光景であった。
まあ、なるようになるよね。





