94 温泉地の現在
「あ、このお菓子って、前にシリウス様が持ってきてくださったものですか?」
二人を連れて、色々と見て回っていると、店先に並んでいたとある商品にフィリアが気づく。
「えっと、小豆のお菓子でしたよね?」
フローラにも持ってい行ったことがあったので、覚えていのかそれに気がつく。
「うん、お饅頭……ここでは温泉まんじゅうって呼ばれるものだよ」
せっかく見つけた小豆なので、お饅頭も作ったのだが、温泉名物に良さそうかと思い採用してみたのだが、予想以上に売れ行きはいいようで、かなりの数が並んでいた。
「前に見たのと違いますね」
「デザインとかも変えてるからね」
現に、近くで試食して買っていく人達の姿を目にするが、やはり小豆の程よい甘さは世界が違っても受け入れやすいようだ。
砂糖とは違った甘さなので、苦手な人もいるかもだが、俺は割と好きであった。
「でも、やっぱりここでもシリウス様は人気なのですね」
色々と見て回っていると、ふとそんなことを呟くフローラ。
まあ、その理由は恐らく、行く先々での俺への領民の対応が原因だろう。
「殿下、ようこそおいでくださいました。こちら是非お持ちください」
「おい、狡いぞ!殿下、是非私共の新作をどうぞ!」
「領主様、ようこそおいでくださいました。こちらつまらない物ですが」
……いや、というか、普段こちらの領地にはそこまで来ないからか、いつもの俺のもう片方の領地を訪れるよりも対応が凄い気がする。
好意的な領民達だが、アンデッドの件ではもう少し早く来ていれば救えた命もあったかもしれないので、多少は恨まれてるかと思ったのだが……蓋を開けてみれば、誰も彼もが感謝と敬愛を向けてくれており、何となく申し訳なくもなる。
俺はそんなに凄いことはしてないのだが……何にしても、きっとここの領民達、いや、この国の人達の人の良さには心底ビックリさせられる。
人間が皆、悪意しかないとは言わないが、前世で沢山見た人間の負の面……まあ、暗いところや感情をこちらではあまり見てないのには自分でもびっくりする。
やっぱり、環境と心根というのは大切なのだろう。
世界平和の第一歩には、きっとこういう他人を思える心根を育める国づくりも重要になるのだろうが、ウチの国は父様やレグルス兄様、ラウル兄様が中心になっており、その辺は心配してない。
シスタシア王国もヘルメス義兄様やローザ姉様、そして俺の甥っ子達が居るしきっと大丈夫だろう。
俺も家族の手伝いはするけど、優秀な家族の補佐なので楽なものと言える。
一人の英雄が世を平和にするよりも、多くの人が他人を気遣える方が恒久的な平和には近いかもしれないと、実際の経験談で思うが、ケースバイケースとも言えるし難しい。
ただ一つだけ言えるのは、俺には英雄は無理だったということだけだ。
知らない他人の期待なんて重すぎて持てないし、やっぱり今世が一番だよね。
「ふふ、シリウス様はお優しいですらから、皆さんに好かれて当然ですよ」
「そうですね」
そんなことを思っていると、お淑やかに笑いながらも、どこか嬉しそうなご様子の俺の婚約者二人。
フィリアとフローラの中で俺の株が高すぎる気もするけど、大暴落させないように頑張らねば。
プレッシャーもなくはないけど、昔背負わされた無責任なものよりも、こちらの方が遥かにやる気も出るというもの。
好きな人にはカッコよく思われたいという、密かな男心で日々精進だよね。
「二人も未来の奥さんだから、皆歓迎してるよ」
どこか擽ったい気持ちもあるので、話を逸らすようにそのことを口にするが、俺が婚約者を連れて歩くと、皆未来の領主の奥さんである婚約者達にも何とも敬愛の篭った視線を向けてきていた。
「シリウス様の奥さん……」
「凄く楽しみです」
どこか照れつつも、満更でもなさそうなフィリアと、心底楽しみにしてそうなフローラ。
うん、早いとこ一緒に住めるように頑張ろう。





