飛鳥 『手の掛かる子程可愛いと申します』
飛鳥『機体の損傷確認中……。機体は深刻な損傷を受けており非常事態モード発動。全ての自己修復システム起動、機体の残エネルギー7%、緊急セーフモードにて機体の修復を実行。子機……への、データのバックアップ……実行……完了……』
飛鳥(私……やり遂げましたよマスター……。)
飛鳥『……』
――そして、宇宙船の中は真っ暗となり、やがて静寂に包まれた。
……。
そして俺は目を覚ました。
「うっ……。何だ? 真っ暗で何も見えない。ここは一体……。ああ、そうか。未知の惑星に突入したんだっけ。んで不時着の時に気を失ったのか俺は。ふぅ~何とか助かったみたいだな」
俺の生き残りを賭けた、未確認惑星アルファへの生存確率57%の墜落……いや緊急不時着は、どうやら成功したみたいだった。
◇◇◇
「お~い相棒~何か真っ暗で何も見えないぞ~? 照明付けてくれないか」
――だが、相棒からの返事は一切無かった。
真っ暗な空間に、俺だけが取り残されたような感覚だ。
もしや俺は、実は死んでしまったのだろうか?
だが体を動かすと、そこには感覚が確かに感じられるし、今居る場所が宇宙船の中なのは間違いが無かった。
――体に痛みなどは一切無い。恐らくは俺の命を最優先に保護した結果なのだろうか。お陰で俺の体に怪我は無い。
「お~~い相棒~~! 飛鳥さーーん?」
再び呼びかけても返事が無い。
もしや相棒は、壊れてしまったのだろうか?
俺の背中で、冷たい汗が落ちた気がした。
「マジか? 相棒がシステムダウンした? クソッ! 真っ暗で機体の様子もわからないから、今の俺じゃどうにもならない。このパワードスーツも全く脱げないし動けない。うおおおマジか!? 折角不時着成功したのに、このまま俺は死ぬのか? あああ~!可愛い彼女作って、毎日イチャラブしたい人生だった!」
「おーい飛鳥さんよ~! 起きてくれー! システム再起動! マスター権限でオーダー《システムON》!」
俺は絶望して、最後はヤケ気味にそう絶叫した。
???『……プーッ! クスクス』
……。
……なん……だと……?
これはもしかして、笑い声か?
俺の中で、何かが切れる音がした――屋上来いよ!
「おいまて! 今何か聞こえたぞ? おいおいおいオイオイ飛鳥さん? もしかして悪戯ですかぁ? 俺を1人きりにさせてもしかして遊んでました? 凄く悪い子ですね? オイコラ、はよ返事しろや飛鳥ぁ! もう俺マジオコやで? いい加減にしないと、次の飛鳥さんのメンテナンスやアップデートは、一番グレードの低いヤツにしちゃおうかな? いや決めた! もうそれにするな! 絶対しゅる!」
飛鳥『そ、それは困りますマスター。わ、私の性能が万が一下がれば、その分マスターも困る事になりますよ。情けは人の為ならずと申します。ここは寛大なお心を持って、私の小さな悪戯を許す場面かとそう具申致します』
「オイ! その諺はきっと使い方が違うぞ? いいから俺に謝れ~!」
飛鳥『細かい事は良いんです。あまり気にすると、マスターの頭頂部の毛根が死滅するのでは? しかも残念な事に、その手のお薬はこの船内に常備されていませんので、もしそうなった場合は潔く諦めて下さいねスキンヘッドのマスター』
「結構エグイ事言うね! ほんともう禿げそう。ストレスマッハで毛根死滅する勢い! 誰だよこんな変なAIをチョイスした馬鹿は! って俺だよコンチクショー! 悔しくて全身で震える。 今もし体が動くなら、すぐこの船を壊してやりたい。良いかな? 良いよね? 答えは聞いてない! うおおおおおやったるでえええええ~~! 俺はやれば出来る子なんだあああ」
飛鳥『マスターご乱心。緊急処置の必要性を確認。安定剤投与開始します。ちょっとチクッとしますよー? 暴れないで下さいねー?』
「なっ! おまっ! こんな事絶対許されn……。Zzz~」
飛鳥『バイタル安定確認。緊急パワードスーツパージ。速やかに医療用ポッドへと収容。さてさて、愛しのMyマスターが静かな内に、些細な雑務は終わらせちゃいましょう』
【システムコール:全システムオンライン】
【機体の修復状況確認】【残エネルギー確認】
【周囲へ探索ドローン展開、及び大気や土壌などの成分を解析開始】
【船内の物資、及び使用可能な武装を再確認】
【船内資源で製作可能な、各種ドローンに専用の追加のシステム、アップグレードしながら製造開始】
【ついでに私の子機も増設、随時データのバックアップ】
飛鳥『本当に世話の焼けるマスターです。こんな未知の惑星では、きっと私がサポートしなければ、この先生きのこれないでしょう。もう本当に、本当~に手の掛かるマスターですね困ってしまいます』
(どうして? いつからこうなった? 助けてママン)
――俺の苦難は、まだ始まったばかりだった。
誰かこのAIを止めて下さい。